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上位精霊の闘い

 気が付くと、中庭の奥にあった広場の側に俺は倒れていた。


 噴水の周りに敷かれていた石畳はそのほとんどが捲れ上がり、その下にあった地面が見えるほど抉れている。


 さらに、その場にあったはずの噴水は既に跡形もなく、ただただ水が溜まる大きな窪み、クレーターと化していた……。


 うぅ、どうしてこんなことに……!?


 とりあえず、その場で起き上がると額にズキッとした痛みを感じ、患部に触れると多少出血しているようだった。


 どうやら倒れた際に擦りむいたらしい。


 手に付いた血の感触を確かめていると、服の袖が焦げていることに気付き、また辺りにも焦げた臭いが漂っていることにも気付く。


 爆発か、何かか……。


 痛いのは額だけではなく、身体中が悲鳴を上げていたので、さっさと手持ちの回復薬を使って治すと、ようやく自分のこと以外を考える余裕ができた。


 周りの状況を確認すると、そこにはリーンハルトやパトリックの他、先ほどまで一緒にいた者が皆地面に倒れているようだった。


 俺は考えるよりも早く、リーンハルトたちを助ける為に回復薬をアイテムボックスから次々に取り出しては皆に飲ませながら声を掛けていく。


「リーンハルト、パトリック、大丈夫かっ! アメリア、カミラ、ヘルミーナっ!? 皆、目を覚ましてくれっ!!!」 


 皆生きているのか死んでいるのかも分からない状況で、俺一人起き上がり、皆の頬を叩いて回る。


「うぅ……。一体何があった……?」


「リーンハルト! 気がついたか!?」


「確か、先ほどまで私の部屋にいたはずで……。ハルト、一体何が起こったのだ!?」


 リーンハルトが初めに気づくと、少しずつ周りの者たちも気がついたようで次々に起き上がり、何が起きたのか確認しているようだった。


 その様子を見て俺もホッと一息ついた。


 以前聞いた話だが、あまりに衝撃的な事態に見舞われた人はその記憶を忘れてしまうことがあるらしい。恐らくリーンハルトもこの事態を引き起こした『何か』が原因で、そのような記憶の混乱をしているのだろう。


 かく言う俺も今の状況を理解できておらず気持ちが乱れていたので、一度冷静になり、何が起こったのか、リーンハルトの部屋を出てからの記憶を掘り起こす。



 中庭まで出てきた俺たちは、リーンハルトとパトリックが先導する中、中庭の奥にある噴水前の広場までやってきた。


 城から出るまでに何人かの貴族やメイドたちとすれ違うと、王子二人に連れられた集団を物珍しそうに見られたが、それは仕方がないだろう。


 この国の将来を担う二人の王子が気合の入った面持ちで集団を率いて廊下を歩いていたのだから、事情を知らない者なら何事かと思うだろう。


 リーンハルトとゲルヒルデ、それにパトリックとブリュンヒルデが噴水の前に対峙するように並び立つ。


 どちらかというと余裕そうなリーンハルトとゲルヒルデに対して、パトリックとブリュンヒルデは気合十分といった感じだ。


 すると、ユリアンがこの勝負を取り仕切るように、二人と二体の魔動人形に向かって話し掛ける。


「では、これよりリーンハルト様のゲルヒルデとパトリック様のブリュンヒルデとの勝負を行います! 皆様、よろしいですね?」


 リーンハルトとパトリックが同時に頷くと、ユリアンが試合開始を告げて、決戦の火蓋が切って落とされた!


「それでは、始め!」


「いくよっ!」


 ユリアンの合図と同時にブリュンヒルデがゲルヒルデに向かって飛び寄り、一気に間合いを詰めると、炎をまとった拳がゲルヒルデに襲い掛かる。


 しかし、ゲルヒルデは半歩下がってブリュンヒルデの一撃を躱すと、自身の身体に光魔法『身体強化』を掛け、素早くゲルヒルデの後ろを取り、そのまま勢い乗せて身体を回転させて、右脚をブリュンヒルデの背中に叩き込んだ。


「ぐっ!」


 蹴り飛ばされたブリュンヒルデは凄まじい勢いで噴水の縁まで飛ばされ、その縁を粉々に砕きながら、ようやく止まった。

 噴水から溜まっていた水が溢れ落ちている中、そんな衝撃を受けて魔動人形が持つのか気になったが、遠目に見た限りでは大きな損傷は無いようだが、上腕部に焦げた跡が目立つ。先ほどの攻撃によるものだろう。


「あらあら、そんな素直な攻撃じゃワタシに当たらないわよ?」


「流石はゲルヒルデ姉様……。でも、次の攻撃は躱せないぜ?」


 ブリュンヒルデは俺たちのはるか頭上にまで飛び上がると、身体全体から炎が溢れ出して火球とも言える状態となり、その大きさは既に人の背丈ほどにまで到達していた。だが、その大きさは更に大きくなる一方だった。


 更に、広場にいる俺たちの周りの温度もかなり熱くなりつつある。これは拙いと思い、すぐさま光魔法『炎熱障壁』を皆の周りに展開した。


「あら、あの娘ったら周りにハルトたちがいるっていうのに……。仕方がないわね」


『ハルト、皆にここから離れるように伝えて! あの娘、少し大きな力を使うから……』


 突然、ゲルヒルデからの念話が頭に響く。


 なるほど。確かに、今のブリュンヒルデを見ると、こちらにまで被害が出る可能性がありそうだ。


 既に俺たちの周りの温度もかなり高くなっているようで、噴水の中に溢れていた水からは湯気が立ち上り、蒸発が始まろうとしていた。


「皆さん、今すぐここから離れましょう! このままでは危険です!」


「皆、ハルトに従え! ここから退避するぞっ!」


 リーンハルトの一言で、皆が事態を把握し王城のほうに駆け出す。


 だが、ブリュンヒルデの攻撃は俺たちの退避を待たずに放たれることになる。


「ゲルヒルデ姉様、今度は避けられないぜ! 火魔法『爆炎弾』!」


 巨大な火球と化したブリュンヒルデが物凄い勢いでゲルヒルデ目掛けて突っ込むと、広場の石畳に衝撃が走り、逃げ急ぐ足元を狂わせる。


 その瞬間、熱風を伴う爆炎と瓦礫が俺たちを襲ったのだった。



 あぁ、思い出したぞ……。


 ブリュンヒルデのヤツが……あいつはどこだ?


 それに、あれをまともに受けたゲルヒルデは大丈夫なのか?


 ようやく何が起こったのか、すべてを思い出した。


 ゲルヒルデに対して放ったブリュンヒルデの一撃が今の状況を作り出したのだ。


 改めて辺りを見回すが、あの美しかった庭園の姿も無惨にも変わり果て、噴水は無くなって代わりに大きなクレーターができており、石畳は捲れ上がり、その下に隠されていた土の地面が姿を現している。


 そして、そこには二体の魔動人形の姿はない。


 恐らくは、あのクレーターがゲルヒルデが居た場所、つまりブリュンヒルデが突っ込んだ爆心地といったところか。二人がいるとしたらあの中だけど……。


 恐る恐るクレーターの中を覗き込むと、クレーターは深さ三メートルほどまで土が抉られており、噴水に注がれるはずだった水が流れ込んだようで底のほうは濁っていて良く見えない。


 だが、状況からして二人はこの底に埋もれている可能性が高かった。


「ゲルヒルデ! ブリュンヒルデ! 二人とも、無事かっ!?」


 底に向かって大声で二人の名を呼ぶが、反応はない。


 居ても立っても居られず、縁から斜面を滑り降りて水溜りとなったクレーターの底に立つと、もう一度ゲルヒルデとブリュンヒルデの名を叫ぶ。


「ゲルヒルデ! ブリュンヒルデ! どこにい『ハルト、ここよ!』っ!?」


 頭にゲルヒルデの声が響くと同時に水溜りの泥の中から細い腕が水面から突き出てきたので、慌てて摘み上げると泥塗れになったゲルヒルデが現れた。


「ゲルヒルデ! 良かった、見つかって。大丈夫、じゃなさそうだけど、どこか具合の悪いところはない?」


「ありがとう。助かったわ、ハルト。泥が隙間に入って動きにくいけど、それ以外は大丈夫よ。それにしても、本当にひどい目にあったわ!」


 あれだけの爆発を受けて、泥以外は目立った傷も無いとは、正直驚いた。


 上位精霊のゲルヒルデだったからか、それともアレクシス氏の創った魔動人形が頑丈だったのか……。まぁ、それは置いておいて。


「それで、ブリュンヒルデはどこにいるか分かる?」


「それが、さっきから念話で話しかけてるんだけど反応がないのよね……。全く、どこに行っちゃったのかしら?」


 念話に出ないとは、もしかするとブリュンヒルデに何かあった可能性が高く、これ以上待つこともできない。


「仕方ありません。反応がないなら、こちらから探しましょう。『空間探索』」


 この庭園全体の空間をイメージしてシミュレートし、ブリュンヒルデを探索をすると、クレーター内ではなく近くの花壇の付近に反応を見つけた。


 急ぎゲルヒルデを抱えてクレーターを駆け上がり、ブリュンヒルデの反応がある花壇へ駆け寄って声を掛ける。


「ブリュンヒルデっ! 無事か!?」


 花壇に植わっている花卉を掻き分けながら中に進むと、膝を抱えて座り込んだブリュンヒルデの姿を見つけた。


「ブリュンヒルデ、大丈夫か? 凄く心配したんだぞ?」


「……アタイ、魔動人形を壊してしまったんだ。ほら、腕が攻撃に耐えられなくてさ……」


 そう言うと彼女は力無く右腕を上げてみせた。


 確かに上腕部が大きく欠損している。恐らくは、あの攻撃に魔動人形が耐えられなかったのだろう。


「それに、ゲルヒルデ姉様にも勝てなかったし、ここの庭園をめちゃくちゃにしてしまったし……。アタイ、ハルトやゲルヒルデ姉様、それにパトリックにどんな顔して会えば良いのか分からなくて、それで……」


 ブリュンヒルデはまた膝を抱え込んで見を縮めてしまう。


 どうやら、今回のやってしまったことを後悔というか、反省というか、いじけているようにも見えるブリュンヒルデを優しく抱き上げた。


「まぁ、確かに凄い攻撃で驚いたし、少し怪我もしたけどさ。でも回復薬のおかげでもうなんともないし、俺たちのことは気にすることはないよ。それに、ブリュンヒルデはパトリックのために勝とうとした結果じゃないか。パトリックもきっと分かってくれるよ」


「そうね、ワタシも久々に本気になれたわよ、少しだけね。アナタは良くやったわよ、ブリュンヒルデ。まぁ、今回はワタシの勝ちだけどね」


「ハルト、ゲルヒルデ姉様……。ありがとう。それと、ごめんなさい」


「それを言うのは俺たちだけじゃなくて、パトリックやリーンハルトに言わないと。それに今回の顛末も説明しないといけないしな。ほら、そろそろみんなの所に戻るぞ!」


 無事ゲルヒルデとブリュンヒルデを見つけた俺たちは花壇から出てリーンハルトたちに合流するため王城のほうに向かったのだが、何だか騒がしい。


「この騒ぎは何事だっ! それにこの状況は……。リーンハルト様、パトリック様ご無事で? それにイザークっ! 一体何があったか説明しろ!」


 騎士が十数名リーンハルトたちの前に整列し、その中から壮年の騎士が一人前に出て、リーンハルトとパトリックに敬礼した後、イザークに詰め寄ったところだった。


 また面倒なことが起こったのかも……。


 とにかく、リーンハルトたちにゲルヒルデとブリュンヒルデの無事を報告するため、俺たちは彼らのもとに駆け寄った。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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