10.他人事アピールしても類友
「二人とも、消耗は?」
「大したことないよ。意外と楽だったし」
「やっぱり早期攻略推奨なのかしらねぇ。王都に着いただけじゃベータ終わらない気がしない? する?」
「どうなるかはともかく、確実に続くだろうね。道中にレイドボスは一体しかいないみたいだし」
〈ルプスト構文の新パターンだ〉
〈誰かまとめ頼む〉
〈ちゃんとメモってるから安心しな〉
〈ルプスト構文、奥が深い〉
ルプスト構文に沸くコメント欄は置いといて、ベータテストの行く末についてはなんとなく予想がついてきた。
マップを信じると、《世束》と王都の間にある街は二つ。今は二つ目の街、つまり進行方向に一つ街を残した状態だが、この時点で王都の直前に現れるレイドボスの情報が出ている。
つまり、王都に着くまでのレイドボスはおそらくその一体だけ。これはベータ全体と考えるにはさすがに少なすぎるし、脈絡もストーリーもない。いくらなんでもこれだけとは思えないのだ。
しかも私を含む一部のプレイヤーは、王都までの三分の一の行程を初日でクリアしている。体感だが、私たちのような全力で前に進んでいるプレイヤーを除いても、一番道路における一般層の推奨クリア時間はせいぜい二、三日くらい。
最初だけ進行が早いのはよくあることとはいえ、これはかなり早いと誰もが認識しただろう。一方で、ベータテストの予定期間は3〜4週間と発表されている。
結論。想像する限り、王都への到着はベータテスト、正式名称《バージョン0》の進行度にして半分以下と思われる。
「消耗が少ないならよかった。《クイックヒール》」
「ありがと、ルヴィア。メレーなのに《治癒術》取ってるの?」
「ソロだからね。ルプストはこれ」
「《及波》のマナポ? いいの?」
「早く街に行った方がいいのに、私の事情で付き合わせているんだから」
戦い方を見せる程度にはなるけど、二人にはこれから少しだけ狩りに付き合ってもらう。さっさと《及波》へ行った方が確実にいいのだから、ポーション一個相当の埋め合わせはむしろ少ないくらいだ。
本人たちは気にもしないだろうけれど、気持ちの問題なのだ。
この三人で組む時、あるいはミカンも入れて四人で組む時は私が前衛で火力役を務める。フルパーティなら他にもう二人いるから私は遊撃をできるのだけど、その二人は今回やりたいことがあるみたいで。
ということで、さっそくだけどレッツハント。
「《サモン・シールド》!」
〈止めた!〉
〈えっなにこれ〉
〈もしかしてタンク?〉
〈召喚術か〉
……なるほど。
フリューが右手の錫杖を振りながら手ぶらの左手を突き出すと、どうやら手のひらに《シュート・キャスト》。突然現れて握られた騎士盾が鹿の突進を受け止めた。
そしてその後ろで、ルプストが魔導書を開く。
「《シャドウバレット》」
闇属性初期魔術の《ポイント・キャスト》。黒い弾が鹿に当たって、目に見えて削れる。
……あ、低確率の状態異常が入ったね。鹿の頭から闇が離れなくなって、視覚が一定時間潰れる《目隠し》状態。タイトルによっては盲目とも呼ばれる。
こうなってしまえば隙だらけ。クリティカルを入れるのも簡単で、残りは私の魔術二発で落ちてくれた。
「《クリーパーヴァイン》」
「当然のように首を絞めてる……」
「クリティカルの多段ヒット扱いになるの、これ」
このゲームの魔術は自力で急所へ当てるとクリティカルが入るのだ。今のところ蔓の操作が難しすぎて、普通に動いている的の弱点にはなかなか当たらないけれど。
というか、フリューもフリューで特異なプレイスタイルで突っ込まれている。お互い様だ。
「ね、この子達おかしくない? おかしい?」
〈ルプスト構文の頻度が上がってる〉
〈まともなのルプストちゃんだけ?〉
〈ちなテスターだけど、魔族は物理種族だぞ〉
〈えっ〉
〈だってこの子魔導書を〉
「はい、魔族は物理アタッカーです。MNDはいいのですが、INTが伸びませんからね」
「魔法職向き種族は妖精と狐と天使だったよね」
「実はエルフも魔法系ステータスは高いですよ。あと猫」
「悪魔になった後のことを考えてるのよお」
一見まともに見えるルプストも、物理種族で魔法職をやる奇特な子である。ベータテストの段階から存在すら判明していない進化に賭けるなんて、それはそれで奇手だし。進化がハマれば大きいだろうけどね。
召喚術タンク、物理種族のキャスター、魔法剣士。改めて見るとひどい組み合わせだ。素直にヒーラーしているミカンが女神に思えてくる。……フラグではない。多分。
「……なんというか、そんなに手強くないわねえ」
「レベリングのし過ぎかな。ここで苦戦してる人はほとんど見かけないし」
「経験値の伸びもよくないし……切り上げよっか」
ちょっと予想以上に何事もなかったので、少し早いけどこのあたりで。フリューとルプストとも別れて、伸びたステータスとアーツを確認して終わりにしよう。
ルヴィア Lv.8
性別:女
種族:エルフ
属性:風
特殊:火属性取得不可(永続) 被火属性2倍(永続)
状態:
VIT:30
STR:65
AGI:66
DEX:66
INT:52
MND:50
種族スキル:《森林歩法》Lv.9 《植物魔術》Lv.7 《薬草看破》Lv.1 《鷹目》Lv.8
汎用スキル:《片手剣術》Lv.12 《パリィ》Lv.10 《回避》Lv.8 《風魔術》Lv.6 《治癒術》Lv.4 《索敵》Lv.9 《解体》Lv.10
レベルが1上がっていたので、パリィと魔術を意識して自由値を振っておく。VITは今は置いておこう。そうこうしているうちに他のステータスとは倍以上の差がついている。さすがエルフというべきか。
新しいアーツもいくつか開放されていた。こんな感じ。
○植物魔術
《リーフエッジ》
・鋭い葉を対象に向けて打ち出す。近くに植物がある環境下だと威力が上がる。
○風魔術
《アトモスロア》
・風の力が収束した発射攻撃を行う。吹き飛ばしの追加効果が入ることがある。
○解体
《効率解体(1)》
・パッシブ。一部アイテムのドロップ数が確率で増える(小)
魔術はどちらも攻撃系だった。まずは攻撃のレパートリーを、ということか。風は高威力の直線攻撃、いきなりピーキーながら高性能な術を与えられた植物はオーソドックスな攻撃術。
《解体》には新規パッシブ。一部……おそらく低レア素材アイテムの取得数増加だ。ただし確率。時々お肉が増えたりするのだろうか。当たればラッキー程度だと思うけど、狩りの効率は多少なりとも上がりそうだ。少なくとも、あって損はしない。
夜更かしせずともまだ時間はあるけれど……あまり最初から無理をしてもいいことはない。まだ疲労の残り方などもわからない段階だ、やりすぎて明日辛くなっても困る。
「では、大事を取って今日の配信はこのあたりで。たぶんまた妹がキャスしてるでしょうし、気が向いたらローカルで駄弁りますね」
〈やってるねー〉
〈さすがにわかったか〉
〈おつ〉
〈乙〉
〈おつでしたー〉
〈一日おつー〉
「大丈夫そうだったら明日も垂れ流しますのでよろしく。テスターの皆さんも、無理はしないでくださいね」
◆◇◆◇◆
『《デュアル・クロニクル・オンライン・ベータテスト》からログアウトしました。フルダイブモードを継続しますか?』
「うーん……継続。クラブハウス」
『バーチャルチャットルーム《VRクラブハウス》にダイブします』
一度ポータル空間に戻ってきて、ダイブを解除せずに移動。短時間でダイブと解除を繰り返すと負担がかかるらしく、それよりは潜りっぱなしの方がいいのだそうだ。
私は昔から人目を集めるタイプの人間だったけれど、性格もあってクラス皆と友達という柄ではなかった。気の合う少人数と親しくしながら、不利にならない程度にキャラを作って世渡りをするのが常だ。その一方で周囲から好意的には見られて、当の友人に「高嶺の花モード」だとか言われた時は思わず渋面を作りかけたけど。
そうこうしていると、自然と友人グループというものができてくる。私たちはそのグループの括りでVRアプリ《クラブハウス》を共有し、仮想空間に家を建てて集会所として利用していた。……と言いたいところだったんだけど、結局幼馴染以外のそれほどの友人はまだVRをあまり触っていないようで招けていない。
ローカルな仮想空間だから、一軒家を建てても元手はかからない。内装は自分たちで作る必要があるけど。
部屋番号のショートカットを選択してパスワードを打ち込むと、まずは転移ゲートが置かれたエントランスルームに出る。ここから隣の大部屋に出て待ち合わせ、という寸法だ。
……数分と経っていないのだが、紫音はもういた。ここに来るとは伝えていなかったのに。
「お姉ちゃんお疲れ様ー」
「早いね紫音……」
「たまたま約束しててね。途中からこっちで課題しながら駄弁ってた」
「当たり前のようにカメラ置くよね」
「こっちだけ映るようにねー。映したりしても悪いから」
紫音は仕事でロケ地を飛び回ることも多いせいで、普通にしていると高校の出席日数や授業量が足りなくなってしまう。そのため解説ノートと多めの課題を出し、私が教えるところまで前提として出席にボーナスを出す特別措置が取られているのだ。
学校側の想定でごく自然に私が組み込まれていることはもう仕方ないとして、それで好成績を出し続ける紫音も紫音だと思う。
テーブル中央から紫音の側だけを映すようにカメラが設置されていて、それが配信されていた。向かい側には共通の友人。
「ジュリアもお疲れ様」
「お疲れ様です、ルヴィアさん。格好よかったですよ」
この《クラブハウス》は私と紫音、ミカンにフリューにルプスト、そしてジュリアとその姉の七人が集まる場所だ。そのうち誰かが招待すれば他の人も入ることはできるし、たまに来る人もいるけど、新しく正式メンバーが増えるといったことは起こっていない。呼びたい人は少なくとも三人ほどいるんだけど。
「……それ、課題?」
「うん。お姉ちゃんの見ながら宿題配信」
「紫音ちゃんが応用問題でこんがらがっていたら、視聴者さんがコメントで教えてくれたみたいで」
「紫音がわからないレベルの問題を? 得なキャラだよね、我が妹ながら」
「それルヴィアさんが言うんですか……?」
なぜか胡乱げな目を向けてきたジュリアは無視して、私は掲示板を開いた。まだオープンベータテストとはいえ、MMOな上にVR。検証班も未成立だろうし、掲示板による情報共有は大切なファクターとなるだろう。
散逸や諸々の問題を避けるためか、公式が用意して主要なスレッドは管理もしているらしい。雑談板、攻略板、種族と職業の総合と個別、エトセトラ、エトセトラ……うん?
「ルヴィア嬢を見守るスレ……?」
「ああ、それね。なんか秒速で個人スレ立ってた」
「初日に見つけましたか……」
「配信の実況板は別にあるみたいだよ」
「確かにおかしなことではないか……ずいぶん前から色々言われてるし」
「民度はよかったけど、見るなら自己責任ね。ふつう自分で見るものじゃないし」
見たんだ、紫音。
「うーん……害にならない限りは関知しないけど、悪目立ちしないようにしてくださいね」
「認可でちゃった」
「そもそも準公認コンテンツともいえるし、止める理由もないから。荒れない限り」
「大事なところですね」
「これを見ている人も、下手な冷やかしはしないでくださいね。最悪アク禁とかされかねませんし」
見なかったことにした。まあ、何か問題があれば誰かから話がくるだろう。その話が私に届いた時点で致命傷だけど。
「公式掲示板自体がしっかり管理されてるみたいだけどねー」
「そうみたいで。放置して非公式が荒れるよりはいい、ということでしょうね」
「だとしたら、これが成功すれば主流の形になるのかな」
聞くに、野放しにすれば荒れ放題になりがちな掲示板だからこそ、管理処置はそれなりに厳しく施されているそうだ。野放しにしても周りが不快になるだけだし、それで良いのだろう。
書き込みはVRダイブ中またはAR接続中のみで、アドレスはVRアカウントと結びつけられて管理。非プレイヤーは一部スレッドでは自動的に「観戦者」と名前が分けられ、プレイヤーでも嘘になるハンドルネームは使えない。つまりなりすまし不可、例えば人間が獣人と騙ることもできない。
その上でセクハラや誹謗中傷、暴言などは文面と脳波測定の複合によって弾かれる。酷いとゲーム内でペナルティ、あるいは書き込み禁止。そのため脳波を充分に読み取れない初期モデルの骨董マシンはそもそも弾かれる徹底ぶりだ。
しかも情報提供の域を逸脱したネタバレも止められるらしい。これは境目が難しいから、GMが確認するそうだけど。というか普段から掲示板担当のGMが巡回している。本当になんでもありというか、九津堂らしいというか。
「私から情報提供することは……そんなに多くないか。配信中のことは実況班がやるだろうし」
「わあ丸投げ」
「思考入力ができるから配信の邪魔にはなりにくいけど、やりたがる人はいそうだもの」
喋りつつ各板に目を通していく。なるほど、確かに快適だ。1500人いることもあって、情報の集まりも早い。
ひととおり頭に入れたら、適当に喋って本当に今日はそこまで。また明日頑張ろう。
ようやく初日終了です。60000字……マジ…………?
次回は掲示板。一応飛ばしても問題なく読めるようにはするつもりです。
なお、明日から隔日投稿になります。掲示板が苦手な方は水曜日、大丈夫な方は明日またお会いしましょう。




