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上司への報告と神界でのトラブル

 ホルンの里から帝都に戻ってきた俺たちは、ユリアーナの部屋で談笑していた。ホルンの里でレーナとレーネの二人が俺の仲間の証である紋章を授かった際のことが主な話題となっていた。


「それにしても、アサヒナ伯爵に仲間が増えるとあのような面白いことが起こるのだな! 私も其方の仲間になってみたかったぞ!」


「ユリアーナ様。アサヒナ伯爵様はアルターヴァルト王国の神子でもありますから、あのようなことが起こっても不思議ではありません」


「そういえば、そのような話もあったな。すっかり忘れていたが。ところで、神子であるアサヒナ伯爵よ。此度の帝国の一件について何らかの神託はなかったのか?」


「はぁ。そういえば、何もありませんでしたね……?」


「ふむ。神にとっては取るに足らない事態だったということか……」


「今回の一件は魔王も関係していますし、そのようなことはないと思うのですが……」


 ふむ。言われてみれば、確かに今回の一件については何の神託もなかったな。ユリアーナの言うような、取るに足らない事態ということはないと思うけど、少し気になる。


 まぁ、俺も世界神と密に連絡を取れていたわけでもないので、世界神が神託を送ってこなかった事情は分からない。まさか、信頼されているから今回の一件については全て任されていた、ということもないだろう。


 むしろ、全然連絡をしなかったから見捨てられた、と考えるほうが納得がいくというか……。いや、流石にそれは悲しくなるので考えたくはないが……。まさか、な?


 うん、そろそろ世界神と連絡を取ったほうがいいかもしれない。


 そう思って、ユリアーナの部屋をあとにした俺は、帝城に与えられた自室に引きこもり、久々に神話通信で世界神に連絡を入れることにしたのだった。


「さてと。久々だから、少し緊張するな……」


 呼出音が脳内に流れる。だが、なかなか世界神が出てくれない。


 既に十コールは待っている。だが、一向に出てくれる気配がない。もしかして、俺があまりにも連絡を入れなかったから機嫌が悪いとか、そういうことが原因じゃないよな? 少し不安になる。


 それからさらに十分近く粘ってみたものの、結局世界神とは連絡がつかなかった。理由は分からない。ただ世界神が忙しいだけかも知れない。俺からの連絡に構っていられないほど忙しいとか。


 でも、世界神のいる運営四課って、この世界『マギシュエルデ』の運営が主な業務だよな? 今回この世界に齎された災厄の一件はもう片付いたと言っていいはず。それなら、一体何に忙しいんだ?


 これはもう同じ運営四課に所属する機会神や輪廻神に確認するしかないだろう。そう考えて、今度は機会神に連絡を取ってみた。暫く呼出音が鳴り続いたが、反応があった。


『お久しぶりですね、朝比奈さん』


『あぁ、やっと繋がった。お久しぶりです、機会神様』


『着神に出るのが遅くなってすみません。今こちらは非常にドタバタとしていまして……。それにしても、私に神話通信でご連絡を頂くとは珍しいですね。何かありましたか?』


『ご無沙汰しております。本日は世界神様に現状のご報告をと思い、ご連絡させて頂いたのですが、世界神様には神話通信が全く繋がらなくて……。お忙しいのかなとは思ったのですが、あまり報告を遅らすことも良くないと思いまして、それならば近くにおられる機会神様か、輪廻神様にご連絡してみようかと、そう考えた次第です』


『あぁ、なるほど。魔王がゴルドネスメーア魔帝国を混乱させようと画策した件についてですね。私もどうなることかと心配しておりましたが、流石は朝比奈さん。見事に解決されましたね』


『あ、ご存知だったのですね』


『もちろんです。世界マギシュエルデの状況を見守るのが私たちの仕事ですからね』


『そうでしたか。それでは、既にご存知かもしれませんが、改めてご報告させて頂きたいと思います。魔王がゴルドネスメーア魔帝国に混乱を齎そうとしたのです。ヒッツェ山を噴火させて食料危機を招こうとしただけでなく、古代竜を脅して皇帝に呪いに掛けたのです』


『それを朝比奈さんはアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国から食料を集めて帝国に供給し、食料が不足する事態を防ぎ、そしてヒッツェ山の噴火を鎮めただけでなく、古代竜を獣魔にして皇帝の呪いを解いたのですよね?』


『その通りです。ですが、予想しなかった事態も起こりました』


『第一皇子が魔王を名乗ったことですね?』


『はい。ですが、第一皇子フェリクスには魔王というほどの強さは感じられませんでした。勇者であるセラフィでなくてもダメージを与えられる程度の強さでしたから。それに、この世界の魔王はリーゼロッテ・クレーデルと名乗って帝都で活動していたようですし、第一皇子フェリクスは魔王ではなかったと考えるのが妥当かと思うのですがいかがでしょうか?』


『私も同じ認識です。試練神からマギシュエルデに遣わされた魔王は一人しかいませんし、それが朝比奈さんの言うリーゼロッテ・クレーデルと名乗る者だったと見て間違いないでしょう。それにも関わらず、新たに魔王を名乗る者が現れました。それは一体何故か? 私たちは、何者かがマギシュエルデに魔王のような『危険な存在』を送り込んできたのではないかと、そう考えているのです』


『そんな!? それでは、神界にいる誰かが、そのような危険な存在をこの世界に送り込んできたと、そう仰るのですか!?』


『はい、現状はその可能性が高いと考えています』


『魔王一人でも大変なのに、そんな危険な存在が送り込まれてくるなんて、一体どうなっているんですか!? というか、世界神様の昇神試験の難易度が格段に上がっていると思うんですけど、流石に世界神様が可哀想じゃないですか!? この件について試練神様はどう考えておられるのですか!?』


『朝比奈さん、落ち着いてください! もちろん、今回の一件は神界としても非常に重大なインシデントだと考えています。しかし、まだ調査は始まったばかりです。すぐに解決するということはないでしょう。そして、この件では運営四課だけでなく、試練神のいる部署も混乱しているのです』


 インシデントだって? 既に事件が起きてるんだからアクシデントでは? そんなことを思いつつ、一呼吸置いて一度冷静になる。


『失礼致しました、少し取り乱してしまいました。ですが、このままでは世界神様が可哀想ですし、何とかできないのでしょうか……?』


『私としても何とかしてあげたいのですが、現状では何とも……』


『そうですか。ともかく、状況について理解致しました。世界神様も大変忙しくされていたのですね……。私からの着信に出られなかったのも納得です』


『まぁ、ご理解頂けて良かったです(忙しすぎて徹夜明けの仮眠を取っていたから、というのは黙っておきましょうか)』


『機会神様のお話を聞いて、この世界マギシュエルデに異常事態が起こっているということと、そのせいで神界が混乱していること、そして運営四課の世界神様や機会神様、輪廻神様がお忙しい状況であるということは理解致しました。それを踏まえて幾つか確認させて頂きたいのですが……』


『はい。私に答えられることであれば、お答え致します』


『それでは、一つ目のご質問になりますが、結局今回の一件は試練神様からの試練だったのでしょうか?』


『確かに、世界神の眷族である朝比奈さんならば気になるところですよね。魔王によって齎された帝国の危機、これはヒッツェ山の噴火や、皇帝が呪いに掛かったことを指しますが、これらは私たちの知る魔王によって齎されたこの世界への危機ですから、それらは試練神による試練だったと考えて問題ないと思います』


『なるほど……』


『ですが、第一皇子によって引き起こされた皇帝への謀反と、その行動については私たちの知る魔王、ここでは今代の魔王とでも呼称しましょうか。それらの行動は今代の魔王が関係した形跡はありませんので、現状では試練に数えられておりません』


『ふむ……』


『今回の一件は神界でもどのように扱うべきか判断が分かれている状況なのです。これまでの試練と合わせた形で扱うか、それとも別枠で扱うべきか。私たち運営四課としては別枠で取り扱うべきだと主張しているのですが……』


『いやいや、もちろん別枠でしょう!? どういう判断でこれまでの魔王と同じ枠組みで考えようとしているのか、理解できません!』


『ですよねぇ。その辺りの折衝を今世界神が対応しているところなのですよ。彼女も頑張っているのですよ?』


『……そうでしたか』


『はい。彼女の今後の頑張りに期待しましょう』


『とりあえず、今回の一件と神界の状況についてはある程度理解致しました。魔王だけでなく、新たに危険な存在が送り込まれてきた可能性、それを踏まえた試練神による試練の評価。どちらも一筋縄ではいかない、難度の高い内容であると認識することができました』


『ご理解頂けたようで何よりです』


『そのうえで、一つ気になることがあります。それは、この度送り込まれてきた危険な存在についてです。一体どこの誰が送り込んできたのか。そして、一体何が目的なのか。機会神様は何かご存知なのでしょうか?』


『やはり、そこが気になりますよね。あまり神話通信で話すのはセキュリティ的に良くはないのですが、朝比奈さんもお忙しいでしょうし、かと言って私たちもあまり時間が取れないので、この場でご説明致しますね。実は、今回の一件とは別に神界を揺るがす大きな事件が起きていたのです』


『はぁ、大きな事件ですか。一体何事ですか?』


『実は、神界から試練神が行方不明になったのです』


『えっ、試練神様が行方不明!? どういうことですか!?』 


『私たちも気付いたタイミングが遅くて、何が起こったのかを完全に把握しているわけではないのですが、朝比奈さんがマギシュエルデで魔王による試練、即ち火山の噴火と皇帝に掛かった呪いについて対応されている間に行方不明になったようなのです』


『そんなことが起こっていたなんて……』


『私たちももっと早く気付ければ良かったのですが……。それはともかく、マギシュエルデに新たな危険な存在が現れた時期と試練神が行方不明になった時期が重なっていることに私たちは注目しています。そう、マギシュエルデに新たに発生した危険な存在は試練神によって送り込まれたのではないかと、そう考えているのです』


『試練神様が!? 一体何故!? 試練神様は世界に試練を与えるのがお仕事かと思いますが、特定の世界に昇神試験以外で試練を与えても問題ないのでしょうか?』


『もちろん、問題があります。通常、世界神の昇神試験には、世界神の実力に合わせた試練が与えられるはずなのですが、マギシュエルデには勇者セラフィが誕生した結果、世界神だけでなく勇者の実力も加味する形で試練が与えられることになったのはご存知ですよね?』


『はい。その話は以前世界神様からも伺っています』


『しかし、どうも今の試練神は未だに勇者誕生の件を良しとしていないようで、何かと世界神への当たりが強くなっていたのです。もちろん、そのことには世界神も反発していましたし、他の世界神たちも快く思っておりませんでした。まぁ、当然ですよね? その結果、創造神様からも直接注意をして頂いて、最近は大人しくなったと思っていたのですが……』


『神界もいろいろあるんですね……。しかし、今の機会神様のお話を伺っていると、世界神様がマギシュエルデに勇者を誕生させた結果、試練神から不興を買い、魔王だけでなく新たに危険な存在を送り込まれてきたと、そのように聞こえたのですが……』


『まぁ、そのように捉えて頂いて間違いありません。まだ私も確証を持って言えるわけでもないのですが、神界では大体そのように認識されていますね。ともかく、私から言えることは一つです』


『はい』


『今、マギシュエルデは試練神から本来の試練だけでなく、嫌がらせとして新たに危険な存在が送り込まれている状況です。ですが、何が試練で、何が嫌がらせかは責任者であった試練神にしか判断ができません。これからマギシュエルデには更なる混乱が待ち受けているかもしれませんが、ここが堪えどころです。気を引き締めて、対応に当たってください』


『分かりました。まぁ、少々納得できないところもありますが、全ては行方不明になった試練神のせいってことですよね? それならば、全ての試練を乗り越えたときには、我々に多大な迷惑を掛けたことを試練神様から謝罪してもらいましょう。そして、誠意を見せて頂くことに致しましょう! あ、もちろん任命責任のある創造神様からも謝罪を頂きたいですね』


『あははは! そうですね。試練神だけでなく、創造神様からも謝罪して頂くことに致しましょう! それでは、引き続き対応をよろしくお願い致しますね』


『はい。また何かありましたらご報告させて頂きます!』


 こうして、機会神との神話通信は無事に終わった。それにしても、神界では試練神が行方不明になったらしい。一つの部署を預かる神が行方不明になるなんて、結構な大事件だと思う。


 そして、マギシュエルデに、魔王とは別に、新たに危険な存在が送り込まれてきたのは、その行方不明になった試練神によるものかもしれないそうだ。世界神がセラフィを勇者にしたことで不興を買ったとかなんとか。数ある世界の一つで勇者が一人誕生したからといって、試練神がそこまで不機嫌になるものだろうか?


 もしかすると、世界神は他のことでも試練神の機嫌を損なうようなことをしていたりしないだろうな? まぁ、神界でのことは世界神たちに任せておくしかない。


 それよりも、今後のマギシュエルデについて考えないと。


 試練神が行方不明ということは、今回の容疑者が捕まっていないというわけで、今後もフェリクスのように魔王を名乗る危険な存在が現れる可能性があるということだ。魔王だけでなく、新たに現れた危険な存在にも対応しなければならなくなったというわけだ。これに対応するには、世界レベルで対魔王勇者派遣機構を成立させるしかない。


 そのためには、まずは帝国の重鎮たちとの会談を終わらせて今回の一件をちゃんと片付けて、帝国とアルターヴァルト王国、ヴェスティア獣王国との間で国交を結ぶことが重要だ。その上で、対魔王勇者派遣機構にゴルドネスメーア魔帝国も参加させる必要がある。


 というか、対象が魔王だけではなくなったから、対魔王勇者派遣機構については別の名前も考えたほうがいいかも知れないな。


 ともかく、今後のことについて色々と取り決めをしていかなければならないのは確かだ。やることだけはたくさんあるのだ。


 はぁ、と小さなため息をつきながら、そういえばと一つ思い出したことがあった。


「レーナとレーネの二人が仲間になったということは、四種族が全て仲間になったってことだよな……。何かしらの特典があるはずなんだけど、機会神様のお話では神界は混乱しているみたいだし……。特典については暫くお預けかな?」


 そんなことを呟きながら、俺はベッドに倒れ込んだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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