トーナメントの抽選会
闘技場には朝早くから多くの人々がその開場を待っていた。別に、観客を集めるようなことは公式には全くしていないにも関わらずだ。これも、コリンナとハーゲンの努力の賜物なのだろう。
そんなコリンナとハーゲンは、臨時の店舗というか屋台を街道から闘技場の周りにまで続くように並べ立てたようで、今グリュック島の港に辿り着いたら、誰でも一直線に闘技場へと足を運べるような、そんな道筋が出来上がっていた。
正直、ここまでの規模になるのだったら、事前にアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両国で入念に告知して、そして開催期間も二日と言わず、もっと長いものにすればよかったかもしれない。
とはいえ、そうなるとやはり宿の数が足りなくなる。それも、俺が用意すればよかったのかもしれないが、そこまで俺がやってしまうのも何だか違う気がしたのだ。街のことは街に住む者たちに上手くやりくりをしてもらいたい。そうでなければ、全てのことを俺に頼り切ることになってしまうのでないかと危惧したからだ。
それに、こんなことはもう行わないかもしれない。一時の娯楽を鑑賞するために、今後使わないかもしれないような宿を創るのも無駄と言える。であれば、今回の判断は間違っていなかったと言ってもいいのではないだろうか。
闘技場の観客席には、当初の予想を裏切り、千人以上の観客が既に集まっており、続々と増えているようだ。このままだと、最終的には闘技場の観客席の半分近くは埋まるのではないだろうか。コリンナとハーゲンには本当に頭が下がる。
それにしても、よくこれだけの人数が集まったものだ。果たして彼らはどこに泊まるつもりなのだろうか。恐らく、多くの者が闘技場の近くで野営するつもりなのだろう。もしかしたら、港まで戻って船で夜を過ごす者もいるかもしれないが。
ともかく。観客も当初の予定よりもそこそこ集まった。これで試合を始める準備は万端だ。俺は貴賓席で司会進行を務めよう。
「テス、テス、テス! うん、問題ないな。コホン。これより、アサヒナ伯爵家騎士団長選抜試合を始めます。選手入場!」
俺が魔導具のマイクでアサヒナ伯爵家騎士団長選抜試合の開催を宣言すると、その声は闘技場全体に響き渡った。そして、入場行進用に用意していた曲が流れ始める。
その曲に合わせて、試合に参加する騎士候補たちが地下道から闘技場の舞台上へと次々に現れた。その様子を見た観客からの大歓声に闘技場が包まれる。
全員が闘技場に並ぶと、入場行進の曲が鳴り止む。それと同時に、ばらばらと歓声も静まっていった。
「これより、開催者であるアサヒナ伯爵家当主、ハルト・フォン・アサヒナ伯爵より開催の挨拶を賜ります」
あ、自分で司会進行してるせいで、自分が挨拶するときも、自分で自分を紹介しなければならないのか。これはちょっと恥ずかしい。閉会式のときは他の誰かに代わってもらったほうがいいかも。ちょっと考えておこう。
「え〜。改めまして。皆様、ハルト・フォン・アサヒナです。この度、私が両王国よりお預かりしておりますここグリュック島において、新たに騎士団を立ち上げることになりました。その、初代団長をどのように選ぶべきか検討した結果、誰もが納得する方法はこれしかないと感じました。そう、実力を示せばよいのです。とはいえ、騎士団長というポジションは私の右腕と言っても過言ではありません。信頼の置ける人選というのも大事なポイントです。そこで、私が最も信頼している我が騎士グスタフを決勝戦の相手とし、その対戦相手を今回の試合で決めることに致しました。トーナメント戦で勝ち上がった者がグスタフに挑戦できるのです。今回の試合においてその実力を示し、グスタフに打ち勝って真の騎士団長となる者が現れるのか!? 皆で見守りましょう!」
俺の言葉に観客から大歓声が湧き上がった。それに答えるように、ユッタたちやグラーツたちも手を振って観客に答えている。
「続いて、アルターヴァルト王国の国王陛下である、ゴットフリート陛下と、ヴェスティア獣王国の国王陛下であるエアハルト陛下より祝辞を賜ります」
そう伝えると、再び闘技場が静寂に包まれた。そのまま、マイクをゴットフリートに渡す。使い方は見てもらった通りなので、そのままマイクに向かって話しかければよい旨簡単に説明した。
「あ、あ〜。なるほど、こういうものか……。ゴホン、では手短に。この度のアサヒナ伯爵家の騎士団長を決める試合に参加する騎士たちよ、その勇敢なる姿勢を最大限に評価する。これから始まる試合において、存分にその力を発揮することを期待している。皆には、決勝戦の舞台に立てるよう頑張って欲しい。以上だ」
そうゴットフリートが話すと、今度はエアハルトにマイクを手渡す。エアハルトは以前見たこともあるからか、特に戸惑うことなくマイクを手にした。
「それでは、私も手短に。この度、アサヒナ伯爵家の騎士団に加わる騎士候補たちは主に我が国の騎士たちとなります。ですが、そう簡単にアサヒナ伯爵家の騎士団長になれるとは思わないことです……。皆が己の力を余すことなく存分に発揮し、最善を尽くすことを期待しております。以上です」
「ゴットフリート陛下、エアハルト陛下、ありがとうございました。続きまして、今回の試合の対戦相手を決めるくじ引きを行います。出場選手はその場で待機してください」
俺はすぐにくじの入った箱を手元で創造すると、闘技場の舞台へと向かった。
くじは簡単な作りのものだ。空き箱の中に1から16の数字の書かれたボールが入っているので、それを一人ずつ取り出してもらう、というものだ。これも、某漫画の天下一を決める戦いを参考にした。
「それでは、一人ずつこの箱に入っているボールを取り出してください。ボールに記載されている数字を元にトーナメント表を埋めていきます。まずは、エッカルト選手。こちらの箱からボールを取り出してください」
「承知した!」
エッカルトが右腕を箱の中に勢い良く突っ込むと、ゴソゴソと中をかき回しながら、一つのボールを取り出した。
「エッカルト選手は、8番! 8番です! 第八試合に出場となります!」
「うむ。トーナメント初戦の最後の試合か。これなら、出場者の大体の傾向が分かるな。まぁ、身内については大体把握しているのだが、ユッタ殿たちは現役のAランク冒険者パーティだ。油断はできない」
そう言いながら、元いた場所に戻るエッカルト。やはり、今回の台風の目はユッタたちAランク冒険者パーティ『精霊の守り人』の面々であるようだ。
「それでは、続きましてカロッサ選手。お願いします」
「うむ!」
カロッサが箱の中に腕を突っ込み、ゴソゴソと選び抜いた結果、出た番号は1番だった。
「げぇっ!? よりにもよって、1番かよ!?」
失敗したといった表情でとぼとぼと元いた場所に戻るカロッサ。それを周りの騎士候補たちが慰めるように肩を叩いたり、頭を撫でたりと慰めているようだ。自分たちも2番を引く可能性があることを考えていないのだろうか? まぁ、騎士候補たちが結束していることはよく分かった。
そうして、順調にくじ引きが進んでいった結果、トーナメント表は下記のようになった。
第一回戦
カロッサ対ユッタ
第二回戦
フィンク対ユング
第三回戦
カール対ハンス
第四回戦
ダウム対レオナ
第五回戦
ホフマン対フェッツ
第六回戦
グラーツ対ゲルト
第七回戦
ガスト対ユッテ
第八回戦
エッカルト対クルゼ
うまくユッタたちがばらけたものだ。とはいえ、準決勝からはユッタたちAランク冒険者パーティ『精霊の守り人』同士での戦いになる可能性も秘めている。果たして、どんな試合になるのか、これから楽しみだ。
そうそう。貴賓席には、今回の賓客であるアルターヴァルト王国の王家からは、国王陛下であるゴットフリート、王妃のヴィクトーリア、第一王子のリーンハルト、第二王子のパトリック、第一王女のフリーダの五人が座っている。
その隣には、ヴェスティア獣王国は王家を代表して、国王陛下であるエアハルト、先代国王であるハインリヒ、第一王子のアレクサンダー、そして第五王子のクラウスが座っていた。
もちろん、観客たちにも紹介する。両国ともに王家がほぼ勢揃いしているということもあってか、観客たちも驚きの声を上げた。
まぁ、それは仕方のないことだろう。基本的に、王族たるものが領地外へと遠出をすることなど滅多にないことだからだ。それも、両国の国王陛下が揃って同じ土地に来ることとなると、何年、何十年、いや、何百年ぶりと言っても良いほどに珍しい光景だった。
「それでは、これより第一試合を始めます! カロッサさん、ユッタさん、闘技場の中央にお越しください!」
そうマイクで皆に伝えると、カロッサとユッタが闘技場の中央に進むと、それぞれ顔を合わせた。これから、アサヒナ伯爵家騎士団長選抜試合が始まるのだ。
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