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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.2 枯れた世界に魔の華を
174/473

167.ゲーム実況者特有の無言本気モード

 翌日。昼間はちょっとしたお仕事をしていて、今日は夜からダイブ。

 さっそく配信をつけて、挨拶をしようとしていると……。


「──もしもし?」


 フレンド通話だ。ユナからだった。


『あ、ルヴィア! 来れたら至急 《モンテッチ》に来てくれない!?』

「……何かあったの?」

『また防衛が失敗しそうなの!』


 《モンテッチ》。四日前に一度防衛戦が行われて、初めてプレイヤー側の失敗に終わっていた夜界の最前線だ。

 一度失敗して防衛戦の概要がわかってすらいるのに、また失敗とは穏やかではない。


「えと、皆さんこんばんは、DCO公式ストリーマーのルヴィアです。ごめんなさい、少々慌ただしいですが今ばかりはついてきてください」


〈ええよ〉

〈神回の予感〉

〈なんか面白そうな流れじゃん〉

〈全力で突っ走ってくれ〉

〈俺らは勝手に見てるから気にするな〉


 昨日に引き続き《水圀》を攻略していくつもりだった私は、コメント欄のありがたい流れにお礼を言いながら即座に《精霊の祠》に飛び込んだ。そのまま精霊界の簡易バンクへ所持金とアイテムを手早く預ける。

 簡易バンクとは、街などに存在する金庫のようなものだ。これに入れたアイテムは紛失しなくなる。要はデスペナを抑えるための安全装置だ。


「以前からたまに使ってはいましたが、見せるのは初めてですね」


〈そんなのあったのか〉

〈これまで配信外でやってたでしょ〉

〈絵面地味だからなこれ……〉


 地味だし、なんとなくファンタジーっぽくないし。あんまり見せたいものでもなかったんだ。

 いつもボス戦やイベント戦の時は配信前にしていたんだけど、今回は突発だったから仕方なく配信中に。今は不要なアイテム類や所持金を片っ端から預けておいた。


 別に死ぬ気はないけど、リスク管理は重要なのである。








 現場となっているモンテッチの街は、ひどく緊迫していた。その場で飛び上がって、騒々しい方向へ急行。

 防衛線は既に大打撃を受けているようで、上から見ると一部が乱れかけている。ひとまず本陣らしき場所へ降り立って、話を聞いてみることにしよう。


「あ、ルヴィアさん!?」

「どうしてここに……」

「私が呼んだの。他にも何人か、後から来るはず」


 どうやら今回の指揮系統は、あまり指揮慣れしていないプレイヤーが大半だったらしい。ユナを含め経験者も混ざってはいるが、見たところ助言程度にとどめて判断は譲っているようだ。

 ……ただ、それだけが要因には見えない。何かあったのだろう。


「状況を教えてください」

「は、はいっ」


 聞かされた状況はだいたいこんな感じだった。


 まず前回の防衛戦で、突然一頭の竜が現れて戦線が急激に崩壊した。前線にはトップパーティも複数あったが、彼らも防戦一方で有効打を与えられなかった。

 というか、そもそも戦力的に足りていない節が見て取れたようだ。正面から勝てる相手ではないだろう、との判断で当時の司令部も一致したらしい。


 果たしてそれは事実だったようで、駆けつけたトッププレイヤーたちを薙ぎ倒して竜は暴れ続けた。日曜日の夜だから、私がテレビ局から帰る車にいた時のことだ。

 その日は彼らの犠牲もあって、なんとかまだましな被害のまま戦闘を終わらせられた。そこからなんとか準備をし直して、リベンジの予定だったと。


「だけど、本当は明日の予定だったんです」

「防衛戦がですか?」

「はい。ひとつ必要なチェーンクエストがあって、今日はそれの攻略にあてる予定だったんですけど……」

「一部の脳き……何も考えてない人たちが、前回と同じ条件が揃ったからって勝手に開戦しちゃったの。どうせあんな理不尽な竜はランダム出現だろう、って」


〈うわぁ……〉

〈初歩的なやつだ〉

〈そういうこともあるかー〉

〈お嬢たちがちゃんと用心深いから忘れてたな〉

〈これまでなかったのが幸運というか〉

〈ユナ、言い直した意味ないぞそれ〉


 ……うん。確かに、そういうことはありうる。これまでは配信者をはじめとして発言力の強いプレイヤーが仕切っていたから、彼らのMMO慣れなどもあって大きな事故なしでやってこられたんだけどね。

 ここのところ後方でそれぞれの行動をしているトップ勢が多いのと、巡り合わせに乗じてリーダー格を増やす魂胆もあったことからモンテッチの防衛戦リーダーは新顔が務めていた。今回もリベンジということで同じ面子でやっているそうだ。


 ただ、それが結果的に悪い方に転んだ。誰もが知っている人が仕切っていないから、好き勝手やっていいと勘違いしたプレイヤーが出たのだ。

 ……これは、正直難しい問題だと思う。ずっと変わらないメンバーでやり続けるのもよくない。指揮官役ができる人も増えるべきだとは思うんだけど、それを狙ってユナのような有名人が一歩引くとこうなる。


「ごめん。せめて私が表に出てれば、こうはならなかったかも」

「仕方ないよ、これは。それより、今どうするかを考えないと」




 話の続き。これは現在も担当を買って出たプレイヤーたちが進めている街中のチェーンクエストに関する話だ。


 こちらもざっくりまとめておこう。このモンテッチ……ここは現実世界でいうヴェローナなんだけど、前回防衛戦の前はこの地名の由来が長らくわからなかった。

 しかし防衛戦が始まってから、とあるお手柄中堅勢のおかげで「ベッリーニの戯曲『カプレーティとモンテッキ』に登場する主人公ロメオの家名」ではないかと判明。

 この『カプレーティとモンテッキ』はイタリアに古くから伝わる物語を元にしたもので、同じルーツの作品にはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』がある。つまり街そのものが『ロミオとジュリエット』、ないしはそれに似た作品モチーフだという傍証が立った。


「ええ。私も聞いたことがあります。一般にロミオの家名として知られているのはモンタギューですが、これは英語読みですね」

「そうと思って街中クエストを洗い直したら、領主の息子がそれらしい依頼を出していたんです」


 そうしてその領主の息子のクエストが重要なのではと推測に至ったが、前回はそれに気付いた時点で手遅れだった。だから今回は防衛戦の前に、今日ちょうど今頃にクリアする予定だった、と。

 しかし意思疎通の不足が原因でもう防衛戦は始まってしまい、ランダムではという望みも虚しく竜はまた現れた。今もクエストは攻略中でクリア目前まできているけど、このままでは竜の接近にぎりぎり間に合わない。






「つまり、その竜をなんとかして足止めすればいいんですね」


 そう告げたことには特に深い意味はなかったんだけど、指揮官役の青年は顔をひきつらせた。周りにいる見慣れない顔のプレイヤーたちも同様だ。

 落ち着いているのは、助言役を引き受けているユナともう一人だけ。


「そ、そう簡単な問題では……」

「ケイさんたちを含めたレイドでもギリギリなのに……」

「大丈夫ですよ。こういう時に無茶をして支えるのも、トッププレイヤーの務めです」

「うん。……ルヴィア、お願い」

「任せて。死んでも通さないから」


〈トゥンク……〉

〈やだイケメン〉

〈お嬢がいつになくかっこいいんだが〉

〈素敵! 抱いて!〉

〈*フリュー:^^〉

〈ヒェッ〉

〈暴走天使もはよきて〉

〈*ルプスト:皆と一緒に全速力で移動中よお〉


 柄にもないキザな言葉だけど、安心させるためならわけもない。私はこういうセリフではあまり恥を感じないのだ。

 それに、別に不可能なことではない。他のみんなも来ているのだ、みんなが来るまでもたせれば最低限なんとかなる。


 これまでで最大級に危険な場面だけど、私は少し高揚していた。

 戦う相手は、強い方がいい。私だってゲーマーなのである。








 戦場はあちこち綻んではいるものの、なんとか形を保っていた。あの中のどこに賽を振ってしまった迂闊なプレイヤーがいるのかはわからないけど、逃げ出しでもしていない限りはそんなことはどうでもいい。

 私は、未だ戦場の中央で暴れている竜───《咆撃竜(ほうげきりゅう)暮奈(くれな)》を見据えた。今は《天球の光》のトップパーティを含む複数組が押さえているが、一方的な長期戦の末にほとんどが死に戻っている。もう二人しか残っていない。


 まずは、一撃。


「《トリプル・ポップフルーツ》」

「ッグァ!? ……ッ、グルルル……」


〈効いてる〉

〈悪くないぞ〉

〈うわあ、ギリギリ〉

〈もう二人とも限界か〉

〈こいつが野放しになるとこだったな〉


 HPゲージがほぼ満タンだからそうだろうとは思ったけど、やはりまともな攻撃自体を与えられていなかったようだ。不意討ちを一撃入れるだけで、一気にヘイトが私に傾いた。……が、まだ私だけを見るには至らない。

 それに気づいたケイさんがこちらを見上げる。


「ルヴィア!?」

「増援に来ました!」

「助かるよ!」


 どうやら後方との会話すらできないギリギリの状態だったようだけど、私の行動だけで状況を把握した様子。険しかった表情がほんのわずかに和らいだ。


『ルヴィア、後続のタンク勢が本陣に着いた! そっちに着くまであと二分強かかる!』

「『了解、任せて』」

「───ッ!!」

「……すんません。俺、落ちます」

「こっちもだ。悪いが任せるよ」

「ええ」


〈タイマン!?〉

〈こいつと1対1かよ〉

〈ヤバくね?〉

〈ヤバいぞ〉

〈頑張れお嬢〉


 そしてそれとほぼ同時、ドラゴンは無慈悲にもブレスを吐いた。避け切れない二人はHPを空にして退場。

 残り二分。私は一人で耐えなければならない。しかも一撃受けたらほぼ終わりのデスマッチだ。


 《咆撃竜・暮奈》は、とにかく強烈な暴力が特徴だ。小細工も魔術も使わず、遠隔攻撃は竜特有のブレスと衝撃波くらい。とにかく力と暴虐で戦う。

 だからこそ、隙がない。格下として挑むには、最悪に近いタイプである。


「ごめんなさい、しばらくコメント欄から目を離します。全力でないと太刀打ちできないでしょうから」


〈おう〉

〈見てるぞ〉

〈OK〉

〈ファイト!;1000〉

〈リアタイできるのラッキー〉

〈今北さんへ しばらくコメ反応ありません〉


 まず勝利は不可能だろうけど、なんとか時間稼ぎはしなければならない。そのためなら手段は惜しまないし、実は有効な手札はあるのだ。

 思えば初使用だけど……私は、耳許へ手を添えた。


「行くよ。──《百華千変》、起動」

 とっつきやすいようになるべくまったり動いているルヴィアにも、やらなきゃいけない時がある。

 次回、「ルヴィア死す」。デュエルスタンバイ!

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[良い点] 投稿お疲れ様ですっ!! [一言] ルヴィア「別に、倒してしまっても構わんのだろう?」
[一言] ルヴィア「足止めするのはいいが 別に、倒してしまっても構わんのだろう」(死亡フラグ補強)
[一言] 更新お疲れ様です! 今日も配信…と思ったら緊急事態!? 失敗していたやつをまた失敗しかけるとは珍しい…? はえー…そんな機能もあるんですね…バンク そして来て見て話を聞けば…あぁ、なるほど……
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