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独白、そして新たな決意

 食堂から出た俺たちは階段を挟んで左手にあるお風呂場にやってきた。ここはアメリアの希望通り、十人近くが一緒に入っても十分な広さを確保できていて、まるで小さな旅館の大浴場くらいの広さはある、と思う。


「アメリアさん、ここがご希望されていた広いお風呂場です。着替えは脱衣所の籠に入れて頂いて、こちらから入って頂きます。身体を洗うところと湯船は分けてますから、綺麗なお湯に何時でも入れますよ」


「おお!? ここの湯船は広くていいな! これなら皆で一緒にお風呂に入れるし、最高じゃないか!」


「そう言って頂けてよかったですよ」


「ハルト、このお風呂も何か仕掛けがあるの?」


 アメリアとカミラがワクワクしながら俺の方に視線を向けると、ヘルミーナもジト目で俺の様子を窺っている。全く、毎回何かやらかしていると思われるのは勘弁願いたい。まぁ、少しばかり趣味を取り入れているが……。


 今回創った湯船は俺の好みでジェットバスになっている。それに、温度は自由に風呂場の中から設定できるし、追い焚きもできるが、何より源泉かけ流しともいうべきか、常に新しいお湯が湯船に注がれる造りになっている。


「いえ、それほど大した機能はないですよ。ここのボタンを押すと泡が出るくらいで……」


「「「「おおおー!」」」」


「この勢いよく出る泡が気持ちいいんですよ」


「本当か!? うわぁ、早く試したいなぁ!」


「主様、これは私も入ることができるのでしょうか?」


「そうだね……セラフィが入っても多分問題ないと思うけど……。もし何か問題が見つかったらすぐに教えてくれれば対応するから」


「分かりました、主様!」


 一階から、三階、二階と紹介してきたが随分と時間が経っている。残すところは地下一階だけだが、少し巻きで紹介を進行することにしよう。


「さぁ、まだ地下一階の確認が残ってますから、先にそちらを終わらせましょう。ほら、地下にはアメリアさんがお話しされていた訓練場もありますし、今から見に行きませんか?」


「おお! 本当に訓練場まで作ってくれたのか!?」


「えぇ、もちろんですよ。皆さんのご希望に沿いたいと思いましたので!」


「よし、早速行こう!」


 アメリアに抱えられる形(お姫様抱っこ)でお風呂場を後にした俺は、アメリアとセラフィと一緒に地下まで一気に階段を駆け下りた。というか、カミラとヘルミーナの二人がアメリアの勢いに付いてこれていないようでまだ姿がない。


 お風呂に入りたいからか、訓練場に興味があるからか分からないけど、アメリアもこんなにはしゃぐことがあるんだなぁ。


「それで、どっちが訓練場なんだ?」


「階段を降りて右手の部屋が訓練場です。左手の部屋はヘルミーナさんがお話しされていた錬金術の研究室ですね」


「あら、錬金術の研究室はお店のほうにあるのかなって思ってたけど、屋敷の中にあるのね!」


 階段を下りてきたヘルミーナが会話に加わり、続いてカミラたちも階段を下りてきた。急いで来たのか少し肩で息をしていた。


「カミラさん、大丈夫ですか?」


「私は、大丈夫、説明を、続けて」


 少し疲れた様子だったが既に息が整いつつあるようだったので、カミラの意見に同意し訓練場に向かうことにした。


 訓練場の扉を開けて照明を付けると、そこには土の地面が広がる。端には簡単な水場があり、その側にシャワールームが二つ用意されている。まぁ、設備としてはそんなところなのだが、ここの目玉はなんと言っても耐久性と防音性能だ。


「こちらが訓練場です。まぁ、ぱっと見た感じ普通の広場になっていますが、ほら、火魔法『爆炎弾』!」


「「「えっ!?」」」


「むっ!?」


 俺は訓練室の耐久性を皆に伝える為、おもむろに火魔法を訓練場の壁に向かって放ってみたのだが……。威力をかなり抑えたつもりだったのだが、先日ブリュンヒルデが見せた魔法よりも少々大きい火球が出て勢いよく放たれてしまい、爆音と熱風、そして恐ろしいほどの振動が訓練場に襲い掛かった。


「「「キャアアアッ!!!」」」


「むぅっ!」


 この場に居たアメリア、カミラ、ヘルミーナとセラフィの四人は爆音、熱風、振動の全てを一身に受けたせいで、一様にその場に伏せながら、この事態が収まるのを待っていた。


 暫くして土煙が収まってくると、四人は地面に蹲っている状態からようやく顔を上げて、恐る恐る爆炎弾が放たれた壁を見つめている。実際のところ、壁には多少の煤がついた程度で傷も凹みもない。


「えっと……こんな風にですね、少々規模の大きな魔法を使っても、その音や振動は屋敷全体には伝わらないので、いくらでも強力なスキルや魔法を使って頂いても大丈夫な構造になっているんですが……。あの、皆さん大丈夫ですか?」


「「「ハルトッ!」」」


「むぅ、主様……」


「アンタねぇ、魔法を使うなら使うってそう言いなさいよっ! いきなりあんな大きな魔法を使うなんて、死ぬかと思ったじゃない!」


「いやぁ、本当に驚いた。今の魔法、ブリュンヒルデのと同じ魔法だよね? 本当に凄い衝撃だった……」


「心臓が止まるかと思った……。ハルト、あんまりイタズラしちゃ、だめ!」


「如何に主様でも事前の報告は頂きたいです」


「うぅ……。皆、ごめんなさい」


 壁の耐久性を知ってもらいたかっただけなんだけど、随分四人を驚かせてしまったみたいだ……。


「それにしても、あの魔法、王城では地面が抉れるほどの威力だったが、この部屋の壁はなんともないのか……。確かに凄い耐久性だ」


 俺の魔法の威力については伏せておきたいところだけど、皆には誠実に対応したいと思い、驚かせたお詫びにアメリアの疑問にはちゃんと回答することにした。


「えぇ、それに先ほどの大きな音も外には漏れていません。これならどれだけ激しい訓練をしても大丈夫でしょう?」


「でも、流石にさっきの魔法ほどの攻撃をそうそう試すことはないと思うけどな!」


 アメリアが俺の頭をワシワシと撫でながら、最後に「気に入った!」と言ってくれたのでホッとした。カミラとヘルミーナも興味深そうに壁や床を調べているが、彼女等もこの部屋については概ね理解できたようだ。


「では、そろそろ研究室のほうに行きましょうか」


「そうね、どんな部屋になっているのか楽しみだわ!」


 訓練場を出た俺たちは研究室へと向かう。といっても、すぐ隣なので一分と掛からないが。


 研究室の扉を開けて照明を付けると、部屋の中にはデスクライトが備え付けられたデスクが二つ、それから錬金術を行なう作業台、それにフラスコ類やビーカー、試験管など、錬金術で役立ちそうな器具が収まった戸棚と倉庫があり、簡単に言えば理科室や理科準備室のような部屋となっている。


「なるほどね、ここなら魔導具の開発だけじゃなくて、実験もできそうね!」


「そうですね。ただ、火気の取り扱いには注意して下さい。あまりに高温になったり、煙が出た場合に火災警報器とスプリンクラーが作動しますので」


「火災警報器? スプリンクラー? そういえば魔導具のお店にもそんな物があるって聞いたわね。火災警報器はなんとなく想像付くけど、スプリンクラーって一体何なの?」


 俺は天井に備え付けられた火災警報器とスプリンクラー設備を指差しながらヘルミーナに説明する。


「そうですね、簡単に説明しますと、熱源や煙を感知して皆に知らせる魔導具が火災警報器、火を鎮めるための泡を放出する魔導具がスプリンクラーです。ほら、天井のここに出っ張りがあるでしょ? これが熱や煙を感知すると、こっちの出っ張りから泡がいっぱい出て火事を未然に防ぐことができるんです」


「そんな魔導具聞いたこともないけど、火事を防げるなんてなかなか優れた魔導具じゃない! これは、この部屋以外にも付いてたわよね?」


「えぇ、屋敷を含めて全施設に備え付けています。因みに、火災警報器が熱を検知すると、けたたましく警報音が鳴るので嫌でも火災に気づきますよ」


 鳴らしてもいいか皆に確認すると、俺は警報音を鳴らすべく壁に備え付けられている火災報知機のスイッチを押し込んだ。


『ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリッ!!!』


「「「うわっ!?」」」


 皆が耳を防ぐ中、警報音を止める。


「大体こんな感じで施設全体に鳴り響くので、気づけるかなと思いますが、どうでしょうか?」


「確かにこれなら嫌でも気づくな」


「きっと夜に寝ていても起こされると思う」


「全く、本当に凄いものを作るわね……」


「まぁ、皆さんの安全の為ですからね。また今度消防訓練でもやりましょう……。あっ!」


「どうかした?」


 カミラが不思議そうに俺の顔を覗き込む。


 そうだ、火事に対する備えだけではなく、侵入者に対する備えも用意していたのだ。そう、所謂警備システムだ。俺が許可した者以外が勝手に敷地内に入ると強力な結界により弾きだされ、且つ敷地内に警報音が鳴り響く、そんなシステムだ。


「皆さんにお伝えしておくことが。この屋敷の敷地内には私が許可していない人が勝手に侵入したり、攻撃しようとした際に、私が施したオリジナル魔法『警備結界』が発動して、侵入者を王都の外まで弾き飛ばします。またその際にも別の警報音が鳴りますのでご注意頂ければと思います」

 

「「「オリジナル魔法……?」」」


「まぁ、光魔法の物理攻撃や魔力攻撃に対する耐性を高める『耐性強化』を付与した『防御結界』が常に展開されています。それから、侵入者に対しては闇魔法『拘束』と『麻痺付与』が発動するだけですし、そこまで複雑なものではないですよ」


 ぶっちゃけ、同属性の魔法を二、三種類組み合わせた程度なら効果をイメージしやすいからか、それほど難しいものでは無い。属性が異なる魔法の組み合わせも、火と水を混ぜるような効果を得ようとするとイメージが難しくなるが、別々に扱えばそんなに複雑ではないというのがこの世界の魔法に対する俺の認識だ。


 いや、認識だったのだが……。


「ハルト、オリジナル魔法を創り出すこと自体がありえないこと。だから、皆驚いてる」


 いやいや、かのフリードリヒ・オットー氏も土魔法を建築に活かすべく様々なオリジナル魔法を創り出してたと著書の中に書き記していたのだが……。


「え、でも図書館にはオリジナル魔法を使っていた人の本もありましたけど……」


「確かに、そういう人も稀にいるけど、基本的には誰も真似できなくて後継者が生まれずに廃れていくことがほとんどだって聞いたことがあるような……」


 なんと、彼はオリジナル魔法を創り出すことができる稀有な存在だったようだ。しかも、オリジナル魔法は本人以外が使えた事例は少なく、ほとんどは後継者が育たずに廃れることがほとんどらしい。


 あんなに立派な土魔法を使った建築技術の本を書き上げたのに、その本が読まれても後継者が生まれないなんて、フリードリヒ・オットー氏に対して何だか気の毒な気持ちが芽生えてくる。


 まぁ、気を取り直して話を先に進めよう……。


「まぁ、その辺りは置いておいて、今後屋敷に入れるかどうかは皆さんの冒険者ギルドのギルドタグで判定します。ですので、絶対に無くさないようにしてくださいね! もし無くした場合は、門に備え付けてあるインターホンで屋敷にいる人を呼んでもらえれば解錠しますので、ご安心を」


「「「「インターホンって?」」」」


「ですよね……」


 その後、皆で一階に移動し、玄関チャイムや門にあるインターホンの使い方を説明をしたのだが、もはや驚かれるというよりは皆から「ハルトのやることなら仕方ない」と半ば呆れられながらの説明となった。どうしてこうなった……。



 一通り屋敷内の確認と説明を終えた俺たちは二階のリビングに集まりこれからのことを相談することにした。


 窓からは西日が差し込んでいる。どうも屋敷の中を確認して回るうちにお昼を過ぎてしまったようだったが、昼食はもう少しだけ待ってもらおう。


 リビングのソファーにアメリア、カミラ、ヘルミーナの向かい合わせで座る。セラフィは何故か俺の隣に座っているが、まぁいいか。


「さて、一通り屋敷の確認と説明をさせて頂いたのですが、改めて皆さんにお話しがあります」


 俺はアメリア、カミラ、ヘルミーナの三人の目を見ながら話す。セラフィも皆も真剣な表情で俺の次の言葉を待っているようだ。


「アメリアさん、カミラさん、ヘルミーナさん。まずは、お礼を言わせてください。私の……いや、俺の仲間になってくれてありがとう。この国に来て出会えた人が、仲間になってくれた人が、皆で本当に良かったと思う」


 お礼の言葉を伝える。それも、俺はこの世界に来て初めて生前の、本来の俺の口調で、だ。三人とはほんの数日前に出会ったばかりだけど、俺のことを信じてくれて、そして仲間になってくれたことに少しでも応えたいと思ったからだ。


 三人とも少し驚いているようだったけど、受け入れてくれたようで次第にいつもの表情を見せてくれた。


「以前話した通り、俺はこの世界の神様から使命を与えられたんだ。四種族の仲間と共に、この世界にいずれ訪れる試練を乗り越えるように、って。でも、こんな話、信じてくれって言っても普通は信じてもらえないことだと思う。なのに、皆俺のことを信じてくれて……。それに、優しくして貰えてさ……」


 話をしている内に何だか感極まって、少しずつ涙声になってくる。


 少し、しんみりとした空気が流れたのを察知して、俺は改めて皆に、できるかぎり明るく語り掛けるようにした。


「アメリアとカミラが仲間になってくれるって言ってくれたとき、本当に嬉しかったんだ。それにヘルミーナまでそう言ってくれたことを凄く嬉しく思ってる。だから、どうせなら、皆と一緒に居られる場所を作りたいなって思ったんだ……」


「だから、こんな屋敷を創ったってわけね」


 ずいぶん張り切ったものねぇとか、ハルトなら仕方ない、まぁハルトだからなぁ、流石は主様ですなどと皆から口々に言われるが、皆の顔は優しいものだった。ただ、そう言われると何だか急に恥ずかしくなって皆の顔を見ていられなくなってしまい、思わず俯いてしまう。


 まぁ、完全に俺の我儘で創った屋敷だし、仕方ないのだけど……。


「ハルトの気持ち、私は嬉しいよ。私もハルトと一緒に居たいと思ってたからね。だから、私は嬉しいよ」


 顔をあげると、アメリアがぐっとサムズアップしてウィンクすると、続けてカミラも口を開く。


「ハルトが私たちと一緒がいいって言ってくれたの、私も嬉しい。ハルトはまだまだ危なっかしいから、私がお姉ちゃんとして、隣でしっかり見守ってあげないと」


 そう話すと、カミラもアメリアと同じくサムズアップして微笑んでくれた。さらに、その様子を見たヘルミーナも軽く息を吐くと、腕を組んで俺に向き合った。


「二人の言う通りよ、ハルト。みんな、アンタを信頼して、いえ、それ以上の何かを感じているから、アンタと一緒に居たいのよ。もちろん私も含めてね。それに私はもうお店も売り払ったし、当然ここに住むつもりよ。ここにくる前に言ったでしょ? 『アンタの考えてることくらい何となく想像できる』ってね!」


 ヘルミーナは腕を組んだまま器用に左手でサムズアップを返してくれた。それにアメリアとカミラもヘルミーナの言葉に頷いていた。


「主様、私もお側に居りますからね!」


 みんなの言葉を聞いて、何だか目頭が熱くなって、思わず天を仰ぐと、それを待たずに熱いものが瞼から零れ落ちて頬を伝った。


「うぅっ……うぐっ……ありがとぅござっ……ますっ!」


 嗚咽により言葉にもならないような声でしかみんなに感謝できなかったが、三人は俺を抱擁すると口々に優しい言葉を掛けてくれた。


 俺は決めた。俺は……何があっても仲間を、絶対に皆を守る!


 その思いを強く胸に秘める中、この屋敷に、アメリアとカミラ、ヘルミーナ、そしてセラフィと一緒に住むことが決まった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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