制服はアーティファクト?
クルトの店から屋敷に戻る際に一つ重要なことを忘れていたことに気付く。
それは、アサヒナ魔導具店の制服のことだ。店の店員なら同じ制服を着ていたほうが客が気付きやすいし、話し掛けやすいだろう。
そう考えた俺は早速制服のデザインを考えたのだが、結局良い案が思い浮かばず、最終的にはシックな濃紺で統一された執事服かメイド服にすることに決めた。
これは以前ビアンカに伝えたように、この王都でも上位の接客ができる店を目指したいと伝えたことも関係している。王城の使用人のように優れた接客で饗したいという心意気の表れだ。
因みに、最初は某コンビニで働く店員の制服が思い浮かんだのだが、あまりに理想とかけ離れ過ぎていて、すぐに考えを改めた。
屋敷に戻るとヘルミーナのほうも一段落したのか、リビングで寛いでいたのでクルトの店で起こったことを伝える。
「なるほどねぇ。ユリアン様がリーンハルト様のことを心配されるのは当然だし、ランベルト様もパトリック様のために新しく洋服を仕立てようとされているのも良く分かるけれど……。ハルト、アンタも気付いていると思うけれど、リーンハルト様だけでなくパトリック様の御用錬金術師でもあるんだから、リーンハルト様の洋服だけに耐性魔法の付与を行なうわけには行かないわよ?」
「えぇ。それくらいは察していますよ。しかも同じクルトの店で仕立てるのですから、ランベルト様にもその内今日のことは伝わるでしょうし(多分、ユリアン辺りからね)」
一通りの報告を終えた後、ベンノを始めとしたアサヒナ魔導具店の従業員用の制服を創造すると早速皆に支給した。ベンノとカイには執事服風の、ティニとビアンカにはメイド服風のものを用意したのだが、概ね皆の反応は良好なものだった。
「それにしても、何で執事服やメイド服なの? もしかして、アサヒナ男爵様のご趣味なのかしら?」
そんなことをティニが言ってきたのだが、俺の趣味などこれっぽっちも……。いや、趣味が入っていても五割程度だ。何もやましいことはない、はずだ。
「もちろん、そのような趣味が入っている、などということは少ししかないのでご心配なく。これは、王都でもトップクラスの接客でもてなすことを目指して、上級貴族の使用人をイメージした結果なのです。それと、もう一つ理由があるのですが……」
「その理由とは?」
今まで静かに話の成り行きを見守っていたベンノが、もう一つの理由に興味を示す。ただ、これを伝えて引かれないか少し気にしているのだが、ここで答えないわけにもいかないし、むしろ事情を説明して協力してもらわなければならないと感じていた。
「うん。もしかしたら既に見たかも知れないけど、うちの敷地内に貴族や富豪を招く為の迎賓館、つまりおもてなししたり、宿泊してもらったりするための施設を創ったんだけど、その中で働く人員が不足しそうでして……。もし、皆が良ければ、迎賓館を使う時に手伝ってもらえると助かるなぁ、と。そんなことを思って執事服やメイド服にしました。もちろん、その時は臨時報酬を出すし、強制するつもりはないですけどね」
「なるほどねぇ。私は特に問題ないかな。むしろ、アサヒナ男爵様と会った貴族たちがどんな顔するのか、ちょっと面白そうだし」
ティニがそんなことを言う。別に俺と会ったところで何も面白いことなどないと思うのだが……。
「ふむ、アサヒナ様が仰る通り、貴族との接客を行うことで、我々の接客レベルも高まるというものです。むしろ、私たちからもお願いしたいくらいです!」
ベンノがそう言うと皆も同意するように頷いた。正直、新たな人員を接待の為だけに雇うのは難しいと考えていたし、できることなら店舗のスタッフに手伝ってもらえたほうが人件費の面でも効率的だと考えていたから、俺としても本当に助かる。
「ありがとう! 皆が協力してくれると本当に助かります。実は、うちの屋敷の使用人たちが揃ってからになるんですが、国王陛下とそのご家族を迎賓館にお招きすることになりまして。皆には手間を掛けさせて申し訳ないですが、よろしくお願いします!」
「「「国王陛下をっ!?」」」
「あら、流石はアサヒナ男爵様ね! リーンハルト様やパトリック様だけでなく、国王陛下とそのご一家をお招きすることになるなんて、物凄く面白そうじゃない!」
ティニの口ぶりでは、やはり国王陛下とそのご家族まで招待するようなことは珍しいことのようだ。まぁ、何となくそうじゃないかと感じてはいたのだけれど……。
「あぁ、それから。この制服なんだけど、なくさないように気をつけてね。一応皆の安全を考えて、『物理無効』『魔法無効』『状態異常無効』『即死無効』『疲労耐性』『全属性耐性』『病気耐性』『腐食耐性』の魔法を付与してある特別製なので」
「「「「えぇ!?」」」」
「まぁ、リーンハルト様とパトリック様の服にも付与する魔法の練習で創ってみたものです。でも、効果は本物ですから、きっと皆の身を守ることに繋がるはずです」
「それって、アサヒナ男爵様が先ほどヘルミーナ店長に報告されていた、シュプリンガー伯爵様が仰っていたという『アーティファクト』……。伝説の遺物級、ということですか? この執事服が……!?」
カイが驚いたように手元の執事服を見つめていた。まぁ、その通りなんだけど。
「こんな凄い制服、他の人にバレたりしたら盗まれてしまいますよ! アサヒナ男爵様、こんな制服受け取れません!」
ビアンカがそう言ってメイド服を俺の前に突き返そうとする。皆がここまで戸惑う事態になるとは考えていなかったので、むしろ俺が戸惑ってしまったのだが、ヘルミーナの一言で救われた。
「仕方がないわよね。ハルト、皆の制服だけど、そこの『時計』と同じように、この店の者以外が触れると一日痺れて動けなくすればいいんじゃない? それに、外に持ち出すと防犯ベルが鳴って檻の仕掛けが作動するようにしておけば安全じゃないかしら?」
ふむ。確かにそれもありだと思うが、あれはあくまで『時計が店の中にある』ことが前提の対策だ。従業員の皆は制服のまま店の外へ出かけることが考えられる。また、無いとは思うが、従業員が外に持ち出す、といった事態も考慮したほうが良いのかも……。そうだ!
「ヘルミーナさんからご提案頂いた通り、『時計』と同じように、この店の者以外が触れると一日痺れて動けなくなり、また外に持ち出すと防犯ベルが鳴って檻の仕掛けが作動するようにします。加えて、先ほどの魔法付与の効果は本人以外には効果が発動しないようにしておきましょう。そうとなれば、本人以外にはただの執事服とメイド服としての価値しかありませんから」
「確かに、それなら本人以外にはただ『痺れる』だけの執事服とメイド服、ということになるわね」
この提案に皆も納得してくれたので早速皆の制服に処置を施した。
それならばと、ようやくベンノたちも制服を受け取ってくれたのだが、その受け取る様子は国王陛下から褒美を賜る臣下のように恭しいものだった。
その後、屋敷へ戻った俺たちはヘルミーナの前で、アメリアたちが選んだ服を着せ替え人形のように試着させられ、アメリアが選んだ服が貴族みたいだとか、カミラが選んだワンピースが凄く似合うとか、セラフィの選んだ服がカッコいい等々、色んなご意見を頂きながらの一人ファッションショーを行うことになったのだった。
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