128.わたし魔女のルヴィア! こっちは駄々っ子の魔剣!
九月一日、日曜日。
「こんにちは、ルヴィアです。《バージョン1.1》もこれまで通り配信していこうと思います」
〈待ってた〉
〈こんルヴィ!〉
〈空?〉
〈なんで空〉
〈てかなんか衣装違うが〉
〈なんだその帽子〉
……うん。突っ込まれるよね。
カメラさん、ズームアウトお願い。
〈箒wwww〉
〈魔女じゃん〉
〈*ゲンゴロウ:三角帽子似合ってるぞ;500〉
〈まーたホネキか〉
「ホーネッツさん、たまに『一発ネタ用』って送ってくるんですよこういうの」
鉄紺色のローブと三角帽子、横にして椅子代わりにした何の変哲もない箒。典型的な魔女装だ。
この前悪ふざけで作られた魔法少女セットを軽い気持ちで使ったら、作者が悪ノリしてシリーズ物になりそうです。
「もちろん箒には飛行能力はありません。クリヌキさんには『それを持って自分で飛んでくれ』と言われました」
〈草〉
〈いやそりゃそうだけど〉
〈セルフサービス〉
〈上手いぞ箒飛行のフリ〉
〈翅だけめっちゃ横向いてるの草〉
〈その箒は飾りか?〉
飾りです。
箒が浮遊しているわけでも、動力になっているわけでもない。自分で飛びながら空気椅子のような姿勢を作って、座るような形にしながらその下に箒を敷いているのだ。
だから当然、両手で持っている箒を片手だけ離すと……。
「こうなります」
〈草〉
〈だらーん〉
〈箒さんやる気ないっすね〉
〈*デンガク:どうした箒、お前は重力なんかに負けるのか?〉
〈ただの空気椅子じゃん〉
一応片手だけで形を維持することはできなくはないけど、長物の端っこを横向きで持つと重いからね。箒くんは真下を向いてしまった。
箒を持ったまま普通に飛ぶというのも味気ないから、両手で箒を持ち直す。魔法少女ほど恥ずかしくもないし、しばらくは魔女コスのままでいいや。
〈魔女の腰に剣があるの誰か突っ込めよ〉
「アイリウスは……駄々をこねたんですよ。私よりその箒がいいのか、って」
〈いいかげん草〉
〈デロデロデロデロ〉
〈お、呪いの装備か?〉
〈王様に追い出されそう〉
さて、茶番はこれくらいでいいか。
「改めて、今日の午前中にメンテナンスとアップデートがありました。今日から《デュアル・クロニクル・オンライン》は《バージョン1.1》となります」
〈初アプデだ〉
〈やっとプレイヤーが増えたのか〉
〈詳しく頼む〉
〈どうせお嬢が話してくれるから調べてない〉
前もそうだったけど、開き直らないでいただきたい。
短時間のメンテナンスはこれまでも何度か行われていたけど、12時間超の大型メンテナンスは今回が初めてだ。私はこのメンテナンス中、つまりさっき運営チームに呼ばれていろいろお話をしてきたけど、それはまたいずれ。まだ配信では話せない内容も含まれていたからね。
それと同時にバージョン更新が行われ、いくつかの新要素や改善点が発生している。今日の主目的はこれ、新要素の確認とそれ関連だ。
「ひとつめ。これは皆さんご存知ですね。プレイヤーが増えました。第二陣、しめて15000人です」
〈おー、いるいる〉
〈また広場が人の海になってら〉
〈人がゴミのようだ〉
〈二陣だけど空にお嬢いたわ〉
一ヶ月間の様子見を経て、運営は予定通りプレイヤーの追加に踏み切った。前もってWebで販売されていた15000本、これで総プレイヤー数は3万人となる。
また、想定よりサーバーに余裕があるとも言っていた。第三陣の追加、つまりサーバーの完全解放は今のところ十月一日の予定だけど、もしかしたらもっと早くなるかもしれない。
「ちなみにベータ組、第一陣、第二陣を見分ける方法は存在しません。追いついてさえしまえばわからないでしょうね」
これは周知の事実だったけど、他にもいくつか更新要素がある。ひとつずつ見ていこう。
「まず、《種族進化》が解放されました……が、これは私には関係ないんですよね。イルマさんかハヤテちゃんあたりが触れてくれると思うので、詳しくはそちらで」
〈せやな〉
〈ブランは?〉
〈人間は種族進化ないぞ〉
ざっくり言うと、人間族以外の基本種族がひとつ上位の種族へ進化して強くなれるシステムのことだ。人間は別の形で強化があるから、種族進化はなし。
ただし一斉実装とはいかず、順次実装となるらしい。今日付で狼獣人と天使に進化先が追加されている。
「私のところでは、実際に進化したプレイヤーが登場した時に改めて触れますね」
次。これはけっこう重要だ。
「いよいよ後方と前線の物理的距離が離れ始めたことで、新たなシステムが追加されました。名を《人類圏システム》といいます」
〈ジンルイケン?〉
〈人面犬?〉
〈人の領域ってことか〉
《人類圏システム》。その名の通り、《人類圏》とそれ以外を区別するシステムだ。さらに噛み砕くと、解放攻略の最前線を特殊区域として扱いを変えるものである。
まだ安全が確保されていない、つまり最前線の街(今ならヴォログが特に該当する)を《人類圏外》として、いくつかの特殊ルールが適用される。
1,人類圏外の街や村では、住民の店に並ぶ商品の質が落ちる
2,人類圏外では、街道付近でもその周辺と比べて敵のレベルが下がらない
3,人類圏外では実入りのいいクエストが発生しやすい
4,人類圏外で活動すればするほど有力双界人と面識を得やすく、住民好感度が上がりやすい
5,人類圏外で犯罪行為を行った場合、即座に最強クラスの双界人(たとえば綾鳴さん)が飛んできて倒される。リスポーンは孤立した牢獄エリアで固定され、犯罪発生地点から一番近い圏外の街が人類圏に入るまで出られない
「ざっくりまとめると、人類圏外は危険だけどリターンも大きいよ、というシステムですね。あとは、攻略解放の邪魔だから場違いなレッドはすっこんでろ、と書いてあります」
〈草〉
〈お嬢の乱暴な口調レアだぞ〉
〈お嬢こう見えて悪いものにはちゃんとドライだからな〉
これは本当にね、困るんだ。もしも攻略の前線でレッドプレイヤーに邪魔をされたら、最悪の場合その場の住民に危害が加わってしまう。まっとうに攻略しているところを邪魔されるだけでも面倒だというのに、その結果住民が亡くなりました、なんてことすら起こりかねない。
DCOはもともと「レベル差がありすぎるとPKができない」や「レベル15未満のプレイヤーはPKされない」といったレッドに厳しいシステムを内包していたけど、そこに「攻略の邪魔は絶対に許さない」と追加された格好だ。
もっとも、先日ついにPKが実際に発生したことを考えれば、これは妥当な措置だろう。DCOにおいて攻略そのものの邪魔とは、ほぼイコールで世界そのものの敵。街ひとつ攻略されただけで放してくれるのだから、むしろ緩いくらいだろう。
閑話休題。
「次にいきましょう」
〈おう〉
〈お嬢が本気で世界を救おうとしてくれてるのが見えたな〉
〈*ゲンゴロウ:お嬢に限らんぞ。攻略組だいたいみんな同じだ〉
次は純粋な改善点だ。ステータス画面のスキル欄をある程度自由に並べ替えられるようになった。
これまでは種族スキルと汎用スキルにだけ分けられて、表示は全て取得順だった。これを種類順、スキルレベル順といったような具合にソートできるように変更されている。
虹剣の精霊・ルヴィア Lv.42
性別:女
種族:精霊
属性:幻
特殊:《魔力生命体》、《本質の精霊・虹魔剣アイリウス》、金属防具・アクセサリー装備不可、《虹の魔術》、《魔力覚》
状態:正常
VIT:42(+0)
STR:116(+0)
AGI:320(+15)
DEX:220(+13)
INT:366(+17)
MND:343(+15)
種族スキル:《エレメンタルステップ》Lv.71 《植物魔術》Lv.78 《薬草看破》Lv.30 《精霊眼》Lv.65 《虹魔術》Lv.77 《魔力察知》Lv.70 《瞑想》Lv.20 《精霊の唄》Lv.22 《浄化》Lv.55
汎用スキル:《片手剣術》Lv.68 《パリィ》Lv.74 《回避》Lv.63 《治癒術》Lv.46 《解体》Lv.57 《直感》Lv.68 《攻撃予測》Lv.71 《鑑定》Lv.42 《採集》Lv.38 《罠探知》Lv.34 《生活魔術》Lv.57 《魔術学》Lv.71 《威嚇》Lv.12
これが従来の表示。種族/汎用→取得順形式だね。
これが、たとえばこう変えることもできるようになる。
戦闘スキル:☆《植物魔術》Lv.78 ☆《虹魔術》Lv.77 《パリィ》Lv.74 《魔術学》Lv.71 《攻撃予測》Lv.71 《片手剣術》Lv.68 《回避》Lv.63 《治癒術》Lv.46 ☆《精霊の唄》Lv.22 《威嚇》Lv.12
探索スキル:☆《エレメンタルステップ》Lv.71 ☆ 《魔力察知》Lv.70 《直感》Lv.68 ☆《精霊眼》Lv.65 《解体》Lv.57 《罠探知》Lv.34
生活スキル:《生活魔術》Lv.57 ☆《浄化》Lv.55 《鑑定》Lv.42 《採集》Lv.38 ☆《薬草看破》Lv.30 《瞑想》Lv.20
これは用途→スキルレベル順の表示だ。☆がついているのは種族スキル。こうすると《攻撃予測》と《直感》の違いがわかりやすいね。
「配信ではステータスは載せられないので、いまいち伝えられないのは心苦しいですが」
〈しゃーない〉
〈雰囲気でわかったから大丈夫〉
〈ステータスはプライバシーだぞ〉
それと、ステータス画面を見ていたら思い出した。これは些細な内容だけど。
「あと、いくつかスキルが追加されていますね。私に関係あるところだと、《鷹目》が《精霊眼》に変化しました」
効果はというと、今のところ純粋な視力の増強だ。《魔力覚》は視覚でもスキルでもないから、これによる影響はないらしい。
DCO、けっこう細かいところまで種族の違いとして見せてくる節がある。このあたりもそのひとつだろう。
「あとは……これですね。最前線の街において、ストーリークエスト進行に必要な敵の種類にフラグマークがつくようになりました」
〈お〉
〈いい追加だ〉
〈最前線だけどだいぶ便利だぞ〉
〈*シルバ:まじ良きだわコレ〉
最前線では特定の敵をたくさん倒すことで解放が進むことが多いんだけど、この対象となる敵にマークがつけられた。かなりわかりやすいようで、コメント欄にもいる最前線プレイヤーからも好評だ。
これまでもちゃんと情報を集めればわかることではあったけど、見落としや勘違いはよくあるもの。運営からの細やかなアシストとしてありがたく受け取っておこう。
他にも細かいものを中心にいくつかあったけど、今から覚えておくべきことはこれ以上はなかった。
その他の変更内容が話題に出たら私がその都度話すから、情報量の煩雑化を防ぐために今は割愛。あしからず。
いざいざバージョン1.1。初回は変更点の説明などでした。だんだんコスプレに抵抗がなくなってくる。
本格的な動きや新キャラは次回から。いいキャラ入ってますのでお楽しみに! ……あ、お待ちになる時はブックマークと更新通知、ついでに評価を是非ご利用ください!




