160.幻双界へようこそ!
9月16日、月曜日。今日は敬老の日で祝日だ。
「皆さん、こんにちは。ルヴィアです」
〈こんー〉
〈待ってたぞ〉
〈日課〉
今日も今日とてやっていきます。
「というわけで、《バージョン1.2》です。変更点はいろいろありますが……ちょっと時間がないので、まずはひとつだけ」
〈時間がない?〉
〈なんだ、何かやるのか?〉
〈なんか昨日掲示板で話してたけど何するん〉
現在時刻は13時過ぎ。まさに今、昼王都は人でごった返しているところだ。
「最大の変化ですが……第三陣です。ついにサーバーの無制限開放が行われました」
ベータテスト1500人、第一陣13500人、第二陣15000人と順次サーバーを拡張していたDCOだけど、正式サービス開始から一月半が経過したこのタイミングでソフト販売数の制限が撤廃された。
昨日からの発売で、ついさっき発表された現時点での売上本数は約150000本。わずか二日でプレイヤー数は5倍になった。
……もっとも、おそらくこんなものでは済まない。VRゲーム自体が一般化しきっていない今、まだ全くの新ジャンルに手が伸びきらないという人の方が圧倒的に多いのだ。そのような層がVRMMOへ気軽に手を出すようになるには、もうしばらくかかるだろう。
大手ニュースサイトなんて、魅力が伝わる円熟期には1000万本もありうるだとか好き勝手に言い出している。
そんな第三陣がログインしてきたのが、まさにたった今。一気に人で埋まっていく四つの広場を、私たちは北の空から眺めている。
ちなみにあの広場、今だけはインスタンスマップが発生しているらしい。そうでもしないと押しかけたプレイヤーたちが物理的に入り切らないのだとか。
ただ、私たち既存プレイヤーは一時間早い12時からログインできていた。これには混雑回避の意図ももちろんあったのだろうけど……。
『ルヴィア』
「……ん、合図ですね」
『やれるかな?』
「いけますよ」
〈おん?〉
〈なんだいきなり〉
〈*ペトラ:綾鳴さん?〉
〈何企んでんだ〉
私たちがここに待機していたのは、広場を俯瞰したかっただけではない。
予定通りに飛んできた《魔力通話》での合図を受けて、私はカメラの向こうへ向けてハンドサイン。
ついでだから、手に持ったものを見せておく。
「こちら、《空筆》といいまして、空中に一定時間だけ留まる光を出す魔道具です。妖精や翼人、竜人などが使う連絡用の品ですね。……では、皆さんもお楽しみください」
「全員、位置についてー!」
〈えっ〉
〈カメラが離れる!?〉
〈なんか増えた〉
〈妖精多くない?〉
〈何する気なんだお嬢〉
配信カメラを予定通りの位置まで飛ばしながら、たった今まで死角にいた他のプレイヤー……イシュカさんとユナと、十数名の妖精たちを呼び寄せる。そして全員が手筈通りの位置に。
……一番近い北の広場へ向けて《精霊眼》スキルを起動。担当している火刈さん(空間術に付随した技術で、北のインスタンス全てで同じ火刈さんが見られるそうだ。一方的に話すことでなんとかなるらしい)がこちらへ新規プレイヤーたちの視線を誘導したのが見えた。
「始めます!」
号令とともに、一人ずつ行動開始。空中を飛びながら文字を描いていく。
『Welcome to Geminia』
歓声がほんの少しだけ届いた。上からも驚いている様子が見えるし、いいサプライズになったようだ。
配信カメラを遠くへ送ったのは、これをしっかり見せるためだ。近くからだと何が書いてあるのかわからないから。
…………カメラが戻ってくる。
〈ほえー…………〉
〈こんなことできるのか……〉
〈先輩たちすげーなやっぱ〉
〈現地だけど年甲斐もなく感動した〉
「では種明かしですね」
まず、これが何だったのかだけど、まあ見ての通りだ。第三陣への歓迎である。
発案はなんと綾鳴さん。第二陣を迎える時になんとなく寂しかったから、何かできないかと考えたらしい。
当たり前のように私に相談が飛んできて、少しだけ会って相談したのが昨日の午前中のこと。私は午後に仕事があったから、真っ先に巻き込んだイシュカさんとユナに引き継いで詳細を詰めてもらっておいた。
私が帰ってきて再び顔を出した頃にはだいたいの計画がまとまっていたから、妖精の掲示板に顔を出して協力者を募集。文字数に合わせて16人のボランティア(精霊含む)を集めて、今日の正午からリハーサルをしていた。
「で、いざ本番だったってわけ」
「やー、楽しいですねこういうの」
「……あ、もうスクショ上がってるよ。ものすごい勢いで拡散されてる」
〈綾鳴さん発案かよ〉
〈こういうのをNPCが持ちかけてくるの凄いな〉
〈しかも初登場のアイテム持ち込んできやがった〉
ドローンなんかを上手く使えば現実でも再現はできるけど、観客には響いてくれたようだ。なかなか話題になっていた。広場にいる人の配信クリップには、現場の盛り上がりも収められていたし。
ちなみに後で聞いた話だけど、解放前に購入していてこれを見る権利があった約15万人を第三陣、それ以降を第四陣に分けようという案すら出てきたらしい。別にその辺りの区分は、私はどちらでもいいけど。
「というわけで、協力者の皆さん、ありがとうございました!」
「こちらこそなのです!」
「楽しかったー」
「仲間に自慢しよ」
オープニングイベントはここまで。本題に入ろう。
さて、私たちは王都南の広場近くに降りる。
……あの。
「なんで一人残らずついてくるんでしょうか」
「そりゃもう、面白そうだから」
「暇だったので」
「何かありそうだったから暇を作ってきた」
「来れなかったアズキにマウント取りたい」
〈こいつら……〉
〈よくわかってやがる〉
〈お嬢の行くところ面白現象ありだぞ〉
〈なんか性格悪いの混ざってるけど〉
まあ、私とて馬鹿ではない。空中での解散直後に精霊三人プラス本日の主役の四名で連れ立ちはじめたのだから、何かの気配を感じ取ってついてくるひともいるだろうとは思っていた。
だけど、今日は《バージョン1.2》初日だ。アップデート要素のお試しなんかもあるわけで、さすがに全員が固まったままになるとは思っていなかった。
「でも、好都合かもしれませんね」
ほら、本日の主役も無言で頷いている。
一方でユナとイシュカさんは微妙に首を傾げたけど、これは無視しておこう。
で。今日は都合三度目の新規プレイヤー参入日だけど、今回は誰かと合流するということはない。
「実は今日、ざっと20ほどのコラボ申請が来ていました」
「20!?」
「さすがに多いね……」
「申し訳ないのですが、さすがに無理がありますからね。全てお断りさせていただいて、またの機会ということになっています」
〈なるほど〉
〈ハヤテちゃんやゴトーみたいなのはないと〉
〈20は多すぎんか〉
抽選なしでの発売だから、流行に敏感なゲーム実況者や配信者はかなりの数が今日から参入している。そのほとんどが私に声をかけてくれたんだけど……公式配信者の私は一人しかいない。誰かを選ぶというのもどこかで顰蹙を買いそうだったから、私は一律お断りということにしたのだ。
ただ、それによって全員が一人スタートとなったわけではない。機敏な人は明星チャンネルやイルマチャンネルにいち早く突撃してコラボを取り付けていたし、ハヤテちゃんや巴ちゃんも事務所の後輩を連れて先輩風を吹かせている。まだプレイ歴半月のゴトーさんも、以前から付き合いのある実況者を迎えたりしていた。
それ以外でも、誰かしらの配信ゲストを経験しているプレイヤーは何人かお呼ばれしていたり。さっき見覚えのある顔が配信者らしき第三陣のプレイヤーに捕まっているのを見かけた。
「それでルヴィア、今からどこに行くのよ?」
「呼ばれたから来てるけど……待ってもしかして」
「はろぅ。イシュカ姉、ユナ姉」
〈あっ逃げた〉
〈ユナがお嬢から逃げられるわけないだろ〉
〈イシュカの首根っこ押さえてたメイGJ〉
未だかつて、こんなに禍々しいニムの笑顔を見たことがあっただろうか。
私に誘われたというだけで緩みきってついてきていた二匹の子兎は、あっさり捕まって精霊界へ放り込まれることとなった。
そして。
「メイさん……ううん。ちょっと早いけど、メイ姉。精霊界へようこそ!」
「はい。どうぞよろしくお願いしますね!」
〈お〉
〈ついにか〉
〈4人目だ〉
〈いよいよ増えてきたなあ〉
今回の主役、メイさん。彼女は今日、進化を名目に精霊界へお呼ばれしていた。
「ところで、そちらは」
「さっきちょっとした手伝いをしてもらった妖精の皆さん、しめて十二名です」
「……うち二人ほど見覚えあるけど、了解。有望な妖精がいっぱい集まってきたってことね」
「うん。なんかついてきたから、せっかくだしまとめてマナ様に引き合わせようと思うんだけど」
「ん、おっけ」
〈さすがに面食らってる〉
〈そらそうよ〉
〈4人迎えるつもりで出てきたら12人余計についてきたのを見たニムの気持ちも考えろ〉
ごめんね、ニム。私も困惑してるから、ちょっと分け合ってくれないかな。
ちなみに、ニムが見覚えがあると言った二人は、既に精霊予定として話が進んでいるヤナガワさんとソフィーヤさんのことだ。いよいよ精霊見習いも増えてきているのである。
「妖精で集まってたみたいだから、タラムさんとツバメさんがいないのはわかるけど……」
「アズキさんは……あ、来た」
もちろん精霊見習いは二人だけではない。
《茅塚》の時にご一緒したタラムさんと、以前から掲示板で話していたツバメさんという女性プレイヤーも精霊に大きく近づいている。この二人はエルフだから、飛行必須だった今回は不参加だけど。
そしてもう一人、明確に精霊進化を近い未来として確定させている妖精がいるんだけど……噂をすれば影。
「追いついた……あ、ニムちゃん、こんにちは」
「こんにちは、アズキさん。例の件、ちょうどできてるよ」
「うん、そうかなと思って。…………ねえカレン。なんで呼んでくれなかったの?」
「ごめんごめん。募集の時にオフラインだったから」
「フレンドコールとメッセージはオフでも送れるよね……?」
〈アズキちゃんまで来た〉
〈いよいよ上位妖精勢揃いじゃん〉
〈*ナオエ:いよいよ面白いな〉
〈*クロワッサン:きのう精霊板を見てた人ニヤニヤ止まらないでしょ〉
〈精霊板? 見てくるか〉
〈うわそんな面白いことになってたのか……〉
滑り込みで飛び込んできて、歓迎飛行に参加していたフレンドとじゃれている桃色の妖精。アズキさんという彼女もトップ妖精の一人で、有力な精霊候補だ。そういえばいないな、とさっき私も思っていた。
アズキさんはちょうどマナ様に唯装を探してもらっているところだったそうで、どうやらそれがちょうど見つかったようだ。歓迎飛行に参加できなかったことには不満げなものの、進化への道が開けたおかげかどこか嬉しそうだ。
とまあ、このように精霊補完計画は順調なのである。
……たぶん今頃、どこかの天狗さんは歯ぎしりをしているんだろうなあ。
「とりあえず、精霊界に入ろっか。初めてのひとはぜひ楽しんでってね」
イシュカとユナは にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!▽
というわけで新章ですが、ここからはちょっと攻略と精霊関連の比率が上がってきます。やりたいことが多すぎる!




