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屋敷へ帰宅、事情説明

 俺たちはまず店舗の方に顔を出すことにした。ビアンカとカイの引っ越しが無事に完了したのか気になっていたからだ。早速、扉を開けて帰宅を知らせる。


「ただいま戻りました!」


 すると階段の奥からパタパタと階段を駆け下りる二つの足音が聞こえると、直ぐにビアンカとカイの二人が一階の店舗フロアまで来てくれた。


「「お帰りなさいませ!!」」


「ただいま。二人とも、引っ越しは無事に終わったのかな?」


「「はい! 今日からお世話になります!」」


「ヘルミーナさんやセラフィに二人の引っ越しを手伝うように伝えていたんだけど、その様子だと二人の役に立ったみたいだね」


 そう言うと、二人とも大きく頷いた。ヘルミーナとセラフィは随分頑張ってくれたようで、引っ越しの様子をビアンカとカイが話してくれた。


「はい、ヘルミーナ店長のおかげで部屋の間取りに合わせてベッドやテーブルの位置も悩まずに配置することができたので、本当に助かりました!」


「それに、セラフィさんは凄い力持ちで……。私たちの荷物を簡単に持ち上げて、三階まで運んで頂きました。あんなに細い腕なのに、世の中には凄い人がおられるんですね!」


 ヘルミーナは間取りに合わせた家具の配置で手伝ったようだ。何とも彼女らしい、そんな気がする。


 そして、セラフィは……。能力SSを如何なく発揮し、その力で家具を運んだ、ということなのだろう。まぁ、能力の無駄遣い、いや適材適所といったところか。まぁ、間違い無くこの世界最強の力の持ち主だと思う……。


「そうですか、二人ともお疲れ様でした。これからの寮生活で何か気になることがあったら、直ぐに知らせてください。従業員の働きやすさはどんどん改善していきたいですからね」


「「ありがとうございます!」」


「それで、ヘルミーナさんとセラフィは屋敷に戻っているのかな?」


「はい、お二人ともお屋敷の方に戻られています。確か、六時課の鐘の頃に、王城からヘルミーナ店長宛に手紙が届きまして、その後慌てた様子で屋敷に戻られましたが……。何かあったのでしょうか?」


 ビアンカが不思議そうな顔をして俺に問いかけてきたが、恐らくその手紙は俺の陞爵についての報告だろう。だが、その内容を今二人に話すのも気が引けたのではぐらかすことにした。こういうことは店員全員が集まる二日後に説明したほうがいいと思ったからだ。まぁ、問題を先送りしただけとも言うけれど。


「ともかく、お疲れ様でした。魔導具店の開店までまだ暫く時間はありますが、それまでこちらの寮生活に慣れてもらえればと思います。もし、何かありましたら、屋敷のほうにいますのでいつでも訪ねてくださいね」


「「はい、ありがとうございます!」」


 二人の元気の良い返事を聞いて気持ちが軽くなったところで、俺たちは店舗から屋敷のほうへと向かう。


 そういえば、屋敷の門前に警備兵用の小屋を用意しなければいけないのと、ハインツ一家が暮らす場所を用意しなければいけないことを思い出した。今の屋敷に使用人用の部屋は四つしかない。

 家令兼執事のラルフ、家政婦長のアルマ、使用人のリーザとリーゼ、それにヴィルマと五人とハインツ一家の八人を採用することになったのだが、ハインツ一家を別々に住まわせるのも何だか申し訳ない。


 それなら、ハインツ一家用に別途一軒家を魔導具店の倉庫の隣に建てて、そこに住んでもらったほうがいい。そして、使用人の部屋はラルフとアルマにヴィルマ、そしてリーザとリーゼで使用してもらおう。


 リーザとリーゼには申し訳ないけれど二人一部屋で暮らしてもらうことになるが、これは当初の条件通りなので、許容して貰うしかない。


 そんなことを考えながら、早速警備小屋を屋敷の門の隣に併設する形で用意する。門に用意したインターホンを使うとこの小屋と屋敷の玄関に繋がり、この小屋にあるインターホンから、屋敷の各部屋に繋がるという形にしようと思う。一応、カメラ付きで相手の顔が分かるものだ。


 小屋自体は平屋で、受付の窓口と机と椅子、それから奥に仮眠室を用意した簡素なものだ。


「創造『警備小屋』!」


 もはや創造も手慣れたもので、直ぐに門に併設される形で警備兵用の小屋が用意された。因みに空調設備やトイレ等の設備は完備されている。


「さて、続けてハインツさんご家族の住まいも用意しましょうか!」


 そう口に出すと、突然アメリアとカミラの二人に腕を掴まれてしまう。一体、なんでそんなことをするのか分からなかったが、カミラの一言で理解した。


「一日に何度も錬金術を使うと、ハルトがまた倒れる。今日はここまで。また明日にした方が良い」

 

「そうだぞ。今日ハルトは既に王様の依頼で魔導具を二つ創っているんだし、さっきも小さいけれど、小屋を創ったばっかりじゃないか。それに、ハインツさんたちがここに引っ越して来るまでまだ時間もあるんだし、明日にしても問題ないだろ?」


 そう二人からそう言われると、確かに気が急いていたのかも知れないという気がしてきた。それにまた気を失って皆に迷惑を掛けるのも気が引ける。


「確かに、そうですね。今日は色々あったからか、気持ちが昂ぶっていたようです。カミラさん、アメリアさん。お気遣い頂きありがとうございます」


「気にしない。私たちは仲間、そしてアサヒナ男爵様の忠実な家臣!」


「その通り、男爵様に何かあってはいけませんから! 家臣として当然のことをしたまでです……。っぷ、あははは! やっぱり、何だかハルトが貴族で、私たちが家臣って、何だか変というか、まだ慣れないなぁ」


「もう、あんまりからかわないで下さいよ。でも、アメリアさんの言う通り、まだ私も慣れないですけどね。まぁ、少しずつ慣れてくるんでしょうけれどね。さぁ、それでは早く屋敷に戻りましょうか」


 そんな風に二人と笑いながら屋敷の扉の前まで帰ってきたので、早速扉を開ける。


「ただいま戻りました!」


 すると、階段をドドドっと駆け下りる足音が聞こえてきた。といっても、先ほどのビアンカとカイのように可愛らしいものではないが。物凄い勢いで階段を下りたせいか、ヘルミーナが肩で息をしながらこちらに向かってくると、その後ろには涼しい顔をして付いて来るセラフィの姿があった。


「ヘルミーナさん、セラフィただ今もど「ちょっとハルト! 王城からハルトが新らたな貴族になったって御触れが届いたんだけど、一体何をしたのよ!?」りました……。って、はい。色々ありまして、今日から男爵になりましたけど、何か問題がありましたか?」


「アンタねぇ……。今日は、この前リーンハルト殿下とパトリック殿下に魔導カード『神の試練』を献上したその褒美として、この屋敷の使用人候補との顔合わせに行ったんでしょう? それが、一体何がどうなると貴族になるわけ!? もちろん、ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」



 そんな風にヘルミーナから問いただされたので、魔導具を創った経緯や陞爵までの流れを一つずつ答えていったのだが、その度にヘルミーナの顔が赤くなったり青くなったり、最後には真っ白に燃え尽きたどこかのボクサーのようにへたり込んだ。


「……そんなわけで、報酬として白金板一枚と……。その貴族に、男爵に陞爵されることになりました。あの、何だかすみません……」


「はぁ、もういいわよ。確かに、国王陛下からの依頼なんて普通はありえないほど光栄なことだもの。それを断るなんてこと、普通はできないわね。ただ、その場で錬金術を使うとか、本当にありえないんだけど……。それにしても、白金板三枚の価値もある魔導具なんて、私も見てみたかったわ」


「あっ、それならすぐにできますよ。創造『掛け時計』」


 どうせ、店にも屋敷にも必要になる物だったから、この際幾つか用意しておいたほうが良いだろう。


 店や屋敷に備え付けるなら、皆が見やすい方が便利そうだったので、置き時計ではなく壁や柱に掛けられる掛け時計を創ることにした。基本的な機能はゴットフリートに献上したものと同じだが、装飾はより簡素に、仕掛けの意匠も人間族と獣人族から二匹の猫に変更している。


 光の柱が収束してくると、その中には店と屋敷のリビング用にと用意した、二つの掛け時計が姿を表した。


「ヘルミーナさん、できました! こんな感じの魔導具です。時を計ることができる魔導具ですから、その名も『時計』と言うのですが、どうです、中々良い出来でしょう?」


「はぁ……。王城でどんなことが起こったのか、今ので大体分かったわ……。アメリアとカミラも大変だったわね」


 ヘルミーナはため息をつきながらそんなことを言ったのだが、今ので一体何が分かったというのだろうか。


 それはともかく、ヘルミーナの労いの言葉にアメリアとカミラが応える。


「まぁ、確かに大変だったし、驚いたけどさ。でも、ハルトのことが王様からも評価されたんだ。それが何より嬉しいよ! それに、私たちはアサヒナ男爵家の家臣になったわけだし、これからもハルトを支えるつもりさ!」


「アメリアの言う通り! ハルトが王様から認められたことが嬉しい。ハルトが貴族になって、これから大変かもしれない。だから、私もアサヒナ男爵家の家臣としてハルトを守る!」


 アメリアとカミラの二人からそう言われると少し恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが入り混じり、柄にも無く照れてしまう。


「全く二人とも、相変わらずハルトに対して甘いんだから……。まぁ、今回の陞爵の御触れには確かに驚いたけれど、別にそれを責めているだけではないの。……陞爵おめでとう、ハルト。私に何ができるか分からないけれど、ハルトのことを支えられるように私も精一杯頑張るから!」


「主様、この度の陞爵、誠におめでとうございます! 私も主様の家臣として、主様をお守り致します!」


 ヘルミーナとセラフィの二人も今回の陞爵を祝福してくれた。


 特に、今回の一件についてヘルミーナがどう思っているのか気になっていたので、祝福してくれたのが素直に嬉しい。


「皆さん、ありがとうございます! この度国王陛下より男爵の爵位を賜りましたが、国王陛下からはこれまで通り、錬金術師と冒険者を続けても良いと言われています。それに、私も貴族になったからといって何か変わるつもりもありません。これまで通りのハルト・アサヒナでいたいと思います。これからも、よろしくお願いします!」


 そう宣言したのだが、一介の錬金術師や冒険者という立場から貴族に変わるということの重大さについて、このときは気づくことができなかった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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