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Dual Chronicle Online 〜魔剣精霊のアーカイブ〜  作者: 杜若スイセン
Ver.1.0-2 猫と精霊とヴァンパイア
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104.魔術師以外お断り!

「……イシュカ、イシュカっ! しっかりして!」

「メイ……あたしはここまで、みたい……」

「そんな……イシュカ、嫌だよ! 私、あなたがいないと……!」

「大丈夫……今のあなたなら、あたしがいなくても大丈夫よ……。だから、前に……進んで……がくり」

「イシュカああああ!!!!」




「……はい。茶番はそのくらいにして、行きますよ二人とも」

「えー。もう少しくらいいいじゃないの」

「もうログアウト休憩は全員済ませましたよ。そろそろ行かないと、今日中にクエストが終わらなくなります。……あとメイさん、口調変わってません?」

「あ、大丈夫ですよ。わざとなので」

「さいですか……」


 ツッコミに疲れてきた。休憩したばかりなのに……。






 魔銃と双剣が解禁された翌々日、八月二十三日の土曜日。私たちはまたもダンジョンにいた。

 ペトラさんの時と同じ小さなところ、今度はメイさんの番だ。現妖精族では最強格たる彼女もやはり精霊志望者、これで私とイシュカさんも含めて私が把握しているのは5人目ということになる。

 ちなみにこの他にも、エルフと妖精から男性プレイヤーそれぞれ一人ずつが本格的に精霊進化を狙っていると聞いている。このうちエルフの方はクレハの知人だそうで。




 今回メイさんのために精霊王様が探し出したダンジョン 《火打石の溶岩道》は、少々特殊な仕様を持つダンジョンだった。

 それが、「MP最大値が一定以下のプレイヤーの進入不可」。DCOにおいてMPはINTとMNDを元に決定されるから、ざっくりいえば魔術ステータスの高さによる足切りだ。

 この一定の要求値がかなり高くて、試してみたところ魔術師以外のプレイヤーは誰も入れなかったのだ。コラボを約束までして撮れ高を期待していたブランさんは相当無念だったようで、見事なorzポーズで悲しみを表現していた。……どうでもいいけど、先日のイシュカさんとネタが被っている。


 彼に限らず予定していたパーティが組めなかったので、助っ人を探しながら日を改めることとなったのが昨日のこと。私とイシュカさん、メイさんの3人で偵察に向かった結果をもとに、3人のトップ魔術師に声を掛けた。

 一人はミカン。またも《植物魔術》の通りが悪いということで、今回はユナよりも彼女を優先することとなった。電話口で断った時の音の篭もりようからして、おそらくユナもブランさんと同じポーズを……もういいから。




「……『お嬢とのコラボ嬉しい』、うん。それは僕も。前にも言ったけど、配信を始めたきっかけだからね」

「そちらのコメント欄でもその呼び方(お嬢)で定着しているんですか、私……」

「無理もないよ。視聴者層もある程度被っているから」

「まあ、他の配信者へのリスナー流出は私の意図したところでもあるわけですが……」


 ここのところは似たパターンが多いけど、今回もパーティに配信者は二組となった。こちらはイルマさん、バージョン1開始と同時にチャンネルを開いたベータ勢3人目の配信者である青年だ。

 彼はベータの時点で唯装を手に入れていたプレイヤー。つまりどこぞの芸人たちによる“十二神器”呼ばわりの被害者仲間だ。《百魔夜行全書》という魔導書を武器に、変幻自在の魔術と戦法を繰り出す頭脳派である。

 容姿はRPGの勇者然としたブランさんに対して、イルマさんはいかにも和男子といったところ。私の偏見だけど、縁側で甚平あたりを着てお団子とか食べていると絵になりそうだ。あいにく京言葉ではなく標準語だけど。


 なんでもイルマさん、元々配信には興味があったらしい。ただ彼はブランさんと違って、その手の活動に関するノウハウが全くなかった。だからバージョン0の間は私やブランさんを見て学び、時に裏で質問をしてきたりもしていた。


「『じゃあなんでこれまでコラボしなかったの』、か。それは単純で、僕のチャンネルそのものの基盤ができるまでは他の配信者に助けられたくなかったんだよ」

「あまり規模の差がありすぎる間からコラボを繰り返すと、大きい方の視聴者層に飲み込まれたりしてしまいますからね。私とブランさんもそれはわかっていたので、しばらくは遠慮していました」


〈でもお嬢はすぐブランと共演してなかったっけ〉

〈あの時はブランまだ配信してなかったから〉

〈お嬢とブランの登録者数も今ほどは変わらんかったしな〉


 このあたりのプロ意識はデビュー前から大したもので、彼は割と初期のほうから配信はなるべく避けていた。私のアーカイブにもほとんど映っていないはずだ。

 配信外では時折話をしたりはしていたから実は付き合いは長いんだけど、これまではオフレコだったんだよね。






 そして、もう一人。こちらは普通のプレイヤーだ。……普通といっても、そこそこ名の知れた最上級プレイヤーのひとりだけど。


「ジュンくん、そろそろ慣れてきました?」

「まあ、なんとか……しかし、あれっすね。こんな緊張するんすね」

「その割にはけっこう普通に話せてるじゃないの」

「戦闘は最初からできてたし、不向きではなさそうですよね」

「まあ……雑談とかはなかったっすけど、海イベの時にイシュカさんの配信には一応出てましたし……」


 妖精二人に挟まれてやりづらそうに話しているのは、こちらは人間の魔術師であるジュンさん。先週末の海イベントで陽動部隊を率いていた、今のトップ風魔術師だ。

 イルマさんを男一人にするのもどうかと思って、水属性の敵が多いこともあって誘ったんだけど……この規模の配信に出るのは初めてだったようだ。最初はけっこう緊張していて、ミカンもイシュカさんも気を回していた。


 彼については、私もさほどはっきりとした親交があるわけではない。ここに来たのもイシュカさんの伝手で、当のイシュカさんも海イベントで交友を持ったと聞いている。配信を前に緊張気味なのも、これまでこうして目立ったことがほとんどなかったから。

 というのもジュンさん、ベータ時点では目立った存在ではなかったのだ。V1が始まってからめきめき力をつけてきて、私の不在で一時はメイさんのサブウェポンが預かるほど不足していた《風魔術》のトップをいつの間にか掻っ攫っていた。


「ともかく、少しずつ楽になってきているみたいでよかったよ。さっきまでの様子のままだったら、誘った私たちも悪かったし」

「あー、なんか、すんません。俺、会話とか苦手で……」

「あんまり気にしないでください。配信は私たちが勝手にやっていることで、周りに合わせることを強制したりなんてことはしませんから」


〈俺たちはゲームプレイを覗き見させてもらってるわけだしな〉

〈俺らは壁〉

〈俺は観葉植物〉

〈俺はそのへんのよくわかんないお土産〉


 最近は身近で行われている配信に慣れ切って平然としている人ばかりだったけど、ジュンさんのような反応が普通なのだ。彼はどこにでもいる、ゲームが上手くて根気があるだけの男子高校生でしかない。

 だから配信耐性は求めてはいないんだけど……しかしどうやら、彼も例に漏れることはなく慣れ始めているようだった。


「なんというか……やっぱり最前線のプレイヤーって、目立つことに拒否反応がないですよね」

「同じプレイヤーの中ではどんどん名が知れていくから、それが視聴者まで広がっても根本的には変わらないのよ」

「あー……そんな感じっす。俺も最近顔を覚えられることが増えてきて、ちょっと違う目で見られるのも慣れてきたんで……」


〈なるほど〉

〈これが有名プレイヤーができあがる過程か〉

〈こういうの見せられるとやっぱトップ組も俺らと同じ人間なんだなって〉








 さて。そんな雑談を続けながらも、私たちはダンジョン攻略を続けていた。


「前方に敵影4、スライム2とトータス2です」

「OK。私とジュンくんでスライムやるんで、御三方でカメお願いします」

「任せて!」





ボイルスライム Lv.32

属性:水

状態:汚染

備考:物理攻撃半減、火傷付与(1)


グラニットータス Lv.33

属性:土

状態:汚染

備考:物理攻撃半減





 このダンジョンの主な敵はこの2種類だ。ついに現れたスライム系統と、いかにも硬そうな岩を背負った亀。

 スライムは柔らかすぎて、岩亀は硬すぎて、どちらも物理攻撃がほぼ通らない。……もっとも、このダンジョンはその性質上そもそも物理アタッカーがほぼ入れないんだけど。


 スライムは熱湯でできているようで、触れるだけで火傷判定が発生する。この火傷というのはスリップダメージ型の状態異常で、発生箇所に力が入りにくくなるという厄介な性質がある。とはいえ《治癒術》で簡単に治せるから優しい部類だ。

 一方の岩亀は攻撃を当てるたびに甲羅へ引っ込む上、出てくると同時に強力な範囲攻撃が発生する。物理攻撃はほぼ通らないし、魔術でも弱い所を狙わないとダメージが少ない。防御力がとにかく高いから、倒すまでに時間がかかる難敵だ。


 ……ただ、ね。




「「《ダブル・フリーズロア》」」

「《ダブル・スパークルロア》!」

「……よし一体目。次行くわよ」


 集中砲火を受けた岩亀はあっさり沈んだ。まあ無理もない、最上級魔術師のロアを6本同時に受ければ結構凄いダメージになる。

 ダメージごとに引っ込むとはいえ、攻撃を受けてから引っ込むまでにはややタイムラグがある。息を合わせてここを突いてやれば簡単に多段ヒットが発生するのだ。

 しかもこの亀、一撃が重い代わりにあらゆる動作が遅い。強いが詠唱に時間がかかる《並行詠唱》を簡単に用意できるのだ。


「《ダブル・ゲイルプロード》」

「ふふん、《ウィンドアロー》!」


 スライムを引き受けた二人も特に苦労した様子はない。ジュンさんはスライムの着地点に合わせて起動した二重がけプロードで、メイさんはあまりにも情け容赦のない《連唱》マシンガンで、可哀想なほど簡単に溶けていくスライムたち。

 ……そう、属性相性が良すぎるのだ。全属性を使える私と偵察後に呼んだジュンさんはともかく、イシュカさんのサブ属性である《氷魔術》が土属性の亀に刺さっている。

 それどころか、今回の主役であるメイさんがドヤ顔でスライムに属性有利を取っている。何しろこの人、メインが《火魔術》でサブが《風魔術》。つまり水属性で本人の弱点を取ろうとすると、サブウェポンの風で逆に弱点を突かれてしまうのだ。






「いやー、楽でよかったです。前のやつも見てたので、いったいどんな地獄が待っているものかと思ってましたけど」

「メイさん、フラグってご存知ですか?」

「ルヴィアさんがいつもへし折ってるやつでしょ?」

「清々しいなぁ、この子……」


〈まあお嬢だし……〉

〈イルマさん変な方向に感心してるぞ〉

〈*カナタのサブ:メイさんはいつもこうです〉

〈*明星の騎士団:本人もフラグにやられるオチ期待して言ってる節あるよね〉


 でも、確かにそうだ。ペトラさんの時はあれだけ苦労していたのに、属性の取り方が上手かったとはいえメイさんはご覧の有様だ。正直、拍子抜けという感覚は否めない。

 ……でも、相手は九津堂だ。どこかで必ず牙を剥いてくる。撮れ高的にそれを狙っているようにも見えるメイさんはともかく、私は警戒を強めておくべきだろう。


 例えば、ボス戦とか、ね。

DCOトッププレイヤー、軽率にorzしがち。


みんな「「「「「「…………」」」」」」

ルヴィア「やりませんからね?」

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『Dual Chronicle Online Another Side 〜異世界剣客の物語帳〜』

身内による本作サイドストーリーです。よろしければご一緒に。

『【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】』

こちら作者による別作となっております。合わせてお読みいただけると嬉しいです。


小説家になろう 勝手にランキング

― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! 初めての人やお久しぶりのブランさんなどを交えての攻略! 、、順調すぎません、、?嵐の前の静けさというかいやな予感がふつふつと、、、 安心と信頼の九十九堂クオリティですもん…
[一言] 何?何?お嬢のorz姿が見れる?行く!絶対見たい! ということでみんなに混ざって「・・・・・・・・・・・・・」
[良い点] サクサク攻略は見ている方も楽しいよね ボスには苦戦してほしいけど雑魚相手は無双してスカッとしたい感 [気になる点] 妖精族メタ…広範囲攻撃? 火山…広範囲攻撃…あっ…(察し) …もしかして…
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