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リーンハルト:初恋と失恋と生涯の友

 我が名はリーンハルト・フォン・アルターヴァルトという。


 この国、アルターヴァルト王国を治める国王陛下である我が父、ゴットフリート・フォン・アルターヴァルトの嫡男、つまり王太子である。


 今日は私の教育係であるユリアンが新しい魔動人形を用意したということで、その魔動人形を創った錬金術師と会う予定となっていた。


 ただ、正直に言うと、私はその魔動人形には期待をしていなかったのだ。なぜなら、あの魔動人形は本当に特別なものだったから……。


 あの魔動人形を父上から下賜されたその日の夜、勝手に魔動人形が動き出して、なんと私に語り掛けてきたのだ! その時のことは今でも覚えている。


『あのさぁ、ちょっとお腹が空いたんだけど。ここってさぁ、なんか精霊力が宿ったものとかないの?』


 あまりに突然のことだったから、その時私は何も言えなかった。すると、魔動人形は私のもとにやってきて、再び話しかけてきたのだ。


『あなたの精霊力を頂こうと思ったけれど、私が満足できるほどの量ではないわね。それじゃ、代わりにこれをもらうことにするわ』


 そう言って、たまたまその日に獣王国から届いたヘルホーネットの蜜を『食べた』のだ。食べたと言うと語弊があるかもしれない。ヘルホーネットの蜜から精霊力とやらを吸い取ったというべきか。


 それから、度々魔動人形からヘルホーネットの蜜を求められたが、その代わりに私の話し相手になってくれた。それは、この国の次期国王として帝王学を学ぶため、勉強に忙殺される私には本当に良い、愚痴も言える良き話し相手であった。


 だが、私の教育係であるユリアンは色々と苦労しているようだ。


 元々ユリアンの父であるマクシミリアンが私の教育係だったのだが、急逝したため、ユリアンは急遽伯爵家を受け継ぎ、そして私の教育係という役職も引き受けてくれたのだ。


 しかし、それをよく思わない連中もいるらしく、何かと嫌がらせもされているようだ。まぁ、本人は口に出さないが……。


 それはさて置き、私には弟がいる。パトリックと言って、この国の第二王子であり、将来私の右腕として支えてくれることを期待している。だが、まだまだ子供ということもあって色々周りの者を困らせているようだ。


 その一つが件の魔動人形だった。


 パトリックは父上から私に下賜された魔動人形が気になっているらしく、あやつの教育係であるランベルトを困らせているらしい。そして、その結果、ランベルトがユリアンに対して色々と言ってきているようだ。


 全く、それならそうと直接私に言えばいいものを。


 パトリックもランベルトも、変なところで気を遣うらしい。


 そんなこともあり、いつまでもユリアンを困らせるわけにもいかないと考えた私は、父上から下賜された魔動人形をパトリックに譲ることにしたのだが、今度はユリアンが私のことを思ってか、今日は私の為に新たな魔動人形を用意してくれたらしい。


 全く、そんなことで心配などしてくれなくても、気にしてなどいないというのに……。


 そんな風に心の中で悪態ついたりしてみるが、一方で新しい魔動人形のことが気になっている自分もいるようで、先ほどから錬金術師が来るのを心待ちにしていた。


 ユリアンからの話によると、その魔動人形を用意した錬金術師は私よりも年が若く、明らかにまだ成人していないようだったが、それでも熟練の錬金術師と同等の技量の持ち主だという。更に、その容姿は大変美しいのだとか……。その話を聞いただけでも興味が引かれるというものだ。


 暫くすると、件の錬金術師が登城してきたらしく、メイドたちが客人を迎える為に忙しなく準備を進めており、既に錬金術師を呼び寄せたユリアンには直接その説明がなされていた。


 それから待つこと暫し。扉を叩く音が部屋の中に響くとメイドが扉を開く。すると、イザークを先頭に、フードを被った私よりも若いと分かる子供と三人の女が入ってきた。


 すると、フードを被った子供が私とユリアンの前に出て跪き声を上げる。


「この度はお時間を頂きありがとうございます。只今到着致しました」


「アサヒナ殿、よくぞ来てくださいました! 殿下、こちらが今回魔動人形を用意した錬金術師のハルト・アサヒナ殿です」


 ユリアンからこの子供が件の錬金術師だと教えられた。


 本当にこのような得体も知れぬ者が錬金術師だというのか!? そのような思いが湧いてくるが、そんな私のことなどは意に介さずに、その者は自己紹介を始める。


「錬金術師のハルト・アサヒナと申します。本日はよろしくお願い致します」」


「リーンハルト・フォン・アルターヴァルトだ。知っているだろうが、アルターヴァルト王国の第一王子である。其方は私よりも年下だが歴とした錬金術師だとユリアンから聞いている。だが、本当か? まだ成人の儀式も執り行っていないというのにそれだけの能力があるとは、俄に信じられん」


 私は自らの名乗りは手短に済ませ、気になっていたことをそのままハルトという錬金術師に伝えてみると、それを証明するように回復薬をその場で創って見せた。


 おぉ、錬金術とはあのように行われるものなのか!?


 初めて見る錬金術に驚きの声を上げると、ユリアンからハルトの錬金術は普通のものではないという説明を受ける。


 なんと!? ますます面白いな、この錬金術師は!


 そう思うと、この者のことをもっと良く知りたいという欲求に駆られてしまう。だが、この者は何かを恐れてか、フードを深く被っており、しかもフードに認識阻害の効果があるのか、顔が良く見えない。


 ユリアンから『容姿が大変美しい』と聞いているから余計に顔を見たくなってしまった私は、つい普段より強い口調でフードを取るように言い放ってしまった。


 あぁっ! つい気が急いてこんな言い方を……。ハルトは気にしていないだろうか……?


 すると、ハルトはすぐに謝罪しフードを取るとその素顔を私に向けてくれたのだが…………。


 なんとっ!? このような美しい者がこの世に存在するのか!? 今までに会った貴族の令嬢たちなど比較にもならない、美の化身ではないか!?


 いや、冷静にならなければ……色恋に現を抜かすわけにはいかない。


「ほぅ……」


 だが、今の私にはそう声を出すのが精一杯だった。様々な思考が頭の中を駆け巡る中、一つの考えが浮かぶ。


 そうだ! この者を我が妃に迎えてはどうか!?


 年も近く私よりも若いようだし、既に錬金術師として自立しているように見える。それだけでなく、礼儀も弁えており申し分ない。


 それに、私とも話が通じそうだ。


 私は、これまで同世代の者たちと話す機会はあったものの、どうも話のレベルが低く感じることが多く、心から話して分かり合えると感じられる者がいなかった。


 だが、ハルトからはそういった違和感がなく、思うままに話し合えるように感じた。だから! 私にはハルトのような者に側にいて欲しかったのだ。


「ハルト、其方を私の妃に迎えたい! 不自由にはさせないし、必ず幸せにしてみせる!」


「へ!?」


 ハルトは私の言葉に驚き戸惑っているようだった。まぁ、それも仕方のないことだと思う。突然王族からそのようなことを言われては心の準備も整っていないだろうし、すぐに理解が追い付かないのも仕方がないことだろう。


 ふむ、我が渾身の一手に皆も驚いているようだな!


 しかし、この渾身の一手を覆すような信じられない言葉がユリアンから告げられた。


「恐れながら、リーンハルト殿下。アサヒナ殿は殿方のようですが……」


 ユリアンから驚くべき言葉が齎される。


 な、なんだとっ!? そんな馬鹿なことがあるかっ!? だってこんなにもハルトは美しく……そんな、まさか……!?


「そ、そんな馬鹿な……!? ハルト、ま、誠に男なのか……?」


 普段は冷静な私も流石に驚いたからか、思わず声が裏返ってしまった。だが、これは直接ハルトに確認せねば気が済まなかった。


 すると、ハルトは申し訳なさそうに口を開く。


「は、はい。ユリアン様が仰る通り、私は男です。その、リーンハルト様のご期待に添えず申し訳ございませんが……」


「そ、そんな……」


 追い打ちを掛けるようにハルトの従者たちも口々にハルトが男であることを赤裸々に告げる。


「そ、そんなっ……。で、では、ハルトは、本当に男なのか……」


 いや、百歩、いや万歩譲ってハルトが男でも良い。だが、私はこの国の第一王子にして王族……。すなわち、子孫を残す義務がある。だから同性での婚姻ができないのだった。


 私が王族でなければ……クソッ、今日ほどこの身分を疎ましく思ったことはない!


 皆から一通り説明をされて、ようやく現実を受け入れることが……やはり、なかなかできず、魂が抜けたように椅子にへたりこんだ。


 恐らく、これは私の生涯初の恋であり、生涯初の失恋というものなのだろう。まさか、わずか一刻もしないうちにその二つを体験することになろうとは……。そんな風に自分を客観的に見れるようになると、ようやく普段の冷静さが戻ってきたようだった。


 ふむ、ハルトが男だったことは確かに残念ではあった……だが……!


 改めてハルトに顔を向ける。先ほどのこともあって冷静なふりをしているものの、やはり多少の羞恥心からか、顔が赤らむのを感じる。


 それでも、私が求めていた話し相手としては申し分ない、か!


 以前は魔動人形が話し相手になってくれていたが、既に魔動人形はパトリックに譲っている。それに同世代で話し相手になれる者が近くにおらず、常にユリアンのような大人たちがもっぱらの話し相手だったのだ。


 それなら、もう少しハルトとの会話を楽しむことにしよう。錬金術と光魔法を使えるというのも非常に興味深いしな。


 こうして私はハルト・アサヒナと知り合い、その日のうちに私とパトリックの御用錬金術師にして最高の親友を得ることになるのだが、このときはまだ知る由もなかった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

今日はリーンハルト視点の閑話です。

明日から、第三章突入です!

引き続きよろしくお願い致します。

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