久々の神殿、ハルトの失念
ハインツ一家の受け入れができるように、倉庫の隣にハインツ一家用の一軒家を建て終えた俺は、アメリアとカミラ、それにセラフィの四人で久々に神殿までやってきた。因みに、セラフィは俺のアイテムボックスの中で待機中だ。
「何だかここに来るのも久しぶりですね」
この前来たのはつい最近のことだったはずだけど、あれから何ヶ月も経っているような錯覚に陥るのは、ずっと忙しかったせいか、それとも、ここ最近の出来事が濃過ぎる内容だったせいか……。
そんなことを呟くと、アメリアとカミラからも同じような意見が出る。
「確かにね。前に来たのはまだヘルミーナと出会う前だったし、それからの起こったことを考えれば、仕方ないさ!」
「そういえば、ハルト中心の生活になってから、今までよりも時間が早く過ぎていく感覚。どうして?」
「それはさ、きっとハルトと一緒にいるからだと思う。何せ、ハルトと一緒にいるだけで、想像もしていなかったことが起こり過ぎるんだ。実際の時間以上に充実した時間を過ごしているせいだと思うよ」
「確かに! 今までの人生では想像もしなかったことがハルトの周りで起こり過ぎている。お城に行ったり、王子様に会ったり、それに王様や王妃様にまで会って、しかもハルトが貴族になって。それに私たちも巻き込まれて……。でも、不思議とそれが楽しくて、充実してるような……?」
「そうそう、カミラの言う通りさ! 確かに、私たちがハルトと一緒に生活するようになってから色んなことが起こったけれど、それで大変な目にあったりしているわけでもない。むしろ、以前の冒険者生活よりも充実した毎日を過ごせていると思う。まるで、ハルトと出会ってから幸せになったと思わないか!?」
「もしかして、ハルトと一緒にいると幸せになれる!? アメリアが言ったことが本当なら、凄いことだと思う!」
何やら二人で意気投合しているみたいだったけど、確かに俺の周りで色々なことが起こっている事実は否定できないし、それに皆を巻き込んでいるかも知れないというのも多少は俺も感じていたのだが、意外と二人はそれを楽しんでいるらしい。
それにしても、人をまるで幸運の置物のように言うけれど、これってまさか、世界神の眷族パワーによるものなのだろうか……? とりあえず、この件も世界神に確認することにしよう。
今日世界神に確認することを頭の中でアジェンダにまとめる。
まずは上司である世界神への状況報告からだ。報告内容を簡単にまとめると……。
・人間族と半妖精族の仲間ができた。
・アルターヴァルト王国のアルトヒューゲルに拠点となる屋敷を構えた。
・アルターヴァルト王国の貴族になった。
・三月、いや二月ほど後にヴェスティア獣王国に行く予定。
・あわよくば、そこで獣人族の仲間を見つける予定。
こんなところだろうか。この世界マギシュエルデにきてからまだ日が浅い割には、それなりの成果を出せているのではないかと思う。
さて、続けて俺の身体と能力の件について世界神に確認したい。
何故、十歳児の股間にエクスカリバーを装着させたのか。まぁ、立派な物を頂けたのはありがたいが、顔に似合わず、いや年齢に似合わない物は余計な混乱を招くので控えてもらいたい、とご注進したい。
それから、前回神殿にきた際にはおっさんからは自分の能力について知らないほうが良いと言われたが、鑑定眼や創造以外についてヒントがもらえるなら教えてもらいたいところだ。
ひとまず、現状確認すべき点はそんなところだろう。洗い出した項目のことを考えながら、受付にいた女性に話し掛けた。
「すみません。礼拝に来たのですが、今から大丈夫でしょうか?」
「はい、少々お待ち下さい……!?」
そう話した受付の女性の様子がおかしい。
何か驚いた様子で俺たちのことを見ると、慌てて神殿の奥にいた赤髪の男性神官を連れてやってきた。確かこの男は……。
赤髪の男が俺の前まで歩み寄ると、爽やかな笑顔で話し掛けてきた。
「これは……。アサヒナ様。ようこそ、お越し下さいました。本日は当神殿にどのようなご用件で?」
「はい、礼拝に来ました。先ほど、受付の女性にもそうお伝えしたのですが、何故か対応頂けなくて……。何かありましたか?」
「…………」
そう伝えると、赤髪の男は少しの間言葉を失ったように黙っていたが、すぐに俺と俺の後ろに控えていたアメリアとカミラに向かって話し掛けた。
「アサヒナ様、失礼致しました。こちらの神殿は平民が主に利用する神殿、世間では『小神殿』と言われております。貴族であるアサヒナ男爵におかれましては、貴族街にあります『大神殿』をご利用頂いたほうがよろしいかと」
「「「あっ!」」」
そう、すっかり忘れていたのだが、この王都には神殿が二つある。平民が利用する『小神殿』と、貴族や王族が利用する『大神殿』だ。今回俺たちがきたのは前回も訪れた小神殿だったのだが、前回と違い、俺は貴族になっていた。で、あれば。大神殿に向かわなければならなかったのだが、つい小神殿のほうに足が向いてしまったのだ。
赤髪の男が更に続ける。
「全く、アメリア姉さんたちも、もっとしっかりしないと。貴族になられたとはいえ、アサヒナ男爵様はまだ幼いんだから」
「うぅ、そうだな……。ハルト、気づけなくてゴメン!」
「私もうっかりしてた。ごめんね、ハルト……」
「い、いえ、アメリアさんもカミラさんも、気にしないでください。私も貴族になった自覚がまだ足りていないんだと思います……。アルニムさん、ご指摘ありがとうございます」
そう、思い出した。この赤毛の男はアメリアの弟で、名はフリッツ・アルニムと言う、この小神殿に勤める若手の神官だった。
「いえ、こちらこそ、受付の者が失礼致しました。あまりこちらの神殿には貴族様はこられませんので、少々取り乱したようです。しかも、それが噂のアサヒナ男爵様だったので余計でしょう」
「う、噂ですか?」
フリッツがにこやかに口を開く。
「はい、アサヒナ男爵様のことは神殿だけでなく王都全体で噂になっているようですよ? 皆、この度新たに誕生した男爵家に興味津々なのでしょう」
「因みに、どんな噂なんでしょうか……?」
「はい、そうですね……。最年少の男爵様は大変容姿に優れておいでで、錬金術師としてもリーンハルト殿下とパトリック殿下のお二人からの信頼も厚く、御用錬金術師に指定され、大変優れた効果の回復薬を平民たちに無料で配られたこともある、気前の良い貴族様である、などでしょうか」
「なるほど……」
一つ目の噂は、最近王城に行く際には王族に失礼が無いよう、認識阻害魔法を掛けていないことが原因だと思う。謁見の間で爵位を授かった時に俺の顔を見た貴族たちからそういった噂が出たのだろう。
二つ目の噂は、リーンハルトとパトリックの二人との件については、彼らの御用錬金術師になった時点で、そういう話が出ていても不思議ではない。
三つ目は間違い無くハーゲンと出会ったときのことだと思う。俺自身は別に気前が良いつもりは無いのだが、それでも周りからはそう捉えられたようだ。
まぁ、人の噂も何とやら、だ。時間が経てばそういう話もそのうち消えて無くなるだろう。
「それで、フリッツさん。今日は礼拝を行いにきたのですが、別に貴族だからといってこちらの小神殿でできないわけではないんですよね?」
「そうですね、それは特に問題ありません。それでは、早速礼拝堂に向かわれますか?」
「はい、お願いします!」
やっぱり貴族になってから面倒ごとが増えている気がするのだが、これは気のせいではないはずだ……。それはともかく、ようやく小神殿の礼拝堂に向かえることになった。
いよいよ、上司である世界神への進捗報告だ。
俺は少しだけ緊張しながら、礼拝堂へと足を運ぶことにした。
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