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今後の予定と問題点

 先ほどまでユリアーナに転移台の説明を行っていたのだが、彼女が朝食の途中だったことを思い出す。


 失礼致しました、などと言いながら、ユリアーナには朝食を再開してもらった。だが、食事を再開したものの、スープが少し冷めているようだった。それに気付いた俺は使用人に新しいものを用意するように伝え、ついでにパンも新しく焼いたものを用意するようにお願いしたのだが、ユリアーナがそれを断ってきた。


 ユリアーナは冷めたスープとパンを黙々と食べる。理由を聞いてみると、「国民が日々食べるものに困っている状況で、私がその食料を無駄にすることは許されない」と。その言葉に俺は心を打たれた。


 ユリアーナは立派だな。俺も貴族になったり、魔導具店で大きな儲けが出たりしたせいで少々気が緩んでいるというか、温かくて美味しい食事があることを当たり前のように感じてしまっていた。俺ももう少し質素な生活をするべきだろうか。でも、入ってくるお金はある程度使わないとそれはそれで問題が出てくることもあるし、悩ましい問題とも言える。


 暫くして、ユリアーナが朝食を終えたのを見計らって、俺はユリアーナに切り出した。


「転移台の説明も無事終えたことですし、準備が整い次第早速ゴルドネスメーア魔帝国の帝都ヴァイスフォートに向かいましょう!」


「うむ。我らとしてはありがたいが、其方らは問題ないのか?」


「時間が惜しいですからね。それに、昨日集めた大量の食料も早いところゴルドネスメーア魔帝国の皆さんに配りたいと思いますし」


「アサヒナ伯爵……。其方は優しいな」


「そのようなことはありません。大量の食料をいつまでも手元に置いておいても仕方がないと考えただけですよ。それよりも、魔導具を預ける予定のライナルト様をご紹介頂けると助かるのですが」


 などと言ってはみたものの、自分でも第二皇子のライナルトとすぐに面会することは難しいことは分かっている。できれば、面会の予約くらいは取りたいなと思ったのだ。


「なるほど、ライナルトにか。転移台とアイテムバッグの件だな。良いだろう、向こうに着いたら紹介できるように場を整えよう。なるべく早く会ったほうがいいだろうからな。心配は不要だ。ライナルトなら暇を持て余しているだろうからな」


 そう言って笑うユリアーナ。はたして本当なのだろうか? 第一皇子が行方不明なのだから、第二皇子であるライナルトは忙しくしていても不思議ではないのだが……?


 まぁ、ユリアーナが心配は不要だと言うのだから気にしないでおこう。


「では、よろしくお願い致します。それでは本日の予定ですが、午前中にゴルドネスメーア魔帝国の帝都ヴァイスフォートへ訪問し、午後からはライナルト様との面談。そして、転移台の設置とアイテムバッグの貸し出しを行い、可能であれば食料の配布まで行いたいですね」


「食料の配布についてはなるべく早く行いたいところだが、帝都だけでなく他の街や集落の状況把握も必要だ。今日中に手配できるかは分からんぞ? それに、神殿にも力を借りねばならないからな」


「神殿にもですか?」


 神殿か。久々に聞いたな。


「そうだ。アサヒナ伯爵が私に支援してくれた食料は本当に大量だ。それを私の力だけで我が国の各領地に配給するのは難しい。そこで、神殿の力を借りるのだ。神殿は我が国の各領地に支部を持っている。その繋がりを活かせば、速やかに食料を各領地に送り届けることができるだろう!」


「ふむ。そうなると、ライナルト様との面談のあと、すぐに神殿の関係者と連携を取らねばなりませんね。ユリアーナ様にはその伝手がお有りで?」


「もちろんだ。帝都の神殿にリーゼロッテ・クレーデルという神官がいる。彼女ならば、各領地に食料を送り届けることを請け負ってくれるはずだ!」


 ふむ。俺は神殿にはあまり伝手がない。アルトヒューゲルならば、アメリアの弟のフリッツと、ブリッツェンホルンならばアルノーとその周りの神官になるが、その他はよく分からない。


 ユリアーナの話してくれたリーゼロッテという神官が食料の配給に協力してくれるのならばありがたいが、その素性は確かめておきたいところだ。まぁ、まずは一度会ってみないとな。


「分かりました。それでは、そのような予定で進めていきましょう。我々も朝食を取り、準備ができ次第、改めてこちらに集まりますので、それまでに出発の準備を済ませておいてください」


「うむ、分かった。よろしく頼む」


 こうして、ユリアーナと今日の予定について話し合った。ドナートとケーニヒの二人も一緒に聞いてくれていたので理解してくれたはずだ。


 俺も屋敷の食堂で朝食を取りつつ、皆に今日の予定を伝えた。すると、昨日に続いて今日も俺に付いてきてくれるとのことだった。


「当たり前だ! このような状況でハルトを一人にできるわけがない。それに乗り掛かった舟だしな。ゴルドネスメーア魔帝国のことが解決するまでは付き合うぞ!」


 アメリアがそう言うと、他の皆も頷いた。


「あれ、そう言えばノーラさんがいませんね?」


「あの子はこの屋敷に部屋がない。だから、迎賓館に泊まったはず」


 俺の問いにカミラが答えてくれた。そういえばそうだった。そして、レーナとレーネの二人も一緒に泊まっていたはず。


「ノーラさんに今日の予定について伝えておかないといけませんね。それに、レーナさんとレーネさんのお二人にも伝えておかないと」


「そういえば、今朝は大丈夫だったの?」


 ヘルミーナが聞いてくる。最初は何のことかよく分からなかったが、レーナとレーネの二人のことだと気がついた。


「えぇ。おかげさまで一人でゆっくり寝ることができました。流石に昨日のことがあったばかりですし、そのようなことを続けてされるような方たちではないと信じていましたから」


「そう。それならよかったけど……」


 お茶を飲みながら、ヘルミーナの言葉に反応しようとしたその時、急に背後から声を掛けられた。


「「信頼して頂きありがとうございます、と申し上げるべきでしょうか……?」」


「ゴホッ、ゲホッゲホッ!? レ、レーナさん、レーネさんも!? どうしてここに!?」


「「使用人に案内してもらいました」」


 そう話すと、レーナとレーネの後ろから現れたノーラが魔力メモパッドに「すみません、私が使用人の方にアサヒナ様のところまで連れて行って欲しいと伝えたので……」と書いて、申し訳無さそうに見せてきた。


 まぁ、どうせこのあと迎賓館にまで迎えに行くつもりだったし、ここに来てもらったほうが話が早いので助かると言えば助かるが、基本的にはこの屋敷の二階から上は俺たちのプライベートルーム。そこにノーラはともかく、レーナとレーネの二人まで案内してくるとは。ちょっと、その案内してきたという使用人には個別にお話が必要かもしれない。いや、使用人全員にかも。


 とはいえ、既にノーラだけでなく、レーナとレーネの二人がここに来ているんだし、このあと説明する予定だった今日の予定について共有してしまったほうがいいかと思った。


「おはようございます、ノーラさん、レーナさん、レーネさん。昨晩はゆっくりと休めましたか?」


「「おかげさまで、ゆっくりと休ませて頂きました」」


「私も広くて素敵なお部屋に泊まらせて頂いて、ちょっと落ち着かなかったけど、ゆっくり休むことができました!」


 レーナとレーネの二人と、ノーラの答えにホッとしつつも、ノーラには昨日無理をさせてしまったことを思い出した。


「昨日は予定外のホルンの里での宿泊や、長時間にわたる徒歩の移動などがありましたが、その中で年少者であるノーラさんのことを優先的に扱うことができず、結果として、ノーラさんを疲労させてしまうことになりました。本当に申し訳ありません」


 そう、そうなのだ。ノーラのことを労ることができずに、本来部外者であるはずのレーナとレーネの二人にノーラを任せることになってしまった。これではいけない。


「ですが、これからはノーラさんのことを第一に考えて行動するつもりです。ですから、これからも力を貸して頂けると助かります!」


 そう言うと、ノーラは顔を真っ赤にしながら、魔力メモパッドに一言「はい」と書いて、レーナとレーネの後ろに下がってしまった。まぁ、分かってくれたのなら、それでもいいかと思う反面、レーナとレーネの後ろに隠れた様子を見ると、まだまだ信頼されるには誠意ある行動が必要だと思い知らされるのであった。


 レーナとレーネの二人にもノーラの面倒を見てくれたことについて礼を言って、改めて今日のこれからの予定について三人に説明した。ゴルドネスメーア魔帝国に行って、彼の国を救おうとする行為について、レーナとレーネの二人はいまいち反応は良くなかった。まぁ、これまで彼の国の勝手な考えにより何度も搾取されてきたのだから、そういう感情が芽生えるのは不思議ではない。


 だが、その仲介を神殿が行うと言ったら、さらに複雑な表情を見せた。それは、レーナとレーネの二人だけではなく、ノーラも同じだった。


 気になったので詳しく聞いてみると、今回の件について神殿はこれまで何らかの行動を特に起こしたこともなければ、小さな集落にまで支部を設立することはなかったのだという。それが本当ならば、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国で買い集めた食料の配布を、はたして神殿の関係者に任せてよいのかどうかという問題が浮上してきた。


 ユリアーナとレーナたちとの認識の相違。それをどうにかしなければ、今回の件は片付かない。俄に発覚した問題に頭を抱えながら、今後の予定について改めてどうするべきか悩むことになった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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