108.類の友は類を呼ぶ
九津堂の異常性の話は置いておくとして、そんな感じでしばらく雑談をしていると、背後の転移門の方からこちらへ歩いてくる気配があった。
「……レベル35~40くらいのプレイヤー4人。属性は火、氷、闇、風。男ひとりと女3人ですね」
〈おお〉
〈合ってる〉
〈お嬢振り向いてないよな?〉
〈鏡でも隠し持ってる?〉
〈あっ、成程これが〉
「たった今まで配信を見ておりましたが……それが《魔力覚》ですか、ルヴィア姉様」
「うん、実際に示した方が話が早いと思ってね。こっちだと久しぶり、ジュリア」
近づいてきた四人のうち、火属性を示した反応の正体はわかっていた。振り返りながら答え合わせ……よし、ちゃんとジュリアだ。
ジュリアとは現実世界では今ちょうど寝食を共にしているんだけど、幻双界内に限れば海イベで一言声を掛けて以来。ちゃんと顔を合わせたのは、なんとV1では初めてである。
「というわけで、今回はジュリアと一緒にやっていきます」
「ルヴィア姉様の観客の皆様、お久しゅうございます」
「なんか急に和風になったけど、この子も前よりは姫騎士っぽくなったんですよ」
〈ほんと久しぶりだな〉
〈強そうな槍〉
〈絶対くっとか言わないタイプの姫騎士じゃん〉
〈紅炎の通り魔じゃん〉
〈クレハのほう見てるかどうかで反応が分かれてる〉
なんかおよそ姫騎士っぽくないあだ名が見えたけど、この《紅炎の通り魔》は本当にジュリアが呼ばれている二つ名だ。夜界前線のフィールドで苦戦しているとたまに突然現れて、手慣れた様子で瞬殺してどこへともなく去っていくらしい。
辻とも経験値の横取りともいえてしまう行為だけど、決して悪印象は流布していない。ピンチの時にしか来ないし、単純に助けてくれるから憎む要素がないのだ。
だけどジュリア、そればっかりは私も擁護できないよ。
さすがにどう考えても、気高き姫騎士がやることじゃないと思う。
まあ、ジュリアは大きく変わってはいない。成長はしているし、メイン武器が唯装の《火槍プロメテウス》に変わっているけど、キャラクターはそのままだ。
一方で、彼女は3人のプレイヤーを連れていた。この3人は普段からクレハやジュリアと一緒にプレイしている面々の一部で、私にとっては全員が初見だ。たまにクレハの配信を流し見くらいはしていたけど、ほぼクレハとジュリアの動きしか見ていなかったから。
「必要ないかもしれませんが……初めまして、公式配信者のルヴィアです。どうぞよろしくお願いします」
「「「は、はい」」」
え、ちょっと。なんでそんなに緊張しているのさ。私と同等のプレイヤー二人といつも一緒にプレイしているんだよね?
……さすがに知名度の暴力が過ぎたようで、ジュリアが苦笑気味にフォローしてくれた。
「ルヴィア姉様、もう少しラフで構いませんのよ。三人も、ここは自然体で」
「わ、わかったのだ」
とはいえ、さすがにそこは慣れがあった。最近はクレハも配信をすることがあるし、そちらには何度も映っている。さっきは初見といったけど、画面越しでは私も見覚えがある人たちだ。
「それじゃ、あたしから! 《氷魔術》を使ってる、魔銃使いのトトラなのだ!」
〈いきなり濃いな〉
〈類友か〉
〈RP勢っぽい〉
一人目、小柄な魔族の少女。特徴的な口調と、私やハヤテちゃんよりもさらに幼げな顔つき。女性版のジルさん……といいたいところだけど、声もあどけないから実年齢はわからない。もしかしたら実際にこのくらいの年頃なのかも。
何より気になるのは、そのキャラメイク。魔族の魔術師で、しかも解禁されたばかりの魔銃使いだと迷いなく名乗っている。第一印象の濃さも相まって、とても既視感が……。
「ちなみにトトラさん、ルプスト姉様のファンということだそうですの」
「あ、やっぱり」
うん、正直そうにしか見えない。ここまで要素が被っていて、しかもルプストの幼馴染のパーティにいるともなれば、もう偶然では済まないだろう。
ただこれもルプストと同じく、特徴的な口調と属性の奥には隠しきれないいい子オーラが滲んでいた。たぶん接してみると話しやすいタイプなんじゃないかな、この子。
「次は私ですかね。同じく魔族のウケタと申します。ジュリアさんとはそれなりに長くご一緒させていただいておりまして、盾役をしております」
二人目、こちらも魔族だ。やや大柄な体をフルプレートメイルで覆い、大剣を背負った藍色の髪の青年。剣はオーダーメイドだろうか、同じ両手剣でもブランさんの《聖剣フレイソル》とはサイズが明らかに違う。
本人も言っているが、彼がタンクであることは見ればわかる。ここまでがっちりと鎧を着ておいて、実は火力職です、というのはこのゲームではほとんどない。
「なんというか……きっちりした方ですね。執事みたいな」
「おや。ルヴィアさんは実際の執事をご存知で?」
「父方の祖父母の家にいるんですよ。何度かお世話になったことがあります」
〈うわお嬢様〉
〈ご令嬢オーラが〉
〈ジッサイお嬢いい感じにご令嬢な雰囲気の服着てるよな〉
〈ホネキほんとGJ〉
〈九鬼とフェーガルトだもんなぁ〉
〈逆にお嬢の家にはおらんの?〉
コメントにあったフェーガルトというのは、祖母の実家のことだ。ドイツに拠点を持つ有力家なんだけど、私は直接顔を出したことはない。向こうからすれば私は遠縁の異国の子供程度の認識だろう。
父方の祖母はそのフェーガルトの出身で、日本に昔から存在する九鬼家に入ってきたのだ。……これだけ聞くと経営的な政略結婚に聞こえるけど、純然たる恋愛結婚だったらしい。少なくとも本人たちはそう言っている。
いや、私の祖父母の話はいいんだけど、そういう事情がある祖父母の家には、祖母についてきた執事がいる。なんでも一人で異国に送り出すのが心配だったそうだけど、それで執事をつけられるのもついてくる執事がいるのも凄い話だ。
だから私は本物の執事を知っているし、実際に接したこともある。そんな私から見ても、ウケタさんの立ち振る舞いは執事らしかった。もし彼もRP勢なのだとしたら、かなりの演技力だ。
「最後は私ですねっ」
〈おっかわいい〉
〈正統派?〉
〈いい銀狐だ〉
〈騙されるな、こいつやべえぞ〉
〈一番濃い子じゃん〉
〈なんで君こっちにおるんや〉
〈まーたクレハ見てるかどうかで割れてる〉
〈こんなかわいい子がヤバいわけないだろ!〉
一声で加速するコメント欄。なんやかんや可愛い子好きだよね君たち。でもわかるよ、こういうわかりやすく正統派な見た目の子は配信映えするから。
どちらかというと小柄……なんだけど、私や比較対象になりそうなミカンがちっこいせいで少し大きく見える。銀色の強めのウェーブヘアに、同色の耳と尻尾を持った狐獣人だ。黄色い狩衣に弓を背負っているけど、《魔力覚》によるとそれだけではない大きな魔力。
「私はイチョウといいます! ルヴィアさんの配信で一目見たときからクレハさんの大ファンで、《万葉》のときからご一緒しています! クレハさんの援護をするため、弓と治癒術を使ってます!」
「……ということは」
「はい! バージョン1からです!」
〈えっ〉
〈うわ凄〉
〈濃い!!!〉
〈怒涛じゃん〉
〈普通なんてなかった、いいね?〉
〈言ったろヤバいて〉
〈なんでジュリアのほうにいるんだ……?〉
マシンガントーク。見た目の10倍は快活な子だった……けど、大丈夫? これ、歯止め利いてる?
クレハに対してのイチョウということなんだろうけど、熱狂的なファンというか、推しの助けになりたいタイプの子というか。少なくともこれまで私の周りにはいなかったタイプなんだけど、一方でそこはかとない既視感がある。
うーん……もしかしてこれ、
「ちょっとフリューに似てる?」
「ちょっとどころではありませんわ、そっくりです。姉様版のフリュー姉様と表現するのがぴったりかと」
「フリュー、巷からはこう見えてたんだ……」
「えっ、アレ自覚なかったのだ!?」
「ルヴィア姉様とフリュー姉様は昔からああですから、本人的にはあれが普通なのでしょう。もう夫婦ですわ」
〈えっお嬢フリューのヤバさに気づいてなかったん〉
〈これと暴走天使が似てるの察するまでそんなかかる?〉
〈*ミカン:ルヴィア的には、フリューは「たまに暴走するけどすごく好いてくれるいい子」だから〉
〈あのミカンちゃんが呆れとる〉
〈夫婦は草〉
〈ほんと夫婦なんだよな〉
〈果たしてクレハは慣れられるのか〉
道理で微妙に見覚えがあるとは思った。
でも、フリューのそれがこう見えているとは知らなかった。人の態度って自分に向けられているかどうかで全然見え方が違うんだね……。
ただ、彼女が凄いのはその性格ばかりではない。特定のプレイヤーに憧れて、その人を目標に始めるという動機も想像の範疇だ。まだ会ったことはないけど、たぶん私にもいる気がする。……こらそこ、「懸念はフリューのキャラを超えられるかどうか」は禁句だよ。
ソロ時の私はオールラウンダーだから難しいけど、彼女のように憧れの人の隙を埋めるビルドを選択するのもわかる。クレハは《治癒術》も取っていないし、遠距離の手段はやや乏しい。イチョウさんの選択は的確だろう。
何より私が驚いたのは、他人にも見える簡易ステータス表示だ。
「凄いですね彼女、V1組で私にレベルで追いついている子はさすがに初めて見ました」
「なんでも姉様に追いつくために頑張ったそうで、万葉の時点でレベル28になっておりましたわ。純後衛ビルドでどんな廃レベリングをしたのやら……」
〈は?〉
〈バケモンで草〉
〈いややべえよ〉
〈これまで出てきた中で一番ヤバいまでない?〉
……万葉の防衛戦って、グランドオープンから11日目だ。つまり彼女はたった十日間で、レベル25を飛び越えて28まで到達したらしい。
ちなみに比較対象として示しておくと、私はレベル25に到達したのがベータ17日目。レベル28になったのは正式サービス4日目だ。環境も周囲のレベルも違うとはいえ、実に私の半分の期間でそこまで上げきったことになる。
私と同じということは、今のレベルは実に38。V1組ではトップクラスと目されるハヤテちゃんが35だから、それすら凌いで完全にベータ組最上位層に追いついている。
どうにも手が回らずにクレハとジュリアの周囲までは目が向いていなかったけど……なんというか、末恐ろしい子だった。
「……そんなイチョウさんがここに来ている人選は、まあわかるんですけど」
私とジュリアが前衛火力、ウケタさんが盾、トトラさんが後衛火力。ここに後衛支援ができるイチョウさんが入れば、確かにバランスはいい。
いいんだけど、どうしても気になった。これは聞いておいた方がいいだろう。
「イチョウさん、なんでこちらへ? クレハの方じゃないんですね?」
「クレハさんが、『ルヴィアを助けてあげてください』と!」
「……うん、全部察しました」
〈忠犬じゃん〉
〈クレハ完全に飼い慣らしてて草〉
〈十日でこれを扱いきる辺りお嬢の幼馴染よな〉
クレハ、あんたがナンバーワンだ。
フリュー「甘いね。私の愛はもっと深いよ!」
ルプスト「こらこら、張り合っちゃダメよお?」




