149.なお住民たちも真実を知っている模様
9月13日金曜日、幻夜界某所にて。
「ルヴィア、私はこれまでより一回り強くなったよ! もっと守るからもっと頼って!!」
「……フリュー、ステイ。わかったから落ち着いて」
〈懐かしの絵面だ〉
〈フリュー最近大人しかったしな〉
〈久しぶりに荒ぶっておられる〉
〈そうだよこれが俺らの知ってる暴走天使だよ〉
今日は久々の暴走天使とお送りします。
制止する必要こそあるけど、こういうテンションのフリューも可愛いよね。……と言ったことがあるんだけど、ルプストにしか同意してもらえなかった。私がまだ入院していた頃の話だ。
「完全に飼い主に懐く子犬なのよねえ?」
「同意だけど、双子とはいえ自分の姉に面と向かって言うことではないよね」
「私はルヴィアのなら犬でも……むぐ」
「それ以上は言わせないからね」
さすがに幼馴染をペットにする趣味はないし、発言が微妙に危ない。私とフリューはあくまで親友だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「それで、進化はどうだった?」
「うーん……思ってたよりはあっさりだった。簡易的な儀式みたいな感じで、すぐ終わったの」
「実際、天使の進化は昇進みたいなもの? なんじゃない?」
〈なるほど〉
〈位階が上がっただけっぽいしな〉
〈そこは種族差あるっぽい?〉
では今回は何があったのかというと、フリューが進化したのだ。元々システム的には開放されていた《種族進化》が、ようやく本格的に始まったらしい。
というのも、DCOでは種族進化でもレベル以外に条件がある。進化のというか、進化イベント発生の条件が用意されていて、それを満たしてイベントを経ないと進化できない。このイベント発生がここのところ難しかったから、全体的にやや遅れ気味だ。
実装済の種族進化は《天使》と《狼獣人》なんだけど、このうち天使の進化イベントは『レベル40以上かつ一度も犯罪者にならずに《能天使》以上の天使から儀式を受ける』というものだ。レッドにならずというのは、その能天使が「追放に価する行為を~」と言っていたことからの推測である。
このことから、天使の通常進化にはいわゆる“カルマ値”が大きく影響すると思われる。もっとも、当初から「悪いことは悪い」というまっとうなスタンスが随所に見られるDCOだ。ましてや天使となれば、このあたりには違和感はない。
「しかし、そうとなると気になるのは……」
「堕天使ねえ?」
「あ、それ聞いてきたよ。でも、私たちの想像する堕天使とはちょっと違うみたい」
「違う?」
「うん。この世界の《堕天使》は決して邪悪な存在じゃなくて、バランスを取るためにあえて天から離れた一部の天使たちのことなんだって」
「……なるほど。そういえば、この世界の悪魔は神や天使の敵じゃないものね」
〈確かに〉
〈悪魔ってただの種族だもんな。悪ってつくけど〉
〈アメリア姫どう見てもいい子だったし〉
少し難しい話だから要点だけをまとめると、この世界の天使と悪魔は私たちの世界とは少し違う性質を持っている。
まず悪魔だけど、彼らはそもそも悪を司る存在ではない。神や天使の持つ力と真逆の性質の力を持つから「悪」とつくけど、強い力を持つだけで人類に変わりはない。
一方の天使も神に仕えるというだけで、悪魔と相対するような構図は存在しない。……ただ一方で、「人の子を導くには善悪両面の勢力が必要」であるそうだ。だから天使は一部が堕天使となり、反面教師として悪の側に回っている。
だから堕天使は悪を司ってこそいるものの、一方で真に邪悪な存在ではない。世界に害をなす本質的な悪は、また別で存在しているそうだ。
「……つまり、その『本質的な悪』というのは」
「今この世界を脅かしている汚染や、レッドプレイヤーのような存在……ってことになるんだと思うよ」
「うん、よくわかった。ありがと、フリュー」
「リビングでくつろぐみたいにベタベタしながらでさえなければ100点だったわねえ」
〈それ〉
〈なにひっついてんだ暴走天使〉
〈いいぞもっとやれ〉
〈なるほどなあ〉
〈堕天使の悪は演技ってこと?〉
〈つまりどういうことだってばよ〉
〈*九鬼シオン:必要悪と絶対悪みたいな感じなのかな〉
そんなところかな。あくまで推測だけど、堕天使は世界に害のない範囲のところで「悪」を定義してそれを演じることで、世界を危機に陥れるような巨悪を防ぐ役割を担っているのだろう。
……もっとも、現在はその『本質的な悪』がまさしく世界を脅かしているところだ。さながら劇場版の〇ケット団やジャ〇アンのごとく、堕天使も世界のために動いているところだろうか。
フレーバーや世界観の考察を堪能したところで、ゲームシステム的な話に移ろう。
天使からの通常進化一回目、正式な種族名は変わらず《天使》のままだけど、《大天使》の位階を与えられたことで俗にそう呼ばれる。一見安直にも見えるけど、これはれっきとした元の要素があるものだ。
さっき一度流したんだけど、進化条件に「《能天使》以上から儀式を受ける」とあった。つまり、能天使という位階や、それより上の位も存在するということになる。
天使、大天使、能天使となると、元ネタはおそらく『天使の九階級』だろう。とある神学者が天使の階級を3階層9階級に配したものだ。
大天使の次は《権天使》、その次に能天使と上がっていき、最上位には《熾天使》が座する。つまり、
「もしかして天使プレイヤー、八回の種族進化が確定した?」
「難易度はともかく、順当にいけばそうなるのかな」
「変形とか追加はあるかもだけど、最低でも八回はありそう? あるかも?」
〈マジか……〉
〈八回って相当だぞ〉
〈さすがに天使が多い方なだけでは〉
まあ、おそらく天使の進化回数はかなり多い方になるだろう。他の種族は八回もの進化が確約されたわけではない。……ただ、少なくとも八回の進化がある天使と同等の強化幅は全種族にあるということになる。
まだ始まって一ヶ月半だから、先のことなんて見通せないけど……けっこう途方もないね。MMOなのだから、それでこそだけど。
「性能面は?」
「さすがにエクストラほどじゃないけど、ちゃんと強化されてるよ。たとえば……やっとまともに飛べるようになったりとか」
「……ほんと?」
「戦闘以外のときなら……」
〈だめじゃん〉
〈天使の羽は飾り〉
〈歩くより遅いからな〉
〈元々あるから翼人より慣れてるのは救いか……?〉
天使の飛行能力がここまで低いの、なんでなんだろうね。ゲームバランス的にはわかるんだけど、今のところ具体的な原因が明かされていない。さすがに遅すぎるから、何かしらあるとは思うんだ。
試してもらってみたところ、確かに速くはなっていた。……アンダンテから、モデラートくらいかな。
「……まだフレーバー、よく言っても日常用ですね」
「そうねえ?」
「まあね」
それ以外だと、単純にステータスが伸びたり、新しい種族スキルがあったり。まだ初めての進化ということもあってか、順当な強化がほとんどらしい。
ただ、ひとつ大きな追加要素はあった。
「本命は、たぶんこれだと思う。《御使いの印》」
「印……あ、これ?」
「これを見せれば、住民には天に認められた使いだって伝わるみたい」
フリューが左手の甲を見せると、そこに紋章が浮かび上がる。……見覚えがあると思ったら、この世界で神聖なものを示すときに共通して使われるパターンだった。
曰く、住民にこれを見せればそれだけでもある程度の信用はしてもらえるとのことだった。神の意向通りこの世界のために動いているという証になるらしい。
要するに、限定的な住民好感度の上昇というわけだ。確かに便利だけど……。
「使ってから下手なことして取り上げられた時、反動凄そう」
「わかる」
もちろん大前提として、天使以外も悪いことはするものじゃないんだけどね。
ただこれ、なんとなく堕天使への分岐進化に絡んで来そうな気はする。天使プレイヤーはそのあたりも気にかけておいたほうがよさそうだ。
「さて、そんな感じで進化についてお喋りしてきましたが……」
ずっと広場で話していたからか、知っている魔力が向こうにあるんだよね。
「最初に『進化が解禁されているのは天使と狼獣人』と言いましたね」
「言ってたわねえ」
「ちょうど狼獣人も来てくれたみたいなので話を聞いてみましょう。ロウちゃん」
〈!?〉
〈おったんか〉
〈あっ出てきた〉
〈あそこに隠れてて分かるのかよ〉
〈魔力覚こわ〉
〈あのイシュカですら習得に苦戦してる技能だぞ〉
たぶん、近くで狩りをしていたところで配信を見て来てくれたのかな。SPの減り方が中途半端なあたりそんな感じだ。
天使と狼獣人の進化レベルは40。V1第一陣だったロウちゃんでも、40にはとっくに到達している。もう進化を済ませてあることは本人から聞いていた。
〈*リュカ:出番なくなったァ!?〉
〈さっさと来ないからだぞ〉
〈ロウちゃんも進化してるし〉
〈広場にいない時点で登場資格ないだろ〉
「リュカさんもこの場にいたら呼んでいましたけど、ロウちゃんがいるならわざわざ呼び出す理由ないですからね」
「早い者勝ち……です」
「うんうん、最近はロウも行動に自信ついてきてていいよね」
〈どやふんすロウちゃん〉
〈ユナも認める可愛さだぞ〉
〈なんでフィートが喜ぶんだ〉
〈後方腕組みフィート面〉
そういえばユナのロリコン疑惑、まだ触れてなかったね。このままだと定着しちゃうから、そろそろ疑いを晴らしにきてもいいよ?
どうやら種族進化は種族名が変わらないことも多いようで、天使と同じくステータス表示は《狼獣人》のままだ。ただし天使と同様、種族進化をしたことを示すマークが一つステータス表示に追加されている。
天使と違って俗称もないから「一進狼」みたいな区別のされ方になっているものの、こちらも真新しい要素は少ないながらしっかり強化されていた。
「聞いた感じだと、天使より一回の進化での強化幅は大きいみたいだけど……」
「わたしが使えそうなのは……《ビーストハウル》」
〈遠吠え?〉
〈ロウちゃんの遠吠えとか想像つかんな〉
〈なんか強そう〉
〈タンクだっけ〉
説明してくれたところを聞くに、《ビーストハウル》はどうやらヘイト管理系のスキルだ。既存の共通スキルよりも強めにヘイト値を増やしつつ、反応した敵の防御系AIを少し弱体化させる効果があるらしい。
当然アクティブスキルで、発動方法はまさしく遠吠え……うーん、ちょっと気になる。さすがに街中でさせるわけにはいかないから、次に組む時を楽しみにしておこう。
綾鳴「つまり、物心ついた頃から堕天使を見て『ほへー、こういうのが悪いんだー』ってなることで、それ以上の巨悪や極悪を思いつきにくくする、ってことだね」
紫音「ほへー」




