156.ここでOPテーマのラスサビが流れる
引き続き《アーツボール》の試合。
「参ります……はっ!」
「《トリプル・ネプチューンガード》! ……ダメかー」
「巴さんの火力おかしくない?」
試合も後半に入って、現在のスコアは4対3。巴ちゃんのシュートで勝ち越したところだ。
巴ちゃんはハヤテちゃんと真逆で、一撃の威力がかなり高いタイプだった。シュートを撃つことさえできれば、相手の守りが吹き飛ぶ。なんとこれで2得点目だ。
ただ、この競技ではボールさえ持っていればあらゆる攻撃を受けうる。巴ちゃんが最大威力で撃つには溜めが必要だから、それを周りがサポートする必要があった。
「……ルプストをかなり上げてきましたね。速攻警戒で」
「おっけ、堅めで行こっか」
その直後。残り時間が減ってきたところで失点した相手チームは、これまで守備寄りに動いていたルプストを前線に出してきた。どうやら攻め陣形に切り替えるようだ。
こちらは中盤にいたミカンを後方へ。追加点は狙いつつ、簡単には取られないよう固める狙いだ。
「……さすがに、もう通してくれないかー」
「お互いに残りの手札は少ないでしょう?」
「ま、見ての通りだよ!」
《魔力飛行》の機動力を活かすため、私は中盤から攻守両方に参加している。同じく行動範囲が広いハヤテちゃんとは、お互いとうに慣れている。
だからハヤテちゃんは即座にバックパスを選択した。私がメイさんを警戒していて、あちらにだけはパスを通させる気がないことはよくわかっているのだろう。
「だけど、ハヤテちゃんだけじゃないんだよね!」
「行かせないよ、アルフレッドさん」
「引っかかったね」
「ディフェンス、あっち!」
「こっちよお?」
〈囮二枚体制かよ〉
〈やられると地味にきついやつ〉
〈アルの囮役やたら板についてんな〉
〈あいついつも陽動だもんな……〉
飛び出してきたアルさんにミカンがついたけど、囮だ。逆サイドにルプストが走り込んでいる。
ただ、これはミカンにとっては想定内だった。アルさんの放置はできなかったから、自身の身体能力が高くないミカンが止めるのが最善だったのだ。
私はハヤテちゃんから離れられないし、メイさんの警戒も必要だ。ルプストにパスが通って、守りに入れたのは二人だけだった。
それでもなんとかましな形を作れたけど、相手はルプスト。これはまずいかもしれない。
「《プロテクトブースト》!」
「《トリプル・ブラックエッジ》」
「ぐあっ!?」
「マジかよっ」
実はミカン、もうMPが尽きてきている。序盤から攻守にバフを使っていたから、彼女の消費が一番大きいのだ。
これがあるから魔術師はミッドフィルダーに向かないんだけど、ミカンのバフは本当に八面六臂だった。だからこれは仕方ない。
というか、ルプストの本気が強すぎる。《エッジ》が届くところまで距離を詰められた時点でノーチャンスだった。
これで4対4の同点。残り時間わずかのところで、お互いに決勝点を取りにいかなければならなくなった。
そして、最後の切り札を切る時が来た。
「スズランさん、最前線に」
「わかりました!」
〈お〉
〈ついに来たか〉
〈ハーフタイムから待ってたぞ〉
〈何するんだろ〉
〈スズランの、ちょっといいとこ見てみたーい!〉
スズランさんとは今日が初対面だけど、向こうも配信の準レギュラー。彼女のプレイスタイルは私もある程度は把握している。
そして、ハーフタイムのうちに相談しておいた。彼女の個性を悪用……もとい有効活用して、予測不能のリーサルウェポンを生み出せないかと。
正直なところ、必ずしもできるとは限らない。それでもこの膠着した最終局面、やってみる価値はあるだろう。
まずは普通に攻める。ミカンは後方に置いたまま、二人抜けた中盤は体力が残っているプレイヤーを配置してごり押す。彼らも一流プレイヤー、何やら自分たちから遠慮して端の方にいたが実力は確かだ。
攻守双方に参加する中盤が疲れやすいのは仕方ないことだ。MP枯渇の問題で、私も切り札は切れる状態にない。特にミカンはかなり疲れ気味だから、あとは守りに専念させたほうがいい。
そして、それは相手も同じだった。向こうも位置の入れ替えはしてきていたけど、こちらの仕掛けを前に守りを意識せざるを得なくなっている。その分入れ替えたミッドフィルダーの体力で押せているから、狙いは今しかない。
これは諸刃の剣だ。こちらは後方に疲れたプレイヤーを置いて守備を緩めているから、ボールを奪われてカウンターされれば一気に苦しくなる。
「ここで盗りましょう!」
「悪いな、俺らもハイになってんだ!」
「お嬢にこんな大役を任せられて、燃えねえわけがねえんだよなあ!!」
〈頑張れ男共〉
〈気持ちわかるぞ〉
〈お嬢の笑顔が待ってる〉
〈行けー、トッププレイヤーどもー!!〉
ボールを持った彼はその場にバウンドさせ、両手斧を装備してサッカーのドリブルを始めた。これが彼らがさっきまで守備にいた理由であり、同時に今縋るしかない力だ。
このスポーツはボールの扱いがかなり自由だ。ある程度なら持ったまま走ることもできるし、飛ぶことすらできる。もちろん、蹴ることもできる。
普通に考えればサッカーのドリブルはボールを奪われやすく速度も出ない悪手なのだけど、ひとつだけ利点があるのだ。両手にアイテムを装備できる、という。
そして、ここでルールを思い出してみてほしい。
──ボールを持っているか、自分と戦闘しているプレイヤー以外に攻撃を行うと反則。
つまり、自分に武器を向けているプレイヤーのことは、攻撃していい。
「そこを、どけぇぇっ!!」
「きゃああっ!?」
短剣を構えていたハヤテちゃんが力押しで吹き飛ばされた。あの子は速度極振りで重さも防御も紙同然だから、あれはひとたまりもないだろう。
そのまま二人がかりでゴール前へ。……キーパーエリアに入っているのは、タンク。魔術師ではない。
「そのまま撃って!」
「おう! せぇ、やぁっ!!」
「通さないよ、っ!」
〈普通に弾かれた〉
〈そのまま決まりそうだったのに〉
〈お嬢完璧な先読み!!〉
〈ついに来る!?〉
この競技のセービングにはちょっとした仕様がある。《ガード》系魔術で受け止めた場合、衝撃を吸収してその場に落ちるのだ。
だが、それ以外の防御では基本的にボールが弾かれる。盾タンクの彼には、この威力のキックシュートを弾かずに止める手段がない。
だから、私は弾かれたこぼれ球の行先を予測した。なにしろ《魔力飛行》、どこに来るかわかっているボールを拾うのは簡単だ。
そして、私の位置を見てスズランさんも最後の準備を終えた。相手も守り手を増やしているが、これならいけるはずだ。
「《トリプル・シードプロード》!」
「え!?」
「プロードだって?」
「しかも投げって」
〈えっ〉
〈何してんのお嬢〉
〈コースもずれてる〉
驚くのも無理はない。この競技において、一見強そうな《プロード》は地雷だ。というのもこれ、どうやら撃った後に二回衝撃が加わらないと爆発しないのだ。
魔術としての威力は高いはずなのに、なぜかゴール後にしか起爆しないから使わないべき。……そう言われているものをわざわざ使ったのは、もちろん理由があってのことだった。
「今です、スズランさん!」
「はい!」
〈は!?〉
〈蹴ったァ!?〉
〈かっけえ!!!!〉
〈嘘だろこいつら〉
〈そんな漫画みたいなことできる???〉
〈イナ○レじゃねーか!!〉
スズランさんが、私が撃ったシュートの軌道の先で迎え込んで蹴りの姿勢に入ったのだ。
スズランさんの個性、彼女が得意とするものは、他プレイヤーとの連撃コンボだった。周りと息を合わせて波状攻撃を仕掛けるのがとにかく得意なのだ。
だから、向こうで見届けている二人の軌跡も、私の動作も、シュートの軌道と速度も、スズランさんには全て頭に入っている。
だから、一度撃たせたことも、私が《プロード》を選んだことも、コントロールの利く投げシュートにしたのも、全て予定通り。成功率が上がるように、得点が決まるように、手は打った。
ハーフタイムに私が思いつきでこぼして、スズランさんもできるという確信こそなかったもののチャレンジしたいと返してくれた、その大技とは、すなわち。
「てぇ、りゃぁッ!!」
「チェインシュートだとぉ!?!?」
「これが、私たちの全力だぁぁぁっ!!!」
果たして。
スズランさんの足は完璧にボールを捉えて加速させ、ガードにぶつかったことで《プロード》が起爆して。
類を見ない特大エフェクトを発生させたシュートはガードと盾を軽々と吹き飛ばし、不壊属性のゴールネットを揺らしてみせた。
そしてこの瞬間、試合終了のホイッスル。スコア5対4、私たちはかくしてシーソーゲームを制したのだった。
◆◇◆◇◆
『さて、これにて全日程終了となった。まずはお疲れ様と、そう言わせてもらおう』
その後も何試合か続いた《アーツボール》を最後に全ての競技が終わって、再び龍ヶ崎の小父様が現れた。さすがにテンションはやや落ち着いているけど、作ったような口調は相変わらずだ。
というわけで、結果発表の時間である。
『まずは種目ごとの勝敗からだな。一つずつ発表していこう!』
第一種目 《魔女の籠》、赤組の勝ち。
第二種目 《ブレイブリーロード》、白組の勝ち。
第三種目 《与一見本市》、赤組の勝ち。
第四種目 《ライドレイド》、白組の勝ち。
第五種目 《情けは人の為ならず》、白組の勝ち。
第六種目 《ザ・ダイス・イズ・ロールド》、赤組の勝ち。
第七種目 《大岡綱裁き》、白組の勝ち。
第八種目 《アーツボール》、赤組の勝ち。
……改めて振り返ると、かなり尖ったネーミングの連打だったね。これ何のゲーム?
勝敗は四対四で互角。点数差を合算すると……私たち赤組の方がほんの少しだけ上、かな。
『そして次に、露店売上競争の結果だ』
私はほとんど触れる機会がなくて申し訳なかったけど、今回のイベントではクラフターによる売上競争もあった。その影響もあって同じ組の店を相手に浪費する人は多くて、それもお祭り気分を盛り上げていた。……ここだけ運動会というより文化祭のノリだったけど。
中には途中で主武装が変わるプレイヤーさえいたし、だんだん全身のプレイヤーメイド率が下がってきた私も多少の買い食いやアクセ更新はした。コシネさんが向こうにいるのはズルいと思う。
こちらの結果はというと、ごく僅差で白組の勝ちだった。
『そして、ここでボーナスの発表だ!!』
あ、小父様だんだんテンション上がってきたね。
伏せられていた特定の条件が達成されたことで、個人またはチームにボーナスポイントの加算があるらしい。まあこれはみんな予想していた。いかにもなやつだ。
《魔女の籠》得点王、白組のジルさん。
《ブレイブリーロード》最速記録、赤組のチカさん。
《与一見本市》最高命中率、赤組のデンガクさん。
《ライドレイド》最多キル、白組の黒王さん。
《情けは人の為ならず》最多達成、白組のクレハ。
《ザ・ダイス・イズ・ロールド》貢献度トップ、赤組のガイアさん。
《大岡綱裁き》最大総パワー、白組のりょーまさん。
《アーツボール》最多セーブ、赤組のセージさん。
これはあくまで一部だけど、おおよそこんな感じで何らかの形で凄かったプレイヤーの表彰が多かった。競技ごとの賞は特に一芸重視だったから、これまで無名だったプレイヤーが何人も喝采を浴びている。
一方で珍記録が出てくることも何度かあったけど、そこは治安のいいDCO。笑いに包まれつつも暖かい拍手が多かった。
……あの、騎馬戦で私たちが一歩たりとも動かなかったのは珍記録表彰目当てじゃないからね?
総合記録の領域になってくると、さすがに誰もが知る有名プレイヤーの名前が多く連なってくる。
私は今や大半の有名プレイヤーと知り合っているから、このあたりは知っている名前ばかりだ。
与ダメージ総量、白組のブランさん。
MP使用総量、赤組のイシュカさん。
総走行距離、白組のハヤテちゃん。
総持ち上げ重量、白組のリョウガさん。
総魔術発動回数、白組のソフィーヤさん。
総被攻撃回数、赤組のラインハルトさん。
総回復量、赤組のミカン。
総強化回数、白組のシークさん。
総売上数、白組のコシネさん。
総売上高、赤組のエルジュちゃん。
『次に《最高最低得点》! 何言ってるのかわからんとは思うが、これは各プレイヤーの各種目ごとの得点を並べて、最も低かったものの高さを比べたものだ。つまり全ての種目を満遍なくこなせたかどうかだな!』
「あまりにもルヴィア向けじゃない?」
「第二と第三両方に参加できたプレイヤーがどれだけいたかって話よ」
『これの獲得者は……赤組、ルヴィア!』
「でしょうね」
まあ、これはわかる。本来なら「頑張って第二種目に参加した後衛」とか「サブで取った《投擲》で第三種目を乗り切った前衛」に贈られる賞のところを、どっちもメインの特殊ジョブがいただけだ。
もっとも、最近は変則的なマルチプレイヤーは増えてきている。まだ魔術型魔法剣士こそいないとはいえ、この方面でもあまりうかうかしていられなかったり。
『参加試合勝率! その名の通りで、要は勝利の女神だな! これの獲得者も、赤組ルヴィア!』
……うん。確かに、かなり勝っていた気がする。もちろん無敗ではなかったけど。
ただ、これを獲れたということは……。
『そして最後に、個人総得点! 要はMVPだ! どうせみんなわかっているだろう、ルヴィアだ!』
やっぱり?
これは予想がついた。元々第二と第三の影響で若干得点しやすかったし、参加試合勝率が高ければ当然ながら勝利による得点加算も多い。こうもなろうというものである。
それにしても、ボーナス表彰4つは多い。3つなら他にも数人いたけど、一人だけ4つはさすがに目立つ。
ただまあ、素直に喜んでおこう。うち3つは名誉な記録だし。
『これが最後、総合成績の発表だ! 勝者は……』
ドラムロール。大写しのディスプレイに縦グラフ。これまでに判明した点数がひとつずつ加算されていき、次に各プレイヤーの獲得ポイントが一気に流し込まれて跳ね上がる。
なおも横一線のところに、ボーナスポイントがひとつずつ積み上げられて……。
「…………あ」
「これって」
「ってことは!」
私の名前が二度続けて出たところで、多くのプレイヤーがざわめいた。
この時点で各チームの総得点は8桁になっているというのに、点差はわずかに4桁。ほんの8000点だけ、白組が上回っている状態だ。
つまり。
ここに。
《個人総得点》のポイントを入れると。
赤組、プラス10000ポイント。
───逆転。2000点だけ、上回った。
『優勝、赤組!!!』
というわけで運動会編でした。ルヴィアはしっかり楽しめたようです。
あと2話だけ挟んで、掲示板回の後に新章となります。今後ともぜひぜひよろしくお願いいたします。




