170.毎回気付くお嬢もお嬢だけど
皆様、あけましておめでとうございます。本年も本作をどうぞよろしくお願い致します。
ギルドからマッピングデータをもらって、しばらく第三層を攻略。
雲入道 Lv.51
属性:氷
状態:汚染
備考:雲
「雲入道2……やっぱりこれ見ればわかりますね」
「スズランは俺と片方を引きつけるぞ! 三人で片方頼む!」
「はいっ」
「OK!」
「ミカン」
「任せて。《アタックブースト+》」
この層からは新たな敵が現れている。《雲入道》という、読んで字のごとく雲でできたようは見た目の巨人だ。
この「備考:雲」はいったいなんなのかという話だけど、これはどうやら「バフのかかっていない物理攻撃を半減」という特殊な性質を示すようだ。
バフさえかかっていれば影響のないステータスだから、陽動をする時も基本的にバフは掛けておく。一方でメイン火力になりうる私とヤナガワさんにもバフがあった方が効率的だから、さっきからミカンは大忙しだ。
ミカンがバフで忙しいということは、回復を切る余裕があまりないということ。常になるべくダメージを受けない立ち回りが求められることになる。
「次の次でそっちに振るぞ。……今!」
「よっ、と!」
〈上手ぁ〉
〈スズランのリズム感覚どうなってんの〉
〈音ゲーめっちゃ上手そう〉
〈タイミングの狂わせ方完璧よな〉
なんとなく向こうにカメラを向けていると、スズランちゃんがいい仕事をしたようでコメントが加速。
後で映像を見返したところ、ぎりぎりまで攻撃を引きつけてから急加速。かなり余裕を持って回避して、そのままヘイトを調整する反撃の一撃を入れていた。
私の枠ではどうしても運動会の時のシュートチェインの印象が強い彼女だけど、普段はどんなプレイスタイルをしているかというと、こうだった。パーティメンバーの動きを把握して予測しながら、味方にとって嬉しく敵にとって嫌らしい行動を取り続けるのだ。
だから彼女と組んだ時は、スズランちゃんがやってほしいことをしてくれる前提の動きを最初から取っていい。この利点がどれほどのものかは、もはや改めて説明するまでもないだろう。
「チカさん、そっちに流します」
「ん、《ダブル・アタックブースト+》」
「《トリプル・エレクトロランス》!」
「《三撃・電槍》」
「……そこ、《スパイクラッシュ》!」
〈チカやっぱ器用だな〉
〈ケチってピッタリ〉
〈なんでトップ勢って打点計算できるん?〉
もちろんチカさんも負けていない。私とヤナガワさんの攻撃とHPゲージの量を見て即座に判断、ちょうど削り切れるアーツを選択して叩き込んだ。
この場面で槍から最も威力を出せるのは《バーストストライク》なんだけど、削り切れる中でMP消費が少ないのは《スパイクラッシュ》だった。物理型魔法剣士というMP管理がシビアなスタイルだからこその嗅覚だ。
チカさんが手加減したということは、まず調整失敗はない。仮にあってもヤナガワさんが向こう側にいるから、私は目を離していい場面になった。
二体目へ振り返った私と、刀の妙技で引きつけていたスズランちゃんの視線が交錯。……するのとほぼ同時に、私のための射線が通った。
「《サンダーアロー・ガトリング》!」
「ここ、《ダブル・アタックブースト》」
「《剣閃、一刀》っ!!」
死角からの私の攻撃に反応しきれなかったようで、雲入道Bは《雷魔術》をもろに受けながらこちらへ振り返った。……背後には、にんまり笑ったスズランちゃんの姿。
連携能力ばかりが特筆されるけど、スズランちゃんは珍しい刀使いでもある。しかも《居合術》までマスターしている実力派だ。それ自体の習熟度だけでは、さすがにクレハとは比べられないとはいえ。
慎重にヘイトを管理していた成果ともいえる、背後からの《居合術》による強攻撃。痛打を受けた雲入道は今度こそスズランちゃんにヘイトを向けたが、彼女はそれを嘲笑うように的を絞らせない足運びを取り始めた。
……よほど苛立っていたのか、愚直にもそれを追いかける雲入道。背中は、がら空き。
「《三撃・電槍》」
「《トリプル・マグネブレス》」
またも背後に痛撃を喰らった雲入道に、またもスズランちゃんが駆け寄ってトドメ。雲入道Aを相手に大活躍だったチカさんが介入する暇すらない蹂躙だった。
「よし。戦闘終了」
「……いや、タンクとヒーラーが暇なのはいいことなんだけどな」
「ぼくはMPの都合もあるから、出番が少ないのは純粋にありがたいよ」
〈作戦担当セージ〉
〈せっかく配信に出てるのにタンクとして活躍する余地がないの草〉
〈アタッカーが強いとタンクとヒーラーはな……〉
〈スズランちゃんとの連携上手かったぞ〉
当初は散々弄り回されていたセージさんだけど、出番の少なさに頭を抱え始めていた。コメント欄ですら不憫そうに慰めている。いつも容赦のない彼らですら同情を禁じ得なかったようだ。
……まあ、いつも通りだ。トッププレイヤーを6人集めて、ストーリー上の攻略ポイントで苦戦していたらそれこそよろしくないわけで。
DCOのダンジョンでは、ボスはそこに出る通常敵のいずれかの強化版であることがほとんどだ。特に、そのダンジョンで初めて確認されたものが元にされるパターンが多い。
ここの場合は梅木霊と雲入道が該当する。ただ、どちらが元になるかは私はなんとなく予想がついていた。
「偵察班が戻ってきたよ。雲入道っぽい巨人、ダイタロウホウシ? だって」
「変わった名前だな」
「ああ、それはダイダラボッチと読みます。日本の伝承にある有名な巨人ですね」
〈大太郎法師?〉
〈これだいだらぼっちって読むのか〉
〈読めるかこんなん!〉
《大太郎法師》。日本各地に伝承を残す、人を助ける優しい巨人だ。名前の意味はほぼ漢字の通りで、ちょうど一寸法師の真逆にあたる。
「実はこのダイダラボッチ、このあたりにゆかりの存在なんですよ。水戸にある大串貝塚に遺跡があったと、常陸国風土記に記述があります」
「へえ。ちゃんと理由があるのか」
「実は雲入道が出てきたあたりから、ボスはそれかなと思っていました」
ただ、だいだらぼっち伝説は他の地域にもみられる。琵琶湖になる地から土を拝借して富士山を作っただとか、手をついた窪みに涙が貯まって浜名湖になったとか。
国づくりの神信仰があった日本は、実はこの手の巨人伝説には事欠かないのだ。
「うん、ぼくも知ってる。北関東あたりの山はやたらだいだらぼっち伝説が多いんだよね」
「西の方やと関東ほどはよう聞かへんけど、琵琶湖がそうなら足を向けては寝られへんなぁ」
「なんか文化的な会話してる……」
「ついていけねえ……」
「わからない3人で仲良くしよ……」
「私は榛名富士と榛名湖がそうだって小さい時に聞きました」
「あら、スズランちゃんは上州の子でしたか」
「う、裏切り者ー!」
〈琵琶湖は関西の生命線だからな〉
〈俺はチカとセージの仲間〉
〈初めて知ったけど面白そうだな〉
〈そ、そんなのなくてもゲームはできるもん……〉
〈地元の山は巨人様が作ったって聞かされて育ったわ〉
〈チカ置いてかれてて草〉
〈マラソン一緒に走ろうねした友達かな?〉
地域差や性格なども出る話なのだろう、この場もコメント欄も知識から感覚までさまざまだった。チカさんとセージさんは攻略の当事者だし、もう少し調べたりしてみるとより面白くなると思うけど。
……これだけならよかった。これでだいだらぼっちを倒すだけとなっていれば、何の思うところもなかったんだけど。
「ほう、ここが陰陽園の奥地か」
「姉様。あまり来訪者の皆様のお邪魔をなさりませんよう」
「何を言う。妾は助けるために来たのじゃぞ」
…………え?
「ねえ、あれ」
「あれ、妙羽さんですよね。天狗の」
「ルヴィアちゃんの配信で見たことあ……ちょっと待って」
「隣にいるの、もしかして……」
〈ぽんこつ天狗じゃん〉
〈なんでここおるん〉
〈助けるって言ったか今〉
〈もしかしてボス戦参加するん?〉
〈いや待て隣〉
〈あれ濡羽じゃね?〉
〈濡羽たそ!?!?!???〉
ボス部屋前のセーフティに突如入ってきたのは、見覚えのある顔を先頭にした六人の天狗たちだった。
真っ先に目についたのは、イースさんの進化に同行した時に会った妙羽さんだ。彼女は天狗の長という話だったから、同族を連れていること自体には違和感はない。
そして隣にいる顔にも、私を含む一部の人には見覚えがあった。妙羽さんを姉と呼ぶ彼女だ。
《倉馬濡羽》。九津堂制作のソーシャルゲームである《百鬼戦録》に登場していた、名前通りの艶やかな黒髪を伸ばした烏天狗の少女である。
元々妙羽さんが酷似していることで一部では話題になっていたけど、ここで本人登場となった。どうやら姉妹の関係で、この世界では主な天狗のまとめ役の一人であるようだ。
「ふむ。イースは……おらんか。では……おお、ルヴィア殿」
「お久しぶり、でもありませんね。こんにちは、妙羽さん」
「うむ。後ろのは妾の部下じゃ。これは妾の妹で、濡羽という」
会釈をする濡羽さん。どうやら本当に妹であるらしい。
「して、この場の主はお主じゃろうか」
「いえ。今日はいち参加者ですよ。よければリーダーを紹介しましょうか?」
「うむ、頼む」
動揺を隠しつつ、今回ボス戦を仕切ることになっているブランさんと顔繋ぎ。どうやら本当にボス戦に参加するようで、その辺りの調整をしていた。
レベルは私たちと比べるとかなり高いけど、本職ではない後衛としての参加になるからそこそこ以上の期待はしないでほしいとのこと。いざとなれば私が浄化を使えるとはいえ、確かに無用なリスクは取らない方がいいだろう。
「でも、なんでわざわざそこまでして……」
「……ルヴィア、心当たりがありそうな顔だね」
「えっ、ルヴィアさんわかるの?」
「なんとなくは……」
妙羽さんがうずうずしているから、先に別の話。
「せっかくですから、探してみましょうか」
「うむ」
「その、お手数をお掛けします」
「いえ、お気になさらず。……この中で、《翼人》への進化を狙っている方ー?」
〈妙羽めっちゃ嬉しそうじゃん〉
〈申し訳なさそうな濡羽たそかわいい〉
〈いつもこうなんだろうなあ〉
〈濡羽ちゃんに幸あれ〉
さすがは条件の緩い進化先というべきか、それとも攻略組しかいない場だからなのか、50人弱のプレイヤーたちの中に2人の志望者がいた。ウキウキの妙羽さんと顔を繋いで、後日進化となるそうだ。
この場で進化を気にかけるのは翼人だけど、翼人から進化するのは烏天狗。しかし天狗パーティの中には、二人ほど翼を持っていない方がいた。
「そういえば、そちらは《木葉天狗》の方でしょうか」
「うむ、そうじゃ。徳を積んだ狼の獣人が行き着くのじゃぞ」
〈しれっと進化先が判明したが〉
〈めっちゃ普通に教えてくれるじゃん〉
〈そういやそんな感じのこと言われてたな〉
狼耳と尻尾を持つ白色の天狗がいたからそうかと思ったけど、どうやら彼らが軽く話に出ていた《木葉天狗》で間違いないようだ。白狼天狗とも呼ばれたりするね。
とすると、やはり妙羽さんとしてはそちらも気になるだろう。これも聞いてみることに。
「この中に、木葉天狗が気になっている方は……」
「……はい」
「いましたね」
「なんと! のうのうお主、ちこう寄って話を聞かせてもらえぬか?」
〈わあ見覚えのある顔〉
〈ロウちゃん天狗考えてるのか〉
〈意外とチャレンジャーなのね〉
〈タンク向きかもしれんしな〉
真っ先に手を挙げたのはロウちゃんだった。彼女、こう見えて意外と好奇心旺盛だからね。人見知りでもあるから、妙羽さんに怯えたりしないか少し心配だけど。
この場には彼女しかいないようだったから、妙羽さんの相手はしばらくロウちゃんと付き添いのフィートちゃんに任せることになった。
……さて。
「それでルヴィアさん、この場に天狗が来ることへの心当たりって?」
「あー……だいだらぼっち伝説みたいな、しっくり来るものではないんですけど……」
〈茨城に天狗の話ってあったっけ〉
〈天狗っつったらやっぱ鞍馬山では?〉
〈関西のイメージだけど……〉
〈もしかしてアレか?〉
〈水戸……天狗……あっ〉
いや、うん。もし本当にこれが由来なのだとしたら、運営の節操のなさには閉口するしかないんだけど。
でも、このタイミングで天狗が意味ありげな登場をするのは、やっぱりこの理由しかないと思うんだよね。
「濡羽さん、つかぬことをお聞きしますが……ここの繋がっているという《水圀城》にいる存在は、あなたがた天狗と確執があったりしますか?」
「……おわかりですか。その通りです、私たちにとっては因縁の相手で。だからこそ、汚染を解かねばならないのです」
やっぱり。それなら、もう少し踏み込んでみよう。
「その因縁の相手というのは……そうですね。たとえば、文車妖妃のような存在だったりとか」
「どうして……!?」
「いえ、ごめんなさい。不躾でしたね」
「お気になさらず。……ですが、そうですか。そんなことまでおわかりになるとは。あの精霊王が真っ先に手をつけたというのは、やはり伊達ではないのですね」
〈文車妖妃?〉
〈うわあ……〉
〈いや合ってるのかよ!?〉
〈なんでわかるん???〉
〈うっわ露骨〉
〈九津堂ァ!〉
〈お嬢ついに読心までできるようになったの?〉
……妙な感心をされてしまったけど、それは置いておくとして。
「水戸には天狗にまつわる……まつわると言っていいのかなコレ。天狗とは関係ないんですけど、連想はしうるものがひとつあるんですよ」
「その心は?」
「天狗党です」
「…………あー」
〈なにそれ〉
〈マジ?〉
〈天狗党って?〉
〈うーわ〉
〈あんまり触れたくないとこ出してきやがった〉
〈天狗党は天狗じゃないだろ!〉
少し歴史の話になるから、なるべくざっくり説明しておこう。
天狗党というのは、幕末期の水戸藩に存在した藩士からなる一派だ。財政難だった藩の政治改革を担った勢力なんだけど、革新的ながらやや思想が過激だったらしい。
彼らが天狗党と呼ばれたのは、「立場や権力を笠に着て、心が狭く偉ぶっている」から。要は鼻を高くするという意味での“天狗になっている”だ。
もちろん、妖怪としての天狗とは一切関係ない。間接的にも関係あるのは《鼻高天狗》であって、烏天狗や木葉天狗にはかすりすらしていない。
そんな妙羽さんたち天狗とは名前しか共通していない天狗党は、同じ水戸藩の保守派と血みどろの争いを繰り広げた。お互いに暴走を繰り返した結果、ほとんど人材が残らなかったほどだ。
その保守派は「諸生党」と名乗っていた。こちらの語源は一派に多かった“書生”だ。勉学をする者、くらいの意味。
「水戸藩には有名な藩校、武士向けの学校がありました。『弘道館』といって……これ、水戸城内にありました」
「あ……」
「しかもこれ、確か偕楽園とワンセットだったよね」
「……偕楽園って、確かこのダンジョンの元ネタだったか?」
「そしてこれは余談なのですが。『文車妖妃』というのは、すごくざっくり言うと書物の妖怪です」
〈あっ〉
〈そういうことか〉
〈ネタが迂遠な上に過激〉
〈すごく……九津堂っぽいです……〉
まあ、そういうことである。なんとなく、嫌な予感はするよね。
新年早々こんな話を……(書いたのは2ヶ月くらい前だけど)。
エルヴィーラ「……あれ? でも確か、幻双界の天狗と文車妖妃って」
紫音「はいストップ。それ以上はいくらあとがきでもダメですよ」




