105.マグマ湖×人型ボス=
前回のあらすじ
魔術師6人を集めて《火打石の溶岩道》の攻略へ向かったルヴィアたち。慣れないパーティ、難しい役割分担。そんな中でも実力の暴力でどんどん奥へと進んでいく。
なんだかサクサク進めているけど、本当にこのまま終わるの? 彼らは首を傾げながら、ボス戦へと向かったのだった───!
「……爆発!」
「またー!?」
「ああもう、やっぱりこうなるのよね!」
〈安心と信頼の九津堂〉
〈やっぱ前線はこうでなくちゃな〉
〈*運営:なんやかんやほとんど避けられているんですけどね!?〉
〈運営さん涙目〉
〈イルマ連れてきたのファインプレーだったな〉
《火打石の溶岩道》もいよいよボス戦。私たちはダンジョンボス《フリントゴーレム・ゼロ》と6対1で対峙していた。
フリントの名の通り、黒い岩でできた大きなゴーレムだ。材質としての火打石はケイ素系、つまり石英の一種。硬い割に加工が簡単だから、石器時代には石器として活用されていた。
……そう、硬いのだ。モース硬度でいうと6から7くらいある。鉄が5だから、鉄製の武器では傷をつけられないどころか刃こぼれさせてくるくらいには硬い。いや、ゲームだから硬度はさほど気にする必要はないんだけど。
一応さっき試してみたが、物理防御力は常軌を逸していた。……いや、そもそも物理型プレイヤーはダンジョン入りすらできないから気にする必要はない。ここまでではないにせよゴーレム系はだいたい物理に硬いし、半分フレーバーみたいなものだろう。
あと、これは名前通りで、なんと攻撃を当てると火花が散る。この火花にダメージ判定があるから、近接攻撃は無理。
どういうわけか魔術攻撃でも、それどころか《水魔術》ですら火花が出るから、妖精や精霊でもある程度の距離を取る必要があった。一見すると意味がないように見えるんだけど、威力減衰を消すため至近距離に潜り込むことが少なくない私やメイさんには有効な仕様である。
特にメイさんの場合、最も得意とするのは「至近距離に潜り込んで魔術を撃ち込む回避型移動砲台」だ。ある程度離れても異常なエイム力に物を言わせられるイシュカさんよりも苦戦しているから、これもピンポイントメタということになるのだろう。
「……これ、そのうち通常フィールドでも出てきそうですよね」
「わかる」
「さすがにまだ先でしょうけど……」
〈こんなんが普通に出てくるの嫌すぎるが?〉
〈怖いこと言わないでくれない?〉
〈近接パがこんなの引っ掛けたら地獄では〉
いやだって、ありそうなんだもの。そもそも近接職は入れないダンジョンの仕様と噛み合わない能力、強そうではあるけど唯一性の薄いビジュアル、露骨なほど不自然に名前へつけられた「ゼロ」という二文字。これ、いずれゼロが取れて普通に出てくる気がする。
「なんか近接武器系にいい感じの性質してるわよね」
「あー、確かに。今回の《唯装》、メイさんの魔術系のハズっすけど」
「もしドロップしたら鍛冶屋に……いや、加工できないか」
「いま有効活用できるのは細工師のほうでしょうね」
〈スキルレベル足りなそう〉
〈なんで6人揃って雑談してんの?〉
〈ボス目の前に素材扱いしてるのほんま〉
〈*運営:これでも足りないんですか……〉
〈運営ちゃん頑張れ〉
〈ゴーレム頑張れ! 舐められてるぞ!〉
〈お前はボスなんだってわからせてやれ!〉
……とはいえ、「今後通常Mobになりそう」なんて、いくらそう見えたとしても理由がなければ言わない。ボスになっているということは、それなりの要素があるのだ。
ただ、ねえ……。
「だってこれ、アレをボスたらしめているのは半分くらいフィールドじゃないですか」
「ね」
「適正レベルで通常フィールドにポンと出たら多分わかんないよね」
「このダンジョンで地形だからけっこう大変っすけど……」
〈あー……〉
〈まあな〉
〈それはそう〉
〈ゴーレムくん強く生きて〉
何を隠そうこのボス、「大きな溶岩池の中央に居座って遠距離攻撃を繰り返してくる」という珍しい仕様をしている。これのせいでこちらから近づくことができず、飛べるプレイヤー以外は間合いを調整することすらできない。
それにそもそも、ダンジョンの進入制限のせいでバランスのいいパーティを組めない。攻撃は元々ほぼ魔術しか通らないとはいえ、陽動とタンクが使えないのはボス戦ではなかなか痛い。道中では雑魚が柔らかいから気にならなかったけど、さすがにボス戦ともなれば耐久は折り紙付きだ。
ただ、それでも「けっこう大変」止まり。立ち回りが確立されたこのパーティを殲滅するような力はない。
苦戦はしているんだけどね、その苦戦が「長引いて消耗戦になる」方の苦戦なんだ。「戦闘の展開そのものが劣勢になる」ような状況にはなっていないから、気分的にはかなり楽である。
「弾幕来るよ!」
「了解!」
「全員、散開して」
「《デイフェンス/スピードブースト》!」
〈対応が速い〉
〈さすがだよなあ〉
〈急造パーティなんだぜこれ〉
〈初組みのメンバーだらけとは思えんよな〉
〈やっぱイルマって〉
続いて扇形に石つぶての弾幕。ひとつひとつは小さく低威力な物理攻撃なんだけど、妖精にとってはこれでもひとつひとつが痛撃となりうる。イシュカさんとメイさんは避けながら範囲外に出て側撃という、シューティングゲームのようなプレイングを求められることになる。
人間と獣人の後衛にとっては、なにせ扇形で範囲が広くなるからむしろ防御優先。幸いさほど威力はないから、防御にバフを掛けて受けてから回復する形となる。……私は後方にいるけど、この攻撃中は範囲外へ退避。紙耐久だからね。
何よりも辛いのが、このボスはどうやら攻撃パターンが確立されていないらしいこと。いちど範囲魔術の次に弾幕が来たからといって、またそのパターンが繰り返されるとは限らない。それどころか同じ攻撃を二度続けすらする。
では何故対処が上手くいっているのかというと、先ほどから飛んでいるイルマさんの指示によるものだ。このボスは攻撃前の動作で行動が読めるようになっていて、観察力に長けたイルマさんが逐一見切ってくれていた。
「イルマさん、ほんとMVPですね」
「やっぱり観察力って大事よねぇ」
「一応は俺も読めなくもないっすけど、イルマさんはやたら速くて正確っすね」
「はは、適材適所だよ」
よく言ったもので、まさに適材適所そのものなんだよね。イルマさんがこれだけの速度と精度で見抜いてくれるおかげで全員が楽になるし、ミカンは当たり前のように完璧なバフを投げてくる。妖精ふたりは今回はメインアタッカーだ。私とジュンさんも、明確に役割を見つけている。
イルマさんの配信が人気を博している理由のひとつとして、謙遜をしないという面がある。褒められたら素直に受け取って、正しい言葉を受け止めながら配慮を返す。何かと謙遜が美徳とイコール化しがちな私たちだけど、こういうさっぱりした対応は案外気持ちいい。
「言ったそばから、岩石砲来るよ」
「了解、任せてください。ジュンさん」
「OK、《ブリーズブレス》!」
〈お〉
〈くるぞ〉
〈四番 ファースト ルヴィア〉
〈かっとばせー、お嬢!〉
これもボスの攻撃手段のひとつ、岩石砲だ。腕を突き出して、その先端から大きめの岩を撃ち出す。某ゲームのそんなに有名でもない技によく似ていたからそう呼ぶことにした。
ジュンさんと私は、サブ火力兼これの対処担当だ。というのもこの攻撃、よりにもよってサポーターに飛ぶようなヘイト計算になっているらしいのだ。いくら回避盾が誘導しても効かない厄介な技……になるはずだった。
ジュンさんが《風魔術》。スキルレベル60習得のブレス系、射出点から前方45度へ向けて範囲攻撃を行う魔術だ。
プロードよりも射程の広いこれを上手く当てて、魔術の威力と逆風で岩の勢いを削ぐ。これでしっかり緩やかにできれば、ミカンの前に半身で立った私のターンだ。
「《ジャッジブースト》」
「ルヴィアさん!」
「はい! あた、れっ!!」
「よし、今ですね!」
「ほら水よ、こっち向きなさいデカブツ!」
「うん、カンペキっ」
〈ファウルボールにご注意ください〉
〈これがカウンター罠か〉
〈ボールを相手の顔にシュゥゥゥーッ!!〉
〈超! エキサイティン!!〉
異世界野球、ふたたび。
スクエアスタンスからクロス気味にしっかり踏み込んで、緩い棒球となった岩めがけてミート。引っ張りの要領で跳ね返したボールは、狙いすましたピッチャー強襲の内野安打となった。
……いや、これ、なぜかやたらダメージ効率がいいんだよ。あんまり硬いからなのか、この遠距離からのロア系よりは火力が出る。
バット扱いは自我があるアイリウスに悪いのでは、とは思ったよ。思ったんだけどさ、気を遣って避けたら抗議するようにチカチカ光ってみせたんだ。
で、もう一回やってみたら今度は嬉しそうに光った。たぶんこの子、自分を使ってくれるならどんな形でも嬉しいタイプの子なんだと思う。……いつかゲーム内で料理をすることになったら、下手をすると包丁に嫉妬し始めたりしそうでちょっと怖いです。
「てぇ、りゃっ!」
「デッドボール!」
「いや投げたの向こ……ダウン!」
「総攻撃ッ!!」
〈綺麗に顔に〉
〈絶対鼻の骨折れたわアレ〉
〈鼻も骨もなくね?〉
〈お?〉
〈ここでダウン入った!?〉
〈いけるぞこれ!!〉
何度目かのピッチャーライナー、上手く入ってくれたのかゴーレムが膝をついた。ステータスについたアイコンは《スタン》……紛れもなく、大チャンスだ。
それぞれがこの場で最も有効な魔術を詠唱、ミカンからもバフが飛ぶ。私も妖精組と一緒に接近して、火花が当たらないぎりぎりの距離を確保した。
「《マジックブースト》、ゴー!」
「《スパークルロア》」
「サブだけど、《ライトニングロア》っ」
「「《ミストブレス》」」
「いきますよ、《ソルブレス》!!」
遠くにいるイルマさんとジュンさんは威力と射程を両立できるロア系。イルマさんは《光魔術》で、ジュンさんはサブの《雷魔術》だ。
近づいた私とイシュカさん、メイさんは、スキルレベル60習得の魔術を繰り出した。ここのところの配信内では出番が少ない《ブレス》系、発動地点から前方へ45度射角の円錐型範囲攻撃だ。プロードより範囲が広く、複数の敵を同時攻撃しやすくなっている。
それだけなら近距離戦ではエッジ系の方がいいんだけど、このブレス系にはひとつ特徴があった。それが『多段ヒット判定』だ。ひとつの判定ごとのダメージは小さいものの、同一の対象に重複して当たり判定が発生する。……つまり、近ければ近いほどヒット数が増えてダメージが上がる。
この影響もあって、なんと触れるほどの近距離のときや当て続けられるときはエッジよりもさらに高威力となる。密着時のブレス、睨み合いの間合いのエッジと使い分けることになりそうだ。
ただ、遠距離前提の純魔にとってはエッジほどではないものの扱いにくい魔術となる。結局のところ射程はプロードよりは広い程度だから、ほぼ《ポイント・キャスト》前提なのだ。
《ポイント・キャスト》は以前は《シュート・キャスト》と同じくらい多用されていたけど、攻略が進むごとに問題点が認識されて使用頻度が減ってきているのだ。今後何かしらのテコ入れが入る可能性はあるけどね。
閑話休題。
「やったか!?」
「ジュンくん、やったの確認してから言うことじゃないよそれ」
「HPゲージが消えてからそれ言うのは逆に面白いかも」
〈大勝利!!〉
〈ほんとお嬢が絡むと普通にクリアする〉
〈私、失敗しないので〉
〈なんでこんな超即席パで完璧な連携できるんだよ〉
〈いやまてまて〉
〈溶鉱炉じゃねーんだぞ〉
そんなわけで、総攻撃を受けたゴーレムくんは溶岩へ沈んだ。
……いやあの、待って。片手でサムズアップみたいな形を作って沈むのやめてくれない?
「フリントゴーレムが親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンは涙なしには見られなかったよ……」
「メイさんメイさん事実なので突っ込めないんですよソレ」
〈wwwwwwww〉
〈いや草〉
〈腹よじれそうなんだが!?〉
〈おい運営ァ!!〉
〈いきなり爆弾投げ込むのやめてくれwwww〉
〈さっきまで普通のダンジョン攻略だったのに……〉
……なんか、いいの、これで? メイさん本人は満足そうだけど……。
ちなみに、唯装はその直後にボス素材と一緒に勢いよく飛び出してきた。《イグニッショングローブ》という真っ赤な手袋だった。
ただ……やめてメイさん、親指を立てないで。そろそろ腹筋が辛いから。
「メイさん、フラグってご存知ですか?」
「ルヴィアさんがいつもへし折ってるやつでしょ?」
……苦戦はしましたね。一応。はい。




