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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.2 枯れた世界に魔の華を
179/473

172.ワンパターン見栄っ張りポンコツ顔芸コミュ障もん天狗

1/3 だいぶ前のところにキャラ紹介を挟みました。

 9月21日の土曜日。昼はドラマの撮影があって、配信は夜から。

 ……というか、今後はこれまでよりは昼の配信は少なめになると思う。土日は撮影や収録があるから、できてもこれまでの半分くらい。といっても、なぜか番組側から「定期イベントの日程は空けるように収録スケジュール組んでます」と言われたから、たぶん裏で何かの手が回っている。

 あとは講義時間割の都合で水曜日は講義が入らなかったから、そこでは気分次第かな。


「ですが夜はこれまで通りです。今日も配信していきますよ」


〈OK〉

〈体調には気をつけてね〉

〈キツかったら休むんだぞ〉


 コメント欄がお母さんみたいになっている。私は配信が負担にならないから、ただゲームで遊んでいるのと変わらないと何度も言っているのに。




 それはいいとして。


「今日からは新ダンジョン、《水圀城・文仙館》を攻略していくことになります」


〈おー〉

〈お嬢は城やるのか〉

〈気になってたから助かる〉

〈配信者同士の役割分担えらい〉


 昨日の回でダンジョン 《陰陽園》を攻略して水圀を解放した私たちだけど、その場に居合わせた妙羽さんたちの話もあって攻略組は二手に分かれることとなった。

 ひとつはこれまで通り進撃を続けて、今度は西方面へと進んでいく組。《咲稲(さいね)》という村に立ち寄ってから、山道を抜けて栃木方面へと向かうルートだ。

 もうひとつが、水圀に残ってストーリーのキーアイテムを抱える城へ攻め込む組。私は流動性を残しつつ、ひとまずはこちらに入ることになった。

 他にも東の海沿いを北に進む道があるんだけど、これは脇道ということもあって、人手不足から今は断念。後続が追いつくか城を攻め落としてから取り掛かる予定だそうだ。


「パーティメンバーはというと、ヤナガワさんはギルド経由で別のお誘いがあったので離脱」

「ぼくとスズランちゃんとセージさんが残留で、チカさんも別のところに行ったよ」

「代わりに参加するアルフレッドだ! みんな、久しぶり!」

「空元気は切れてからが辛いぞ。……同じく、入れ替わり枠のジルだ」


〈久々の二人だ〉

〈アルフレッド声がでかいぞ〉

〈ジルにド正論食らってて草〉

〈純魔おらんけど大丈夫か〉

〈ユナちゃんどこ……?〉


 この二人としっかりパーティを組んで戦うのは《万葉》の防衛戦以来だ。以前から機会をうかがっていたようだから、もう少し早く組めるとよかったんだけど。

 弓使いこそいるものの、このパーティには純攻撃魔術師がいない。そこは私が中衛に下がることである程度カバーするつもりだ。普段担当しているサブタンクはアルさんができるからね。


「私が少し下がったところで前のめりなことに変わりはありませんが、それは仕方ないでしょう」

「こだわりすぎてルヴィアが後衛まで下がっても問題はないだろうけど、戦力は落ちるからね」


 自分で言うのもなんだけど、私のマルチタスクは利用価値のある個性だ。確かに純後衛の位置でも戦えるしレイド規模になるとたまにやるけど、パーティ規模では縛りプレイも同然である。

 ただし戦闘中にミカンが一人になりがちだから、そのあたりの警戒は私が担当する。中衛というには意識は後ろ寄りになりそうだ。


「仮に魔術必須の敵が出たとしても、お嬢に全部任せればいけるいける」

「あの、そこで開き直るのはやめてもらえますか」


〈おい〉

〈アルお前……〉

〈草〉

〈ここまでステレオタイプな男子大学生も珍しいよな〉


 こういう「誰かが言った方がいいけど、私と親しい上におちゃらけても違和感のない人にしか言えないこと」を担ってくれるのはありがたいんだけど……彼の場合、それに味を占めている節がある。アルさんに恨みはないけど、様式美として一度決闘しておいた方がいいかもしれない。




「そういえば今更だけど、フリュー以外でルヴィアから愛称呼びされてるのアルさんくらいじゃない?」

「そういやそうだな」

「あー……それはまあ、最初期の軽いノリといいますか。後からだんだんプレイヤーネームでしっかり呼ぶようになっていったんです」


 一度アルさんと呼んでしまった以上、後からアルフレッドさんと呼ぶのは距離を置きすぎだし。結局なあなあになっていたところだ。

 後から「なんで?」と見られることは確かにあるんだけど、なかなかね。


「じゃあ私も愛称で呼んでほしいです!」

「スズランちゃん?」


〈お?〉

〈スズラン、立つ〉

〈勝負手じゃん〉


 ……何やら話がおかしな方向に行きはじめた。スズランちゃんはそういう暴走はあまりしないタイプだと思っていたんだけど。


「……でもスズランちゃん、愛称とか特にないよね。どう呼んでほしいのさ」

「う……それはあんまり考えてませんけど、その、距離感といいますか!」

「………」


〈かわいい〉

〈勢いだけで飛び出してるのかわいい〉

〈ミカン、気持ちはわかるぞ〉

〈セクシャルガード外してるのか〉


 なるほど。確かにスズランちゃんが私を慕ってくれていることはわかっていた。少しでも近づこうとして、ありもしない愛称の話に乗っかってきたと。

 ……かわいいな、この子。しかもこれ、たぶん素だ。


「ミカン」

「はいルヴィア、パス」

「わわっ」

「……スズランちゃん。気持ちはすごく嬉しいから、これで我慢してね」

「………………ふぇ?」


 私の感情を察したのか、彼女をおもむろに抱きしめていたミカン(ただし身長的に顔まで埋もれていた)に押されてこちらへ来たスズランちゃんを両手で受け止める。そのまま片腕を伸ばして、軽く頭を撫でてやった。

 一人追加であだ名で呼んだりするだけで割と収拾がつかなくなるのに、新しい愛称をつけたなどとなれば面倒な展開になることは必至。だからある程度親しい相手にしか使わないタメ口で親しみを伝えたんだけど……スズランちゃんの様子がおかしい。


「ぇ、あっ、わたっ、あぅ……」

「なんですかこの可愛い生き物」

「なあミカンちゃん。この子素でやってるのか?」

「天然だよ。自分も萌えを稼いでいるところまで含めて」

「……そういうものを見せられると、俺はキャラに反する反応しか選択肢がなくなるのだが」


〈スズランちゃんが倒れた!〉

〈うわぁ〉

〈これ素なのかよ〉

〈スズランちゃんうらやまかわいそう〉

〈お嬢って天然だよな〉

〈顔真っ赤ガールをめいっぱい手を伸ばして撫でるガール〉

〈救護班ー!〉


 ……どうやらスズランちゃんによる私への好感度が想像以上だったようで、少し撫でるだけで卒倒しかけてしまった。自分より小さな見た目のちんちくりんに撫でられたところで嬉しくもないんじゃないかと思っていたのだけど。

 ちなみにスズランちゃんの再起動には一分ほどかかった。……ごめんね、変なことして。


「いえ、またお願いしますっ!」

「見かけによらずたくましいよねスズランちゃん」








 オープニングトークが長くなったけど、切り上げていざ進入……したはよかったんだけど。


「偶然を装うにはちょっと遭遇が早すぎませんか?」

「じゃって、じゃって~」

「そ、その……姉がすみません」


〈駄々っ子か?〉

〈妙羽のネタキャラ化が止まらない〉

〈もう本人わかっててやってるだろ〉

〈威厳とかないのか威厳とか〉


 なんか具体性もなく駄々をこね始めた天狗の頭領は、私たちがダンジョンに入って一つ目の角を曲がってすぐに出会った。……というか、来た道から出てきた。


 ダンジョンの入口はいくつかある開始地点のどれかにランダムで繋がるんだけど、パーティメンバーでなくても10秒以内に続けば同じところから始められるという抜け道がある。

 ただしそうでない限り同じ入口にすぐ出ることはない。……つまり妙羽さん、ダンジョン入口で身を隠して私たちの後をつけてきたのだ。


「……じゃって、妾たちは単独でダンジョンに入ってはならぬのじゃもん」

「もんって……」

「汚染がある以上、それはわかりますけど……」


 ちなみに昨日のボス部屋前セーフティへの乱入は、実はすぐ近くまで護衛して送り届けたパーティがいた。クエスト扱いだったそうだ。

 未攻略ダンジョンの中は汚染されているから、耐性がない双界人は魔物に少し触れるだけでも危険だ。聖水を充分量持った上で、《来訪者(プレイヤー)》の護衛がなければ入ってはならないとされている。

 だからダンジョンへ入る双界人の護衛はクエストとしてプレイヤーへ依頼されるようになっている……らしい。昨日が初の例だったけど。


 それなのにこの姉妹、どうやらクエストで護衛をつけずに入ってきてしまったらしい。


「ほら、その辺りは、事後承諾でも通用するのじゃ」

「……つまり、私たちに護衛をしてほしいと」

「うむ」


 ……理屈はわかるし、このダンジョンが天狗にとって重要なのは昨日から聞いていることだけど……。

 とりあえず、容疑者の供述をもう少し聞いてみようか。




「なんで私たちをわざわざ狙ったんですか?」

「それは……」

「イースがおらぬからじゃ。あやつめ、せっかく妾が誘ったというのに、顔を見せもせぬ」

「ねえアルさん、イースさんって確か……」

「昨日からちょうどラインハルトの唯装ダンジョンの手伝いだな」


 答えようとしてくれた濡羽さんを遮って、妙羽さんはそれはもう見事に拗ねてみせた。もう一周まわって可愛らしい。

 ただ、濡羽さんの表情はすぐれなかった。少なくとも事実の全てではないのかな。


「では、もし私たちが断ったら?」

「え゛っ」

「……断られる可能性などこれっぽっちも考えていなかった、ですか」

「ほ、ほう。やはりお主はできるようじゃな。妾の言いたいことがわかるか」

「ねえルヴィア、顔と態度で万人にバレバレだよってちゃんと言った方がいいのかな」

「聞こえておるぞそこの狐っ子」


〈顔芸か?〉

〈やっぱおもしれーわこの女〉

〈このコント前も見たよな〉

〈ワンパターンポンコツ顔芸もん天狗〉


 初めて会った時もこんな感じだったね、この人。

 ちょっと話す分には面白いからいいけど、友達には欲しくないタイプだ。妹としていつも一緒にいる濡羽さんには悪いけど。


 まあここまで来られたら受けるしかないからそれはいいんだけど、気になることは他にある。


「……では、どうして依頼として出さなかったんですか? 昨日と同じようにすればよかったでしょうに」

「…………」


 あれ、黙ってしまった。これは当然の疑問だと思ったんだけど……。

 と思ったら、濡羽さんが答えてくれた。


「その……姉は人見知りなのです。ですので、人と一対一で話すのが苦手で……」

「え? ……では、昨日の乱入は」

「一度話したことのある相手や、自分で気に入った相手ならちゃんと話せるようで」

「昨日も護衛を探したと思うのですが、その時は」

「部下に任せきりで……」

「……でも、私が初めて会った時はそんな様子はありませんでしたが……」

「おそらく、威厳を取り繕って乗り切ろうとしたのでしょう。姉様にしては頑張ったのだと思います」


 つまり、自分から面識のほとんどない相手と話すのが苦手で、多少無理してでも比較的慣れている私についてこようとしたと。

 なんというか……ちょっとかわいいな。


 それにしても、濡羽さんは百鬼戦録のときと同じ性格だった。奥手そうでお淑やかと思いきや、慣れた相手への遠慮というものがあまりないのだ。現に今も、恥を配信にまで晒されて顔を覆う姉を見てすらいない。

 しかもそこに悪意がないからタチが悪いのだ、と看板娘の雪景梓も言っていた。それもやはり事実であるようで、妙羽さんもぷるぷる震えるだけで止めようとはできていなかった。


「……あれ。でもそれなら、濡羽さんが探してあげればよかったんじゃないの?」

「それが……『こういうのは姉がなんとかしてやるものじゃ』の一点張りで、私にはやらせてもらえなくて」

「…………」

「それ自体は嬉しいのですよ?」

「もはや姉への尊敬じゃなくて、出来の悪い子供への慈愛じゃないかなソレ」


〈草〉

〈草〉

〈お腹痛い〉

〈あのさあ……〉

〈妙羽さん……w〉

〈妙羽が完全に俺らなんだが〉


 ……この話、ここまでにしよっか。たぶん誰も幸せにならないから。

 スズランちゃんは純真。イメージ戦略で過去の口調を引っ張ってくるような打算似非ロリ狐とは違うのですよ。


 妙羽さんは……真面目な子なんですよ。いやほんと。ちょっと無理しがちなだけなんです。

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] 天然 vs 養殖(+幼なじみ) のお嬢争奪戦が勃発・・・ のちにサーバー全体を巻き込んだ大戦に発展して・・・いきそうw
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