最終戦 グスタフ対ユッタ(後編)
ユッタの大魔法『爆炎』を真正面から受け止めたグスタフだったが、流石にその白色の炎には耐えることができなかったのか、舞台の上からその姿を消すことになったのだった。
そう、文字通り姿を消した……。消滅してしまったのだ。
「(あぁ! グスタフがっ、グスタフがっ! グスタフが死んでしまったっ!? いくら、何でもありの試合とはいえ、対戦相手を殺してしまうほどの魔法を使うなんて、流石にやり過ぎだよっ!?)」
心の中で大声で叫ぶ。
この世界に来てからできた俺の身近な人で初めての死者かもしれない。しかも、それが、信頼していた、一緒に冒険をした、仲間だと思っていた者の手によって行われてしまったのだ……!
「(ユッタ、一体何を考えているんだ!? これじゃあ、流石に俺でもユッタを庇うことが出来ないよ……)」
元とはいえ、ヴェスティア獣王国の第三王子であるグスタフを殺してしまったのだ。この試合が何でもありのルールであるとはいえ、流石に何らかの処分がユッタには下されるだろう。そして、それに対して俺はユッタを弁護することはできるのだろうか。
いや、できないだろう。流石に人の命を奪うような行動を見過ごすわけには行かない。
舞台の上にはユッタが一人空を見上げて佇んでいた。その様子を見ながら、俺は彼女にどう声を掛けるべきか悩む。一応、この試合のレフェリーとしてこの場に立っている。本来ならば、そろそろ勝敗の結果を伝えなければならない。
それがグスタフの死を受け入れる言葉になったとしても……。
いや、受け止めなきゃいけない……。いつまでも、こうしている訳にはいかない。そう思って声を上げようとしたとき、観客席から俄にざわめきともどよめきともつかない声が聞こえてきたのだ。
「上だ! 上を見ろっ!」
「グスタフ様だ! グスタフ様はまだ生きておられるぞ!」
「いつの間にか、上空に逃れられたようだ!」
観客席からの声を聞いて、俺も舞台の上空に視線を向ける。そこには太陽が眩しく輝いていた。だが、それだけではなかった。太陽の中心に小さな人影のようなものが見えたのだ。
それがグスタフかどうかはすぐに分かった。流石は俺の鑑定眼だ。
「おおおっ!」
思わず声を上げた。死んだと思っていたグスタフが、闘技場の上空に逃れて助かっていたのだから。
俺も観客たちと一緒に歓声を上げてグスタフの無事を喜んだ。すると、同時に闘技場内がこれまで以上の大歓声に包まれた。皆もグスタフの無事を知って驚き、戸惑い、そして喜んでいるようだった。
だが、いつまでも観客と一緒になって驚いているわけにもいかない。
ユッタのほうに視線を移すと、天を見上げながら再び剣を構えて戦闘態勢に入ったユッタが視界に入った。
「(笑っている!?)」
ユッタの表情。それは、グスタフが生きていたことにホッと安心しているようでも、残念がっているようでもなく、まだ戦えることを喜んでいるかのような、そんな表情に見えた。
「(どこぞの戦闘民族かよ!?)」
などと、心の中で突っ込む余裕が精神的に生まれたようだ。はぁ。ともかく、グスタフは生きていた! 試合は続行だ! 俺はグスタフとユッタの邪魔にならないように、舞台の端に素早く移動した。
すると、ほどなくしてグスタフが上空から舞台の上に降りてきた。
スタッ……。
思っていたよりも軽やかに降りてきた。グスタフの飛び上がっていた高さとその体格ならば、「ズン!」とか、「ズズン!」という感じで、舞台を揺らしながら降りてきそうだと思ってたのに。
そうして、舞台に降り立ったグスタフがユッタに一言声を掛ける。
「ユッタ殿! 試合を再開する前に、少し時間を頂けないでしょうか?」
「分かった」
ユッタが答えると、グスタフはユッタに小さく礼をしてスタスタと俺のほうへとやってきた。うん、なんだ?
「旦那様、失礼致します。こちらを預かって頂けないでしょうか?」
グスタフが俺に差し出した拳から受け取ったのは、以前俺が渡した重力負荷の魔導具だった。
「これは……」
「やはり、こちらの魔導具を装備したままではユッタ殿に敵わないですね。先ほども、魔法が直撃する直前のタイミングで指輪を外せたので何とか上空へと逃れることができたのですが……。このまま指輪をした状態で戦っていてはユッタ殿に勝てそうにもありませんし、何かあっては指輪を壊してしまうかもしれません。ですので、申し訳ありませんがこちらは試合が終わるまでの間、旦那様に預かって頂きたいのですが」
「よろしいでしょうか?」と、グスタフが言う前に俺は「もちろん」と答えて、指輪を預かりポケットへと仕舞い込んだ。
「ありがとうございます! これで本気を出せます!」
グスタフはそう言って、再び戦場へと戻って行った。
ううん?
グスタフはユッタに声を掛けて、「もう大丈夫です!」なんて言っている。それにユッタが「うむ」と答えると、すぐに試合が再開した。既に両者が剣を構えてにらみ合っている。だが、俺は全然大丈夫じゃないんだが!?
グスタフから聞いたばかりの話をもう一度自分の中で咀嚼する。
『やはり、こちらの魔導具を装備したままではユッタ殿に敵わないですね』
はぁ?
つまり、ついさっきまで、重力負荷の魔導具を付けた状態でユッタに戦いを挑んでいたってこと? なんでそんな無謀なことするの!? というか、そんな状態でユッタと互角に渡り合っていたということ!? それって、つまり……!?
「それでは、反撃開始です!」
「よし、来い!」
グスタフの言葉にユッタが一言返す。その瞬間に、闘技場は再び大歓声に包まれた。突然の大歓声に驚きながら、舞台の中心にいる二人に視線を向ける。すると、目にも止まらぬ速さでユッタに剣を打ち付けるグスタフの姿があった。
「では、改めまして。参ります! はぁっ!」
ガガガンッ! ガガギンッ! ガガガンッ! ガギギンッ!
グスタフの攻撃が鋭すぎて、目で追うことが難しいほどだ。だが、その凄さは無数の剣戟音で十分に伝わってくる。そして、ユッタはグスタフの剣を受け止めるだけで精一杯のように見えた。
「(これがグスタフの本気か!?)」
引き続きグスタフの目にも止まらぬ剣閃がユッタに襲い掛かる。それを何とか受け止めていたユッタだったが、気が付けば既に舞台の端にまで追い詰められていた。ユッタとしては何とか隙を見出したいところだが、グスタフの鋭い連撃がそれを許さない。
そうこうしている間に、遂に勝敗を決する時が来た。
ユッタが何とか隙を作ろうと前に出ようとした、その時。これまでグスタフの攻撃を何度も受け止めていた長剣が根本から折れてしまったのだ。そして、折れた刀身が勢いよく舞台の端にいた俺の足元にまで飛んできたのだった。
ギンッ! ザスッ!
鈍い音が響いた途端、俺の足元に折れた刀身が突き刺さる。
その瞬間をグスタフが逃すわけがなかった。ユッタが次の行動に出ようとした瞬間を抑えて、グスタフがピシリと長剣をユッタの首元に当てる。
「……参った!」
ユッタが負けを認める言葉を口にする。それを聞いて俺はハッと自分の役割を思い出し、グスタフの勝利を告げた。
「勝負ありっ! グスタフ選手の勝利です! アサヒナ伯爵家の護衛役を務めてきた若き才能がここに開花! 予選を勝ち上がったユッタ選手の強力な魔法を見事に躱し、圧倒的な剣技によってアサヒナ伯爵家初代騎士団長の座を射止めました!」
マイクを使ってグスタフの勝利を皆に知らせる。すると、闘技場内は熱気と興奮に包まれ、三度大歓声が沸き起こったのだった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。




