次の一手
「うーん、久々によく寝たなぁ……」
溜まっていた直近のタスクを一通り片付けられたおかげでストレスから解放されたのか、昨晩は久々にゆっくりと休むことができた。
昨日はゴットフリートたちを領都リヒトを案内した。領都の案内自体はすんなりと終えることができたのだが、その後にミリヤムとマルセルが設けてくれた宴の場が大変だった。
ゴットフリートとハインリヒの二人が俺の御酌を求めてきたのだ。最初は断るつもりだったが、うちが催した宴の場だったので、受け入れることにした。とはいえ、前日のこともあり、皆が皆俺の御酌を求めてきたのには驚いたというよりも、少々残念な気持ちになったが。
そして、案の定大人たちは酔っ払った。ゴットフリートなんかは胃を鍛えているから大丈夫だなどと言っていたが、やはり鍛えるべきは胃ではなく肝臓だったのではないだろうか。まぁ、鍛えようがないと思うけど。
そんな感じで、大人たちが酔っ払った時点で宴の場もお開きとし、皆をそれぞれの国の王都へと送っていくことにした。このあたりはリーンハルトとパトリックの二人が未成年でお酒を飲んでいなかったこともあり、意思決定がスムーズに行えたことが良かったのかもしれない。
その後、まずはゴットフリートたちを魔導船に乗せてアルターヴァルト王国の王都アルトヒューゲルまで送り届け、再び戻ったグリュック島で今度はハインリヒたちを魔導船に乗せてヴェスティア獣王国の王都ブリッツェンホルンへと送り届けたのだった。
何故このような酔っ払った状態の国王陛下と王族たちを送り届けることになったのか、もちろん書面にまとめてそれぞれの王国の実質的な二番目の実力者である宰相のウォーレンと元老院のヨハネスに渡すことにもなった。
そんなことをしている間に昨日は一日が終わったのだった。
ゴットフリートたちを護衛したアサヒナ伯爵家騎士団の面々も無事に初仕事を終えたようで、ホッとしているようだった。それ以上にホッとした様子を見せたのは、ゴットフリートたちをアテンドしていたアメリアとカミラの二人だったけど。それも仕方がない。
そんな、諸々のタスクが終わったのが昨日というわけだ。使用人たちの受け入れはともかく、騎士団の立ち上げはアサヒナ伯爵家騎士団長選抜試合というイベントにしてしまったこともあり、手間も時間も掛かってしまった。
だけど、結果としては素晴らしい人材が集まってくれた。それに、今のところ何の問題も起きていない。つまり、成果を出しつつあるわけだ。
最初はうちのやり方に馴染んでくれるかと心配したけど、今なら安心して任せられると言える。今後も色々あるだろうけど、皆で助け合ってこのグリュック島の運営を手伝ってもらえればと思う。
こうして、一旦直近のタスクはすべて終わらせることができた。ということは、そろそろ次のタスクに向かって進んでもいいってことだよな?
そんなことを思いながら、改めて現状残っているタスクを考える。
うーん。まずは屋敷のことについてだ。グリュック島の屋敷への引っ越しも無事に終わったし、クラウスが送ってくれた使用人と騎士たちの受け入れも終わった。
使用人の中にはフロレンツィアという想定外の者も含まれていたが、彼女は侍女長補佐としてラルフとアルマの下で働いてくれている。
騎士団の立ち上げもできたし、その騎士団長の座には無事グスタフが収まり、副団長にはユッタが収まった。
ひとまず、ここまでは問題ない。つまり、グリュック島の屋敷のことについては大方片付いたと言っていいと思う。
あ、ついでに言うとアルトヒューゲルの屋敷についても使用人が無事に決まり、現在は執事を任されているアーレンスが面倒を見てくれている。ラルフとは転移台を使った書面でのやり取りは行っているが、まだ顔を合わせていない。そのうち顔合わせの場を設けたほうがいいな。
次は領都リヒトについてだ。
領都リヒトもようやく落ち着いてきた。ミリヤムたちの移住が思ったよりもスムーズにいったからかもしれない。
とはいえ、まだまだ住民が少ない。オラーケルの里からやってきたエルフたちの他、グリュック島に住居を建ててもらうためにアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両国から呼んだ大工たち。そして、新興の領地にお金の匂いを嗅ぎつけてきた商人たちくらいしか住んでいない。その数は全員合わせて五百人程度だろうか。領都を数千人規模の街にするにはまだまだ時間が掛かる。
いや、時間だけで解決するわけがない。人が集まるところには、人が集まりたいと思う何かが必要なのだ。その一つがアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国との間のハブ港、中継拠点となる港だ。
その港を入念に作ったおかげか、港町フルーアも少しずつ稼働をし始め、次第に到着する船も増えてきた。もしかしたら、騎士団長を決める試合や大海竜の素材を出品したオークションなどのイベントを行ったことも少しは寄与したのかもしれない。
しかし、この島の主産業として考えている農業というか稲作はまだ手付かずだ。これは農業を手伝ってくれる魔人族の者に来てもらわないといけない。そう、ホルンの里にオイゲンたちを迎えに行かねばならないのだ。
そうなると、次にやることとしては、稲作に向けてオイゲンたちを迎えに行くことになるか。
そう思って、起床後に身支度を整えた俺は早速ラルフに相談することにした。ラルフはすぐに見つかった。
「おはようございます、ラルフさん。グリュック島を発展させるにあたり、今後の予定について相談を行いたいのですが、今お時間は大丈夫ですか?」
「おはようございます、旦那様。今後のグリュック島の発展についてのご相談ですか……。私は問題ありませんが、そういうことでしたら、ミリヤム殿とマルセル殿にも話を聞いて頂いたほうがよろしいのではありませんか?」
「ふむ。確かに……!」
「それに、旦那様はまだ朝食も取られておられないのでは。まずは、朝食にしましょう」
ラルフの言う通り、朝食もまだだったな。まずは腹ごしらえをするとするか。ラルフに言われて俺は早速食堂に向かい朝食をとることにした。
食堂に着くと、そこには既に朝食をとり終えたアメリアたちがくつろいでいた。
「おはようございます」
「あぁ、ハルト。おはよう」
「おはよう、ハルト。朝食は先に頂いた」
「おはようございます、ハルト様」
「おはようございます〜。今朝は遅かったですね〜?」
「それで、何かしてたの?」
「少し、気になります」
アメリアたちと朝の挨拶を交わすと、ヘルミーナが何をしていて遅れたのか聞いてきた。ノーラも気になるという。
いつもの俺は皆とだいたい同じ時間に朝食を取っているが、今日は朝から今後のタスクを整理したり、ラルフと相談したりしているうちに少し遅めの朝食となったのだ。
そんなことを説明していると、アポロニアが今後のタスクについて聞いてきたので、まずは今後のグリュック島の主要産業として考えている稲作について説明した。
「……なるほど。稲作、つまり農業を主要産業にと考えておられるのですね?」
そう言って難しそうな顔をした。
「はい。おコメは大変美味しいですし、食べ方や調理方法も色々とあります。それに、うまく行けば麦以上の収穫量も期待できます。エルフの皆さんには馴染みの深い食材ですし、この島の主食として最適だと思うのです! もちろん、私も大好きです!」
米の良さをできる限りアピールをしてみた。
だが……。
「うーん。アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国、どちらの国も主食は麦、というかパンですからね。今からコメが麦に置き換わるほど受け入れられるかというと……」
「もしかして、受け入れられないですか……?」
「その可能性が高いと思われます……。何せ、コメはゴルドネスメーア魔帝国からの輸入品ばかりですから、普段食べるパンよりも高価です。そのため、一般庶民だけでなく貴族にも普及しておらず、まだ馴染みがありませんからね。今のまま稲作を行っても両国への輸出品としては魅力が乏しく、どれだけの需要があるか……。残念ながらこの島の主要産業とするには難しいかと」
確かにアルターヴァルト王国でも米はゴルドネスメーア魔帝国からの輸入に頼っている現状、日常的に食べるには高価な代物だ。それにパン食に慣れ親しまれているアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国で急に米食が流行るというのは考えにくい。
そして、定期的に輸出するほどの需要が見込めなければ産業として成り立たないのは明白だった。
もちろん、麦よりも安く売るという手もなくはないが、それでは米が麦を買えない者向けの『麦の代用品』のような位置づけになりそうなので、それは控えたい。元が日本人だからか、米にはなんというか誇りを持っている。できれば、ブランド米のような立ち位置を確立したかった。
それに、あまり安売りをして儲けが出ないという事態も避けたい。
むぅ……。これではグリュック島での稲作という一大事業が始まる前に頓挫してしまう。それに、このままでは米を食べるためには毎回ゴルドネスメーア魔帝国から輸入しなければならなくなる。いや、個人で食べるだけならそれでもいいかもしれないけど。
まぁ、無理に事業化する必要もないか? いきなり輸出するほどの量を生産できるわけでもないしな……。
だが、うちの主な領民はエルフだから米食文化が根づいている。彼らを米食で養っていくには、結局のところ稲作が必要なのだ。
しばらくは引き続きゴルドネスメーア魔帝国からの輸入に頼るっていう選択肢もなくはないが、主食である米を他国に頼らなければならない事態は避けたい。もし先方と万が一の事態にでもなったら大変だからな。
そういうわけで、それなりの量の米をグリュック島で作る必要があると考えている。それに、これから領民を増やしていくなら更に多くの量が必要となる。
そのついでに米を輸出して儲けが出せれば何も言うことはない。うん、何となくで考えていた稲作の構想だが、アポロニアの話を聞いてようやく現実を知れた気がする。
まずは、米の自給自足を目指す。その次に輸出して儲けを出す。うん、この流れだな。
しかし、米の自給自足までは何とかなるとして、輸出で儲けるというのは結構ハードルが高いんじゃないか? 今更ながらにそう思えてきた。何せ、既にゴルドネスメーア魔帝国がやっていることだし。何か向こうと差別化する方法を考えないといけないな。
まだ作ってもいない米の話でこんなことを考えるのは取らぬ狸の皮算用でしかないのだが、今後のことも考えておいたほうが良い。
何か良い策はないものか。
うーん。と頭を捻っていると、カミラが一つのアイデアを出してくれた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
第十章の始まりです。




