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広場での考察

 俺は急いで広場の入口にいたアメリアたちのもとに向かった。


 広場の中に積もっていた灰を風魔法で舞い上げて遠くに飛ばした結果、地面に倒れていた人たちが露わになったおかげで、一度も躓くことなく広場の入口までたどり着いた。


 アメリアたちは突然広場の灰が吹き飛ばされたことに驚いていたらしい。そして、俺の身に何かあったのかと心配していたらしく、出迎えてくれた皆は手に武器を持って構えていた。


 皆に心配いらないことを伝えて武器を収めてもらうと、俺は広場の中央にあった一番大きな天幕の中で見てきたことを伝えることにした。


「広場の中央にあった一番大きな天幕の中を確認してきました。ユリアーナ様の御兄弟であるフェリクス様が居られましたが、既に古代竜『ローテ・ゲファール』により呪いに掛けられているご様子でした。他の倒れている者も同様です。つまり、この広場は古代竜の影響下にあるということです! このままでは私たちまで呪いを受ける可能性があります。この場からすぐに撤退するべきです!」


「うむ。アサヒナ伯爵の提案には賛成だ。だが、倒れている者たちをこのままにしておくのは少々可愛そうではないか? いや、兄上のことなど正直どうでもいいのだが、他の者は第一次辺境調査団の者たちなのだろう? 我が帝国の騎士をこのままの状態で捨て置くというのはな……」


 ツンデレとかそういう雰囲気でもなく、ユリアーナはフェリクスのことを本当に気にしていないようだった。あまりにも淡々としていたからな。


 それはともかく、ユリアーナの言うことも良く分かる。それに、ここに倒れている者の多くは地面の上に倒れたままという状態の者がほとんどだ。積もっていた灰は大方取り除いたとは言え、広場には今も灰が振り続いている。このままだと、再び彼らの上に積もるのも時間の問題だ。


 それならば、今のうちに彼らを空いている天幕の中に入れてあげたほうが良いのかもしれない。だが、そのようなことをしている最中に古代竜から呪いを掛けられてはたまったものではない。


 倒れている者たちを見てみれば何となく分かる。恐らくは突然のことだったのだろう。彼らには、何か危険を察知し、それに備えて行動しようとした形跡が見受けられなかった。そのようなことをする間もなく呪いに掛かり崩れ落ちたのだろう。そして、このままだと俺たちもそうなる可能性がある。


 ユリアーナの言うことはもっともなのだが、先ほども言った通り、そうすることで俺たちが呪いに掛かるのは拙い。二重遭難などというのは一番周りが(というか、主にクレーマンが)困るやつだ。


 さて、どうしたものか。


「ハルトが古代竜の呪いを警戒するのは分かるが、恐らく問題はないと思うぞ。別に古代竜に敵意を向けているわけでもないしな」


 頭を悩ませていたところにアメリアがそんなことを言う。


「どういうことですか?」


「もしも、古代竜が私たちの行動を監視していて、この広場にやってきた者を手当たり次第に呪いを掛けているのなら、私たちがこの広場に到着した時点で全員が呪いに掛かっていただろうさ。だが、そうはならなかった。だよな?」


 アメリアの言葉に頷く。


「それに、ここで何かことを起こせば古代竜の呪いに掛かるというのなら、ハルトが風魔法でここに積もった灰を吹き飛ばした時点で呪いに掛かっていただろう。だが、実際にはどうだ? そんなことはなかった。ということは、だ。古代竜に敵意を向けなければ、ここで何をしても問題はないと言えるんじゃないか?」


 そうアメリアが言うと、皆が「おぉ」とか「なるほど」、「確かに」などと言いながら頷いた。


 ふむ。確かに広場で魔法を使ったが、よく考えなくても普通に迂闊な行動だったな。今回は何事も起こらなくてラッキーだったと言うべきだろう。本当に、こういうところは反省しないと。


 だが、おかげで面白いことが分かったのも事実だ。アメリアの言うことが正しければ、古代竜に敵意を向けなければ、この広場の中でも自由に行動することができるかもしれない。


 それが事実なら、ユリアーナの希望を叶えてあげることができる。これは試してみる価値はあるかもしれない。


「アメリアさんの仰ることが真実であれば、ユリアーナ様の希望を叶えることが可能です。とはいえ、一度試してみないことにははっきりしません。ですから、全員で取り組むのではなく、まずは私一人でやってみたいと思うのですがいかがでしょうか?」


「ハルト一人でか?」


 アメリアの質問に答える。


「はい。まぁ、倒れている人を既に張ってある天幕の空いているスペースに移動させる程度のことしかできませんが」


「本当に一人で大丈夫?」


 カミラの質問に答える。


「まぁ、私一人の力では倒れている人を持ち上げられないでしょうから、そこは魔法で何とかしようと思います。難しければ、私のアイテムバッグにでも入れて運びますから」


「それで、ハルトならば古代竜の呪いを回避できるという保証はあるのかしら?」 


 ヘルミーナの質問に答えようとして、答えに詰まった。


 そう、別に俺ならば古代竜の呪いを跳ね返すことができる、などという確証があるわけではない。ただ、世界神が創り上げたこの身体ボディならば、多少の呪いくらいは何事もなく跳ね返すだけのポテンシャルを秘めているのではないかと思ったからだ。だが、そのような細かな説明を俺と世界神との関係を知らないユリアーナたちの前でするわけにもいかず……。


「確固たる保証があるわけではありませんが、母上から頂いたこの身体ならば、そのような呪いくらい簡単に跳ね返すこともできるのではないかと、そう考えた次第です」


「「「「…………」」」」


 ユリアーナとレーナとレーネ、そしてノーラの「一体どういうこと?」という視線が痛い……。


「……なるほどね。そういうことなら私からはもう何も言わないわ。というか、ハルトのお母様のことを持ち出されたら何も言えなくなるじゃない、全くもう。確かに、ハルトなら呪いくらい簡単に跳ね返しても不思議ではないわね。むしろ、私たちがハルトの邪魔になる可能性を考えないといけないかも……」


 そう言いながら、ヘルミーナがアメリアたちに視線を向ける。すると、「それもそうだな」とか、「確かに」などという声が聞こえてきた。ただ、レーナとレーネの二人やユリアーナ、それに世界神に会ったことのないノーラも不思議そうな表情をしていた。


「うん、決めた。私はハルトの提案に賛成するわ! 皆はどう?」


「「「「異議なし!」」」」


「「「「……」」」」


 ヘルミーナの言葉にアメリアとカミラ、それにアポロニアとニーナの四人は賛成してくれたものの、ユリアーナとレーナとレーネ、それにノーラは複雑な表情で成り行きを見守っていた。


「心配しなくても、ノーラもすぐに分かるわよ」


 そう言いながら、ヘルミーナがノーラの肩に手を置く。それで、少しは安心してくれたのか、ノーラも賛成の側に回ってくれた。


 また、ユリアーナは元から倒れている辺境調査団の者たちを救いたいと考えていたからか、皆の言うことには半信半疑ながらも最後には賛成してくれた。


 ただ、レーナとレーネの二人は、ヘルミーナの質問に対する俺の答えの意味が分からないこともあり、未だ戸惑っているようだった。これはあとで説明を求められそうだな。

 

 まぁ、ひとまずこの場は多数決で決めてしまおう。


「では、賛成多数ということで。まずは、私のほうでこの広場に倒れている人を集めて空いている天幕の中に運び、寝かせていこうと思います。もちろん、地面の上にではなく、革製のシートを用意してその上に寝かせるので安心してください。うん、今調べてみたところ、どうやらこの広場に倒れているのは五十人ほどのようです」


「ほう、そんなことまで分かるのか?」


 ユリアーナの言葉に軽く答える。


「もちろんです。空間探索の魔法は得意なので。それでは、早速行ってきます!」


 そう言って、再び俺は広場の中へと足を踏み入れた。早速空間探索を使って広場を隅々まで探索する。そして、一通り探索した結果、広場に倒れていた者が二十九人、天幕の中で倒れていた者が十九人で、合わせて四十八人が倒れていることが分かった。


 思っていたよりも少ないな。


 そんなことを思いながら、広場に倒れている者を空いている天幕の中に運び入れていく。俺一人で倒れている者を移動させるのはやはり手間で、魔法とアイテムバッグの両方を頼ることにした。風魔法でふわりと身体を浮かせたところに素早くアイテムバッグの口を広げてすくうような感じでやると上手くいった。


 セラフィに手伝ってもらうことも考えたが、今回はやめておいた。何か問題が起こって万が一セラフィに呪いが掛かるようなことがあっては、今後の行動に支障をきたすからな。


 そして、空いている天幕を探しては、次々と広場に倒れていた者を天幕の中に寝かせていった。もちろん、革製のシートを敷いて、その上に並べて寝かせている。ただ、そのような都合のいい革製のシートなどは持ち合わせていなかったので、俺の創造により創り出したものではあるが。


 天幕の中も外も、変な姿勢で倒れている者が多かった。多分、突然呪いに掛けられたせいで、崩れるように倒れたからだろう。そんな彼らをそのままにしておくのはかわいそうだ。だから、皆揃って川の字に並べて寝かせることにした。起きたときに少々驚くかもしれないが、今のままにしておくよりはいいだろう。


 そうして、手間と時間は掛かったが、何とか一人で対応できた。


 一通り対応を終えた俺は、アメリアたちの待つ広場の入口へと再び戻ってきた。


「もう終わったのか?」


 アメリアは「もう」と言ったが、作業を始めてかれこれ二時間ほどが経っている。ようやく終わったのか、と聞かれたほうが自然だが、多分俺に気を使ってくれたのだろうと思う。


「はい、おかげさまで。少し時間が掛かりましたが、天幕の外に倒れていた二十九人と、天幕の中で倒れていた十九人、合わせて四十八人全員を空いている天幕の中に寝かせました。もちろん、革製のシートの上に一人ずつ並べて、です。これでユリアーナ様もご安心頂けるのでは?」


「……うむ、もちろんだ。アサヒナ伯爵が自ら対応してくれたことに感謝している。帝国を代表して礼を言う。我が帝国の臣民を助けてくれてありがとう。だが……」


 そう言いながら、ユリアーナが少し記憶をたどるように目を瞑り、こめかみを指で押さえる。そして、眉間にしわを寄せながら俺を見た。


「……だが、やはり少ないと思う。辺境調査団は少なくとも百人以上の腕利きの魔導士たちで構成される。ならば、倒れている団員の数が百人近くいてもおかしくないはずだ。アサヒナ伯爵、中央の天幕には兄上以外に誰がいた?」


「はい。ユリアーナ様のご兄弟であるフェリクス様以外に、第一次辺境調査団から第三次辺境調査団までの団長が倒れておりました」


「ふむ。それでは、第一次辺境調査団から第三次辺境調査団までのその他大勢の団員たちはどこに行ったと思う?」


「…………」


 やはり、俺の思った通りだ。この広場に倒れている者の人数が予想よりも随分と少ない。第一次辺境調査団から第三次辺境調査団までの団員を合算した人数を想像すると、広場に倒れていた人数が四十八人というのは少ないとしか言いようがない。


 辺境調査団が少なくとも百人程度の団体だと考えると、その団体が三つもこの広場に集まっているのであれば、少なくとも三百人ほどの集団が倒れていたとしても不思議ではないからな。


 だが、実際にはそうではなかった。となると、考えられることはあまりない。


 例えば、この広場にたどり着いた時点で辺境調査団の人数が数十人まで減っていたとか。……いや、それはないな。


 ユリアーナが率いていた第四次辺境調査団は実際に百人近くの人数がいたし、道中で魔物に遭遇する確率が下がっている現状を鑑みると、何か危険な目に遭って到着した団員が減ったという可能性は低いと思う。


 ならば、考えられることはただひとつ。広場に残っていた者たち以外は何らかの別行動を取っていたということだ。恐らく、フェリクス辺りが指示を出してヒッツェ山の調査にでも向かわせたのだろう。


 しかしながら、ひとつ気になることがある。


 何故、中央の天幕に第一次辺境調査団の団長だけでなく、第二次辺境調査団と第三次辺境調査団の団長までもが集まっていたのか、ということだ。


 もし、第一次辺境調査団がこの広場に到着してからすぐに古代竜に呪いを掛けられていたのなら、第二次辺境調査団や第三次辺境調査団の団長は天幕どころか、広場にも近づかなかったはずだ。


 何故なら、人気のない怪しげな広場なんかに団長自らが入ることなんて、普通ならば考えられないことだからだ。そのような事態に出くわしても、普通なら下っ端の団員に調べさせるだろう。ということは、広場に何も異常がないと判断したから、二人の団長は中央の天幕に入ったのだと思われる。


 だが、これはもっと簡単に考えたほうが良いのかもしれない。


 そう、第三次辺境調査団がこの広場にやって来るまでの間、第一次辺境調査団やフェリクスたちは古代竜の呪いに掛かっていなかった。無事だったという可能性を考えるべきだろう。つまり、彼らは第三次辺境調査団が到着してから古代竜の呪いに掛かったのだと思われる。


 では、彼らに一体何が起こったのだろうか。


 ここからは完全に想像になるが、恐らく、何らかの理由で第一次辺境調査団、というかフェリクスは、第二次辺境調査団や第三次辺境調査団が到着するのをこの広場で待っていたのではないかと思う。


 普通ならば第一次辺境調査団だけでヒッツェ山が噴火した原因を突き止め、解決しようとしたはずだ。それがフェリクスの成果や実績になるのだから。だが、そうすることはなかった。ということは、第一次辺境調査団から第三次辺境調査団の団員、つまり大隊クラス(三百人以上)の人数を揃えないと解決できないような、何らかの問題に直面した可能性がある。


 では、それは一体どのような問題なのか。三百人近くの精鋭が集まる合同部隊を結成しなければ対応できないと判断したような問題だ。想像はできるが、したくないというのが率直な意見だ。そして、その合同部隊が何らかの行動を取った結果、古代竜から呪いを掛けられてしまったのだろう。何らかの行動というのは他でもない。古代竜の怒りに触れるような行動だ。


 もし、この仮説が正しければ、ひとつ言えることがある。


 それは、フェリクスは問題を把握した時点でそのことを帝都に報告しなかったということだ。また、味方の増援についても何の相談も行わなかったということになる。本来ならば、第一次辺境調査団、即ちフェリクスたちだけで対処ができないような事態が発生したのなら、その旨を速やかに帝国に伝えて次の指示に備える必要があるはずだ。しかし、フェリクスはそうしなかった。それは一体何故か?


 正直理解ができない。


 だが、もしかするとフェリクスは自分ができないことを「できません」と正直に言えない性格だったのかもしれない。そして、その上で、火山の噴火の原因調査と解決を自分の手柄としたかったのだとしたら。


 うん、正直に言うとあまり想像したくないな……。


 だって、フェリクス一人の行動によって周りがとんでもない被害を被ることになったのかもしれないと思うと、ユリアーナのフェリクスに対する言動も何となく理解できてしまうから。そして、帝都に状況の報告や人員の補給の相談を行うことなく、第二次辺境調査団や第三次辺境調査団が結成されてこの地に到着するのをずっと待っていたのだとしたら……。うーん、流石にそこまで酷いとは思いたくないけどな……。


 あれ? 今考えたことがもしも真実であったならば、フェリクスの取った行動って、問題どころか、罪に問われても仕方がないレベルなんじゃないか?


 責任者として帝都への報告・連絡・相談を正しく行わず、自分勝手に行動した結果、多くの人員を危険に晒したのだから。例え、フェリクスが皇族であったとしても何らかの罪に問われるだろうし、彼に従った団長たちも同様だろう。まぁ、この辺りは今回の問題が解決してから詳細が問われると思う。そう考えると、俺たちの責任も重大ということになる。


 そのようなことに考えを巡らせていたのだが、少しばかり長く考え過ぎていたようで、皆から視線を集めることになったようだ。


「えっと、すみません。少し考え事をしていました。ユリアーナ様の質問についてですが、恐らく、他の者たちはヒッツェ山の調査に向かったのではないかと思います」


「うむ、その可能性は高いな。ともかく、我々の今後の取るべき行動についても検討しなくてはならない。何かあるか?」


「そうですね。今後の我々の行動を考えるにあたり、まずは行方の分からない残りの団員たちを探さないといけないかと思います」


 そんなことを言いながら、俺は行方が知れない二百五十人近くの辺境調査団の団員たちを探すことにした。


 先ほどまでの考えが正しければ、第一次辺境調査団から第三次辺境調査団までの総勢三百人ほどの集団のうち、二百五十人ほどは広場から離れたヒッツェ山の山中で倒れている可能性が高い。


 それらのことを踏まえて、俺は空間探索の範囲を広場から更にその先にあるヒッツェ山の全体にまで広げてみることにした。自分でも、ここまで広い範囲を空間探索の範囲にするなんて初めてのことなので上手くいくかは分からなかったが、問題なくできた。


 その結果分かったことは、蟻の隊列のように一つの方向に向かう点線となった生存者がヒッツェ山の中腹辺りまで伸びており、その先端の一箇所にたくさんの点として密集しているということだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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