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褒美の精査、ハルトの勘違い

 俺の創った置き時計の価値が、一台あたり白金板三枚というとんでもない価格で取引される可能性があるとウォーレンから伝えられてから、俺は結構不味いことをしてしまったのではないかと、今更ながら冷や汗を流していた。


 更にウォーレンが口を開く。


「白金板三枚以上の価値がある国宝級の魔導具が二つ……。このような成果を出されたハルト殿に対して、王国としてどのような褒美を与えるべきか……。陛下」


「うむ……。まさかハルトがここまでの代物を用意するとは思わなかったのでな、まだ考えがまとまっておらんのだが……。まずは、依頼に対する報酬たが、当初予定しておった予算は白金貨五枚であったか」


「左様でございます。ですが、陛下……」


「うむ、白金板三枚以上の価値がある魔導具を二つも献上した報酬としては少ないであろうな。それに……」


「はい。王家、ひいては王国の威信にも関わって参りますな。白金板六枚を超えるほどの成果に対して、王国は白金貨五枚しか出せないほど困窮しているのではないか、または王家は御用錬金術師に対して正当な評価をせず蔑ろにしている、などといった話が巷に拡がる可能性がございます」


 うーん、何だか俺が時計を創ったことでゴットフリートやウォーレンの頭を悩ませてしまうことになってしまったようで、少し申し訳ない気分になってきた。


「国王陛下やウォーレン様、そして王国のご都合も考えずにこのような物を創ってしまい、誠に申し訳ございません……。これらは私のほうで回収し、すぐに別の物を御用意致します……」


 俺としてはそう応えるのが精一杯だった。


 これは誰がどう見てもやりすぎてしまった俺の責任だ。だから、俺は置き時計を回収して無かったことにし、別の、白金貨五枚相当の物を用意できないかと考えたのだ。


 だが……。


「な、何を言うのだ!? この魔導具自体は本当に素晴らしい物なのだぞ!? これは其方が謝ることなどないのだ。全ては王家、いや王国が臣民の能力を見誤っていたことが問題なのだ。アルターヴァルト王国にはハルトのような優れた錬金術師がいる。そしてハルトはリーンハルトとパトリックの御用錬金術師である。これを喜ばずしてどうする? 臣民は王国の宝なのだからな! で、あればこそだ。その臣民への報酬を出し惜しみするようなことはあってはならぬのだ。ウォーレンよ、ハルトへの報酬は少なくとも白金板以上にするぞ!」


 そう言ってゴットフリートが捲し立てると、ウォーレンもそれを快く受け入れてすぐさま頷き、イザークに対して何やら指示を出していた。


 その様子を俺は、いや俺たちは、黙って成り行きを見守ることしかできなかった。


 何せ、王国や王家が関係する事象なのだ。何がベストなのか、正直俺には判断できないことだらけだったからだ。ウォーレンが忙しなく指示を出している様子を暫く伺っていた俺たちだったが、その様子に気付いたウォーレンが改めて口を開いた。


「そういえば、この度の一件。国王陛下からハルト殿に依頼されたのでしたな?」


 ウォーレンはそう言うとゴットフリートに視線を向ける。


 それに対して、何故かゴットフリートは視線を逸して目を泳がせながら早口に応えた。


「あぁ、その通りだ。リーンハルトとパトリックの二人からハルトに依頼するよう勧められてな。その結果、ハルトの実力をこの目でしかと見届けることができたのだ。誠に素晴らしいことだな! ははは……」


「はい、ハルト殿の実力、成果。そのどちらも素晴らしいことには私も異論はございません。ですが、陛下からの依頼という体裁は色々と不都合がございます。先ほどもお話しした通り、陛下からリーンハルト殿下とパトリック殿下に勅命を出されたという体裁を取らねばなりません」


 そう話すと、ウォーレンが眉間をほぐすような仕種を見せて、再びゴットフリートに視線を向けた。


「陛下には既に理由をご理解頂いているかと思いますが、陛下には既にヴェルナーという御用錬金術師がおりますからな。もし、このことがヴェルナー本人や臣民に伝われば、それこそ一大事。『今代の国王は御用錬金術師を差し置いて他の錬金術師に依頼を行うような、信頼できぬ人物だ』と国民から評されてしまいます」


 なるほど、それがウォーレンの言っていた問題点か。


 確かに、既に御用錬金術師と決めた者がいるのに他の錬金術師に依頼をしてしまうと、それは大変不義理なことだ。御用錬金術師がいるのに他の錬金術師に依頼したとあっては、お互いの信頼関係にひびが入るだけでなく、周りからも信頼できない人間として評価を下げてしまうことに繋がるらしい。


 ウォーレンの指摘は当然だろう。ウォーレンは更に続ける。


「そこで国王陛下に改めて申し上げます。この度の件、国王陛下の名代として獣王国へと向かわれるリーンハルト殿下とパトリック殿下のお二人に贈答品を用意するよう国王陛下から指示を出された。そして、お二人が御用錬金術師であるハルト殿に依頼し、その成果としてこのような魔導具が献上された。そのように臣民に伝えてはいかがでしょうか。さすれば、王国臣民も次代の国王陛下であるリーンハルト殿下や、その治世を支えられるパトリック殿下への信頼も得られますし、一石二鳥ではないかと」


「うむ。確かに、それならヴェルナーも臣民も納得してくれるだろう。それに、リーンハルトとパトリックの二人が獣王国へ向かう前に政務を手伝ったという実績ができる。確かに、悪くはないな……。だが」


 リーンハルトとパトリックの二人はゴットフリートの名代として獣王国へと向かうことが決まっている。その前に政務に携わって実績を上げさせることで、成人前の二人に国王陛下の名代を任せることに対する不安を少しでも軽減させようというわけか。なかなか悪くない。


 それにだ。御用錬金術師としてここで名を挙げることができれば、これから開店する魔導具店のよい宣伝にもなるかもしれない。俺としても悪くない提案だと思う。


「……恐れながら。私もウォーレン様のご提案に賛成です。リーンハルト様とパトリック様が獣王国へ国王陛下の名代として向かわれると伺っております。ですが、お二人はまだ成人されておられません。もしかすると、お二人が名代となることを不安視する声が出てくるかもしれません。しかし、お二人が今回見事に政務を務めあげられたとあれば、そういった声を抑えることもできるのではないでしょうか」


 そう伝えると、ゴットフリートもそうだなと首肯した。


「それに、リーンハルト様とパトリック様の両殿下とはこれまでに何度かお会いし、そしてお話を伺って参りました。その僅かな機会でありましたが、お二人とも大変に賢明なご判断とご指示ができる方であると確信しております。国王陛下の名代という大役も、リーンハルト様とパトリック様であれば必ずやり遂げられると私は信じております!」


 未成年ではあるが、リーンハルトとパトリックの二人ならばきっとゴットフリートの名代という大役をやり遂げるだろうという漠然としたものではあるが、何故か確信に近い感覚があったのだ。それに、どうせ俺も二人に随行することになるのだ。二人に何かあったら、当然俺もフォローするつもりだ。


 そんなことを伝えると、ゴットフリートとウォーレンの二人は互いに顔を見合わせた。まぁ、未成年の俺が何を言っても説得力なんてないだろうし、怪訝そうにされるのも仕方がないか。


 一方、リーンハルトとパトリックの二人はというと、俺の言葉に偉く感激している様子だった。まぁ、褒められて嬉しくない人のほうが少ないか。そんなことを考えているとリーンハルトがゴットフリートとウォーレンとのやり取りに加わった。


「父上。今のハルトの話を聞いて頂いた通り、私とパトリックはハルトからも信頼を得ておりますし、私たちもハルトを御用錬金術師として信頼しております。ですから、今回の件はウォーレンの言う通り、私たち二人の初政務としてハルトに依頼したことにしてください。そもそも、今回の贈答品については私たちから父上にハルトに相談してみてはどうかとご提案したことが発端でもありますので」


「兄上の言う通りです! 父上、私たち二人からハルトに依頼したということにしてください。お願い致します!」


 リーンハルトだけでなく、パトリックまでもがそれに賛同した。ゴットフリートは二人の言葉を聞いて、暫く目を瞑り思案しているようだったが、やがて一つ頷くと、優しい目で息子二人を見ながら口を開いた。


「うむ。まだまだ子供と思っておったが、いつの間にか王族として立派に成長しておったのだな……。二人からの言葉、私も嬉しく思う。では、ウォーレン。此度の一件はリーンハルトとパトリックから二人の御用錬金術師に依頼したということにしよう。ハルトもそれで良いな?」


「畏まりました」


「はい、私も異論ございません」


 ウォーレンが恭しく頭を下げると同時に、俺も異論は無かったので、俺も跪いて頭を下げてゴットフリートに応えた。


「うむ。では、ウォーレン。そのように手配してくれ。しかし、そうなるとハルトへの褒美もリーンハルトとパトリックから、と言うことになるか」


 ゴットフリートがそう言うとウォーレンもそれに対して頷いた。リーンハルトとパトリックからの依頼であれば、確かに二人から褒美が与えられて然るべきだ。


「左様でございますな。さて、話が元に戻りますが、アサヒナ殿への報酬は白金板一枚、それからアサヒナ殿にはその功績を称えて、爵位を授与されてはいかがでしょうか?」


 うん? 今爵位と言ったか?


 爵位って言うとそれって……。貴族になるってことでは……?


 いやいやいや、まさか、な。


「ふむ、それは良い案だな! では、ハルトには騎士爵を、と思ったが今回の褒美には釣り合わぬな……。よし、準男爵、いや男爵の爵位を与えることとするか」


「はは、ではそのように手配致します」


 うん、もしかして今ので決まったのか? そんな軽く決める者ではない気がするんだが……。


「あの、今爵位をと聞こえたのですが……。聞き間違えですよね? 一介の錬金術師が爵位を賜るなんて、聞いたことがないので……。あははは……」


 そう尋ねると、ゴットフリートもウォーレンも何やら不思議そうな顔でこちらを見てきた。


「いえいえ、決してそのようなことはございません」


「そうですよね!」


 うん、やはりそうだ。


 ウォーレンが否定してくれたことで俺はホッとした。爵位とか、そんな肩書なんてもらっても面倒なことになるだけだと考えたのだ。


 だが、その考えは打ち砕かれることとなる……。


「はい、王国が認めるほどの功績があれば、その限りではありません。これまでも、様々な功績が認められて新たに爵位が与えられた者がおります。まぁ、とは言え。そのほとんどは『名誉貴族』という貴族と同格の名誉を与えられる、当人一代限りのもので、子孫が継ぐことはできないものではありますが」


 あぁ、なるほど。貴族と同格の名誉を与えられるって意味か。まぁ、それならもらっても問題ないかな?


 多分、王国も名誉貴族は一代限りのものだから、これまでにも多大な功績をあげた平民にも与えてきたのだろう。今回の魔導具を創った功績として、名誉を与えられるのはそんなに悪い気はしなかった。


「なるほど、そういうことでしたら」


 そう言うとゴットフリートが手を打って大きく頷いた。


「では、決まりだな! ウォーレン、今日の午後には陞爵を執り行うつもりで早速準備を進めてくれ。私とヴィクトーリアも準備を行うのでこれで失礼する。それから、リーンハルトとパトリックは報酬の準備をウォーレンと進めてくれ。イザークは準備が終わり次第、ハルトを謁見の間まで連れて行くようにな!」


「「「「ははっ!」」」」


 こうして俺は時計を創った功績が認められて、その報酬として白金板一枚という大金と、名誉貴族という称号をもらうことになった。


 しかし、何かが引っ掛かるんだよなぁ……。何でだろう?

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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