182.ソシャゲの限定キャラばりの接待ステージ
前回のあらすじ。
最前線の街 《ウティヌム》でウンディーネさんを救出した私たち。その時に判明した《呪化》という現象に対処するため、現状唯一対抗できる精霊が行動を始めた。
それぞれに役を振られる精霊プレイヤーたちの中で、私はそれに必要な浄化石の確保を任せられた。同じく指名されたアズキちゃんと共に、私はかつて攻略された《虹彩魔鉱山》へと向かうのだった───。
「というわけでみなさんこんばんは、ルヴィアです」
「えと、アズキです。緊張する……」
〈こんルヴィー〉
〈こんルヴィ~〉
〈今日は2人だけ?〉
そう、今日は二人きり。マナ様の行動を手伝えるのは基本的に精霊だけだけど、昨日進化したばかりのツバメさんという方まで含めて精霊は九人しかいない。私の手伝いに来られる余裕はなかったから、既に関わってこそいるもののまだ精霊ではないアズキちゃんだけだ。
かといって他種族の人たちを連れてくるのはなぜかマナ様に止められていたから、自然とこういう組み合わせになった。さすがにアズキちゃんはちょっと緊張気味だ。
あまりオープニングトークなんかを長引かせてアズキちゃんを困らせてもよくないから、すぐに攻略を始めながら道すがら説明。
「今日攻略する《虹彩魔鉱山》ですが、再解放済のダンジョンです。ベータの時に《御触書・参》で攻略した低難度の鉱物素材系ですね」
「わたしは初めてですけど、ルヴィアさんも来たことはないんでしたっけ」
「ええ。私は《聖石の洞窟》をクリアしてからニムの指示でソロダンジョン行きでしたからね。まして精霊には鉱石素材は無用ですから、再解放後も来ていません」
〈簡単なとこか〉
〈あー、あの時の〉
〈なんかいかにもお嬢と関係ありそうな名前だな〉
私の知り合いだと、当時攻略していたのはスズランちゃんあたりかな。トップ勢はみんな《聖石の洞窟》や各地の個別ダンジョンに行っていて、ここはもっぱらベータの中でも中堅どころの狩場だった。
再解放後はダンジョンの中でも低難度なところになっているから、鉱物素材が欲しい人がたまに行くくらい。クレハは前に来たらしい。……唯装以外の金属を基本的に身につけられない精霊にとっては、ほぼ縁のない場所だ。
「どうせ売るしかありませんし、そんな精霊が《採掘》スキルを持っていても非効率なだけです。素材集めは金策込みでも最低限にして、今日はさっさと奥に行きましょう」
このゲームでは動物素材は《解体》、植物素材は《採集》、中でも木材は《伐採》、そして鉱物や金属素材は《採掘》と細分化されたスキルでアイテムを取得するようになっている。
このうち《解体》と《採集》は私も持っているけど、残り二つは取得もしていない。《伐採》ともなると攻略の片手間にやることではないから、なんと専門の樵プレイヤーが存在するのだ。
《採掘》は戦闘職でもそこそこの所持率になっているけど、私を含めて精霊は誰一人取っていない。性質上妖精サイズのプレイヤーにはそもそも向いていない上に、自分で使う手立てがないからあまり伸ばす気にもなれないのである。
「……経験値的には非効率も非効率だってわかってますけど、格下の敵を蹴散らすのって意外と楽しいですね」
「あ、わかるかも。無双ごっこというか、ストレス解消というか……悩み事のある人にオススメです」
〈えぇ……〉
〈お嬢なんか悩みであるの?〉
〈*ミカン:大丈夫? 尻尾モフる?〉
〈草〉
〈それはモフられたいだけだろ〉
いや、大丈夫。私に悩みやストレスがあるわけではない。苦しい時にやって楽しいことは大抵、平常心でやっても楽しいのだ。
しばらく探索を続けて、あっさり下層。目の前にはボス部屋だ。さすがにこのくらいのダンジョンで苦戦するような私たちではなかった。
構造上ちょっとした待ち時間があって、いざボス戦。ここはとうに再解放されているダンジョンだから、ボスについても事前情報がしっかりある。
そんな硬いだけのMobを普通に攻略しても面白くないよね、ということで。
「ノーダメを狙います」
「……ルヴィアさんなら、そのくらいがちょうどいいかもしれませんね」
〈アズキもだろ〉
〈他人事みたいに言うけど〉
〈さすがまともな被弾自体ほぼ皆無の異能生存体は考えることが違うなー〉
〈お嬢の配信ゲスト、たまに自分が人間だと勘違いしてるよね〉
…………うーん、「無茶言うな」とか「ビッグマウス乙」とか返してもらうために言ったんだけど、なぜかコメント欄はほとんどが普通に受け入れていた。それどころかツッコミを入れてくれたアズキちゃんを無自覚扱いしている。
「確かに私は実際の直撃弾はしばらく受けていませんけど……」
「ルヴィアさん、私も人間じゃないこと、バレちゃってるみたいです」
「…………えっと、うん。見せたいなら、正体見せていいよ」
私はできる自信があるけど、アズキちゃんまで巻き込むのは……と思っていたら、当人がコメントを見てノリノリだった。驚いたせいで反応が素になってしまう。
アズキちゃん、どこかツボがズレているというか、傍目から見て妙なところでスイッチが入りがちな気がする。本当に面白い子だ。最初の自己紹介での没個性感はなんだったんだろうか。
ジャイアントストーンゴーレム Lv.48
属性:幻
状態:正常
ストーンなのに土ではないとはこれいかに。
そう、ここのボスは幻属性だ。確かに幻っぽいダンジョン名はしていたけど、それを横に置いてボスの名前だけを見れば詐欺同然である。
もちろん、これにはちゃんと理由がある。2ゲージあるうちの1本目を危なげなく砕けば、それが見えてくる作りだ。
「情報通りですね」
「……偶然かもですけど、なんとなくルヴィアさんを連想しますね」
「攻守が逆ですけどね。……《ハイドロランス》」
ジャイアントストーンゴーレム Lv.48
属性:(火→)風
状態:(《アレスガード》→)《ジュピターガード》付与
ゲージ二本目に突入した瞬間、ゴーレムは赤色のバリアを展開。全身に各色ひとつずつ存在する属性結晶を順に稼働させてくるのだ。
これによって、このゴーレムは代わる代わる全属性に変化する。弱点属性の攻撃を与えるたびに別の属性に変わる仕組みだ。火、風、水と弱点に有利を取ろうとした後、氷、土、雷と同様に変化。その後は光、闇と続いてから火に戻る。
つまり普通のプレイヤーが戦った場合は、編成にもよるものの高確率で弱点を突けない属性で止まったまま戦う羽目になる。
これによって数多のプレイヤーを追い返している、ベータダンジョンの中では高難度なボスなんだけど……。
「《グラウンドロア》」
「ルヴィアさん、やっぱりこのボスに相性いいですよね」
「間違いないですね。でないとノーダメ宣言なんてしていません」
〈それはそう〉
〈ちゃんと勝算があってノーダメ宣言する方が大概おかしいからな???〉
〈諦めろ、お嬢が常識だ〉
なんというか、露骨なくらい私にとって戦いやすい相手だった。普通のパーティならさすがに全属性の攻撃を揃えることは難しいんだけど、私なら一切のロスなく一人で全属性揃えられてしまう。
アズキちゃんが光と土を持っているから、闇と雷の時だけ彼女が強攻撃。それ以外の時は私がやや手数寄りの魔術で順番を回して、アズキちゃんの攻撃をお膳立てするだけだ。
こんなどう考えても弱点を突かせないために組まれたギミックのボスが、むしろ普段より効率的に弱点を突かれたら。
……悪いことをしている気分になってきた。
で。
「これでこの先に進めますね」
「マナ様が言うには確か、奥の小部屋でしたっけ」
〈マジでノーダメ決めたのになんでこんな反応薄いんだ〉
〈ピカピカ光らされただけのゴーレムが可哀想だった〉
〈この二人顔色変わってないんだが〉
〈さっきあんなにむごいことしたのに……〉
このダンジョンのクリア報酬は少し特殊で、ボス部屋の奥に割のいい採掘坑道が存在する。一日一度一時間という制限のもと、ここで採掘していけること自体が報酬だ。
「でも、たぶんここじゃないですよね」
「ないでしょうね。そうなら浄化の石はもう見つかっているはずですし、そもそもマナ様が『隠し部屋』なんて言わないはずです」
マナ様の言いようは知っていないとわからないような口ぶりだったし、何より普通に坑道にあるなら《採掘》スキルが必要になる。そういうことになるなら、事前に必要なスキルがあると教えてくれないのは不自然だ。
九津堂なら、こういう時は誰でも入れる坑道に突然湧かせたりするんじゃなくて……。
〔条件を達成したため、EXダンジョン 《薄明と虹霓の地》が解放されました〕
…………。
「……違いますよね?」
「えっ新ダンジョン!?」
「マナさま???」
〈ふぁっ!?〉
〈マジ??〉
〈なんじゃそりゃ〉
〈んなことあるん?〉
〈マナさん小部屋っつってたよな?〉
いや、確かに専用マップが用意されるだろうとは思ったよ。だけどさ、それはあくまで隠し小部屋程度のもので、人間が三人も入ればいっぱいなくらい狭いところだと思っていたんだ。
なのに、このアナウンス。まさかのダンジョンごとのご用意である。そこまでしろとは言ってない。
「しかもこの名前、明らかにルヴィアさん向けですよね」
「ええ……薄明はともかく、虹霓は完全に狙われてますね……」
ここにはマナ様の指名で来ているから、私が参加していないことは有り得ない。そういうタイミングともあり、私個人を狙い撃ちしてくる可能性は確かにあったんだけどね。
となると現れたダンジョン自体が私に向けたものである可能性が高いんだけど……そう考えた場合、今度は「薄明」の方が何を示しているのかわからない。
「何にせよ、まずは入ってみないとわからないかも」
「そうですね。浄化の石もまだ手に入っていませんし、取りに行かないと」
アズキちゃんの言う通りだ。さすがに前例のないことすぎて少し怖いけど、立ち止まっていても仕方ない。私たちのための道が目の前にあるのだ。
いざ、隠しダンジョンへ。私はアズキちゃんを連れて、ボスのいた場所に開いた時空の穴へ飛び込んだ。
……その瞬間、アイリウスが嬉しそうに輝いた気がしたのは、気のせいだっただろうか?
次回、急展開。