100.魔法少女はくじけない!
〈ルヴィアの配信が開始しました〉
開幕、引きの絵面。空から緩めの角度をつけて見下ろされる幻夜界の広場。その中央には二人の少女が立っている。彼女たちが周囲からやや遠巻きにされているのは、この二人がちょっとした有名人だからだろうか。
視点はその二人へとズームしていく。やがて二人も、周囲の群衆もそれに気づいた。
〈はじまた〉
〈お?〉
〈珍しい画角〉
〈お嬢いないぞ〉
〈*リュカ:よし今だ! こんルヴィー!〉
〈こんルヴィ〉
〈こんルヴィ~〉
「これ、ルヴィアのよねえ。どうしたの? どうかしたの?」
「うーん……あっ、あれ!」
カメラが地上の高度となり、真横から少女たちを映した───瞬間。真上から何かが落ちてきた。
否、人が高速で着地してきた。……そんなことができるプレイヤーは、今のこの世界にはそう何人もいない。
「あ、ルヴィア、何して……何して?」
「グッドナイトにラブアロー! マジカルソード、グリッタリン!」
「……えっとぉ」
「魔法少女タイニー☆ルヴィア! この地に汚染はびこる限り、世界を浄化で癒します!」
〈…………〉
〈なにこれ?〉
〈まって理解が追いつかない〉
〈かわいいからヨシ!〉
〈畳み掛けてくるな……〉
〈*ホーネッツ:ルヴィアちゃん、バッチリだよ!〉
「……ルヴィア、どしたの今日」
「…………」
突如現れた魔法少女……私、ルヴィアは、懐から取り出した白く細い棒を口に咥えた。
「ねえルヴィア、なにそれ」
「シガレット」
「しれっと嘘つかないのお。魔法少女がロリポップ舐めても可愛いだけよぉ?」
〈かわいい〉
〈かわいい〉
〈最近お嬢かわいいよな〉
〈化けの皮剥がれてきてる〉
……黄昏れる振りくらいはさせてよ。
「もしかしたら知っている方もいるかもしれないんですけど、私の先日のアーカイブのコメント欄に、あるコメントが投稿されたんですよ」
「あ、このまま続けるんだ」
〈草〉
〈暴走天使がツッコミに回っている〉
〈お嬢が畳み掛けすぎて双子が大人しいの草〉
「私がキャラの真似をしたり悪役の演技をしてみたりしたところに言及して、『魔法少女とか似合いそう』と」
「あったわねえ。しかも伸びてた。賛同者もかなりいた? いたみたい?」
「それだけならよかったんですけどね。そのコメントを、よりにもよってホーネッツさんが見つけてしまいまして」
〈あっ……〉
〈ホネキめちゃくちゃフットワーク軽いからなぁ〉
〈やったのか〉
〈察した〉
〈*ホーネッツ:いぇい☆〉
〈本人おって草〉
〈GJ〉
まあ、そういうわけだ。私の知らないうちに魔法少女の衣装を仕立て上げて、さっき呼び出されたと思ったら、これだった。
あまりにもノリがいいものだから、敬意を込めて「ホネキ」なんて愛称が定着したホーネッツさん。彼女に体のサイズを握られてはならない。いやまあ、汎用装備はサイズなしでも作れちゃうんだけど。
「ちなみにステッキはクリヌキさんとエルジュちゃんの合作です。しれっと武器カテゴリなので、なんと普通に高性能な杖として使えます」
「露店組、特にホーネッツさんって時々悪ノリで暴走するわよねえ」
「見てる分には面白いよね。唯装が服系でよかったぁ」
〈なるほどなぁ〉
〈かわいそうに〉
〈すっかり知り合いたちのオモチャになってら〉
〈でも乗ってあげるお嬢やさしいよね〉
〈こんなことやるお嬢も大概なのでは?〉
「だって、やらないわけにはいかないじゃないですか。明らかに手間暇かかってそうなハイスペックすぎる一式を押しつけられて、何もせずにインベントリの奥に封印するなんて配信者としてダメじゃないですか」
「そういうプロ意識高い子なんですこの子」
「難儀よねえ。そういうとこが人気なんでしょうけど」
「私ももう18歳ですよ。魔法少女やるにはギリギリですよもう」
いくら顔色を変えずに演技や悪ノリができるとはいえ、私にだって羞恥心の一つや二つはある。大人になりかけの女子大生に魔法少女の自作口上などという代物は、ミニスカメイドで「お帰りなさいませ、ご主人様。にゃんにゃん♡」だとかやるのと同程度のメンタルダメージを伴うのだ。
……まだ始まってもいないのに疲れてきた。どうして。どうして私は配信者なんだろう。
「ところで、そのロリポップは?」
「コシネさんの試作品。砂糖が手に入ったらしくて、煮詰めて飴にしてみたんだって」
「……おいしい?」
「にがい……」
着替えました。
「さて、改めて。今日はフリューとルプストとも一緒にやっていきます」
「もっていうのはー」
「……そろそろいいですか?」
「今の一部始終、見てた人がいるからですね。はい」
〈うわぁ豪華面子〉
〈個人単位でのコラボってベータ初日以来?〉
〈こんニーソ〜!〉
〈3人合わせて登録者何万人いる?〉
物陰からぞろぞろ。おかしいな、集合時間まであと15分あるんだけどな。
そうして現れたのは、二組の配信者たち。すなわち、ブランさんとカナタさん、ハヤテちゃんだ。どちらも配信中だから、初めての3視点コラボとなる。
「それぞれの配信タイトルとサムネに示されている通り、ついに派生武器の解放条件が満たされました。というか、ルプストが見つけちゃって」
「同時に双剣も見つかったから、お誘いを受けて取りにいこうかなって」
そう、派生武器。バージョン1のスタート時点で公開されていた、条件を満たすことで特定の武器スキルから派生で獲得できるエクストラスキルだ。
現時点で公開されているのは、双剣と魔銃、そして鎌の3つ。このうち双剣と魔銃の習得方法が判明したのだ。
「だから、今日はそれを取りに行こうと思う。コラボ理由は前に話してた通りだね」
「万葉の時に私が双剣、ルプストさんが魔銃を欲しいという話をしていたので、私たちの方からお二人に声を掛けて、」
「私たちもちょうどよかったからぁ、一緒に行くことになったんだけどぉ?」
「これはちゃんと断っておくんだけど、断じて私が駄々をこねたわけじゃなくて、なんかノリでルヴィアも連れていこうって話になって」
「その話をルヴィアさんから聞いた私が、双剣欲しいしせっかくだからと相乗りしたんですよね」
「仲良いね君たち」
〈流れるようなリレーで草〉
〈目配せすらしないで繋ぐのなかよしすぎ〉
〈ハヤテちゃんこういうとこ要領いいよな〉
〈途中でしっかり釈明するフリューよ〉
〈暴走天使は暴走を隠さないし今回はガチっぽいな〉
フリューとルプストは万葉の時に司令部で一緒だったからか、《明星の騎士団》の面々とは私よりも距離感が近いんだよね。私と《明星》が交流している場面が限定的すぎるのもあるけど。
ちなみにハヤテちゃん、コラボに関しては本当に世渡りが上手い。それを頼りに業界トップまで登りつめた部分があるくらいには。界隈ではコラボクイーンとすら呼ばれるほどだけど、このDCOには今のところコラボ相手が少ないからね。今回のような機会はさすがに逃してこない。
突発的に発生した五人揃ってのバトンリレーだったけど、それぞれのキャラもしっかり出ているいい流れだったと思うよ。……一人だけ仲間外れになって寂しいなんて思ってないから。
「そういえば、鎌使いの志望者っていたっけ?」
「明言してる前線組は、ケイさんのところに一人いるよ。魔族のシャロンさん」
「でも確かに、他にはあまり聞きませんね。カジュアル勢にはいるのかもしれませんけど……」
「前線ではまだ一人かぁ。やっぱり双剣や魔銃とは差があるね」
「アレはなぁ……」
〈なぁ〉
〈さすがに中々出ないよ〉
〈*ケイ:シャロンさんアレ見てから槍の練習始めてたよ〉
〈鎌はなんであのタイミングで公開したんだってレベル〉
開幕前の生放送では4つの新規武器が公開されていたんだけど、この4つはそれぞれ違う性質を持っている。
双剣は単に片手剣からの派生で、これは派生系なだけで普通の武器扱い。魔銃は魔術系スキルの補助として扱われるマスタリー的な性質で、アーツがパッシブで固められているそうだ。
一方で鎌はというと、なんと複合武器だ。槍と斧の両方を修得してようやく獲得できるエクストラスキルで、今のところ細かい要件は不明。しかも斧はややマイナーな武器だから、そもそも狙っているプレイヤー自体が希少。私の知り合いだけでも何人かずついる前二つとは、さすがに状況に差がある。
最後のひとつはというと、鞭。これは派生ではなく新規武器だ。扱いが難しい上にピーキーな補助武器にしかならないから、私も使用者の話は聞いたことがない。
だんだんサブウェポンを用意しているプレイヤーも増えてきたけど、まだ大多数にとっては一つの武器の習熟とスキル上げで精一杯だからね。
さて。そろそろ本題に入ろう。
「今回はダンジョンではなく、街中でのクエストとなります」
〈ほう〉
〈珍しいな〉
〈お嬢のクエはダンジョンばっかりだったもんな〉
そう、今回はダンジョンではない。基本的には要求レベルが高いほどダンジョン率が高いんだけど、今回は発生さえしてしまえばイベントそのものではレベルを要求してこないからね。
向かうのは夜王都リベリスティアの郊外、路地にひっそりと建つ一軒の家だ。裏通りのさらに裏、どう考えても人が通りかかることはなさそうな外れの外れ。マップがなければ確実に迷うであろう場所に、クエストアイコンが鎮座ましましていた。
「というわけで着きました、ここですね」
「《ガンショップ・グリーティア》……こんなところに店?」
「魔銃、少なくとも王都では流行ってないわけねぇ?」
〈うわぁ……〉
〈ありがちなやつじゃん〉
〈知る人ぞ知る路地裏の名店〉
ルプストの言う通り、少なくともリベリスティアでは魔銃は流行っていない。一応活動が続いている住民の冒険者たちの中にも、魔銃使いは皆無といっていいくらいだ。
フィアさんとセレニアさんによると、二人の師匠の片割れは魔銃使いだそうだけど……その人は本来もっと奥地を拠点にしている存在だ。やはり王都には、魔銃自体がなかなか見当たらない。
この店だけのせいではないんだろうけど、他のガンショップはそもそもこの街にはなさそう。リベリスティアの冒険者は駆け出しばかりだという話だから、扱いづらい魔銃は人気がないのかも?
「ともかく、入ってみましょうか」
「ごめんくださーい」
〈率先して入りに行くハヤテちゃん健気〉
〈ハヤテちゃん張り切ってんね〉
〈さあて、何が出るか〉
「はーい」
「……いらっしゃい」
奥から聞こえてきたのは、二人の男性の声だった。どちらも若そうな声色ではあったけど、幻双界ではそもそもの肉体年齢がしばしば実年齢と一致しないから、年齢はわからない。
まず快活そうな、次にぼそぼそとした声。既に対象的な二人だが、どうやら片方がここのガンスミス。もう片方はおそらく、双剣を教えてくれる鍛冶師さんだろう。
それ以上は見てみないとわからない、後に続いて入店しようとした、その矢先。
「ひゃあっ!?」
……真っ先に入っていったハヤテちゃんの悲鳴が聞こえた。
エルジュ「あの口上、自分で考えたの?」
ルヴィア「ホーネッツさんが考えてくれると思います?」
エルジュ「あー……まあ、そっか。あの余計なことは考えない純真無垢な目にはルヴィアちゃんも抗えないよね……」
ルヴィア「あのひと、普段は頼れる大人なのに裁縫関連になるといきなり子供になりますから……」
エルジュ「……あれ、ってことは、タイニーって自分で?」
ルヴィア「…………」




