133.一人欠けた最強パーティ+個人最強クラス=?
「さて、CM明けまして真面目な話です」
「一言目で台無しにゃ」
ベルベットさん、適宜ツッコんでくれるからやりやすいね。ブランさんはいい拾いものをしている。
さて、今日のコラボ内容の話だったね。
「さきほど紹介したここ《瓦ヶ原》ですが、実はもう解放寸前です。今日中には済むでしょうね」
「ルヴィアさん、町の解放に立ち会うのってもしかして《万葉》以来?」
〈てことはボス戦見れるのか〉
〈この面子でいろいろ見られそうなのいいな〉
〈お嬢が前線に来てないのバレてる〉
実はその通りで、私が解放戦線の最終盤に立つのは《万葉》のとき以来となる。他のところでは顔見せ程度で他の人たちに任せていたし、《如良》に至ってはそもそも行っていなかった。
だからちょっとだけテンションが上がっていたりもする。普段は他にやることがあって顔を出せていないけど、私とて攻略をする気はあるのだ。
「今日は日中はダンジョン、夜にはボス戦となりそうです」
「そういえば、ギルドとしては大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ギルドとして固まって攻略する気はありませんし、もし集まった場合はイルマさんが預かると聞いています」
それにそもそも、うちのギルドはギルド単位で集まって攻略を行うようなスタンスではないはずだ。私が出しゃばれば別だけど、今回の私はよその助っ人だし。
あくまで情報共有の効率化のための互助組織だから、ほかのギルドのようなまとまりは作る気がない。……ないんだけど、ギルドメンバーたちからは妙な視線を感じるんだよね。嫌な予感がする。
瓦ヶ原のキーとなる《赤粘土の洞穴》は、土属性と火属性の敵が現れる高レベルダンジョンだ。本来はここから採れる良質な粘土を焼き物にしているそうなんだけど、そんな洞穴がダンジョン化してしまったらしい。
ここから溢れる魔物を断って連絡を回復するためには、最奥にいるボスを倒すしかないらしい。今回の目標はそれの討伐となる。
「《ソルブレス》」
「よし、OK。戦闘終了」
「……改めて、とんでもない総火力ですね」
「それがウリだからね」
メイさんの《火魔術》を受けて落ちた土偶のような敵を見ながら、私は苦笑気味に呟いた。一方の五人は平然としていて、これが日常だからと得意げな様子すらない。確固たる自信があるからこその態度だ。
多人数指揮をする時は慎重派の判断をするブランさんだけど、パーティ単位の時は打って変わって超攻撃型となる。
大きな両手剣 《聖剣フレイソル》で王道な火力を突き詰めたブランさん。《双剣》……というよりは二刀流を操るカナタさん。純魔でありながら至近距離まで接近しながら魔術を放つメイさん。今日は不在のバスターさんというパワーファイターを含めて、この四枚看板はパーティ単位で驚異的な火力を叩き出す。
それに加えてタンクとして位置関係の調整に秀でたテンドーさん、《陽術》においては有数のエキスパートであるベルベットさんのサポートがある。六人全員が「ガンガンいこうぜ」を体現しているのだ。
「それに、ルヴィアさんも相当だよ。連携に慣れてないはずなのに、普通についてきてるし」
「オールラウンダーの印象があったんだが、ここまで攻め一辺倒の立ち回りもできるとはな」
「こう見えて魔術師ですからね。魔術が当たりさえすれば、物理職より安定はしますよ」
〈*デンガク:逆にどう見えてると思ってるんだろう〉
〈剣持ってる以外普通に純魔に見えるぞ〉
〈あの剣はほぼ盾という事実〉
このパーティは「アタッカーはとにかく攻める、サポーターはそれを助ける」という単純な図式だから、私も合わせやすい。ベルベットさんからバフが来るタイミングを把握して、全体を俯瞰しながらテンドーさんがどう動くか予測するだけだ。
〈だけの要求値が高すぎる〉
〈そこが難しいってそれ一番〉
〈お嬢の頭スパコンだからなぁ〉
〈詠唱しながら近接の立ち回りもやってるのおかしいって〉
〈お嬢の脳はたぶん二つある〉
「おお、散々な言われようですね」
「メイさんも詠唱しながら飛んでるのに……」
「私はほら、避ける時は上に逃げるだけですから。他の近接と行動範囲が被らなくて楽ですよ」
私にとっては、物心ついた頃からそういう感覚だったのだ。ふたつみっつのことを同時に考えたり認識するのは当たり前で、それが普遍的な力ではないと知ったのは最近のことだった。
ただ、その分私はひとつのことへ集中し尽くすのが比較的苦手でもある。例えば敵の攻撃をいなすところから仲間の攻撃への繋ぎに徹し続ける、テンドーさんのようなプレイスタイルは私にはできない。
「ベルベットさんのように瞬時に意識を切り替えるのも難しいですし」
「それはまあ、この二人もなかなかおかしいですからね」
「サブマスサブマス、ルヴィアさんを除いたらこの場で一番ヤバイことしてるの自分だって自覚あります?」
うん。カナタさんもおかしい。以前は太刀筋が鋭すぎるくらいだったけど、二刀流を手に入れてから彼女は化けた。剣が増えたのに技量はほとんど落ちていないから、結果的に二倍近くになっているのだ。今では最前線有数の異常者に名を連ねている。
……え、その異常者のリスト? 良い子の皆は見ない方がいいよ。いやほんと。
「何度も言われていることだけど、最前線に普通の人なんていないからね。みんなどこかしら凄い」
「というか、環境的に揉まれているうちに得意が化けるんだよな。人間誰しも何かしらの才能はあるってわけだ」
それは確かにそうだと思う。最前線で出会うプレイヤーたちは、基本的に何かしら凄いところを持っている。ここまでくると偶然で才人が集まるにも無理があるから、たぶん誰にでもそういうのはあるんだと思う。
あるいは、VRダイブ自体がある程度人の個性を引き出すのかも。それに慣れて適応したフロントランナーたちは、どうしてもその恩恵をよく受けるのだろう。
「ねえベル、雑談なんですからもっと参加しましょうよ」
「誰のせいだと思ってるの……にゃ」
「……ごめんなさい、そろそろ抱きしめて撫でたくなってきちゃいました」
「でもルヴィアさん、背丈も包容力も痛い痛い痛い!」
「必殺にぎりつぶすだ」
「レジ○ガスかな?」
「そういうとこにゃよ、メイ」
さて。ダンジョン内の敵だけど、主に四種類が出現する。
そのうち二種は、《こそこそ岩》と《ケイブニュート》。ベータのときに攻略した《聖石の洞窟》にも登場した魔物だ。あの時の《ケイブニュート》は氷属性だったけど、ここでは火属性になっている。……あれ、“ニュート”ってイモリだよね?
ちなみにコウモリは置いてきた。やつはこの戦いについて来られそうにない。
残る二種のうち片方は《クレーゴーレム》。《フィーレン》近郊ダンジョンでも発生していたゴーレムの一種である。私は相性の問題であそこに深入りしなかったけど、五人は慣れている様子だった。……本当は打撃武器が効くんだけど、このパーティの打撃系担当は今日は不在だから正攻法だ。
そして残る一種。これがこのダンジョン固有の敵だ。さっきもメイさんが焼いていたね。
《粘土偶》。焼かれていない土のままの土偶だ。生土のまま動いて、主に念力や魔術で攻撃してくる。
町の人の話によると、「焼成中に割れてしまった焼物の無念が宿っているのでは」とのことだった。ここは付喪神が存在する世界だから、その考え方には一理あるだろう。
そしてこの敵、ひとつ珍しい特徴がある。
「あと土偶だけ! 頼んだ!」
「「《ソルブレス》」」
〈息ぴったりじゃん〉
〈シンクロしてて草〉
私とメイさんの《火魔術》を受けた土偶は、HPバーが減少せずに消失した。後には魔物ではなく、綺麗に焼けた焼物が残る。
どうやらこの土偶、HP満タンのまま火属性で焼いてやると特殊演出が発生するのだ。敵判定が消失して、経験値が入った上で焼物がドロップする。
先の町民の話は、これを見せた上で聞けたものだ。……つまり、土偶の本来の姿はうまく焼けなかった焼物で間違いない。敵ではなく焼物として見てやることで、どういうわけか本来あるべきだった姿に戻った上で今度こそ焼成が成功するのだ。
なお、このときドロップする焼物の種類はランダムだ。実際にアイテムとして使うこともできるし、売ることもできる。実用性や売値の面では、ちょっとしたガチャみたいになっているけど。
焼く前にHPを減らしてしまった場合、もう焼いても変化しなくなってしまう。こうなると厄介な敵として相対するしかない上に、倒してもそのへんの土と同じ粘土しかドロップしない。
というわけで、このダンジョンは《火魔術》か《生活魔術》、または町で売っている火の魔石がほぼ必須になっていたりする。魔術師なら誰でも持っている《生活魔術》の《パイロットライト》でも大丈夫なのは救いだろう。
エルフは……うん。
「……前方に敵。イモリ2、岩2、ゴーレム1ですね」
「了解、ちょっと多いな。戦闘準備」
「改めてヤバいですね精霊って」
「岩がわかるの楽すぎるにゃ……」
〈精霊予備軍筆頭がなんか言ってる〉
〈お前が精霊になるんだよ!!〉
〈実際魔力覚はおかしい〉
このパーティの索敵は普段はテンドーさんがやっているんだけど、今回は私が肩代わりすることになっていた。理由は簡単、私の魔力覚でないとあの《こそこそ岩》が把握できないからだ。
……そう。《索敵》に引っかからなくて厄介だったこそこそ岩、なんと精霊には丸見えだった。気配は消していても、この世界の生物全てが当たり前に持っている魔力の反応を消し切ることはできないということなのだろうか。
龍人や竜人の詳細が判明してからは「もしかして控えめなのか? いや強いけど」とたまに囁かれていた精霊だけど、最近になって「《魔力覚》にリソース持っていかれたのでは?」という評価になってきている。
事実、そう考えるとしっくりくるんだよね。これは《魔力飛行》と同じくスキルですらないから、すべての精霊が使う前提でデザインされている気がする。慣れは必要だから、進化してすぐ一人前とはいかないけど。
「それじゃやるか。《挑発》」
「……ゴー!」
「《トリプル・ブルーエッジ》」
「《トリプル・ソルブレス》!」
このゲームではふつう、固まって出る敵の数は四匹が最大だ。しかしパーティのレベルが高い時は、たまにそれを超えてくることがある。今回もそのパターンだった。
このパーティのアタッカーは四人。格下の雑魚が相手の時はそれぞれが一体ずつ受け持って倒してしまうことも多々ある。しかし今回のように五体出てきた場合は、どうしてもタンクが追いつかない上にアタッカーも足りないなんてことになる。
その場合、このパーティではどうするか。……皆さんおわかりですね。
「このまま一匹貰います。……《アクアペイン》」
「こっちもやりましょう。テンドーくん、あとの3匹はお願い」
〈よくばりモードだ〉
〈こんなことできるのこのパーティだけだよな〉
〈期間限定の利を活かしている〉
〈オールラウンダー二人はズルじゃん〉
私とカナタさんがパーティ単位の戦闘から離れて、比較的楽な相手である《ケイブニュート》を一匹ずつ引き受ける。
純火力であるブランさんとメイさんとは違って、安定してパリィができる私たちはソロ戦闘もできる。ここが負担を受け持つことで残りの戦闘を四対三にして、主にタンクであるテンドーさんの負担を軽減する狙いだ。
「……っ、《ダブル・ミストブレス》!」
私はいつも通り。攻撃を剣と回避で対処して、その隙を咎める形で近接系魔術(近距離でないと扱いづらい《エッジ》、《ペイン》、《ブレス》の三つをまとめた俗称だ)を叩き込む。
最近は魔術ごとの役割分担もはっきりしてきて、使わない魔術はとことん使わなくなっているけど、私にとってはこの三つは頻出だ。……逆に、ほとんどの魔術師にとってはこの三つが絶滅危惧種になっているけど。
「《クロス》っ、《クレセント》ッ!!」
一方のカナタさんは、基本的には二刀による攻撃重視。ただしブランさんのように清々しい防御無視というわけではなく、その二刀をパリィでシームレスに防御にも転用している。
強攻撃を交差させた刀で受け止めると、そのまま踏み込んで《クロスクレセント》。《双剣》スキルの高火力アーツでそのまま切り刻んでみせた。
「うら、ぁッ!」
「次、ゴーレム行くぞ」
「任せてください」
「二、一」
「《ダブル・マジックブースト》にゃ」
「今!」
「《トリプル・ソルブレス》」
残る四人はというと、さすがに安定した戦いをしていた。三体くらいなら簡単に一人で捌ける技量を持つテンドーさんを軸として、彼が一匹ずつ作った大きな隙をピンポイントでブランさんとメイさんが狙う。
ブランさんが放つ《両手剣》の上位アーツ 《ホリゾンタルアーチ》も、メイさんが叩き込む《火魔術》も、最高の隙へのクリティカルとベルベットさんのジャストブーストを得ればこの程度の敵は一撃だ。わずか三サイクル繰り返すだけで、私やカナタさんにほとんど遅れることなく仕留めてみせた。
「……もしかしなくても、敵が撮れ高を作ってくれませんね」
「本来なら索敵に気を遣うダンジョンなのに、《魔力覚》のせいでとにかく楽ですし……」
「……雑談するかぁ」
そういうわけで、いつぞやの幼馴染組の時みたいになった。
…………ボス戦前まで割愛!
バスター(本編未登場)「……もしかして俺、要らない子?」
ルヴィア「今回はなぜかごり押ししているだけで、硬質系の敵への有効打はバスターさんの役割ですから」
《明星》チャンネルレギュラーチームの彼らは常設されているパーティの中では最強格です。これに勝てるのはそれこそオールスターチームか、ルヴィアが準レギュラーを制約抜きで選んだ場合の6人か、幼馴染全員集合くらいですね。




