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帝都視察と二通の手紙

 そんなこんなで、ユリアーナとの帝都の市場視察というか、一般市民の声を聞きに行く会は無事に終了した。まぁ、一般市民の声を聞くというよりは帝国の解き放った間諜による情報操作の場となったような気がするのは気のせいではないだろうけど。


 それにしても、ライナルトは本当にユリアーナに付いてきただけだったな。終始ユリアーナの隣であわあわしていただけだった。恐らく普段から城下を散策するなんてこともないんだろうな。


 一応、定期的に城下にも顔を出したほうがいいのではないかと伝えたが、「何故に?」という顔をしていたので、もしかすると市場に貴重な魔導具が出回るかもしれないし、市民の生活に必要な魔導具のアイデアが思い浮かぶかもしれないだろう、と伝えたのだが。


「確かに! いつも商人や錬金術師が帝城に持ち込む魔導具にしか目を向けておりませんでしたが、アサヒナ伯爵の言う通り、市民の間で流通する希少な魔導具もあるかもしれませんし、新たな魔導具の需要なんかも掴めるかもしれませんね! 私も定期的に城下に顔を出すことに致します!」


 そう言って、帝都の状況にも特定の分野だけではあるが興味を持ってもらえたようだった。


 ユリアーナは今回の視察の成果に満足したようだ。まぁ、間諜の活動状況はよく分かった。それに、少しずつではあるが噂が一般市民に広まっているということも分かったからな。このまま噂が広まれば、帝国の重鎮たちとの会談までには帝国内での市民の感情も変わってくるはずだ。


 ユリアーナやルードルフが排除したい貴族は主に『保守派』と呼ばれる貴族たちで、フェリクスを旗頭にしていた現在主流の派閥だ。だが、今回の帝国の危機において保守派の貴族は他国への支援を求めることをせず、自分たちの力だけで解決しようとした。その結果が辺境調査団の派遣だったのだ。その成果については改めて述べる必要もないだろう。そして、旗頭となっていたフェリクスは謀反を起こし、ただちにセラフィによって鎮圧された。保守派の立場が非常に危うくなっているわけだ。


 逆に勢いづいているのが『開国派』の貴族たちだ。開国派は早くから他国に支援要請をするべきと訴え、現状の鎖国政策の撤廃を訴え続けていた。結局、その支援要請を実現することはできなかったわけだが、自分たちの考えた政策を実現に近づけた者が現れた。そう、ユリアーナと俺たちだ。


 開国派に近かったユリアーナが他国の貴族であるアサヒナ伯爵(俺)から個人的な支援を取り付けた結果、食料不足は一時的なもので済むことになった。また、ヒッツェ山の噴火を鎮め、皇帝陛下ルードルフを救い、そして、フェリクスの謀反も鎮圧した。


 結果、帝国に訪れた危機は危機と言うほどの被害には至らずに終結したのだった。そのような状況を見れば、保守派と開国派、どちらの勢力が優勢なのかなど子供でも分かる話であった。


「まぁ、そんなわけでいつの間にかユリアーナ様に近い貴族が主流の派閥を形成しており、近々開かれる帝国の重鎮たちが参加する会談で、保守派の貴族が一掃されるという手はずになっているのです」


 そう答えてくれたのは、ユリアーナの侍女であるリリーだった。恐らくは、彼女も間諜の一員だと思われる。事情に詳しすぎるからな。


「そちらの事情は理解しましたが……。我々にも都合があるので、そろそろ国に帰りたいところなのですが」


「残念ながら、そのご希望は次の会談が行われるまでは難しいとご理解頂ければと思います」


「仕方がないですね……。手紙のやり取りは問題ないですか?」


「こちらで検閲させて頂きますが、それでよろしいのでしたら」


「問題ありません。それではアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国宛で手紙を出させて頂きますね」


 別に他人に見られて困るような内容を手紙で出すつもりはないのだが、現状の帝国の状況はアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国には正しく伝えておく必要があるだろう。何せ、今の帝国は間諜がユリアーナやルードルフの都合の良いように操作した情報が出回っているわけだからな。


 とりあえず、自分たちのことは心配ないこと、しばらくは魔帝国に滞在することになること、食料の供給は引き続き続けてもらいたいこと、起こっていた問題は片付いたことなどを書いておこうか。こちらは問題なく届くだろう。


 それと、もう一通。まぁ、こちらはゴットフリートとエアハルト宛なので、検閲も厳しいだろうし、弾かれる可能性が高いが、一応事の真相について触れた内容も出しておきたい。この度の帝国の危機の一部始終(ルードルフが倒れてからフェリクスが討たれるまで)をまとめたものを。


 検閲で弾かれる可能性が高い手紙を何故あえて出そうとするのか。それは魔帝国側にも伝えておきたいことがあるからだ。


 では、それは何か。そう、それは俺たちの報酬についてだ。金銭や物品なんて言うもので済むのならありがたいのだが、今回の働きに見合った金額って一体どれぐらいになるのか? 俺は結構な額になるんじゃないかと思っている。


 まぁ、帝国は三大国に数えられるほどだし、大きな額でも支払えないということはないだろうが、各領地の街や村、そこに続く街道に積もった灰の除去、悪天候や火山灰によって職を失ったり収入が減った国民への補助といった救済処置、今後帝国が立ち直るまでに必要な食料や物資の調達。まぁ、これは鎖国政策を解除してからの話になると思うけど。とにかく、それらのことを考えると、今の帝国は何かと入り用なのだ。


 そんな中、俺たちに多額の報酬を支払うというのは帝国としても厳しいし、国民感情としても良いものではないはずだ。


 そうなると、金銭や物品以外の報酬に行き着くと思われる。そう、例えば俺たちに勲章や爵位を与えるとか、場合によっては領地を与えるなんて言うのもあるかもしれない。


 俺が帝国の国民だったならそれでも良かったかもしれないが、俺はアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両国に所属している。今から第三国が爵位を与えるなんてことになったら、確実にアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国で問題になる。


 また、領地なんてもらっても、俺には既にグリュック島という管理する土地があるし、遠く離れた土地を新たに拝領したとしても管理できない。


 そう考えると、勲章はまだアリだけど、爵位はダメで、領地の拝領なんてのはもっとダメなわけだけど、そうなると帝国は一体何を報酬として与えるのかということになる。


 流石に無報酬というのは世間体が悪いだろうし、俺としてもただ働きは遠慮したい。もちろん、食料の寄付は俺の善意でやっていることなので、それ自体に対価を求めるつもりもない。ユリアーナへの貸しだ。


 大体、魔導具店が儲かりすぎているので、国内に金を落とすようにゴットフリートやウォーレンから小言をたくさん頂いているのだ。今回の食料の寄付はむしろ俺にとっても都合の良いことだったのだ。


 さて、そう考えるとどのような報酬が適切なのか。俺にも分からなくなってきたが、これらのことも踏まえて手紙に書いておけば、少なくとも間接的にではあるが、ルードルフとユリアーナに俺の危惧することが伝わるはず。


 そう思って手紙を出したのだが……。


「二通とも問題ないと判断いたしましたので、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国のそれぞれのお屋敷に届けさせました」


 そう言って何事もなかったかのように、リリーが伝えてきたのだった。むしろ、本当に両王国に手紙が送られたのか気になるんだけど……。


「問題なく転移されております。気になるようでしたら転移台を管理されているライナルト様に確認頂ければと思います」


 ふむ。そこまで言うのなら信用しても……。いや、やっぱり信用できないので、直接ライナルトに確認することに決めた。


「もちろん、私が責任持って両国の屋敷に転移させましたよ! 今までこちらは受け取るだけでしたからね! こちらから手紙を送るというのは初めてだったので大変興奮しました! あぁ、早速返事が届いたようです!」


 そう言いながら、先ほど転移台に現れた手紙を二通手渡してきた。


 それぞれの封蝋を確認すると、確かに両国の王家からのものだと確認できた。それを開封して早速中を確認すると……。


「「全く、一体何をやったんだ!! さっさとこちらに帰って来て全容を説明しろ!! バカモノが!!」」


「「報酬がややこしいことになるのは当たり前だろう!! こちらからも大使を送るから魔導船を寄越せ!!」」


 二通の手紙は大体同じような内容が書かれており、要約すると、それぞれ大体そのようなことが書かれていた。うーん、やっぱり俺はやらかしてしまったらしい……。てか、ヴェスティア獣王国からの手紙はエアハルトではなくハインリヒが書いてる気がする。


 しかし、大使を送るから魔導船を寄越せとは……。それって、つまり俺が出迎えにいかなければならないってことだよね?


 手紙の内容を念の為リリーに伝えてみたのだが、「そういうことならば、仕方のないことかと。むしろ、こちらとしては事前に両王国の対しを迎え入れる準備ができそうなので助かります」と答えていた。


 あれ、今日俺は何をしようとしていたんだっけ? あぁ、そうだ。俺はホルンの里に出かけることをリリーに伝えようと考えていたんだった。慌てて部屋から出ていくリリーを引き止める。


 そう、俺たちはもともとグリュック島での稲作を実現するためにこの地までやってきたんだよ。それで、おかしな状況に巻き込まれただけなんだ。それなら、改めてオイゲンと今後について話しておきたいよね?


「あ、明日からしばらくホルンの里に向かいます」


「ホルンの里……。なるほど、承知致しました。ユリアーナ様にもご報告させて頂きます。因みにお戻りになられるのはいつ頃ですか?」


「一応、明日、明後日には戻って来る予定ですよ」


「ふむ。承知致しました。それではその旨ユリアーナ様にご報告致しますので少々お待ちください」


 そう言って俺の部屋から出て行ったリリーが再び戻ってきたのは一時間ほど経った頃だった。もちろん、ユリアーナからは「問題ない」という答えをもらったのだが……。


「もちろん、私も付いていくぞ!」


 とのことで、ユリアーナも同行することになったのだった。この忙しいときに帝都から離れて問題ないのかとも思うが、ルードルフが許可しているのだから仕方がない。もしかすると息抜きでもしてこいと送り出してきたのかも知れない。まぁ、付いてくる分には別にいいんだけどね。


 こうして、俺たちは明日久々にホルンの里へと向かうことになったのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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