アメリアたちへの報奨
俺への褒賞の話がようやく終わり、続いてアメリアたちへの褒賞の話に移った。こちらは事前の相談通りにセラフィには『帝国魔剣勲章』が、アメリアたちには『帝国聖人勲章』が与えられた。
どちらの授与についても貴族たちから大歓声が上がった。
セラフィが受勲した帝国魔剣勲章は、やはり過去にも与えられた例が非常に少ないことから驚きの声も多かった。だが、謀反を企てたフェリクスを討ち取り、ツェーザルを倒す際にも皇帝であるルードルフを助け、その命を守った功績にはその価値があると皆から認められた。
アメリアたちが受勲した帝国聖人勲章は新設されたばかりの勲章なので、まずはどのような勲章なのかの説明も行われたが、国の所属に関係なく帝国で著しい成果を上げた者に与える勲章である旨がされた。
そして、アメリアたちの受勲理由はセラフィと同様に謀反者から皇族のルードルフとユリアーナ、それにライナルトを守り抜いたことと、帝国の危機を救った俺を陰ながら支えたことを評価するものだと説明されれば、誰もが認めるしかなかったようだ。
こうして、セラフィと、アメリア、カミラ、ヘルミーナにとっては三度目の、他の皆にとっては初めての受勲となった。
レーナとレーネは帝国に対して複雑な思いがあるようだったが、それでもアメリアたちと揃って勲章をもらって喜んでいるようだった。
アポロニアとニーナは勲章をもらうことは初めてだったようだが、落ち着いた様子で流石は王女とその侍女と感心するものだった。
ノーラはずっと緊張していたようで、受勲を無事に終えてホッとしているようだった。あとでよく頑張ったと褒めてあげたい。
ともかく、皆が自分たちの働きを評価されたことに喜んでいるようで良かった。俺からも皆に感謝を伝えたいと思う。
これでようやく俺たちの褒賞についての話を終えたことになる。あとは閉会の挨拶をルードルフが行えば予定の全てが終了するはずなのだが、今回の件で他にも評価される者がいた。
そう、ライナルトだ。
帝国での食料配給について、当初は神殿というかリーゼロッテを頼る予定だったが、彼女が実は魔王であり、しかも出奔したということもあって急遽帝都での食料配給の責任者に抜擢されたのだ。
それを無難にやり遂げて、今も問題なく継続している。その結果、帝国は食料不足が大きな問題になることもなく、帝都だけでなく各領地でも問題も起こっていない。
「ライナルトよ。皇族としてその責務を見事果たしたこと、皇帝として、そして父として嬉しく思う」
「皇族として当然のことを行ったまででございます」
ルードルフの前で跪いているライナルトが涼しい顔でそんなことを言う。俺は思わず笑い出しそうになるが、それはユリアーナもクレーマンも同じだったようで笑いを我慢しているようだった。
「其方には今後も引き続き皇族としての責務を果たしてもらいたい。そうだな、よい機会だ。其方にはクレーマンのそばに付いて宰相の見習いを続けてもらおう。次期宰相となれるよう励むが良い」
ルードルフの言葉に周りの貴族たちから「おおお」とどよめきの声が上がる。それもそのはずで、ルードルフが次の宰相にライナルトを指名したからだ。それと同時に、疑問も浮かんだのだろう。
第一皇子のフェリクスがこの世を去り、皇族としてはライナルトだけが残された唯一の直系男子だった。だが、そのライナルトは次期皇帝である皇太子ではなく次期宰相に指名された。ということは、次期皇帝は誰になるのか。それは自明であった。つまり、残された皇族であるユリアーナが次期皇帝になるということだ。
それはともかく、ルードルフに次の宰相を目指せと言われて明らかに表情を曇らせるライナルト。その様子を見て貴族たちは、「次期皇帝になる道を閉ざされたことに不満を持たれたのでは」「このままでは再びフェリクス様と同じ過ちが繰り返されるのでは」などと囁く声がちらほらと聞こえてくる。
だが、俺たちやユリアーナ、クレーマン、それに父親であるルードルフはライナルトの不満が何であるのか全て分かっている。そう、次期宰相を目指すとなると魔導具を弄る時間が取れなくなるので不満があるのだ。それに、仕事を与えられるのは彼にとって罰でしかなく、褒賞などと言えるものではなかったのだ。
「陛下、その任はどうか別の者に……」
「いや、其方にしか任せられぬと考えておる。ユリアーナもそう思うであろう?」
「もちろんです。今回の件でライナルトに仕事を任せられることが分かりました。今後もクレーマンの下で宰相の仕事がどのようなものかをしっかりと学び、次期宰相となれるよう励んでくれると信じております。なぁ、ライナルト?」
ユリアーナから「もちろん、やってくれるよな?」と半ば脅すように声を掛けられて、「うぅっ」と声を漏らすライナルト。だが、彼の目はユリアーナの言葉に屈していない。
「分かりました。謹んで、宰相見習いの任をお受けしたいと思います。……ですが、それとは別に一つ褒美を頂きたいと思います!」
ライナルトの言葉に再び貴族たちからどよめく声が上がる。皇帝からの褒賞に不満を言い、追加の褒美を求めたからだ。これが他の貴族によるものであれば何とも不敬なことではあるが、ライナルトは第二皇子。事情を知る者から見れば微笑ましいやり取りに見える。
「ほう、別の褒美とな。一体何が望みだ?」
「はい。稀代の錬金術師であるアサヒナ辺境伯に、世界に一つしかない、私だけの魔導具を一つ創って頂きたいのですがっ!」
「え、私ですか!?」
魔導具を弄る時間が欲しいとか、そういう話かと思ったら、魔導具自体が欲しいという話だった。しかも、世界に一つしかないライナルトだけの魔導具を俺に創って欲しいということだった。
「それは、私の一存では決められぬな。アサヒナ辺境伯よ、其方はどう思う?」
「はぁ。まぁ、そうですね。私に創れるもので、世界に悪い影響を与えないものであれば構いませんが……」
「とのことだが。どうだ、ライナルト?」
「ありがとうございますっ! 是非お願いしたいと思いますっ!」
「うむ。では、何を創るかは其方とアサヒナ辺境伯との間で取り決めよ。また、魔導具が完成した際には私たちにも見せるように」
「はいっ!」
「承知致しました」
こうして、ライナルトへの褒賞の副賞(?)として、俺がライナルトに魔導具を一つ創ることになった。それにしても世界に一つしかない、ライナルトだけの魔導具か。一体何を創ることになるんだろう。これはライナルトと相談が必要だな。
「これで褒賞についての話は全て終えたことになる。本来ならばこれで本日の会議を終えるつもりであった。だが、この度の二度の謀反が起こったことについては、やはり皇帝である私にも責任があると感じておる。故に、私も責任を取ることにした」
そう言って、ルードルフが玉座から立ち上がり皆の前に進み出る。
その様子を貴族たちが固唾を飲んで見守る。彼らも何となくルードルフが何を言うつもりなのか、想像したのかもしれない。周りの貴族の中でもヒンケルは特に気にした様子はない。恐らく、彼はこれからルードルフが話す内容を知ってるのだろう。
そうして、ルードルフが話し始めた。
「この度、二度も起こった謀反の責任を取り、私は帝位から退くことを決めた。ただ、帝国の混乱が未だ収まっていない現状を鑑みれば、今すぐにというわけにはいかぬ。暫らくはこのまま皇帝を続けさせてもらいたい。その点については皆にも了承して欲しい。また、退位後は上皇となり、新たな皇帝を補佐するつもりだ」
ルードルフの言葉に訓練場が静まり返る。誰もルードルフの言葉に異を唱えようとはしない。つまり、皆も二度も謀反を起こされた皇帝としては、その責任を取り退位することには納得しているということだろう。ルードルフも皆の反応に納得したようで一つ頷いた。そして、話を続ける。
「また、我が娘である第一皇女ユリアーナ・ヴィアベル・ゴルドネスメーアを皇太子とする。まだ学生の身ではあるが、この度アサヒナ辺境伯とともに帝国の危機を救ったことは十分に評価できる。それに、これから開国する帝国には新たな風を吹き込む若い力が必要だ。皆もユリアーナを支えてやって欲しい。特に、アサヒナ辺境伯には期待しておるぞ」
「はっ! お任せください」
とはいえ、俺は帝国の政治には関わらない予定なのだが。あれ、そういえば俺が辺境伯位を授かった際に、その辺りの説明ってされていないような!? ちょっと、その点ちゃんと皆に伝えてもらわないと色々と勘違いされてしまうじゃないか!? ユリアーナはちゃんと説明をしてくれるよな!?
ユリアーナが俺の視線を感じ取って大きく頷く。そして、ルードルフの隣に立って貴族たちに話し掛けた。
「新たに皇太子となるユリアーナ・ヴィアベル・ゴルドネスメーアである。今後、次期皇帝として帝国のさらなる発展のために誠心誠意尽くしていきたいと考えている。そのためには、先ほど陛下からもお話しがあった通り、皆の協力が必要だ。それは開国派、英雄派、保守派といった派閥に関係なく、我らは一丸となって帝国のために尽力していく必要がある。何故なら、今後はアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両王国と協力し、そして競争していかなければならないからだ。我ら帝国がこの世界で一番の大国となれるかは、皆の協力に掛かっているのだ!」
「「「「「帝国万歳!!! 帝国万歳!!! 帝国万歳!!!」」」」」
貴族たちが派閥に関係なく帝国万歳の大合唱をする中、俺は戸惑っていた。ユリアーナはちゃんと俺のことに触れてくれるんだろうな? 俺は帝国の政治には関わらないんだからな。だが、既に派閥の旗頭になってしまっているし、このままなし崩し的に帝国の政治に巻き込まれてしまうのではないだろうか。うぅ、不安だ。
そんなことを考えていると、ユリアーナが手を挙げて皆を制する。すると、次第に帝国万歳の言葉が収まる。
「ありがとう、皆の協力に期待している。そして陛下の仰った通り、特にアサヒナ辺境伯の活躍には期待している。とはいえ、アサヒナ辺境伯は帝国の貴族としては新人だ。先ほど彼を補佐する人財を与えたように、彼が今後帝国で成果を出すためには皆の協力も必要になるだろう。どうか、彼に対しても協力をお願いしたい。特に、アサヒナ辺境伯を旗頭に据えている英雄派の皆には期待しているぞ!」
「お任せください、ユリアーナ様! 私がハルト兄をしっかりと支えますのでっ!」
「「「「「お任せください、ユリアーナ様!!!」」」」」
パウルが元気よく答える。それに続いて、他の英雄派の貴族たちも次々と声を上げて答えてくれた。思っていたよりも俺に協力してくれる貴族は多いのかもしれない。それは助かるし、ありがたいことなのだけど、肝心の話はどうなったのだろうか。そう思ってユリアーナに視線を送ると……。
にこやかにサムズアップを返してくれた。どうやら、彼女の話はこれで終わりらしい……。全然伝わってないじゃないか!?
「(ちがーうっ!!! そうじゃないっ!!!)」
肩をがくりと落として「はぁぁぁ」と盛大にため息を吐いた後、これは俺自身で説明するしかないと諦めて、俺は一人立ち上がり事情を説明することにしたのだった。
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