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怒りの魔法、超・神氷

 皆が崩れ落ちる様子が目端に入った瞬間に、俺にもとてつもなく嫌な感覚が襲い掛かる。まるで、第三者なにものかに無理矢理意識を奪われたあげく、望んでもいない悪夢を何時までも見せられるかのような、そんな感覚だ。


 だが、それだけだった。


 俺はそれを振り払い、皆のもとに向かう。一番近くにいたのはユリアーナだった。すぐに彼女の状態を鑑定する。


『名前:ユリアーナ・ヴィアベル・ゴルドネスメーア

 種族:魔人族(女性) 年齢:16歳 職業:帝国立高等魔法学院二回生

 所属:ゴルドネスメーア魔帝国

 称号:ゴルドネスメーア魔帝国第一皇女

 能力:B(筋力:C、敏捷:C、知力:A、胆力:A、幸運:D)

 体力:2,420/2,680

 魔力:10,240/10,240

 特技:水魔法:Lv8、風魔法:Lv7、光魔法:Lv6、闇魔法:Lv5、交渉術:Lv5、話術:Lv3、威圧:Lv3、状態異常耐性:Lv2、礼儀作法」

 状態:呪い(火炎竜の惰眠)

 備考:身長:157cm、体重:48kg(B:78、W:57、H:80)』


 なるほど、な。


 つまり、倒れた皆は古代竜ローテ・ゲファールにより呪いに掛けられたのだろう。恐らくは先ほどの嫌な感覚が呪いだったと思われる。


「これが呪いか……」


 他の皆の様子も確認する。勢いよく駆け出したところに突如呪いが襲い掛かった。そのせいで、皆は身体を地面に打ち付けてしまった。そのせいで、ユリアーナも怪我をしている。


「皆も怪我をしているはず……」


 では、どうする?


「皆を治さなければ……」


 でも、それよりも先にやることがないか?


 そうだ。呪いを解かないと。古代竜を倒さないと。いや、それはもちろんなんだけど、それよりも先に皆の手当をしないと。


 いや、そんなことよりも先に古代竜を倒すべきだ。そうでないと皆が更に酷い呪いに掛けられるかもしれない。だけど……。


 それにしても、何故俺だけ助かった? 何故皆は助からなかった? これは、この身体は世界神が創り出したものだからか?


 そんなことを考えている暇などない。いつ、より強力な呪いが我が身に降りかかるか分からない。今すぐに奴を倒すべきだ。


 思考が乱れ混乱する。自問自答だ。だが、答えは決まっている。そう、皆を呪いに掛けた奴を、古代竜を倒すしかない……!


 そう考えが纏まると、急に怒りが込み上げてきた。呪いへの対策が打てなかった自分の不甲斐なさ、その呪いのせいで皆が倒れることになってしまった後悔、その原因となる生物に対する憎しみ。それらがないまぜになって、八つ当たりとも言える怒りとなり、自分に宿ったのを感じた。


「私の仲間に手を掛けたことは決して許しません!」


 そう口に出しながらも、意外と自分が冷静なのかもしれないと思った。一人称が『俺』ではなく『私』だったからだ。


 俺はユリアーナを革製のシートの上に寝かせて、怪我をしているところに回復薬を振りかける。うん、回復薬で十分対応できる範囲だな。


 そのことを確認して、近くに倒れていた順に、カミラ、レーナ、レーネと続けて介抱していく。彼女らを介抱したあと後方に待機していたヘルミーナとノーラのもとへ向かい彼女らを介抱する。


 うん、皆軽症だ。そのことに安堵しつつ、俺は再び先へと進む。


 そして進んだ先には、先行しているセラフィのサポートに回ろうとしていたアメリア、アポロニア、ニーナの三人が倒れていたので、他の皆と同様にシートの上に寝かせて回復薬を振り掛けた。


 皆を介抱する際にそれぞれ鑑定してみたが、やはり呪いに掛かっていた。今のところ、俺には効かないみたいだが、より強力な呪いを掛けてくる可能性も考えられる。早めに決着をつけるべきだ。


 とはいえ、魔法で狙うにしてもここからではあまりに遠過ぎる。もっと近くに近づかなければならない。そう、確実にやるならば、今セラフィが倒れているところまで移動しなければ……。


 セラフィが倒れているのは文字通り古代竜の目と鼻の先だった。一瞬の間にそんなところにまで迫ったセラフィに心の中で賛辞を送る。それと同時に、俺もできる限り気配を消してセラフィが倒れている場所まで移動した。


「くっ! 主様、お逃げください!」


「セラフィ!? 意識があるのか!?」


 俺はセラフィの声に驚いてセラフィを抱きかかえる。


「油断しました。まさか、こちらの僅かな気配を察して即座に呪いを放ってくるとは思わず……」


「無理をするな!」


 何とか身体を起こそうとするセラフィを制しながら、状況を確認する。


「それで、セラフィの状況は?」


「幸いにも意識はありますが、この通り身体の自由が効きません」


「ふむ。身体の自由が奪われたとき、何か感じなかったか?」


「とてつもなく嫌な感覚というか、気味の悪い存在が身体にまとわりつくような、そんな感覚を覚えました……」


 やはり、あの嫌な感覚が『呪い』で合っていたようだ。しかし、何故セラフィはこんなにも古代竜と近くにいたにも関わらず、意識を失わなくて済んだのだろう?


 距離以外に皆と違うところはないか。まぁ、ステータスの差は大きなポイントかも知れないが、それ以上に何か大きな違いがあったのだとしたら、それが呪いを防ぐ要素ポイントになるはずだ。


 そんな他愛のないことを考えていたからか、それともセラフィの意識が残っていたことにホッとしたからか、俺の怒りのような複雑な気持ちも少しは落ち着いてきたようだ。


「私も同じようなものを感じました。それが呪いだったのでしょう。ですが、どうやら呪いはセラフィの意識までを奪えず、身体の自由のみを奪ったのだと考えられます」


「そのようなことが!?」


「ないとは言い切れません。確証もないですが。それよりも、今はここで静かに見守っていてください。古代竜は私が何とかします!」


「主様が!? ……分かりました。どうか、ご無事で!」


「任せてください!」


 セラフィを皆と同様にシートの上に寝かせると、すぐさま俺は今できる最大の魔法を放つことにした。このような存在が今後は存在しないように、皆が何の憂いもなく生きて行くことができるように、俺はこいつを、この存在を抹消する!


 だから、俺は最高の魔法でこいつを抹殺する!


 とはいえ、相手は古代竜。しかも火炎竜というのだから、もちろん火には強いはずだ。そうなると火魔法は避けたほうがいい。どうせなら、弱点になりそうな属性の魔法がいいだろう。


 よし、これで行こう。


「敢えて唱えるぞ! 目の前にいるコイツを凍てつかせろ。そして、皆を眠りから目覚めさせるんだ! 存分に暴れろ、『超・神氷』!」


 何故か、使ったこともない魔法なのに、不思議と使える気がした。神氷。高位の水魔法、恐らくはレベル9くらいの使い手でないと扱えないだろう、その魔法を限界を超える『超・神氷』を唱えた。


 そして、俺が宣言するように唱えた瞬間。「ピシピシピシ! パキパキパキ!」という音とともに、周囲の温度が瞬時に絶対零度にまで下がる。すると、先ほどまで感じていた熱量は全く感じなくなり、次第に少々ひんやりとした空気を感じることになった。周囲にダイヤモンドダストが舞う中、こちらに気付いた古代竜が抗うように立ち上がろうとする。


 だが、そんなことを許す俺ではない。瞬時に身動きが取れなくなるまで、いや、その生命が途絶えるまでに古代竜を凍てつかせる。すると、次第に動きが鈍くなり、ついには目を閉じて冷え固まった。


 なんだ、この程度で倒せたのか。


 そう思うと、落胆とも失望とも言えない妙な気分になった。そして、改めて周りを確認してみると、周囲に流れていたマグマは完全に冷え固まり、ただの岩場となっていた。恐らくはこれでヒッツェ山の噴火も止まったはずだ。


 ふむ、ちょっとやり過ぎたか。


「どう、セラフィ? もう大丈夫?」


「いえ、まだ呪いに掛かったままのようです。つまり、奴も生きているということ。主様、お気をつけください!」


「っ!?」


 セラフィの言葉を受けて、彼女を抱きかかえながらユリアーナたちの寝ているところまで下がる。すると、先ほどまで凍っていたはずの古代竜の目玉がぎょろりとこちらに向いているのが分かった。セラフィの言う通りだったか。


 よし、再度神氷を唱えて止めを刺そう。そう思って再び全身の魔力を高めようとしたとき、突然頭の中に声が響いてきた。


『ま、待ってください!』


 その声は若い女性の声だった。しかし、俺とセラフィ以外にこの場で話ができる人間はいない。そして、その声はセラフィのものではなかった。


 そうなると、この場で一番怪しいのは古代竜になるが、まさかな。気にせず、再び全身の魔力を集中して一点に集める。これで古代竜も完全に芯から凍てつくはずだ。そうなれば、あとはハンマーでガツンと叩くだけで粉々に砕くことができるだろう。まぁ、俺にそれだけの力があれば、だが。


『お、お助けください! どうか、どうか御慈悲を〜!!!』


 ふむ。やはり、妙な声は目の前にいる古代竜から聞こえてくるようだ。よく見るとその目には巨大な涙を浮かべていることが分かった。それも凍って氷の玉のようになっているが。


「もしかして、さっきから私に話しかけているのは貴女ですか?」


『そ、そうです!』


「そうですか。では、潔く死んでください」


 妙な声の主も分かったし、心置きなくやることにしよう。


 再び魔力を集中させる。手のひらを空に掲げて元◯玉を作るように、少しずつ全身の魔力を一つの大きな球の形に整えていく。すると、凍てつく波動のようなものを帯びた超・神氷の塊が完成する。


『ちょ、ちょっと待ってください! 私の話を聞いてください!』


「貴女は私たちの話を聞くこともなく、呪いを掛けてきましたよね?」


『だって、急に襲い掛かってきたから……』


「でしたら、私も貴女が急に呪いを掛けてきたから、この場で殲滅することに決めました。そして、皆の呪いを解きます!」


『そ、そんな!? 待ってください! 私を殺しても倒れた方に掛かった呪いはそう簡単には解けませんよ!?』


「はぁ? 呪いを掛けてきた張本人の言い分を信じると思います?」


『う、う、嘘ではありません! 何故なら、私の掛けた呪いは私が死んでも効果が持続するタイプだからです!』


「それが本当なら厄介ですね……」


『本当です! 呪いを解くには私自らが呪いを解呪する必要があるのです! どうです、ご理解頂けましたか!?』


「理解はしましたが、納得はしたくありませんね。それで、何が言いたいんですか?」


『はい! 皆さんの呪いを解く代わりに、この魔法を解いて頂きたいなと思いまして……。このように心の臓まで凍てつくような魔法を放ってきた人間は貴方が初めてです! このままでは本当に私は死んでしまうかもしれません! というか、もう一度同じ魔法を私に向けて放とうとしてますよね? 本当にやめてください! もう一度言いますが、そのようなものを受けては間違いなく私は死んでしまいます。それだと、皆さんの呪いも解けませんよ!? どうです、ここは穏便に解決しませんか?』


「つまり?」


『つまり、私が皆さんの呪いを解く代わりに、貴方がこの魔法を解く、ということです』


「条件がそれだけでしたら、認められませんね」


『えぇ!? どうしてですか!?』


「私たちには、他にも貴女の呪いに掛けられた知り合いが大勢いましてね。彼らの呪いも解けないと意味がないのです」


『大勢ですか? ふむ、なるほど……。それならば、その者たちの呪いも解いて差し上げます。ですから、どうか、私の命だけは何卒お助けを〜!』


「ふむ。ですが、それでもまだ足りませんね。今回、貴女のしでかした行動のお陰で私の大切な計画が遅延することになったのですよ。それは決して許せるものではありません。ですから、その責任を取って頂きます。そう、今後私の命令に絶対服従を誓うと、そう約束するのならば命を助けましょう。それが嫌ならば、呪いを解くだけ解いてもらい、死んで頂きます」


『ひぇ、なんという酷い条件!? ですが、力量差を考えると今の私には逆らえません……。ですが、うぅ、どうしましょう!?』


「私もあまり気が長いほうではありません。……従うのか、従わないのか、さっさと決めろ!」


 初めて威圧を使った。いや、別にそんなものを使うつもりはなかったのだが、こいつのせいで呪いにより大事な仲間が倒れ、大切な娘のセラフィまでも呪いのせいで身体の自由を失い、そして重要なグリュック島での米作りの計画までもが遅れることになったのだ。多少、言葉に怒りが乗るのも仕方がないだろう。


『ピャッ!? わ、分かりました! 貴方様が呪いを解けという方がいれば呪いを解きますし、呪いを掛けろという方がいれば呪いを掛けます! 今後は貴方様の指示に従いますぅ。ですから、何卒、命だけはお助けを〜!』


「そうですか。それならば貴女を許すことを検討します」


『ほ、本当ですか!?』


「もちろん、貴女が私の指示に従い、皆の呪いを解いてから改めて判断することになりますが」


『それはもう! もちろん、貴方様のご命令を受け入れます。それで、このあとはどこの国に攻め入れば良いんですか!?』


「そんなことは望んでいません! まずは、この周りに倒れている私の仲間に掛かった呪いを解いてください」


『承知致しました〜!』


 こうして、本来ならば古代竜を討伐して皆に掛かった呪いを解くはずが、意味が分からないままに、古代竜と意思疎通することとなり、古代竜を従えて皆の呪いを解いてもらうことになった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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