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蒼紅の魔剣

 カミラが困っている俺を見ながら呟いた。


「ん。王都の図書館なら、エルフの情報も多く残っているはず。もしかすると、姿を変化させたり、隠したりするような魔法や魔導具の情報があるかもしれない」


 おおっ、確かにそんな魔法とか魔導具もこの世界ならあっても不思議じゃないな。俺に魔法が使えるのかわからないが、魔導具なら錬金術で作り出すことができるかもしれないし。


 でも王都までどうやって行くのか、問題は解決していない。


「ハルトは私たちと一緒に王都にくるといい」


 そういってカミラが俺を抱き上げた。


 それほど力があるように見えないが、それでも十歳児を抱き上げるとはなかなかの力持ちだ。いや、それより、これでも中身は三十七歳の元おっさんなのだ。照れるというか、率直に申し上げて恥ずかしい……。


「それはいいなっ! 王都までは私たちが守るし、馬車の中にいれば無用な騒ぎも起こらないさ。それに、フリーダを助けてもらった恩もあるしな!」


 アメリアはカミラの提案に賛同して俺にニカっと白い歯を見せて笑顔を向けてくれた。何か、二人からは優しさというか陽だまりのような暖かみというか。そんなものを感じるな。


「しかし、本当によろしいのでしょうか。ご迷惑になるのでは……?」


「あぁ、そんなことは気にするな! 大体、もしここでハルトと別れたとあっては、あとでフリーダから丸一日は説教されてしまうところだよ」


「それは恐ろしい(ガクガク)」


 どうもフリーダさんは怒らせるとおっかない人のようだ。どこかの宇宙の地上げ屋さんの名前に似ていることも相まって、俺も怒らせないようにしようとか思ってしまう。


「ありがとうございます。それでは、皆さんのご厚意に甘えさせて頂ければと思います」


「いいんだよ、そんなにかしこまらないで」


「そうそう」


 そんなことをいいながら王都に向けて出発する準備を進める二人に、さっき倒した魔物をどうするのか聞いてみた。


「あぁ山猪か。こいつは食用にもなるからね。ここで血抜きして皮を剥いだら肉を切り分けて持って帰るさ。王都に着いたらギルドに全部買い取って貰うんだ」


「ギルド?」


「冒険者ギルドさ。今回も冒険者ギルドの依頼であの山猪を狩りにきたってわけ。私たちはこれでもBランクのパーティーで『蒼紅の魔剣』という、それなりに有名なパーティーなんだぞ!」


「私たちは元々二人でパーティーを組んでいる。今回はたまたまフリーダがサポートに入ってくれた」


 そういいながら、アメリアは魔物の解体を進め、カミラはフリーダの介抱を行っていた。俺はというと手持無沙汰ではあったが、カミラと一緒にフリーダの介抱にあたっていた。もしフリーダに何かあったら、助けられるのは俺しかいないからな。


 なるほど、青髪のカミラの魔法と赤髪のアメリアの剣で『蒼紅の魔剣』というわけか……。


 確かに二人の特徴を上手く捉えた良いパーティー名かもしれない。そんなことを考えているとフリーダの意識が戻ったようだ。


「ぅうっ……。ぁ、わ……たし、助かっ……た、の……?」


「「フリーダッ!?」」


 二人がそのことに気付き、カミラとアメリアの二人が急ぎフリーダの下に駆け寄る。


 俺も二人の後ろに控えた。傷が塞がったとはいえ、随分と血を流していたしな。それに、特級回復薬がちゃんと効いたのかも気になっていたところだ。


「あぁ、勿論だ。フリーダは生きているし、山猪は既に倒して今は解体中だよ」


「そこにいるハルトが回復薬を譲ってくれたからフリーダは助かった。だから、安心してもう少しゆっくり休むといい。御礼は後で言えばいい」


「そう、だったのですね……。ご迷惑を、お掛け……しまし……た」


 フリーダは虚ろな目をしながらも、俺の姿が視界に入ったのだろう。まだ体調が良くないにも関わらず、謝辞を伝えてきた。いや、これは俺に対してというよりパーティーメンバーであるカミラとフリーダに対してだったのかもしれないが……ともかく。


「いえ、フリーダさんが無事でよかったです。もうあの魔物はアメリアさんとカミラさんが倒されましたし、もうすぐ王都へ戻るそうなので休んで下さって大丈夫ですよ。ご安心ください」


 そう伝えるとフリーダは、また気を失ったようだった。


「さっさとここから撤収しよう! カミラとハルトはフリーダを森の近くに停めた馬車まで運んでやってくれ。私もこいつの解体を急ぐ!」


 そういって額の汗をぬぐいながらアメリアが指示を出した。


「その魔物を解体した後の毛皮や肉類はどうやって持ち帰るんですか? 量も重さも考えるとアメリアさんだけでは運べないのでは?」


 疑問に思ったことを伝えると、アメリアは腰に下げたバッグを叩いてこう言った。


「なぁに、気にするな。これでもBランクパーティーだと言っただろう。アイテムバッグくらい持っているさ」


「それほど多くは入らないけど、この魔物ぐらいなら十分持って帰れる」


 アメリアとカミラの話から察するに、アイテムバッグという、恐らくアイテムボックスと同じように収納ができる魔導具があるようだ。そして、それを持っているから問題ないという。それなら、俺の出る幕ではないな。


「わかりました。もし運べないようでしたらお手伝いしますのでいつでも言ってください!」


 とはいえ、今の俺は王都まで連れて行って貰う身なのだ。何か手伝えることがあるのなら、率先して手伝いたい。


 だが……。


「こっちのことは気にするな。それより、カミラ! フリーダのことを頼む!」


 そう言われると、後はフリーダの様子を見守ることぐらいしかできない。もしかすると、子供の容姿がそういった気遣いをさせてしまっているのではないだろうか。そう考えると、成人年齢よりも若い年齢の身体に転生した弊害は思ったよりも大きいのかもしれない。


 ひとまず、言われた通りフリーダの側に控える。すると、カミラが小さな体で意識を失っているフリーダを背負うと荒縄でフリーダを身体に括りつけた。どちらにせよ、子供の身体では成人している女性を持ち運ぶことは難しいのでカミラに任せるしかない。


 カミラはフリーダを背負ったまま森の中へと移動する。俺はその後ろを着いていくことしかできなかった。


 暫くすると、二頭の馬が繋がれた一本の木に辿り着いた。気を失っているフリーダを背負った状態でここまで魔物と遭遇せずに辿り着けたのは幸運だったのかもしれない。


 二頭の馬には粗末な幌馬車が繋がっていた。その中に毛布を広げてフリーダを寝かせる。フリーダの様子を確認したが、今のところ容態は安定しているようだ。


 俺はカミラと一緒にフリーダの手を握りながら、アメリアを待つことになった。


 それにしても……。


『名前:フリーダ・フォン・アルターヴァルト

 種族:人間族(女性) 年齢:22歳 職業:Cランク冒険者

 所属:アルターヴァルト王国

 称号:アルターヴァルト王国第一王女

 能力:C(筋力:E、敏捷:D、知力:B、胆力:C、幸運:C)

 体力:60/1,240

 魔力:420/1,680

 特技:光魔法:Lv6、水魔法:Lv4、風魔法:Lv2、礼儀作法

 状態:衰弱

 備考:身長:163cm、体重:54kg(B:112、W:61、H:92)』


 うん、またなんだ。


 勝手に右目の鑑定が発動してしまう。それにしても名前や称号よりも備考欄に目が行ってしまうのは男の性分か……。初めて見かけたときから滅茶苦茶ナイスなボディを拝見しており、『グッジョブ!』と彼女のご両親に両手でサムズアップしたくなるほどの、グラマラスな身体付きだった。


 流石に身体は子供でも中身の大人な部分がドキドキしてしまう。


 おっと、そんなことはどうでもいい。


 そんなことよりも、この名前と称号を見る限りフリーダは、この世界、その中でもアルターヴァルトという王国では、かなり重要な人物ではないだろうか。


 普通、第一王女なんて称号を持つ人はそう居ない、と思う。


 恐らくは文字通り第一王女なんだろう。


 しかも、これまでのアメリアとカミラの素振りから、蒼紅の魔剣のメンバーはそのことに気付いてはいないようだ。俺だって、右目の鑑定機能がなければ気付くはずもない。


 さて、これからどう彼女と接するべきか。


 そんなことを思いつつ、アメリアと合流した後のことを考えていた。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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