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人選の理由、王家の思惑

 さて、俺とアメリアとカミラの三人による屋敷の使用人と警備兵の候補との顔合わせが終わり、今はゴットフリートとリーンハルトにパトリック、それからウォーレンとビアホフ、最後に俺の六人だけが部屋の中に残っていた。


 使用人や警備兵の候補者たちは既に解散し、帰路に着いている頃だろう。アメリアとカミラは別室で俺を待っていてくれているはずだ。


 そして、今回この面子で集まったのは他でも無い。


 現在近衛騎士として王国、というか王家に仕えているはずのラルフとヴィルマがうちの屋敷の使用人として名前が挙がることになったのか。それを確認するつもりだったのだが、俺が問い掛けるまでもなく、ウォーレンのほうから答えてくれることになった。


「では、皆様よろしいでしょうか?」


 その様にウォーレンが問い掛けると、皆も何も言わずに頷いた。


「先ほど紹介させて頂いた八名のうち、ラルフ・ビアホフ、ヴィルマ・ビアホフの二名については王国から派遣させて頂くことに致しました。ビアホフの血縁であり、近衛騎士でもあります。アサヒナ殿の屋敷に何かあってもすぐに対応できるでしょう」


 なるほど、うちの屋敷のことを思って二人を使用人として上げてくれたのなら、それはありがたい。


 だが、近衛騎士が屋敷の家令や使用人になるなんて本当に良いのだろうか……。本人が納得しているなら良いんだけど、幾ら優れた能力者であってもモチベーションが低いと成果を出せないものだ。


「あの、本当によろしいのですか? 近衛騎士といえば国王陛下直属の騎士、つまり選ばれたエリートではないですか。そのような方を王国から派遣して頂いても良いものか不安ですし、本人たちも納得しているのでしょうか?」


 そう伝えると、ゴットフリートが口を開いた。


「うむ、問題ない。それに二人とも近衛騎士団には籍を置いたまま、アサヒナ男爵家へ出向という形を取ることになっておる。それに、ラルフはゲオルクの元で執事見習いとしても務めてきた男だからな」


「ヴィルマも近衛騎士としての能力は素晴らしく、特に守りに徹したときには女ながら大の男でも傷一つ負わすことができないほどの腕前です。きっとアサヒナ様のお役に立てるでしょう」


 ゴットフリートに続いてビアホフもヴィルマのことを話してくれた。


 確かに、あの特技『盾術:Lv9』という耐性を見ていると納得できるものがある。ただ、使用人としての能力は未知数と言えるだろう……。


 ともかく、二人の事情を聞いて少しだけ気が軽くなった。


「それで、アルマとロイス姉妹についてですが、これは私が選定致しました。先ほど、本人の口からも出ておりましたが、ヴェルナー子爵家が断絶したことにより、行く宛の無い使用人が出てしまいましてな。本来ならば各貴族家の使用人についてどうこうということはないのですが、王国の政務に尽力してきたヴェルナー子爵家への感謝の意を込めて、使用人の次の働き口の斡旋を行ってきていたのです。そして、最後に残ったのが……」


「あの三人だった、ということですか……。リーザとリーゼの二人は中々次の働き口が決まらなかったのは何となく理解できるのですが、アルマはどうして今まで決まらなかったんでしょうか?」


 そう。リーザとリーゼは他の使用人と上手くいかなかったという話が出ていたので、今まで残ってしまったのは理解ができた。それに、魔人族というのも少しだけ関係しているのかも知れないが。


 だが、アルマはヴェルナー子爵家で家政婦長をやっていたほどの人材だ。流石に直ぐに次の働き口が決まりそうなものだが……。


「はい、普通はそう思われるかも知れません。ですが、家政婦長までなった者にまた使用人として働き口を与えても長く続かないことが多くありますのでな。できれば家政婦長のまま働ける働き口を探しておったのです」


 あぁ、なるほど……。


 確かに一度管理職等のポジションに上がった人が平社員に落とされたり、転職先で平社員扱いだとプライドがそれを許せず途中で辞めてしまって長続きしない、なんて話を前世でも聞いたことがある。


 つまり、それを考慮した結果、今まで働き口が見つからなかったんだろう。


 それにしても、ヴェルナー子爵家は王国に対して随分貢献した貴族家だったんだなぁ。使用人に対してまで、王国が気を使ってくれるなんてなかなかないと思う。俺も貴族になってしまった。つまり、自分のことだけじゃなく、周りの人の人生にまで影響を持つ立場になってしまったんだ。


 俺もヴェルナー子爵の様な立派な貴族になれるよう頑張ろう。そう心の中で密かに誓った。


「では、こちらからは以上となりますが、アサヒナ殿から何かご質問はございますかな?」


 ウォーレンからそう聞かれたので、念の為ハインツ一家のことも聞いておくことにした。


「ブラント家については特に王家や王国から何か意図があったわけではないという認識で良いのでしょうか?」


「うむ、彼らはただ王国からの募集に対して応募してくれただけで、こちらからの意図は特にないぞ。まさか、顔見知りだったとは、と知って驚いたのはこちらも同じだ。今回、アサヒナ男爵家の警備兵募集については王国兵士に向けて行ったのだが、ちょうど、警備兵二名と料理人一名での応募だったことと、それも家族であったこと、ゲオルクやウォーレンによる面接、それにリーンハルトとパトリックの審査にも合格したのだからな」


「なるほど、承知致しました。国王陛下、リーンハルト様、パトリック様、それにビアホフ様とウォーレン様。私たちのために貴重なお時間を割いて頂き、本当にありがとうございます。貴族として何ができるか分かりませんが、精一杯努めて参ります」


 そう言いながら俺はその場で跪いて最敬礼の姿勢を取った。今回の件は元を辿ると二人の王子へ献上した魔導カード『神の試練』に対する褒美ではあったが、今は王国の臣下として、王家や王国からの御厚意に最大の感謝を表したかったのだ。


「うむ、その言葉が聞きたかった! これからも王国の為に働いてくれ、アサヒナ男爵!」


「ハルト、これからもよろしく頼むぞ!」


「ハルト殿、近々お屋敷に伺いますね!」


「アサヒナ様、ラルフとヴィルマをよろしくお願い致します。至らぬ所がございましたら、いつでも御相談ください。この私が直々に鍛え直してみせます故」


「アサヒナ殿には何かと面倒を押し付けたようで申し訳ございませんな……。もし何か困ったことがありましたら、何時でも御相談ください」


 ゴットフリートを始め、リーンハルト、パトリック、ビアホフ、ウォーレンと次々に言葉を掛けられた。特にウォーレンの言葉は何だか胸に沁みるものがあった。


 その後、ウォーレンと最後の確認を行い、彼らは一月後からうちの屋敷に勤めることになった。


 こうして、リーンハルトとパトリックという二人の王子へ献上した魔導カード『神の試練』に対する褒美であった屋敷の使用人との顔合わせがようやく終わったのだった。


     ☆   ☆   ☆


 ハルトたちが王城から立ち去った後、ゴットフリートは、ウォーレンと二人で先ほどまでいた応接の間から離れた小さな別室に佇み、今回の一件について話し合っていた。因みに、二人といったがゴットフリートの後ろにはゲオルクが控えている。


「ふぅ。それにしてもリーンハルトとパトリックの御用錬金術師はとんでもない子供だったな……。あれほど美しい少年は貴族の中にもそうはいないぞ。それに、まさか依頼したその場であのような『時を計る』などという新しい魔導具を創り出すとは……。リーンハルトやパトリックから話を聞いてはいたが、目の前でそれを見せられると、正直驚いた」


 そうゴットフリートが話すとウォーレンが頷いた。


「確かに、そうですな。私もアサヒナ殿を見たときは驚きました。それに、私もこの目で新たな魔導具を見せて頂きましたが、精密な動きで時を計り、そして、それを伝える音楽と動く仕掛け……。あのような物は初めて見ました。獣王国への贈答品としても素晴らしい物です」


「くくっ、その分掛かった予算は当初の予定の倍にもなったがな」


「しかし、それも仕方ありません。何せ、国宝級の魔導具。あのような物が世に出回ればそれこそ予算の倍どころでは手に入れることもできませんから……」


「確かにそれはそうだな」


「それにしても、一度目の献上で王家から、いえ、王国から『合格』と言える物を創り出す錬金術師ですか……。成年前の子供であるにも関わらず、アサヒナ殿を御用錬金術師にお認めになられたリーンハルト殿下とパトリック殿下の御慧眼には感服致します」


「確かにな。リーンハルトはシュプリンガーの話を聞いて、ハルトに会う前からそれを決めていたからなぁ。私よりも目端が利くようだ」


「本当にリーンハルト殿下による治世も楽しみでありますな。それに、どうやらアサヒナ殿は『神子様』でもあると聞いております。神のご意思を神託として受けた際にはリーンハルト殿下に進言すると約束されたそうですし、アルターヴァルト王国の未来は明るいと言えますな!」


「うむ、それだけに、ハルトを王国貴族にできて本当に良かったわ……。ヴェスティアやゴルドネスメーア、その他の国に取られてはならぬ貴重な人材だからな」


「その通りですな。しかし、新たな貴族家の誕生とは……。王国では暫くありませんでしたから皆も驚いておりましたが、この度の御采配は誠に素晴らしいものでありました」


「うむ、私も自分のことながら上手くやったと思う。どうやら、遡ると私から三代前まで貴族家の立ち上げは無かったようだ。貴族家の取り潰しや断絶は何度かあったが……。ふむ、これも巡り合わせか」


「左様ですな。先日ヴェルナー子爵が亡くなられたことで、ヴェルナー子爵家も断絶となりました。そのことで他の貴族たちが子飼いの者を新たな貴族家にと推す動きがありましたが、この度アサヒナ殿を陞爵できたことでその動きも次第に収まってくるでしょう」


「全く、困った連中だ……。このことでハルトに迷惑が掛からねば良いのだが……」


「お任せください。その為の此度の人選ですので。王国から新たな貴族家に対して王家直属の近衛騎士を家令や使用人として派遣しているのです。この意味が分からぬ者はそうはいないと思います。仮に、その意味が分からぬ者がいたとすれば……」


「なるほどな。仮に、そのような者がいた場合は、速やかに王国の意図を理解できぬ者として処分できる、というわけか……。それならば問題は無いだろう、そして、そのようなことが起こらぬことを祈るばかりだ」


「全く、その通りでございますな」



 二人は暫くハルトのことを話し合った後、部屋から出て行った。


 魑魅魍魎ともいえる老獪な貴族たちからハルトを守るべく、ゴットフリートたちがこのようなことが話し合っていたことなど、ハルトは知る由もなかった。

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