おっさんの正体
世界神のオフィスに入ってきたのは、俺がマギシュエルデに転生する時に色々と世話になった輪廻神と機会神だった。
二人とも見た目は相も変わらず、輪廻神は濃いグレーのスーツに身を包み、七三分けに眼鏡という出で立ちで、機会神も無地のポロシャツに茶髪の頭、ついでに今日も爽やかなイケメンだった。
だが、ここ最近はどこか中世ヨーロッパのようなマギシュエルデ暮らしが続いていたからか、生前はよく見かけた彼らのファッションにもどこか懐かしさを感じる。
「ご無沙汰しております、輪廻神様、機会神様」
「うむ、だが挨拶は後だ。世界神、いやスルーズ。先ほどの爆音は一体何だ?」
「そうだよ、世界神。奥にある私の執務室にまで大きな音と振動が伝わってきたんだ。ちゃんと説明してくれるかな?」
挨拶もすっ飛ばして、先ほど起こった爆発について輪廻神と機会神から世界神に対して質問(というか、詰問)が始まったのだが、世界神はしどろもどろになりながら答えたのだが……。
「バ、バクハツ、デスカ? イッタイナンノコトデショウ……?」
げっ……!? この世界神、もしかして今、誤魔化した……!?
あろうことか、神様である世界神が先ほどのやり取り、セラフィを煽って全力の攻撃を受け、弾き飛ばしたことを誤魔化したのだ。
眷族の俺としてはこのまま世界神が嘘をついたままになるのは得策では無いと思い、ひとまず先ほどまでに起こったこと全てを輪廻神と機会神に共有することにした。
いや、正直に言おう。俺は少し怒っていたのだ。
突然セラフィをアイテムボックスから出したり、セラフィを煽るような真似をしたり、セラフィの攻撃によるものとはいえ、セラフィを傷つけることになったりと、いくら俺の上司とはいえ、やって良いことと悪いことがあるはずだ。
「はい! 世界神様が、私の従者であるセラフィの実力を確かめる為に、セラフィを煽って全力で世界神様に攻撃させるように仕向けた結果、怒ったセラフィの全力による攻撃により、爆発が起こりました!」
俺はすかさず手を挙げると、今回起こったことの顛末を全て、包み隠さず、輪廻神と機会神に報告した。
「ちょ、ちょっと、ハルト様、そこはしー、しーなのです! そこは内緒のしー、なのですよ!」
世界神が慌てて俺の口を防いだのだが、もはや手遅れだ。俺の報告を聞いた二人の神が世界神に詰め寄った。
「やはりスルーズ、君だったか。どうせ、そこにいる朝比奈君の従者の能力を確かめようとしたのだろうが、それにしては朝比奈君と従者への説明が足りていなかったようだな」
「そうですね、これでは朝比奈さんが世界神に対して不信感をお持ちになられても仕方がありませんよ。ちゃんと朝比奈さんと従者に対して謝罪したほうが良いと思いますよ」
「ううっ。確かにお二人の仰る通り説明ができておりませんでした……。私は、ただハルト様の身を守る従者の実力を確かめたくて、それで……。ハルト様、セラフィ、突然あんなことをしてしまい、申し訳ありません!」
世界神は俺とセラフィのほうに向いて、腰を折って謝った。
理由を聞いてなるほどとは思ったものの、どうするべきかと視線をセラフィに向けると、セラフィは一つ頷いて口を開いた。
「主様の上司、それに母上ならば、主様の従者たる私の実力を確かめられるのは至極当然。それに既に傷付いたところも治癒して頂きましたし、私は納得致しました。主様はいかがですか?」
ふむ、セラフィが納得しているのならば、それで良いのかもしれない。
俺の怒りはセラフィの為だ。セラフィが納得したのならこれ以上どうこう言うことはない。
「セラフィがそう言うのなら私からも特にありません。ただ、何をするにせよ、今後は行動される前にちゃんとご説明頂きたいと思います。突然このようなことをされては、こちらも驚きますので……」
一応、世界神に釘を刺しておく。また同じようなことが起こされても困る。
「はい、本当に申し訳ありません! でも、ハルト様の従者、セラフィの実力は良く分りました。セラフィならば、マギシュエルデの者たちに負けることはないでしょう。ハルト様をしっかりとお守りするのですよ、セラフィ」
「はっ、この身に代えましても!」
ふむ、セラフィの実力は鑑定眼で見た感じでは能力SSとあったが、やはりマギシュエルデでも最強ということなのだろう。そうなると、俺自身の能力も気になってくるんだが……。
「あの、世界神様。私も私自身の能力を知りたいのですが、どうやら鑑定の魔眼では私自身を鑑定できないようでして。何か他に良い方法はないのでしょうか?」
そう世界神に相談したのだが、色よい返事をもらえなかった。
「そうですね……。ハルト様ご自身の能力を知る方法は、あります。ただ、今はまだその時ではないとお祖父様から言われていまして、お伝えすることができないのです」
世界神の話を聞いて気になったのだが、世界神の祖父が能力を見る方法を俺に教えるのを止めるように指示している、ということらしいのだが……。世界神の祖父って……?
「……お祖父様、ですか?」
「うむ。その件については私から説明しよう。世界神、スルーズは『創造神様』の孫娘なのだ。創造神様は世界神を立派な上級神に育て上げるため、様々な試練を与えられている。その一環として朝比奈君へのステータス開示も制限されている、ということだ」
なるほど、世界神の神格を上げるための試練の一環か。
確かにステータスを見れないことで何ができるのか分からないから結構手探りで対応しなければならないことが多く、世界神の管理するマギシュエルデに何れ訪れるという試練に対応する際に多少のハンデにはなっているように思う。
「わかりました。世界神様の成長のため、ということでしたら仕方がありませんね」
「それに、朝比奈さんは既に創造神様とお会いされていると聞いています。その時にも同じようなお話をされていたとのことですが、覚えていらっしゃいませんか?」
「えっ!?」
突然、機会神がそんなことを言ってきたのだが、創造神などという神様の頂点に立つ方とお会いする機会なんてあっただろうか。
そもそも神界にきたことだって、転生前と初めて神殿にきたときくらいだし、大体世界神と輪廻神、それに機会神以外に会ったことなんて……。うん?
「あのぅ、もしかして創造神様って白髪で、顎まで髭を蓄えた、壮年の男性でしょうか……?」
恐る恐る機会神に確認すると、機会神だけでなく、輪廻神と世界神の三人とも大きく頷いて肯定した。
ということはだ。
つまり、あの時出会った『おっさん』こそ、創造神様だったということになる……。確か、あの時ずっと心の中でおっさん呼ばわりしていたはずで、そのことを思い出すと急に冷や汗をかき始める。
「まぁ、お祖父様はハルト様に期待されている様子でしたし、特にお咎めもないと思いますよ?」
「は、はぁ。それなら良いのですが……」
俺の心を読み取った世界神からフォローが入ったのだが、本当に大丈夫なのだろうか。まぁ、あんまり考えても仕方がないかもしれないが……。
そんなことを考えていると、改まった様子で機会神が俺に話し掛けてきた。
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