王族と大海竜の価値(その4)
ゴットフリートとハインリヒの二人とその他の王族たちに大海竜の肉の味見を行ってもらった。というか、味見というレベルの量ではなく、ガッツリと味わって食べてもらったというほうがいいかもしれない。俺とセラフィは彼らが試食として食べる肉を追加で三度も用意することになったのだから。
その肉の美味さは実際に食した者にしか分からない。ということで、その場にいたユッタたちやキルシュたちには状況がよく分からなかった。ただ、皆の感想から「あの肉は相当美味いらしい」ということだけは何となく察することができたようだ。
彼らだけ食べられないというのも少し可愛そうなので、彼らにも一切れずつではあるが、大海竜の肉を塩胡椒して焼いただけのものを出してあげた。気に入ったのなら、オークションに参加するのもいいし、商人たちがオークションで買い上げたものを改めて商人たちから購入するのもいい。まぁ、相当高価になりそうだが。
そんなわけで、大海竜の素材について一通り王族たちの確認が終わった。後は、設定価格をどれくらいにするべきかという点なのだが。
「ゴットフリート様、ハインリヒ様。それで、大海竜の皮と肉。それぞれどれくらいの価値がありそうですか?」
ゴットフリートとハインリヒの二人に確認すると、二人とも難しそうな表情で頭を悩ませた。
「大海竜の肉は間違いなく素晴らしいものだった。だが、化け物肉を食べたあとでは多少見劣りするところがあった。言葉にはなかなか言い表せないが……。間違いなく、化け物肉のほうが味は上だろう」
「ゴットフリート殿の言う通り、大海竜の肉は素晴らしいものだった。そこらのドラゴンの肉などとは比べ物にはならないのは間違いない。だが、化け物肉を食べた身としてはそれと比べてしまうのは仕方がない。そして、化け物肉のほうが僅かに美味さが勝った」
ゴットフリートとハインリヒの二人の意見としては、大海竜の肉よりも化け物肉のほうが味が良いとのことだった。
「化け物肉のほうが大海竜の肉よりも美味しいことは分かりました。それで、大海竜の肉にはどれくらいの価格を設定すればよいでしょうか?」
「化け物肉は我らに譲ってくれた量で白金貨五枚だったな。それよりは価値は低くなるだろう。白金貨二枚から三枚程度が相場ではないかと思うが、ハインリヒ殿はどう思う?」
「我もアサヒナ伯爵から化け物肉を購入したが、あのときはこのくらいの大きさで白金貨五枚だった。同じ肉の量で考えれば、それよりも価格は半値とまでは言わないが、低く見積もらざるを得ないな」
「それでは、お二人のご意見を参考にさせて頂きまして、大海竜の肉は十キログラムあたり白金貨三枚を初期値にさせて頂きます!」
十キログラムで白金貨三枚、つまり百グラムあたり金貨三枚。日本円で約三十万円ということになる。化け物肉よりは確かに安いが、それでも一般庶民が口にするような金額ではない。
そして、これはオークションの初期値、設定価格なのだ。当然この価格よりも高額になるのは目に見えている。だが、俺としても折角討伐した魔物なのだから、高値で売れてほしいという気持ちはある。
そういうわけで、大海竜の肉は十キログラムあたり白金貨三枚が最低価格となった。これが十セットで最低でも白金貨三十枚。つまり、白金板三枚ということで、日本円に直すと約三億円ということになる。うん、十分な稼ぎになる。大海竜を討伐した甲斐があったと言える金額だろう。
「では、次に大海竜の皮はどうでしょうか。とっても丈夫な皮ですし、見た目も鮮やかな群青色、刺突耐性には少し不安はありますが、衝撃耐性には十分な効果があります!」
そう言って大海竜の皮について宣伝してみた。だが、その皮の見た目よりも、やはり効果を気にする者が多いらしく、皮の手触りやその強度を確かめる者が多かった。
「うむ。この大海竜の皮はその肉よりも十分に価値があるだろうな。このように衝撃にも刺突にも耐性のある皮など、滅多に出回らないからな。多少、刺突に対する耐性が弱かったとしても、あのような場面が早々あるものではない」
「我が国の騎士の一撃を防ぐだけでなく、その剣をも折ってしまうほどの皮だ。確かに、刺突に対する性能は多少気になるところはあるが、普通の戦闘ではあのようなシチュエーションはそうはない。十分に評価できる素材だと思う」
ふむ。大海竜の皮はゴットフリートとハインリヒの二人からも高評価のようだ。それなら、初期値となる設定価格も大海竜の肉よりは高くなると考えていいのだろうか?
「この大海竜の首を両手いっぱいに広げた幅で、一首白金貨二十枚ではどうだろうか?」
一首という単位がよく分からないが、両手いっぱいに広げた長さと考えれば納得できなくもない。
「ふむ、両手いっぱいの広さか。だが、我と其方では広さが大きく異なる。それでは基準がよく分からぬことになるだろう。ここはアサヒナ伯爵を基準にしてはどうか?」
そう言うとハインリヒが俺の両肩に手を乗せてきた。何だか、ズシッとしていて重さを感じる。
「うむ。確かにそれは良さそうだ。それでは、ハルトの両手いっぱいの広さ分をセラフィ殿に輪切りにして頂き、その皮と肉をオークションに掛けるというのはいかがだろうか?」
「それは妙案だ。肉がどれほどの量になるかは分からぬが、商人たちに売る量を考えれば十分な量だろう。そう思うよな、アサヒナ伯爵よ?」
「はぁ。もう何でもいいですよ……」
俺の両手いっぱいの広さとなると、当然ニメートルもなく大体百三十センチから百四十センチ程度。そのサイズの肉としては恐らく百キロから二百キロほどになるだろうか。オークションに出す分として考えれば十分な量があると思う。
ともかく、これでオークションに掛ける大海竜の素材としての、その価格が決まった。あとはオークションの開始を待つばかり。そう思っていたのだが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。
肉についても、皮についても、その価値が分からない者に対しては王族からお墨付きを与えるだけではなく、実際にその価値があるのだと認めさせることが重要とのこと。つまり、商人たちの目の前で、今夜のような試食会や素材の試し斬りを行う必要があるらしい。
そのことを聞いて少々げんなりとしたが、まぁ、確かに実際にその味を確かめてみないと大海竜の肉に白金貨三枚も出す価値があるかどうか分からない。それに、大海竜の皮は特にその効果を見てみないと白金貨二十枚も出す気にはならないだろう。
そういうことなら、仕方がないかと諦めた。試食会は会場にいる者の中からランダムで選ばれた人に食べさせて感想を一言もらうだけでいいか。皮の試し斬りは今回に引き続きクルゼにお願いしよう。
そんなことを考えながら、初日のパーティーを終えることになった。
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