107.ゼロからわかる! 魔力覚
私は習得していないけど、掲示板とミカンとユナから聞いた情報がある。せっかくだから《陰陽術》にも触れておこうか。
《陰陽術》とまとめて呼ぶことも多いけど、実際はスキル単位で分かれている。《陽術》がバフ、《陰術》がデバフだ。ヒーラーとの兼任がほとんどで、そのような使用者は《巫術師》と呼ばれる。
ネーミングにも統一性があって、《陽術》は《○○ブースト》、《陰術》は《ディクリース○○》。スキルレベルごとの習得順と○○に入る言葉は陰陽で共通だ。
SL1で《アタック》、SL5で《マジック》。基本的な攻撃バフデバフは最初に覚える。倍率は一定だが、あるとないとではかなり違うものだ。
SL10で《ディフェンス》、20で《スピード》、そして30で《プロテクト》。魔防が少し後になっているのは、特に最序盤は魔術攻撃を受けることが少なかったからだろうね。
基本の5ステータスが揃って、SL40では判定成功範囲を広げる《ジャッジ》。50は《レジスト》、これはバッドステータスや状態異常などを受ける時の抵抗率にかかる。
どちらもパッと見では扱いにくそうだけど、前者はミカンは多用している。というのもこれ、クリティカル率にも影響するんだよね。私と組む時はパリィ判定にもかかるから、かなり重宝している。
レジストは……そのうち必要になるだろう。うん。
SL60は《キャスト》。魔術の詠唱速度と、アーツのクールタイムを短縮または延長するものだ。他ほど緊急性の高い効果ではないけど、余裕があれば使っておいて損はない。
ただ、戦闘中にこれの張り直しができる遣い手は少ない。基礎系統を維持して、的確に回復もして、さらにこれ……となるともう、なかなかの過密操作になるのだ。MPを考えると使わない方がいい場面もあるし、巫術師は見かけよりよっぽど難しい。
「そして最後に。まだwikiには載っていなかったのですが、ミカンによるとスキルレベル70は《ジェネラル》だそうです」
〈かっけえ〉
〈将軍?〉
〈全部か〉
〈ミカンちゃん70いってんの!?〉
ミカンは《巫術師》の中でも特にバフを上手く扱うプレイヤーで、《陽術》については間違いなく最上級を誇る。代わりにHP満タンを維持はしないから、前線の危険な戦いに慣れていない中堅プレイヤーには怖がられているけど。
そんなミカンの情報提供では、SL70の《ジェネラルブースト》は《プロテクト》までの5種をまとめて付与できるらしい。消費と詠唱時間はさすがに重いものの、それでも個別に5種撃つよりははるかに軽い。
……だけど、そこで《ジェネラル》が入るということは、その次からは?
続いて《治癒術》。スキルレベル30までは以前紹介したから、その次から。
といっても私が新しく習得したのは一つだけだ。基本的にソロの時にしか使わないから、練度が上がるごとに使用頻度は落ちるんだよね。
SL40、《リジェネレーション》。読んで字のごとく、リジェネを付与する魔術だ。効果も大方が想像する通りで、即効性がない代わりにコスパに優れる。即時的に危険がないのなら、こちらを使った方が効率がいい。
「ここからは聞いた話ですが、《治癒術》はどうやらSL60から二周目に入るようです。たぶん、《陰陽術》も80から近い形になるでしょうね」
〈二周目?〉
〈強化版ってこと?〉
〈まあそう種類作れないか〉
SL50は《インテンションオール》。早い話がパーティ全体回復だ。特に特筆することはない。
だが、SL60で覚えるのは《クイックヒール+》。既存術の強化だった。まあ確かに変に細かくピーキーなものばかり渡されても困るだろうし、バリエーションも作りづらいのだろう。これが判明した時、巫術師界隈は歓喜の声に包まれていた。
しかし油断してはならない。強化系を続けておいて、ある時突然謎の新魔術をぶち込んできたりするのが九津堂なのだ。
「では最後、《植物魔術》です」
〈きた! これで勝つる!〉
〈植物魔術もお嬢が第一人者だからな〉
〈70なんだろ〉
〈まだ植物の70使ってないよね〉
まずはSL40、《スタンブルルート》。ベータ最終盤のレイド八連戦、《策謀・吹野》戦で披露したのが記憶に新しい、地面を這う木の根で敵を転ばせる術だ。
ぶっちゃけた話、けっこう使いづらい。避けられるから。ただ効果は強力だから、刺さる時にはとにかく強い。特に夜界の序盤は大活躍で、ついたあだ名が『ゴブリンホイホイ』だった。あとは察してほしい。
SL50の《ソーラーロア》、そしてSL60の《シードプロード》。この二つは名前の通りで、それぞれ属性魔術のロア系、プロード系とほぼ同じだ。
ただ、属性相性がない分か、それとも種族限定のスキルだからなのか、《リーフエッジ》と同様に属性魔術より威力が高くなっている。私が《虹魔術》で弱点を突いた時よりは、少し低いくらいだろうか。
だから現状はサブで、スキルレベル状況で使い分ける程度。……なんだけど、なあんか、怪しいんだよね。この辺りにはまだ何か隠されていそう。
そしてSL70、《フォトシンセサイズ》。日本語訳すると、「光合成」である。
〈えっ〉
〈お嬢光合成できるん〉
〈回復?〉
「妨害系が多くて攻撃ばかりじゃない辺りで怪しいとは思っていたんですけどね。なんと《植物魔術》、回復までできます」
自分自身限定、かつ小回りが利くわけでもないけど、コストパフォーマンスは良好。私はパーティでヒーラーをするわけではないから、他プレイヤーを対象にできない点は痛手ではない。もともと《治癒術》はソロの時くらいしか使っていなかったのだ。
「その結果、悲しいことに私の《治癒術》はほぼ役目を終えました。お疲れ様でした」
〈南無〉
〈お嬢の治癒術ここに眠る〉
〈かなしいなあ〉
ここまで既存スキルのアーツを振り返ってきたけど、実は私はひとつだけ新たな要素を得ている。
「というわけで、精霊ルヴィアのよくわかる《魔力覚》講座のお時間です」
〈お〉
〈*検証班:待ってたぜ嬢ちゃん〉
〈*考察班:詳しく聞かせてくれや〉
〈調べ屋どもがテンションおかしくなってる〉
《魔力覚》、ゲーム的には《魔力生命体》や《虹の魔術》と同じような特殊性質に分類されている。
効果テキストはというと、「魔力覚を獲得する」……あまりにも雑だ。だけど、うん。これしか書きようがないよね。
「《魔力覚》の効果内容については、無料配信中の《ローカルプラクティス》で少し体験できますが……先に言っておきますね。あれは不完全です」
〈えっそうなん〉
〈あれ結構新鮮だったけど〉
〈馴染むと変わるの?〉
進化した当初、私は「魔力らしきものがぼんやりと目に見える」と言っていた。ただ、これは正しくなかった。感覚に慣れるにしたがって、その感覚が視覚から離れていったのだ。
「どのあたりに、どのくらいの大きさ・形の、どの属性の、どんな状態の魔力があるかわかる」。しかも視聴覚的な障害物に阻害されず、匂いや味とも競合しない。私もまだ精度は高くないけど、この世界に限ってはかなり強力な感覚だった。
「内容は私がここで感じているものと同じですが、魔力が見えているうちは未完成です。もしあれが完全状態なら、《魔力“視”覚》ですからね」
これは会得した私にも説明が難しいんだけど……《魔力覚》の本質は第六感である。視覚外でも、爆音の中でも、壁を隔てていても感じ取ることができるのだ。
既存の五感とは全く別のところで、魔力の存在や量と質を感知できる。これがどうにも感覚的というか、人間の感覚や言葉で表しづらい。
「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、魔力覚。……『音ってどんな感覚?』と聞かれても答えられないようなものですね」
〈わかるようなわからんような〉
〈うーん〉
〈盲目の人が見えるようになるみたいな感じなのかな〉
「はい、たぶんそれですね。VR技術によって身体障碍が克服されるような要領で、これまでなかった感覚が得られたんだと思います」
VR技術は人間の脳や脊髄に直接アクセスするから、身体的な障碍をある程度無視することができる。中枢神経系さえ正常に動けば、目や耳の疾患や四肢の欠損はVR空間での動作に支障をきたさないのだ。
つまり、実際の身体で感じ取れる感覚以外のものも、脳神経は感知できる。VRはそういう意味でも肉体に縛られない。
原理的には、先んじて使われている飛行操作と同じだろう。VRでうまく作ってしまえば、架空の身体器官を実用することさえできてしまうのだ。
「だけど、魔力覚はそもそも人間が備えない感覚です。ただ普段うまく動作していないだけで、最初から人間に備わった感覚野と一緒くたにはできませんよね」
〈それはそう〉
〈そうなんだよなぁ〉
〈頭こんがらがりそう〉
「それで、気になって開発スタッフさんに聞いてみたんですよ」
〈!?〉
〈聞ける立場なのがズルいんだぞ〉
〈答えてくれるの?〉
〈俺らがQAとか問い合わせしなきゃいけないことを直接……〉
まあ、開発スタッフって幼馴染のお父さんだからね。いわば顔見知りの近所のおじさんとの世間話だ。
「少しだけ教えてくれました。《魔力覚》のシステムには、共感覚を応用しているそうです」
〈なるほど〉
〈確かに〉
〈最初は見えるのってそういう?〉
共感覚とは、一部の人が何かの刺激を知覚した時に、全く別の感覚が同時に発生する現象のこと。音に色を感じたり、味や匂いに形を感じたり……その例は非常に多彩で、私にもいまいち想像がつかない。
共感覚が発生する原因は今もまだ解明されていないけれど、実際に存在する共感覚が脳神経の中でどのような作用をしているかはわかってきている。このあたりの研究は、そもそも現在のダイブ型VRの基礎研究とかなり近い。
「なんでも、実際に共感覚を持っている人に協力していただいて、提携している専門学者さんがそのメカニズムを解析したそうです。彼らはそこから逆算して、VR空間で共感覚の一例を再現することに成功したとか……たまに思うんですけど、それをそのままゲームに組み込んでいる九津堂って何の会社なんでしょうね」
〈九津堂ほんとおかしい〉
〈いい意味でヤバいよな〉
〈そもそもゲーム会社が脳神経学者と提携できるのがおかしい〉
〈たぶんだけどお嬢のお父さんが関わってるんじゃないかな〉
「私の父はどこかしらで関わっているでしょうね。間違いありません、あのひとがこんなに面白い話を放置するわけないですもの」
ともあれ、一度「本来のもの以外の感覚を感じさせる方法」ができてしまえば、それ以降のハードルは大きく下がる。その理論とプログラムを元に作られたのが、この《魔力覚》である、ということなのだそうだ。
さまざまな感覚に“そこに魔力があるとわかる”という特殊な信号を付与して、対象者の感覚野に新たな基準を少しずつ作る。それが独立して稼働できるところまで育ったら、幻双界に常に存在している“魔力”という情報を感じ取れるようになる。
「もしかしたら暇な時にでも、もう少しわかりやすくまとめたりするかもしれません。やるとは決まっていないので、期待しないで待っていてくださいな」
「ところで、これは独り言なんだけど」
〈うん?〉
〈お嬢が口調を崩した!?〉
〈素の言葉遣いじゃん〉
〈ガチの独り言ってことか〉
「ここまでしっかり技術を確立しておいて、特定種族の最上位プレイヤーのごく一部しかならない精霊にしか与えないなんてこと、あるのかな。……この手の第六感、いずれは色々増えていくような気がするんだよなぁ……」
第六感って、厨二心をくすぐりますよね。私そういうの大好きです。異世界に行ってみたいですし、空を飛んでみたいですし、第六感や戦闘力を手に入れたりしてみたいです。
本作はそういうものです。




