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三国間での事前交渉

 ユリアーナの私室にリーンハルトとクラウス、そして俺たちが通された。ルードルフはまだ完全に体力が回復していないこともあり、今回の顔合わせには不参加だ。参加しているのはクレーマンとライナルトの二人だけである。あぁ、もちろん侍女のリリーも控えているが。


「ユリアーナ様、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両王国から大使をお連れ致しました」


 ひとまず俺の言葉を受けて、リーンハルトとクラウスが前に出てユリアーナの前で跪く。


「アルターヴァルト王国より此度の大使として参りました、第一王子のリーンハルト・フォン・アルターヴァルトと申します。よろしくお願い致します、ユリアーナ殿下」


「ヴェスティア獣王国より此度の大使として参りました、第五王子のクラウス・ブリッツ・ヴェスティアと申します。よろしくお願い致します、ユリアーナ殿下」


「うむ。大使殿、帝国によくぞ参られた。私はユリアーナ・ヴィアベル・ゴルドネスメーア。この帝国の第一皇女である。この度は我が国の面倒事に両王国を巻き込む形になり誠に申し訳ない。さて、堅苦しい挨拶はここまでにして、早速だが今後のことについて色々と話し合いたいと考えておる。そちらの席でゆっくりと話し合おうではないか」


 そう言ってユリアーナがリーンハルトとクラウスを立ち上がらせて、ソファーへと誘った。リリーがリーンハルトとクラウスを三人掛けのソファーに座らせ、ローテーブルを挟んで対面のソファーにユリアーナとクレーマンが座る。


 俺とライナルトは余った一人掛けのお誕生日席にそれぞれ座ることになった。アメリアたちは俺の後ろに立っているのだが、そのままだと人数が多過ぎることもあり、リーンハルトとクラウスの後ろにも並ぶことになった。少々こちら側から圧迫感が出ている気もするが仕方がない。


「さて、両王国の大使殿は今回帝国で起きた一件について、アサヒナ伯爵から説明があったと思うが、それぞれどの程度ご理解頂けているのか確認させて頂きたい。いや、此度の件について改めてこちらから説明を受けるよりも、大使殿の把握しておられることを確認するほうが手間が省けると考えただけで他意はない。いかがか?」


「「問題ありません」」


 リーンハルトとクラウスが答えると、それぞれ俺がこれまでに説明した帝国で起きた事件について話し始めた。帝国に来るまでの間にも幾度も確認をされて、俺たちの知っていることを全て伝えてきたので問題ないはずだ。そうしてリーンハルトとクラウスによる説明をユリアーナは聞き終えると、深く頷いた。


「帝国の状況についてよくご理解頂けているようで非常に助かる。三日後には帝国の重鎮を集めた重要な会議が開かれる予定だ。そこで、私はアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両王国と正式に国交を結ぶことを発表したいと考えている。我が国は鎖国している現状の政策方針を転換し、開国を目指すというわけだ。その第一歩として両王国との国交を正式に結び、三大国による経済圏を構築できればと考えておる」


「我が国としても、三国が手を取り合うことで、長期的な安定と繁栄を共有できるのではないかと考えております。とりわけ、交易と通貨の流通が円滑になれば、各国の民草にも恩恵が行き渡ることでしょう」


「我々としても大いに賛同します! 交易路が開かれれば、我が王国の産物を広く届けることができるし、帝国の技術や商品も手に入ることになる。三国の結びつきは、まさに時代を動かす力になるはずです!」


「うむ。両王国から前向きな返事を頂けて何よりだ。だが、我が国には開国することにより不利益を被るのではないかと心配する者たちがいるのも事実。開国を受け入れるには、その利益というものを分かりやすく示す必要があるだろう。我が国と国交を結ぶにあたり、両王国から何かしらの利益を提示してもらえると世論を味方に付けるのも容易くなるのだが、いかがだろうか?」


 ユリアーナが笑みを浮かべながらそう話すと、リーンハルトもクラウスも黙り込んでしまった。開国する代わりに何かしらの見返りを寄越せというユリアーナからの相談というか強要だ。


 まぁ、帝国内の世論は開国に対して賛成派が多数という状況になっているので、これはリーンハルトとクラウスの二人を試しているだけなのだろう。そして、それは二人とも理解している。


 しかし、二人はどのような回答をするつもりなのだろう。もちろん断るという選択肢もないことはないが、両王国としては帝国と国交を結びたいわけで、足元を見られている状況だ。とはいえ、ここでユリアーナに否定的な回答をするとは思えない。


 例えば、農業が盛んな国ならば農作物の提供を安価に行いますとか言えるだろうし、鍛冶が盛んなら武器や防具を安価に提供します、なんてことが言えるのだろうけど、アルターヴァルト王国もヴェスティア獣王国も目立った産業があるわけではなく、どの産業も平均的であり、そしてどの産業も平均以上を誇る国なのだ。だからこそ、両王国が三大国に数えられるわけだけど。


 リーンハルトとクラウスは示し合わせたように二人同時に頷いた。どうやら答えは決まっているようだ。


「それについては、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両王国からご提案させて頂きます」


「我々がご提供できるのは、魔王の脅威に対する安全保障。つまり、アサヒナ伯爵率いる対魔王勇者派遣機構の戦力となります」


 そう言うと、ユリアーナはふむと首を傾げた。


「既にアサヒナ伯爵には我が国で対魔王勇者派遣機構として活動した実績がある。何故、その内容が我が国の利益に繋がるのだ?」


「確かに、対魔王勇者派遣機構の活動範囲に限りはありません。ですが、アサヒナ伯爵はアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の貴族です。そのような者が貴国内で好き勝手に行動することをユリアーナ殿下はお認めになられるのですか?」


「我が国とアルターヴァルト王国は対魔王勇者派遣機構の責任者であるアサヒナ伯爵が両王国の貴族であるからこそ、両王国内での自由な活動を認めているのです。今回は偶然ユリアーナ殿下と出会ったことで問題にならなかっただけ。そうは思いませんか?」


 リーンハルトとクラウスの言葉にユリアーナがふむと答える。


 まぁ、リーンハルトとクラウスの言う通りなんだけどな。対魔王勇者派遣機構の課題だが、名目上は自由な活動を許されていても、実際にはそうはいかないという話だ。


 結局のところ、実質的には貴族位を有しているアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の二カ国でしか自由な活動が認められていないのだ。それであっても各領地の領主には裏で王族が根回ししてくれているから成り立っているわけで。


 もしも、俺が対魔王勇者派遣機構の名前を掲げて好き勝手に活動していたら、周りの貴族たちから白い目で見られるのは確実だ。しかも、自分たちを助けるという名目で活動しているから表立って非難することもできないわけで、たちが悪いことこの上ない存在なのだ。


 そういうわけで、対魔王勇者派遣機構は両王国の王族や貴族と良好な関係を築かなければ成り立たない存在なのだ。その辺りをユリアーナには上手く伝えなければならない。


 まぁ、今回の話はユリアーナが両王国に無理を言っているのだから、ここは引いても良いんじゃないの? そう思ってユリアーナの様子を見ていたらバッチリと目が合った。ちょっとだけ苛立ちの感情を浮かべているように思う。でも、自業自得じゃないか?


「こちらの負けだな。両王国に対して特別な配慮は求めぬ。通常の取引を行ってもらえれば何もいうことはない。ただ一点、対魔王勇者派遣機構の取り組みについては我が国も加えてほしい。今後も似たような問題が起こると何かと手間であるからな。いかがだろうか?」


「そういうことでしたら、問題ございません」


「我らとしても、対魔王勇者派遣機構に加わる国は多いほうがよいと考えておりますので」


「うむ。では、此度の我が国の開国に合わせて、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両王国と正式に国交を結んだ際には、同時にアサヒナ伯爵率いる対魔王勇者派遣機構への参加も正式に発表することにしたいと思う。クレーマン、ライナルト、問題ないな?」


「問題ございません」


「帝国としてもアサヒナ伯爵の力には今後も頼りたいからね」


「よし、それでは対魔王勇者派遣機構にも参加することは決定だな」


 ユリアーナの言葉を受けて、リーンハルトとクラウスが顔を見合わせる。あぁ、なるほど。ここから俺の褒美の件について話を持っていくのだろう。確かに、対魔王勇者派遣機構での活動には報酬が必要だからな。


「帝国に対魔王勇者派遣機構へのご参加を表明頂けること、我が国としても大変喜ばしく思います」


「ですが、それにあたって、一点解決しなければならない問題がございます」


「ふむ。差し当って、対魔王勇者派遣機構の活動に対する報酬の内容についてであろう?」


「「ご明察の通りでございます」」


「なるほど、そこで我が国からアサヒナ伯爵に対する褒美に関係してくるのだな? それで、其方らの国ではどのような報酬を与えておるのだ? 是非とも参考にさせて頂きたい」


「はい。我が国ではアサヒナ伯爵に伯爵位という貴族位を与え、その貴族年金として金一千枚を支給しております」


「我が国も同様です。伯爵位という上位の貴族位を与え、その貴族年金である金一千枚を活動費として与えております」


「ふむ。なるほど、両王国がアサヒナ伯爵に貴族位を与えている理由がようやく理解できた。我が国としては、此度の一連の事件を解決した褒美と、今後の更なる活躍を期待して位階第四位の辺境伯位を与えるが、問題ないか?」


「問題ございません。我が国からも貴国との正式な国交を結ぶきっかけを作ったアサヒナ伯爵には相応の褒美が必要と考えております。それが辺境伯位への陞爵であっても問題ないという認識です」


「我が国も同様です。これまで鎖国政策を取ってこられた貴国と正式な国交を結ぶことができるということは近年稀に見る功績と考えておりますので、辺境伯位への陞爵も十分に考えられましょう」


「なるほど。それでは、我が国は辺境伯位としてアサヒナ伯爵に与える貴族年金を帝国金貨三千枚で考えておるが、其方らの国でも同様の報酬を与えるということでよいか?」


「「もちろんでございます」」


 ほへぇ。貴族年金だけで年間金貨九千枚ももらうことになるのか。九千枚って白金貨九百枚で、白金板九十枚ってことは、約九十億円になるのか!? ワァオ。


「うむ。よかったの、アサヒナ伯爵。其方は両王国から十分に評価されておるぞ?」


「はい。身に余る光栄でございます」


 急にこちらに話を振ってきたので、慌てて答える。それに対してニンマリとした表情で頷くユリアーナが再びリーンハルトとクラウスに問い掛ける。


「両王国からの返答は良く分かった。我が国からアサヒナ伯爵に辺境伯位を与えることに異論はないということだな。それでは次に、領地についても話しておきたい」


「お待ちください、ユリアーナ様」


「辺境伯位について一点確認がございます」


「うむ。申してみよ」


「この度アサヒナ伯爵に辺境伯位を与えるのは、彼の領地がグリュック島という、貴国から見て辺境であるからという理由かどうか確認させて頂きたく」


「グリュック島はアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の領土。そして、この度正式にアサヒナ伯爵の領地として認められた土地でございます。これを貴国が辺境と呼び、アサヒナ伯爵を辺境伯位に就かせるというのは、我ら両王国の土地を貴国の領土にしようという思惑があるのではないかと心配しております」


「なるほど。……あはははははっ! そうか、そのような心配をさせてしまったか。大変申し訳ない。別に、貴国の領土を奪おうなどという考えはないのだ。ただ、伯爵位よりも上位の貴族位となると侯爵や公爵しかなくてな、流石に血縁関係もないのに公爵位は与えられぬし、侯爵あたりが妥当だろうと最初は考えたのだが、そうなるとアサヒナ伯爵には帝国の政治の中枢にも関わってもらう必要がある。しかし、両王国ではアサヒナ伯爵の自由な活動を認めておるのだろう? そうなると侯爵というわけにはいかないだろうと思ってな。同じ位階の辺境伯位とすることにしたのだ。それと、アサヒナ伯爵に与える領地も帝都から外れた北方の国境線の辺りになるからな!」


「なるほど、そういうことだったのですか。それならば、問題ありませんが……」


「とはいえ、アサヒナ伯爵が貴国の辺境伯位となったとしても、我らの国への政治的な介入は認めません」


「そのようなつもりはないから安心してくれ。それにしても、グリュック島を正式にアサヒナ伯爵の領地にするとは、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国も動きが早かったな?」


「それは貴国のせいではないですか!」


「そうですよ! 貴国がハルトに領地を与えるなどと言うから!」


「くふふふ、なるほど。我が国がアサヒナ伯爵に領地を与えると言ったから、慌てて与えることにしたわけか。もっとアサヒナ伯爵を大事にせねばならぬぞ? ふははははは!」


「「ぐぬぬぬ……!!」」


 ユリアーナが高笑いしながらリーンハルトとクラウスを見る。まぁ、確かにアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国からは特別に厚遇されているとは感じないけど、貴族籍を与えた俺を自由に活動させてくれているという点では十分に大事にされているとは思う。


 いや、そんなことよりも俺が帝国で与えられる領地の話をしないといけないのでは? リーンハルトとクラウスにそのことを伝えたら二人とも再び冷静になったのだが、これでは先が思いやられるな。


 ともかく、まだユリアーナとの会談は始まったばかりなのだ。もう少し気を引き締めてもらいたい。そう思いながら、二人から領地についての話が始まるのを待つことにしたのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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