98.きゃわ洗とおろ洗を両方見られるのは今だけ!
Q.配信の一環で手伝うことになった友人のダンジョンアタックで、不足していたパーティメンバーを探したらどうなる?
A.配信者と今回の主役の共通の友人が飛んでくる
「わぁ、三人目の精霊志望者だ」
「むしろ一人目じゃない?」
「それもそうですね。……とりあえず、協力ありがと、ユナ」
「ううん、友達のためだし。それに、私も精霊王様の覚えをよくしておいて困ることはないからね」
〈ぶっちゃけるじゃん〉
〈精霊候補の間に絆が生まれている〉
〈まだ進化してないのに〉
今回のダンジョンアタック、初期状態だとさすがに構成が偏る。近接火力一人と、遠距離火力二人。ペトラさんもイシュカさんも攻撃魔術師だから仕方ないんだけど、さすがに三人だけで向かうのは怖い。
そういうわけで助っ人を募った。タンク一人、ヒーラー一人、あとできれば近距離火力がもう一人だ。
「そうして来てくれたのがこちら。ユナ、ゲンゴロウさん、そして……」
「皆様、お初にお目に掛かります。ルヴィア殿の方から御観覧の皆様は、此度で二度目となりましょうか。
『@プロジェクト』所属の電脳剣豪、大刀洗巴と申します」
そう、今回は最後の一枠に大刀洗巴ちゃんが来てくれていた。
プレイヤーレベルはわずかにハヤテちゃんに後れをとっているけど、巴ちゃんも戦力としては負けず劣らずだ。二人してVR適性がここまで高いとなると、おそらく両事務所ともにみんなで試して一番適性の高いひとを送り込んできたのだろう。
現在の二大Vtuber事務所である『電脳ファンタジア』と『@プロジェクト』には、配信コンテンツを流行らせたいDCO運営から一つずつソフトが贈られていた。公表こそされていないけど、公然の秘密だ。
「最初はペトラさんの近くから探したんですけど、《盃同盟》のリョウガさんとレイエルさんは別件があったので来られず。ヒーラーとタンクはすぐに捕まったんですけど、前衛はアルさんにも先約があって都合がつかなかったんですよ」
「それでルヴィアに任せて連れてきてもらうことにしたんだけど……まさか巴ちゃんを連れてくるとはね。ちょっと予想外だわ」
「意外と難しいんですよ、近接火力一人って。シルバさんとリュカさんは、片方だけ連れてくるのはあまり面白くありませんし」
〈さすがに実力順で消去法か〉
〈人気Vを連れてくるには不遜に見えるけど、事実だしな〉
〈巴ちゃんの配信開始通知はめっちゃ嬉しそうだったぞ〉
〈芸人だけ基準が面白さなの草〉
もちろん、今回は高難度コンテンツ。しっかり実力も鑑みている。
「配信を見ている方ならわかると思うんですけど、巴ちゃんはかなり強いですよ。レベルの問題で一昨日のAサーバーには来られませんでしたが、Bサーバーでこれでもかと無双していました」
「巴ちゃんとソラちゃんがルヴィアと一緒になれなかった腹いせで暴れ回るB鯖、申し訳ないけど面白かったから巴ちゃんのアーカイブはオススメよ」
「その節は無念でしたが、本日この場で御一緒できました。それで充分にござります」
……いい子だ。たまたま都合がついたソロ近接火力でしかないとは、言わずとも察してはいるだろうに。
思えば、前回もハヤテちゃんが一緒にいた。巴ちゃん、今度改めて二人きりでコラボしようね。
そんなわけで、今回は巴ちゃんと突発コラボしながらお送りします。
念のため実力の確認として、巴ちゃんをよく知らなかったらしいペトラさんに『@プロジェクト』の公式切り抜きを見せておく。巴ちゃんがオークの太くて狙いづらい首のクリティカルを、なんと10回連続で成功させて一撃で葬るシーンだ。
ちなみにこれは私でもほぼ無理。首周りにも装甲代わりの脂肪がついているオークの場合、狙う箇所だけでなく角度まで正確に要求されるのだ。
「ごめんね疑ったりして……めちゃくちゃ強いんだねあなた……」
「剣豪にござりますゆえ」
〈ドヤ洗だ〉
〈ふんす洗かわいい〉
〈ふーん、かわ洗じゃん〉
お互い悲しくも私といい勝負な胸を張る巴ちゃん。デビュー時にキャラ……箔付けとして与えられた剣豪の称号は、今や誰もが名実ともに認めるものとなっている。
ちなみに彼女、『愛いのう』に加えてもうひとつ代名詞のようなものがある。それが『○○洗』。巴ちゃんの様子などを縮めて当てはめ、スラングとして運用するのだ。
こういう持ちネタというか、固有のスラングのようなものをよく作り出しているのは『@プロジェクト』全体の傾向だ。配信活動そのものが茶番化するリスクもある諸刃の剣だけど、巴ちゃんの場合は鉄壁のRP能力で無理やり軌道を維持し続けている。力業である。
「とはいえ、今回は最上位層向けの高難度ですからね。巴ちゃんにとっては5レベルほど格上になるので、最初は慣らしながらにはなると思います」
「推奨30近いダンジョンだから、まだ25にも届いていない巴ちゃんは本当は適正外なんだけど……」
「私は推奨練度という概念は持ち合わせておりません故、問題ござりますまい」
「わあ、たのもしー……」
今回の舞台は幻夜界、王都リベリスティアのほど近く。特に住民によるクエストは発生していないんだけど、マナ様がいうには示された地点にダンジョンの入口がひっそりと存在しているらしい。
ダンジョン名を《宿り木の小路》というらしい、小さな領域だ。私がパワープレイで攻略した《荒れ果てた神宮》と道中の規模は同じくらいだから、万全を期すなら1パーティで攻略するくらいがちょうどいい場所だろう。
「最近の個別クエストではこういう場所がいくつもあるみたいですね。さすがに多いので、そのうち再利用されそうな気はしますけど」
「とはいえ、今回ほど露骨に隠しダンジョンっぽいところは逆に珍しいかも」
〈主役がカメラに近いのは当然として、イシュカはどこポジなんだ〉
〈準レギュラーの風格が〉
〈まあ今回ともう一回は同行確定だしな〉
最奥部に忘れ去られた唯装があるだけらしき、本当に小さなダンジョン……なんだけど、推奨レベルは30もあった。今の私がちょうど30だから、本当に最上位のトッププレイヤーでないと攻略できない代物だ。
とはいえ今回はそのトッププレイヤーが5人集まっている。残る一人もポテンシャルの塊だし、なんとかなるだろう。
「このくらいしか事前情報がないので、ここからしばらく雑談です」
「ぶっちゃけるね」
「無理やり話を繋ごうとするより面白いですからね。本来はMMOに移動時間はつきものですから、こういう時の雑談は必須スキルです」
「本来は、だな」
「私の場合、ソロの時は飛行のせいでそれが不要になっていますけど」
〈なのに雑談量はたいして減ってない不思議〉
〈お嬢は低難度だと探索中でも雑談するから……〉
〈最近までお嬢しか見てなかったからダンジョン内での雑談も普通だと思ってたわ〉
いや、それはまあ、仕方ないというか。なまじマルチタスクが得意な分、探索中でも話をできるのは私の利点といえる。さすがに戦闘中は黙るけど。
とにかく、ゲームのプレイ中に雑談を交えるスキルは配信者としては大事なものである。現に巴ちゃんは頷いている。
だからゲンゴロウさん、その物言いたげな目はやめて。あなたが言いたいことはわかるから。
何度も言うようだけど、それでも私はVtuberではないのだ。
《宿り木の小路》は小さなダンジョンだった。
DCOではダンジョンの入口の様子で内部の規模がおおよそわかる。今回はこれまでに見たどれよりも小さいものだった。
これならすぐに終わってしまうだろうか、なんて考えていた時期が私にもありました。
ドレインフラワー Lv.34
属性:土
状態:汚染
備考:《植物魔術》吸収
「お嬢、止めるぞ!」
「はい! ……巴ちゃん、今っ!」
「承知!!」
〈また止めた〉
〈さすがに慣れてきたか?〉
〈やっぱ植物使えないの痛いなぁ〉
〈当たり前に合わせてる巴ちゃんつっよ〉
ダンジョン突入から一時間。私たちは思いのほか苦戦していた。
ことは単純で、敵が強いのだ。単純なレベルやステータスもさることながら、行動も性質もいやらしい。そこらのゴブリンのレベルを上げたところで今の最前線勢は止まらないことを、デザイナーはよくわかっていらっしゃる。
この《ドレインフラワー》はその最たる初登場エネミーで、なんとHP吸収攻撃をしてくる。伸ばしてくるツルに捕まったら最後、トゲを刺されて一定量の体力を吸われるのだ。
もちろんその分だけ敵は回復するから、前衛の立ち回りとヘイト管理は非常に重要になる。……そのあたりが特に上手いゲンゴロウさんが来てくれてよかった。
しかもこいつ、このパーティの魔術師四人のうち三人が扱う《植物魔術》が全く効かない。メインウェポンのひとつとして運用している私と、回復以外の行動をこれに頼っているユナにとってはこれがなかなか厳しい。
それどころかこの花、攻撃か否かにかかわらず《植物魔術》を吸収してやはりHPを回復してくるのだ。このせいで《クリーパーヴァイン》や《スタンブルルート》のような行動阻害も使えず、戦闘の自由度が落ちてしまっている。
「ロア来るぞ! 後衛は隠れろ!」
「ああもう、また詠唱が間に合わない!」
〈噛み合わんな〉
〈もしかして恣意的?〉
〈ペトラの手数が封じられてるなぁ〉
極め付けには、攻撃の頻度がやたら高い。高頻度で《ソーラーロア》を、パーティ全員へそれぞれ向けて撃ってくるのだ。
私と巴ちゃんは避ければいいし、イシュカさんはこのくらい回避しつつのカウンターも可能だ。しかしペトラさんとユナはその都度ゲンゴロウさんの後ろに隠れなければならず、そのせいでペトラさんの射線が塞がって攻撃頻度が落ちていた。
「《植物魔術》はペトラさんも使いますからね。徹底的にペトラさんを対策しているような感じがします」
「特別なもののない小型ダンジョンってことも考えると、昨日そういう風に作られた可能性すらありそうね」
「《ワイルドペイン》! ……私も同意見、とにかくやりづらいし!」
その《ソーラーロア》の射線がズレたときに困るから、ペトラさんは得意の遠距離すら捨てて前衛のすぐ後ろにいる必要に迫られている。普段あまり使わない近距離戦向けの魔術を駆使してよく立ち回っているけど、息苦しそうな様子は明らかだった。
「……戦闘終了、全回復するね」
「ここにいるのがメイちゃんなら、ここまで苦労はしてないだろうなぁ」
「唯装って、そういうところあるんですよ。苦手分野を迫って所有者を試すというか」
「私の時も範囲攻撃まみれだったし、ユナの時は単体大ダメージばっかりだったみたいだものね」
〈やっぱりそうなんだ〉
〈フシギダナー〉
〈それを乗り越えてこそってことか〉
〈それか助けてくれる仲間を探せってことかね〉
〈お嬢とイシュカのせいで一部感覚狂ってない?〉
嘆くペトラさん。気持ちはわからなくもない、自分の得意に対策された上で苦手を要求されるのは本当に辛い。
あの時は無我夢中で死にゲーしていたから感覚が希薄だったけど、今にして思えば王都の祠を浄化した時の私もそうだった。パリィが効かない剣を相手にしながら、当時の私はまだAGIステータス任せだった移動を要求してきていた。
状況からしてさすがに私のそれは偶然では……と言いきれないのがDCOの怖いところなのだ。高難易度の時の九津堂は、本当に何をしてくるかわからない。
「たぶん今度のメイさんの時も、彼女の苦手分野詰め合わせセットみたいなダンジョンになるんでしょうね」
「……頑張ろうね、メイちゃん」
「待って。メイの苦手ってことは、それ私にとってもキツくならない?」
「あー、実質妖精二人パーティで妖精メタられたら軽く死ねそうだね」
「…………なんと申しますやら」
〈巴ちゃん困惑しとる〉
〈これが君が今後仲間入りする世界だぞ〉
〈汎用向けの素直な敵と戦って育った中級者、この壁に跳ね返されがち〉
そうなんだよね。同じ妖精族出身ということもあって、メイさんとイシュカさんは得手不得手がある程度似通っている。メイさんの唯装探索にもイシュカさんは参加するから、襲い来るであろう妖精メタを二人して受けることになってしまう。
イシュカさん、FXで有り金を溶かしたような顔になっていた。……器用だね?
そして巴ちゃん、ようこそ。これがDCO攻略上位勢の世界だ。私たちフロントランナーの前にはただ強いだけではない、厄介なギミックもあれば苦手を突かれることもあるハードな戦いの領域が待ち構えている。
それに跳ね除けられて上がって来られないプレイヤーも少なくないけど……でも、私は巴ちゃんなら大丈夫だと思っている。彼女の実力ならそのくらい乗り越えられるはずだ。
だから今は経験を積んで、どんどんレベルアップしていこう。皆で待っているからね。
「中堅勢と前線組の間には、実はいくつか大きな壁があります。ひとつは巴さんがたった今実感したような、前線組の対応力を前提とした難易度への慣れですね。
特に九津堂は『大半のプレイヤーには楽しんでもらえるよう門戸の広いつくりを』、『一部の常連には飽きさせないような歯応えある難易度での対話を』という明確な二面性を持っています。この間の海イベントの時にちらっと見えたのはそのあたりのものですよ」




