第一試合開始
闘技場の舞台の上には第一試合に出場するカロッサとユッタが並んでいる。その二人の間に、マイクを手にした俺が立っていた。一応、司会進行兼審判のつもりだ。
「ルールの説明を行います。舞台から落ちたり、気絶したり、降参を宣言した場合は負けとなります。その他、試合が続行できないほどの重症を負った場合なども、こちらの判断で負けとする場合があります。それから……。念の為お伝えしておきますが、目潰しや急所攻撃なども反則負けとなります。皆さんには騎士としての誇りを持って正々堂々と戦うことを期待しています!」
「「はっ!」」
カロッサとユッタの二人から了解の声を聞いて、あとは試合開始の合図を俺がするだけだ。カロッサとユッタの二人からはほどよい緊張感が伝わってくる。それを観客たちも察したのか、先ほどまでの大歓声が鳴りを潜め、闘技場は静まり返っていた。
何だか、こっちが緊張してくるな……。手に汗を握りしめながら、試合開始の合図を行う。
「それでは、これより第一試合、カロッサ選手対ユッタ選手戦を行います! 準備はよろしいですか? よろしいですね? それでは、始め!」
俺の試合開始の合図と同時に、カロッサとユッタが距離を取る。その様子を見て、試合が始まったことを実感したのか、ワンテンポ遅れて観客たちからの歓声が沸き起こった。
カロッサはその耳や尻尾の様子から、兎の獣人なのだろう。黒く長い耳と髪、黒い尻尾は黒兎と言うべき様相だ。そんな彼は試合開始の合図と同時に剣を抜くと、ユッタと距離を取った。
ユッタも相手の出方を見極めようとしてか、カロッサから距離を取った。
俺はというと、二人の邪魔にならないよう、すぐに舞台から下りると、二人の様子が一番良く見える場所に回り込んだ。
カロッサがじりじりとユッタに近づきながら、間合いをはかっている。そのことを意にも介さず、悠然と構えるユッタ。
先に動いたのはカロッサだった。
ユッタに向かって全力で駆け出すと、勢いをつけてユッタに袈裟がけに斬り掛かる。だが、それをユッタが両手で構えた剣でいなすと、すぐに反撃に出る。今度はユッタがカロッサの左脇腹を目掛けて鋭い一撃を放った。
反射的に剣でユッタの一撃を防いだカロッサだったが、余裕がなくなったのだろうか。舞台の端まで吹き飛ばされることになった。それを見て追い討ちを掛けるようにカロッサのもとに飛んでゆくユッタ。
そのユッタの攻撃を防ぐことに必死なカロッサ。二人の激しい剣戟が続く。だが、それも束の間のことだった。
ガギンッ! と、二人の剣と剣が激しくぶつかり合う。
「はぁっ!」
「くぅっ!」
二人の力は拮抗しているように見える。だが、ギンッ! と、ユッタがカロッサの剣を払いのけると、ユッタの剣の勢いが増す。
ギンッ! ギンッ! ガギンッ!
ユッタの激しい剣戟をカロッサは防戦一方で防ぎ続ける。だが、僅かにできた隙をついて、ユッタがカロッサに向けて強力な一撃を放つ。それを必死に防ごうと、カロッサが剣を縦に向けるが、その剣をへし折り、ユッタの剣先がカロッサの首元目掛けて飛んでいった。
カロッサの首元にツゥと薄っすら血が流れるが、そんなことは無視して更にユッタの追撃が始まる。既にカロッサの剣は折れている。これ以上の試合続行は無理だと思い、すかさず手を上げてカロッサの負けを告げようとする。
だが、その前にカロッサから声が上がった。
「ま、参った!」
再びユッタの剣がカロッサの首を狙うギリギリの間際に、カロッサが降参を申し出たのだ。その声を聞いて、ユッタも剣を寸前のところで止めて、鞘に納めた。
「第一試合は、ユッタ選手の勝利です!」
ワアアアアアッ! という、観客たちからの歓声に闘技場内が包まれる。ゴットフリートやエアハルトたちも子供のように試合を見て歓声を上げていたようで、フリーダなんかはなんだか少し恥ずかしそうにしている。
カロッサとユッタの試合自体はほんの数分の出来事だったが、ある種の緊張感に包まれたからか、傍から見ていても満足できる内容だった。こんな試合が続くのであれば、見世物としては十分に満足できる内容と言えるだろう。
これなら次の試合も期待が持てそうだ。それに、あまり一試合に時間が掛からないのもいい。何せ、今日だけで何試合も行うのだ。一試合に何時間も掛けてはいられない。一試合あたり二、三十分が適切な試合時間だろう。そういう意味では、カロッサとユッタの試合は少々短すぎたかもしれない。とはいえ、こういうものはテンポが大事だ。次の試合も長引かないように、テンポよく進めたい。
そんなことを思いながら、第二試合に臨むフィンクとユングを舞台の上に登場させた。二人とも元第三王子の専属近衛騎士だ。
「これより第二試合、フィンク選手対ユング選手の試合を行います。両者、準備はいいですね? それでは、始め!」
「「うおおおおおっ!」」
どちらかというと細身の猫人族のフィンクと、筋肉の塊といった雰囲気の牛人族のユングの戦いは、謂わば柔対剛の戦いと言わんばかりだった。しなやかな動きで相手を翻弄するフィンクと、重い一撃を振り回すユング。その対比もあってなかなか未見応えのある試合となった。
暫くはどちらも引くことなく撃ち合い続けた。フィンクは軽やかな攻撃を繰り出してユングには手数で勝り、ユングはフィンクとは逆に、相手の一瞬の隙を狙うかのような重い一撃は一発逆転の可能性を秘めていた。
どちらも一進一退という様子で白熱した試合となったが、徐々に手数で上回るフィンクが、少しずつユングへのダメージを積み重ねていく。ユングも必死に抗うが、如何せん身軽なフィンクに躱され続け、体力だけが奪われていった。
これは勝負あったか。そう思い、いつでもユングからの「参った」の声に答えられるように準備しておく。
次第にユングの動きは鈍り、いつの間にか剣を構えたまま動かなくなってしまった。まさか、気絶したりとかしてないよな? そう思って様子を見るが、よく見ると肩で息をしている様子が分かる。まだユングはやる気のようだ。
その様子を見たフィンクが一度ユングから離れて距離を取ると、再び剣を構えてユングに向かって叫んだ。
「次の一撃で決めさせてもらうぞ、ユング! はあああっ!」
フィンクが最後の追撃に出た。目にも止まらぬ鋭い一閃が、動かなくなったユングに目掛けて放たれた。誰もが思った。これで勝負はついただろう、と。
だが、その瞬間。ユングは目を見開き、フィンクの動きに合わせて迫りくる剣戟に答えるように、両手で握り締めた長剣を振り抜いた。
「ふんっ!」
そう、カウンターだ! ユングが放った重い一撃がフィンクの一閃をすり抜けてその腹部を捉えると、フィンクを切り裂くように宙空へと振り上げた。
「ぐはっ……」
闘技場の舞台に打ち付けられたフィンクから息を吐き出すように苦悶の声が漏れ出た。血こそ出ていないが、内臓に深いダメージを受けているだろうことは予想できる。慌ててフィンクの側に寄るが、完全に意識を失っているようだった。
「第二試合試合の勝者はユング選手です!」
見事、逆境からの逆転勝ちを収めたユングに、観客たちから惜しみない称賛の声が掛けられる。また、負けたフィンクにも体格差のある相手に対してよく戦ったという称賛の声が届けられた。
こうして、第一試合に続き、第二試合も大いに盛り上がった。怪我を負ったユングとフィンクには念の為特級回復薬を渡しておいた。あとで飲めば、ユングは後遺症もなく次戦に進むことができるだろうし、フィンクも騎士団員として不自由なく活動できるだろう。
さて次は第三試合。カール対ハンスだ。今回もA級冒険者パーティであるカールが活躍するのではないか。何となく、そんな気がするのだ。まぁ、これはあくまで俺の予想なのだけど、ユッタたちが安心してカールを見守っていることから、これは確実にカールが勝つのだろうと思わざるを得なかった。
「これより第三試合、カール選手対ハンス選手戦を行います! 両者、準備はよろしいですね? それでは、始めっ!」
こうして、第三試合が始まった。
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