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ウォーレンの評価

 ゴットフリートに呼び出されてやってきたウォーレンは俺が創った魔導具の置き時計を興味深げに見ていた。というか、ゴットフリートからの説明と実演を見て仕掛けに驚いているようだった。


「この魔導具をハルトはどういう仕組みか分からぬが、突然この場で作り上げおったのだ! 私もあのような錬金術は初めて見たわ!」


「それこそがハルトの錬金術の真骨頂なのです、父上!」


「兄上の言う通りです! 父上、ハルト殿の錬金術はまるで魔法の如く、何も無いところから魔導具を作り出すという、まさに神業なのです!」


 ゴットフリートの言葉に対してリーンハルトとパトリックから俺の『創造』を称賛する言葉が相次いで掛けられる。それをゴットフリートも同意するように、うむうむと何度か頷いている。そして、そんなゴットフリートと二人の王子の、親子三人の様子を優しそうに見たウォーレンが口を開いた。


「ふぅむ。陛下、この魔導具のことは良く分かりました。ひとまず、褒美の話を進める前にハルト殿にご挨拶をさせて頂いてもよろしいですかな?」


「おぉ、確かにまだであったな。ハルトよ、このウォーレンはアルターヴァルト王国の宰相を務めておる、私の右腕、いや、盟友とも言うべき存在だ」


「陛下、煽てられても何も出ませぬぞ。ハルト殿、私はウォーレン・フォン・ディンドルフと申す。先ほど国王陛下よりお話頂いた通り、この王国の宰相を務めておる。ハルト殿がリーンハルト殿下とパトリック殿下の御用錬金術師となった日のことは聞いておる。大層な活躍であったとか。それに、今回の国王陛下からの(無茶な)依頼にも応えてくれたこと、大変ありがたく思う。王国の宰相として礼を言う」


 ウォーレンはそう言うと深々と頭を下げた。一国の宰相という立場であり、貴族という身分でありながら俺のような子供にまで頭を下げてくれるなんて。どうも、この国の貴族は腰が低い人が多い気がする。


「頭を上げてください。私のような一介の錬金術師、それも子供に対して一国の宰相であるウォーレン様が頭を下げられるなどあってはなりません! それに、この場は本来であれば私から名乗るべきところなのです。ウォーレン様に対して無礼を働いた私が叱責されることはあっても、礼を言われることなどありません!」


 そう、本来ならば俺から自己紹介するべきだったのだが、ゴットフリートが先に魔導具、というか時計の話をウォーレンにしたものだから、俺から話し掛け辛くなってしまったのだ……。


「いえ、そのようなことはありません。陛下に振り回された私や、その元凶である陛下にこそ否があると言うものでしょう」


 そんなことを言いながら「くふふふ」と微笑むウォーレンの顔が怖い。いや、俺に対して直接向けている笑顔ではないのだが、冷たい笑顔と言えば良いのだろうか。


 現に、国王であるゴットフリートはウォーレンの笑顔にガクガクと震えているようだった……。それをリーンハルトやパトリックが父親の弱点を見つけたようにほくそ笑んでいる様子が伺える。やはり、この王子たちは強か、というか大人びているのかも。


 だが、それはさて置き。


「ご挨拶が遅れました。私はハルト・アサヒナと申します。リーンハルト様とパトリック様より御用錬金術師を拝命しました。今後ともお見知り置き頂けますと幸いにございます」


 まずは第一印象が大事だと思い、俺もウォーレンに対して自己紹介を行った。既に俺のことは当然知っているだろうが、こういうものは体裁を保つことが大事なのだ。


 俺の自己紹介が上手く功を奏したのか分からないが、俺に対して再び軽く頭を下げると、ウォーレンが今回の依頼と報酬について話してくれた。


「先ほどもハルト殿にはお伝えしたが、改めて、この王国と獣王国の友好の証となる魔導具を制作してくれたことについて、アルターヴァルト王国を代表して、ハルト・アサヒナ殿に感謝致します」


「いえ、微力ながらお役に立てたようでよかったです」


 そう伝えると、ウォーレンはうむとひとつ頷くと、ゴットフリートに向き合った。


「しかしながら、陛下。今回のハルト殿への依頼の件、少々問題がございますぞ……」


 そう言うとウォーレンがゴットフリートに鋭い視線を投げ掛ける。それを受けてゴットフリートも少したじろぐが、威厳を保ちながらウォーレンに確認する。


「う、うむ。そのことでウォーレンに相談したかったのだ。ハルトはリーンハルトとパトリックの御用錬金術師。国王である私から直接依頼をするというのは筋が違う。それに私の御用錬金術師に対して非礼であることもよく分かっておるのだ……。ただ、今回はハルトがその場で魔導具を作り始めたからな、私としてもどうしようも無かったのだ……」


 んんん?


 何か、さらっと俺のせいみたいな言われ方をしたのが気になりゴットフリートの顔を見ると、それはもう見事に目が泳いでいた。それはもうクロールで泳ぐが如く。


 続けてリーンハルトとパトリックの顔を見る。父親と同じく目が泳いでいる。それはもう、世界新記録が出るくらいの勢いで……。その様子を見て俺とウォーレンは深くため息をついたのだった。


「陛下、それにリーンハルト殿下とパトリック殿下も。面白半分でハルト殿に迷惑を掛けてはなりませんぞ」


「「「は、はいっ!」」」


「ふむ。それで、今回の件についてですが。陛下からの直接的な依頼では無く、国王陛下からリーンハルト殿下とパトリック殿下に勅命を出し、それに対してお二人の殿下が応える為にハルト殿に依頼した、とそのように理由を付けましょう」


「「おおっ! 流石はウォーレンだ(です)」」


「うむ、ウォーレンの言う通りにしよう」


 ウォーレンの提案に二人の王子は感嘆の声を上げ、ゴットフリートは冷静(?)にその指示に従うようだった。そんな王族の言葉など気にせず、引き続きウォーレンが説明を続ける。


「それから、ハルト殿の魔導具について確認させて頂きましたが、その功績は正直申し上げて並の褒美では済みませぬな。一つずつお答え致しますが、まず王族からの依頼とはいえ、自らの錬金術を人前で披露することなど、例え御用錬金術師であっても、普通はありえませんな。よほどハルト殿はリーンハルト殿下とパトリック殿下のことを信頼されておられるのでしょう」


 確かにその通りだ。錬金術師は安易に自らの秘技ともいえる錬金術を他人に見せることなどまずない。


 よほど相手を信頼していいて、自分の錬金術に自信を持った者でないとあり得ないことだろう。まぁ、今回はウォーレンの言う通り、一応リーンハルトとパトリックのことを信頼しているから気にしなかった。それに、そもそも錬金術ではないしね……。


「二つ目に、王国と獣王国との友好を示す贈答品を用意するという、国家として非常に重要な依頼を国王陛下から直々に依頼をされ、それを一度目の献上で国王陛下がご納得される品を作り上げるとは……。正直、このようなことは私が宰相に就いてから初めてのことです」


 どういうことなのか詳しい話を聞いてみたところ、王国からの依頼品というものは、普通は何度も献上して細かな変更や調整を経て最終的な成果物、完成品に仕上げていくものなのだそうだ。


 なるほど、一発で合格するものを仕上げるというのはほぼありえないということか。


 確かに前世では、物作り(といっても、ソフトウェア開発だが)に携わっていたから、でき上がって(開発が終わって)からの調整(仕様変更やデバッグ)が発生するのは理解できる。あまり仕様変更は発生して欲しくないものだけど……。


「そして、最後にですが、この魔導具は『現在、この世に存在しない時を計る魔導具』という全く新しい物であり、この魔導具に施された細工も申し分ありません。つまり、王国の中でもでも国宝と言える代物なのです。それらの点を加味致しますと……。もし、この魔導具が市場に出た場合、確実に『白金板三枚』以上で取り引きされるでしょうな」


「「「は、白金板、三枚!?」」」


 ウォーレンの口から出た時計の価値に思わず驚きの声を上げた。


 まさか、この魔導具にそこまでの価値が見出されるとは思いもしなかった。ただゴットフリートや獣王国の国王に喜んでもらえそうなものを創っただけなのに、何だか思った以上に大事になってきたな……。


 少し不安になりながらも、俺はウォーレンの次の言葉を待つことにした。

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