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王族をグリュック島にご招待(前編)

 グスタフの修行の成果を見届けた俺は、彼の修行用に新たに創った『重力負荷の指輪』のアイデアを元に、今後設立される予定の騎士団の訓練用の騎士鎧にも同じ効果を付与できないかと思い、修行用装備を一通り用意することにした。


 騎士鎧だけでなく、ガントレットタイプの籠手とブーツ、それにヘルムというか、兜。これだけあれば、某漫画の主人公が修行のために身に着けていた道着やリストバンド、ブーツと似たような効果が得られるはず。とはいえ、いきなり重すぎる装備を身に着けても無駄に動きにくいだけではないかと思い、負荷は二倍から十倍までに抑えてある。


 そんな装備を創っていたところ、ユッタたちが現れた。ユッタたちは、最近のグスタフの行動に不自然な点があると見抜き、その理由を俺が知っているのではないかと当たりをつけて、その理由を聞きに来たのだった。


 とはいえ、グスタフがユッタたちに理由を話していない以上、俺から何も言うことはできない。それに、アロイスまでグスタフの特訓について秘密を守っているのだから、尚更だ。


 ということで、ユッタたちには試合当日まで秘密である旨を伝えて、解散させた。少々不満そうにはしていたが、これもグスタフに勝ってもらうために仕方のないことなのだ。


 そう思ったものの、別にユッタたちが勝ったのなら、それはそれで俺的には問題ないような気もしてきた。ユッタたちの誰かが騎士団長になるだけなのだから。もっとも、グスタフに勝ち、尚且つ本人にやる気があるのであれば、だが。


 だが、もしユッタたちが勝って、騎士団長にはなるつもりがない、となると、少々面倒なことになりそうだ。やはりここは勝った者に騎士団長になってもらわないと。そして、騎士団長になるつもりがある者に勝って貰わなければならない。


 そんなことを考えていると、やはり、グスタフが勝利するべきなんだろうという結論に至るのだった。



 そうこうしているうちに、『アサヒナ伯爵家騎士団長選抜試合』の当日を迎えることになった。


 早朝からフルーアの港にはこれまでに見たことがないほどの船が停泊している。その数は大小合わせて何百にもなるかというものだ。これまでに見たことのない光景に俺だけでなく、アメリアたちや、ラルフたちも驚いているようだった。


「コリンナ殿とハーゲン殿のお陰で、フルーアの港とリヒトの街はその対応に大忙しとなっております! それもこれも、この島でアサヒナ伯爵家の騎士団長を決める試合を行うことになったからです!」


 流石です! と、マルセルが言いながら手を握りしめてくる。いや、俺のお陰というよりは、この試合を口実にして、このグリュック島に集客をしたコリンナとハーゲンの成果だろう。


 だが、そんなことを口にする前に、アメリアたちやラルフたちからアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の貴賓客を招くべきだと言われた。確かに、そろそろゴットフリートやエアハルトを連れてくる必要がある。急いで両国の出席者を迎えに行くため、魔導船スキズブラズニルに乗り、まずはアルターヴァルト王国に向かった。


 王城に到着すると、既に出発の準備を終えたゴットフリート、リーンハルト、それにパトリックとフリーダ、そしてヴィクトーリアの五人と、それぞれの護衛役の騎士たちや従者たちが待ち構えていた。


 ……やはり、ウォーレンは今回お留守番となったようだ。今度うちで何かイベントを催すときには優先的に呼んであげたい。


 そして、挨拶もそこそこに、早速ゴットフリートたちを魔導船に乗せてグリュック島へと向かうことにした。


「おぉ、これが魔導船か! 本当に空を飛んでいるのだな! 王都を空から見下ろすなど、ハルトの魔導船がなければできることではないな! ウォーレンのやつにも見せてやりたかったなぁ!」


 ゴットフリートが立ち上がってディスプレイに映った王都を見下ろす風景を見ながら、楽しげに声を上げる。


「もう、貴方少しはしゃぎ過ぎではなくて? それにしても、王都がもうあんなに小さく……。この魔導船というのはリーンハルトとパトリックの話していた通り、馬車よりも速い乗り物なのですね」


 扇子で口元を隠しながら、魔導船の移動速度に感心した様子のヴィクトーリア。


「御母様、速さだけではありませんわ。馬車のように揺れることもありませんし、室内も想像以上に広いです。まるで、この中でお茶会でもできるかと思うほどに!」


 フリーダも頭から認識阻害の魔法が掛かったベールを被っているため、その表情までは窺えないものの、魔導船の室内の広さに驚いているようだった。確かに、馬車の中や船の船室なんかよりもずっと広いからな。


 そんな彼らの感想を聞いて、自分のことのように喜んでいるのはリーンハルトとパトリックの二人だった。


「ふふん! ハルトの創った魔導具だから、凄くて当然なのだ!」


「ハルト殿を御用錬金術師とした私たち兄弟の目は確かなのです!」


 そう言って胸を張るリーンハルトとパトリック。


「あら、それなら私もハルト様を御用錬金術師に指定しているのだし、私も二人みたいに胸を張ってもいいのよね?」


「「あ、姉上!?」」


「ふふふ、冗談よ。でも、ハルト様は本当に凄い錬金術師ね……!」


「うむ! それは間違いないのだ!」


「はい! 姉上の言う通りです!」


 そんな姉弟のやり取りを聞いているうちに、いつの間にかグリュック島の闘技場の真上までやってきたのだった。


「おぉ! 思っていた通りだ! 何という立派な城だ! 王城にも勝るとも劣らぬ立派な屋敷ではないか!」


「そして、その隣に立つ、高く光輝く建物がハルト殿の対魔王勇者派遣機構の本部なのですね! 流石です!」


 リーンハルトとパトリックの二人もグリュック島を見下ろす景色は初めてだったので興奮している様子。


 だが、ゴットフリートとヴィクトーリア、それにフリーダの三人は言葉が出ないようだった。やっぱり、少々やり過ぎてしまったか。


 三人に取り繕うため、何か耳ざわりのいい言葉はないかと必死に考える。


「ちょっとだけ大きな屋敷になってしまいましたけど、これもゴットフリート陛下やエアハルト陛下をお迎えするのに相応しい建物にしなければならないと考えた結果なのです。どうか、お許し下さい……」


 そう言ってゴットフリートに頭を下げた。そうしていると、周りの者がゴットフリートに声を掛ける。どうやら、ゴットフリートは暫くの間呆然としていたらしいが、頭を左右に何度か振ると、気を取り直したようで、俺に声を掛けた。


「……うむ。流石にここまで立派な城を建てているとは思わなかったぞ。だが、其方の領地は我が国とヴェスティア獣王国との境にある、重要な拠点である。城までとは言わないが、それなりに見栄えのする屋敷は必要だろう……。とはいえ、流石にやりすぎだ!」


 ゴットフリートの言葉にヴィクトーリアとフリーダの二人がウンウンと頷く。はぁ。ゴットフリートたちにまで屋敷を城と認定されてしまった。やっぱり、やり過ぎだよな……。


 まぁ、あらぬ謀反の疑いを掛けられなかっただけ良かったということにしておこう。


 その後、無事に魔導船を屋敷の敷地内に着陸させると、待機していたラルフたちにゴットフリートたちを屋敷まで誘導してもらった。後のことは彼らに任せよう。


 だが、これで終わりではない。もう一方の王家を迎えに行かねばならないのだ。というか、むしろ、試合に参加する騎士候補たちを揃えて出してくれたヴェスティア獣王国の方こそ、今回の真の賓客と言えるのではないだろうか。


 そういうわけで、俺は再び魔導船に乗り込むと、今度はヴェスティア獣王国に向けて出発するのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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