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辺境伯領の新たな区分

 まぁ、そんなことよりもここからが本題だ。これから話す内容に皆が何と言うか、反応が気になるところだ。でも、その前に現状について確認が必要だな。まずはユリアーナに確認しよう。


「……ところで、帝国では領地内の地名をどのように管理しているのでしょうか? アサヒナ辺境伯領は三つの地方と二つの領地が集まった広大な領地となります。これをまとめてアサヒナ辺境伯領と呼ぶのは簡単ですが、それだと細やかな管理がしづらいと思いまして」


「ふむ。基本的に帝国の領地は管理する貴族の名に加えて街の名前を付けることで管理しているな。例えば、『モットル子爵領ベルクヴェルクの街』といった感じだ」


「なるほど……」


 うーん。思った通りだな。


 アルターヴァルト王国やヴェスティア獣王国も同じような管理の仕方をしている。一体どこの貴族の領地で、何という街か。この世界ではそのような大雑把な管理しかされていない。まぁ、今まではそれで管理できていたのだろうが、アサヒナ辺境伯領のような幾つもの地方と領地が集まってできた土地を管理するには、もう少し細かな単位で管理したほうがいい。


「小さな領地であれば、領地内を都市や村落の単位で管理することに何の問題もないでしょう。それに、一つの街が管理する土地の範囲もそこまで広くないでしょうし。ですが、私の領地は都市や村落の単位で管理するには少々広すぎると思うのです。まぁ、三つの地方に至っては幾つの集落があるかさえ判明していないですからね。もう少し大きな枠組みで管理する仕組みが必要だと思います」


 そう言って地図の上に各地方、各領地の主な街や里、村を示すようにピンを立てていく。予想通りあまり数は多くない。先ほど話した通り、オラーケル地方、ホルン地方、ヴォレ地方において帝国が把握している集落が少ないせいだ。


 元フリューゲル領と元エルツ領は三つの地方に比べて都市や村落の数は多いが、どちらも森や山に囲まれた領地のせいか、あまり開拓されているとは言えず、比較的拓けた土地の周囲に点在している。つまり手つかずの土地が広大にあるわけだ。


 改めて、地図に視線を落とす。三つの地方についてはそれこそ辺境調査団でも組織して送り込んだほうがよさそうだ。探索して、集落というか隠れ里を見つけるところから始めるべきだろうな。どんな種族の集落があるかは楽しみだ。


 しかし、その集落に対して、『この度この集落を含む周辺の土地は帝国の領地となり、私が管理することになりました』と説明してもまず納得してもらえないだろう。その交渉を俺がしなければならない。というか、これって外務卿の仕事では……?


 まぁ、それは一旦置いておいて。


 都市や村落という単位よりはもう少し大きな単位で領地内の土地を管理するべきだということを皆に理解してもらわないといけない。つまり、領地と街の中間となる単位が必要なのだ。


「若様の仰る通り、アサヒナ辺境伯領は広うございますからな。集落毎に周辺の土地を管理させるにしても、小さな村落では手が届かぬかもしれませぬな。例えば、集落毎に均等に土地の管理を任せるのではなく、集落の規模に比例して管理する土地の広さも変えるというのも良いかもしれませんのう」


「うむ。小さな集落の村長や里長に広い土地の管理を任せても、何か有事が起こった際に対応できるかどうか。ディートフリートの言う通り、集落の規模で管理を任せる土地の広さを変えたほうが良いかもしれん。そのためには、若様の仰るような領地と集落の中間の管理する枠組みは必要だと思う」


 ディー爺とフン爺のやり取りを聞きながら、俺が思い描く領地の管理体制を改めて考えていた。前世の感覚だと貴族の管理する領地というものは都道府県に当たるものだろう。そして、都市や村落は市町村に置き換えられるだろうか。


 そう考えると、都道府県と市町村の間となる区分が必要になるわけだ。いや、前世では都道府県の下で多くの集落が市町村のいずれかの区分に属していたのだけれど、この世界の都市や村落はそこまで管理も行き届いていないし、そもそも人口も世帯数も少ない。つまり、『市』と名乗るには条件を満たしていない都市が多いのだ。


 そういうわけで、今の状況に適している区分として考えついたのが『郡』だった。各地方、各領地の集落を郡としてまとめて扱えばどうだろうか? そして、郡の下に町や村、里を置くわけだ。意外と悪くない気がするのだが。


「「それで、一体どのような仕組みを考えておられるのです?」」


 ディー爺とフン爺が答えを急かしてきたので仕方なく答える。


「はい、ここまでにご説明した通り、私は領地内の土地を都市や村落の単位ではなく、もう少し大きな区分で管理運営したいと考えています。例えば、これまでの三つの地方、二つの領地の五つの土地をひとつにまとめ、それを『郡』という新たな区分で管理してはどうかと考えているのです。オラーケル郡、ホルン郡、ヴォレ郡、フリューゲル郡、エルツ郡。これらの五郡をまとめてアサヒナ辺境伯領とし、各郡の下に都市や村落を置くのです」


 皆が俺の言葉を聞いて静まった。俺の提案する『郡』という新たな行政の区分について色々と考えることがあるのだろう。


「その上で、各集落毎に管理を任せる土地の範囲も改め、郡毎の管理に変更するつもりです。今のように境界線も有って無いような管理の仕方では何か問題が起こった際に責任の所在が分かりませんからね。明確な郡の境を引く予定です。もちろん、領民の皆さんには丁寧に説明する所存です」


 これにより、集落毎に管理を任された土地が五つの郡毎にまとまるのでひとつの集落が負担する管理運営に掛かる費用負担は減ることになる。だが、逆にこれまで自分たちで独占していた土地が郡で共有管理することになるため、旨味が減るという可能性はある。はたして領民に納得してもらえるか、際どいところだろうな。


 ディー爺たちも表情は渋い。人というのはデメリットの解消よりもメリットの消失のほうを重く受け止めるものだ。そう考えると、もう少しメリットを享受できるように検討したほうがいいだろうか。でも、無い袖は振れないわけで、ユリアーナから得ていた三年間の納税免除の件を上手く伝えるしかなさそうだ。


 そんなことを考えていたら、ユリアーナが俺の提案について意見をまとめたようでおもむろに口を開いた。


「ふむ、新たな行政の区分を作るか。確かに、アサヒナ辺境伯領は南北だけでなく東西にも広大であるからな。三つの地方、二つの領地を同時に管理するとなれば、これまでの枠組みでは行き届かぬところも出てくるやもしれぬ。新たな行政の区分は『郡』か。なかなか面白いな。郡の制定については父上にも許可を得る必要はあるが、恐らくは認めて頂けるだろう」


 ユリアーナは俺の提案に賛同してくれるようだ。彼女の言うことが確かなら、ルードルフにも納得して貰えるらしい。


 一方でヒンケルは俺の提案に驚いていたようだった。これまでの帝国にない行政の区分を作ろうとしているのだから、驚きもあるだろうし、戸惑いもあるだろう。だが、それについて今のところヒンケルが口を出す気配はない。俺の考えを全て聞き取った上で意見を出してくると思われる。


 さて、ここから具体的な話をしていくことになる。例えば、誰にどの郡を任せるか、今後の領地運営をどうしていくつもりなのかなどだ。それを話すにはもう少し時間が掛かる。


 俺は一度姿勢を正して椅子に座り直すと、皆に改めて向き合うことにした。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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