熱対策の魔道具
ヒッツェ山の中腹に到着すると、そこには傾斜を埋め立てるようにしてできた小さな広場があった。
その周辺に降り積もった灰を吹き飛ばすと、やはりと言っていいのか、たくさんの辺境調査団の団員が折り重なるように倒れていた。
だが、そんなことよりも目を引くものがあった。そう、山肌を貫くように巨大なトンネルのようにも見える洞窟があったのだ。
皆に手伝ってもらいながら、辺りに倒れている団員を空間探索で探し出して全員を回収した後、俺たちは巨大な洞窟について考察することにした。
その洞窟の中からは時折熱風が吹いてくる。風が岩肌にぶつかるのだろうか。その音が「ゴォ」と聞こえてくる。それは、確かにヘルミーナの言うように古代竜の鼻息のようにも思えるし、ノーラの言うように古代竜の唸り声にも聞こえた。
そのような話を聞いていると、この洞窟の奥に古代竜が潜んでいるのではと考えざるを得なくなる。
早速洞窟の中を探索するべきかとも考えたが、既に辺りは暗くなり始め、日没が近いことを伝えていた。そうなると、このまま休まずに洞窟を探索するべきか、それとも、ここで一度休むべきか判断しなくてはならない。
ユリアーナに確認を取ると、ユリアーナから皆に対して、今日はここで一夜を明かし、明日の朝から洞窟の中を探索するという提案がなされ、皆がそれを承諾した。俺も異存はなかった。何故なら、この洞窟の中に入るのであれば、確実に熱への対策が必要だと思ったからだ。
アメリアにも実際に地面を触ってもらって確認してもらったが、活動している火山だからだろう。地面からも熱が伝わってくる。そして、洞窟内から吹き出す熱風のことを考えると、万全な熱対策をして洞窟内の探索に臨むべきだと考えた。
そして、皆が眠る中俺は試行錯誤しながら魔導具を創ることになったのだった。
翌日。
「おはよう、ハルト!」
「おはようございます、アメリアさん。今日も元気ですね」
「そう言うハルトは寝不足か? あまり元気じゃなさそうだが」
「えぇ、まぁ。ちょっと張り切って魔導具を創っただけですよ……」
「そ、そうか。私たちのためにすまないな……」
「いえいえ! 私が好きでやっていることですから! 私のことは気にしないでもらえると助かります」
「うーん。ハルトに今一番必要なのはハルトが元気になれる薬なんだろうけど、それを創れるのもハルトなんだよなぁ」
「まぁ、お気遣い頂かなくても大丈夫ですよ」
「そうは言ってもなぁ……」
そんなやり取りをアメリアとしていると、他の皆も起きてきたようだ。皆に挨拶をして、リビングのテーブルに着くと、朝食を取る前に皆に魔導具を差し出した。もちろん、俺が昨晩考え抜いて創り上げた一品を披露するのだ。中途半端なものではない。
「朝食の前にこちらを皆さんにお渡ししておきますね。昨日も確認しましたが、洞窟の中はかなりの高温が予想できます。何の対策もなく洞窟内に入ることは死を意味します。ですから、その熱を無効化する魔導が必要だと考えました」
そう言いながら、テーブルの上に用意していたリングを乗せる。リングには赤色の宝石と青色の宝石、その間に透明な宝石の三色がフランスの国旗のように並んでいる。赤色と青色の宝石は熱対策としての機能があり、それぞれ暑さ寒さに対応している。そして、中央の透明な宝石が状態異常を防ぐことに対応している。
「ということで、このリングを身に着けることで、暑さや寒さに対応できるだけでなく、火山地帯に発生する毒にも対応できるのです。ちなみに、皆さんの指のサイズは分からなかったので、装着者の指のサイズにジャストフィットするように創ってあります」
とはいえ、これだけの魔導具だ。それなりの価値があると思われる。盗難防止の措置も備え付けてある。
「それから、一度指にはめて頂いたあとはできるだけ身に着けておいて頂きたいなと。もし、外して百メートル、つまり百歩から三百歩ほど離れると壊れる仕組みになっておりますので。紛失した際にはご連絡頂き次第新たなものを用意します」
そのようにざっくりとリングの効能を説明すると、リングの山から一つをつまみとってユリアーナが早速右手の薬指にはめた。すると、指のサイズに自動的にサイズ調整されたことに少し驚いたようだった。
「因みに、毒耐性については毒自体を身体が受け付けないようになるので、毒ガス、毒が空気に紛れているものを吸い込んだ際もそうですが、毒の含まれたものを飲み食いした際にも効果を発揮するという優れものなので、普段使いにもお勧めです」
「毒には幻覚や麻痺などの症状も含まれるのですか?」
ノーラが魔力メモパッドに書いて質問してくれた。
「もちろんです。先ほどは『毒』と説明しましたが、人の身体に有害となるデバフ、状態異常は基本的に毒とみなすようにしています。ですから、例えば腐ったものを食べても当たることはありませんし、痺れ薬を仕込まれた食べ物を食べても平気です」
「媚薬などは?」
ユリアーナが聞いてくる。媚薬。本当にそんなものがあるのか。とはいえ、女性にとっては重要な質問かもしれない。いや、男性にとっても重要なのか。
「状態異常全般に効果を発揮するように創りましたので、媚薬だろうが何だろうが、気にする必要はありません。もちろん、無効化します」
「それでは、例えば煮えたぎる溶岩の中に落ちた場合はどうなるのですか? 熱対策されているということは、落ちても問題ないのでしょうか?」
「私も気になりました。これから向かうのは火山地帯なのですから、もし、噴火により発生した土石流に巻き込まれたらどうなるのでしょうか?」
レーナとレーネの二人が聞いてきた。
「レーナさんの仰るように、例えば溶岩の中に落ちることがあったとしたら、周辺の岩山にぶつかった場合はそれは物理的な被害ですので直接ダメージを受けることになります。あくまで、防ぐことができるのは溶岩による熱なのだと理解していただければと」
「つまり、その場合は、熱を感じない、ただの泥の中に埋まったのだと考えて良いのですか?」
「あー。恐らくは、そういう考えで問題ないかなと思います」
「恐らく……。少し心配ですね」
レーナの言葉に皆も神妙な顔つきになる。レーナが言ったような状況を心配しているのだろう。そのような事態にならないように、皆で協力し合うことが大事だと伝えると、「まぁ」とか「確かに」といった声が聞こえてきたので、ひとまずは良かった。
「レーネさんの仰るような土石流に巻き込まれた場合ですが、熱に関係する状態異常は基本的に問題ないと思います。ですが、土石流となると、土や石、岩による物理的なダメージが避けられないかと。そうなると、流石に今回用意した魔導具だげで防ぐのは無理ですね」
「つまり、物理的な攻撃には対応できないので、それには別の対応が必要ということですか?」
「そうですね。そう考えて頂いたほうな良いかもしれません」
「なるほど、少し心配ですね……」
「…………」
うーむ。レーナとレーネの二人からの質問で、今回用意した魔導具が万能ではないことが露呈した。まぁ、元々万能な魔導具を創っていたわけではないので仕方がないので、物理的なダメージに対しては、基本的には装備に頼ってほしいところなのだが……。
とはいえ、レーナとレーネを含め、ノーラにも俺謹製の装備を渡していない状況なので心配になる。簡単な物でもいいから物理攻撃に対する備えが必要かもしれない。
「そういうことでしたら、出発までに簡単な物理的なダメージを防ぐ効果のある物も用意したいと思います!」
そう言うと、アメリアが「おいおい、ハルトは昨晩ゆっくりと休めていないだろう? 無理をするんじゃないよ」と言ってきたので、「疲労回復薬でも創って飲んでおきますから」と答えたら、アメリアは「あぁ、もう……!」と頭を抱えていた。
アメリアの気持ちは嬉しいが、皆を危険から守るのも俺の役割だと思っている。だから、「簡単な物を」とは言ったが、決して手抜きをするつもりはない。
ということで、朝食を取ったあと俺は少しだけ時間をもらって部屋に籠もることにした。皆を物理攻撃からも魔法攻撃からも守る装備品を用意することにしたのだ。
とはいえ、今からレーナとレーネ、ノーラの装備を用意するには時間が足りないし、それができたとしてもユリアーナからも催促されるはずだ。そうなると完全に今日中に対応することは難しい。
かと言って、出発を明日にずらそうなどと悠長なことを言っている暇もない。ここは既に古代竜の目の前なのだ。いつ俺たちに呪いが降りかかるかわからないからな。
そう考えると、物理的に身を守る防具を新たに創るというよりかは耐性の付与を基本としてはどうだろうか。先ほど皆に見せたリングは回収してあるし、これらに耐性付与をすればいいだけだ。うん、それなら比較的短時間で対応できる。
付与する耐性もアメリアたちの装備と同等の耐性を付与する形でどうだろうか。それなら腕に覚えがあるのでそれほど手間も掛からない。『物理無効』『魔法無効』『状態異常無効』『即死無効』『疲労耐性』『全属性耐性』『病気耐性』『腐食耐性』の基本耐性に加えて、『神の眷族の加護』を付与しておく。
そしてできあがったものを鑑定する。
『名前:三色の指輪
種別:装飾品
詳細:朝比奈晴人が創り出した、仲間を守る特別な指輪。
朝比奈晴人の仲間が身に着けることで、周囲の気温に関係なく常に装備者にとっての適切な気温を維持することができる魔導具。
その他、付与魔法により状態異常を跳ね返す効果を持つ。
耐久:S(物理:A、魔法:A、異常:S+)
効果:物理無効、魔法無効、状態異常無効、即死無効、疲労耐性:Lv10、全属性耐性:Lv10、病気耐性:Lv10、腐食耐性:Lv10
備考:完成品(損傷率:0%)、構成素材(不明)、神の眷族の加護(防御範囲:装着者全身)』
「おぉ!?」
以前試しに創った腕輪よりも性能が高い。それはベースとなっている指輪の性能によるものだとは思うが、それにしても高性能だ。とはいえ、防御範囲が装着者の全身というのはすご過ぎではないか?
つまり、この装備以外は何も装備する必要がないと言っているのにも等しい。拙い。これはちょっとやりすぎたかもしれない……。
だが、これぐらいの性能でなければ皆を守れるという確証が得られない。この装備だけは大目に見てもらうことにして、古代竜に臨むことにしよう。まぁ、皆にその性能を事細かに伝えなければ問題ないだろうと思う。
小一時間ほど経って部屋から出てきた俺は、すっかり出発準備を整えた皆の前に立った。
「レーナさんとレーネさんの懸念を払拭する、バージョンアップしたリングを用意致しました! この指輪を装着している者は状態異常だけでなく、物理攻撃や魔法攻撃、それに即死攻撃にも耐えられるようになっていますし、疲労や病気なども防げます。もちろん、この指輪の腐食にも耐性がありますよ。どうです? これならば、安心できるでしょう?」
そう言って、皆の前に改めて指輪を並べた。だが……。
「それならば、古代竜からの呪いについても耐性があるのですか?」
「呪いに耐性があれば怖いものもないのですが、どうなのですか?」
「……えっと、残念ながら、呪いには対応していません」
「「はぁ……」」
「………」
レーナとレーネの二人にそう言われて俺は黙り込んだ。確かに、今回の状況を考えると呪いに対する耐性が最も大事だったと言える。確かに、呪いへの耐性を付与するべきだった。
だが、俺が呪いについては詳しくなかったことから、その対応ができなかった。そもそも、呪いに対する耐性を付与できるならば、ルードルフに掛かった呪いも解除できているのだが……。それはともかくとしても、呪いへの耐性について頭が回らなかったことは確かだ。ここは反省するしかない。
「はぁ……。失敗したな……」
自分の至らなさと実力不足を嘆くしかない。だが、最早自分たちに残された時間がないことは俺を含めて皆も理解していたので、このような状況ではあるが、洞窟の奥へと進むことになったのだった。
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