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アルトヒューゲルの屋敷の使用人

 クラウスの命により使用人たち五十一名がグリュック島へとやって来た。予定よりも一人多いのは、うちのブリッツェンホルンにある屋敷で家政婦長をしていたフロレンツィアが自ら志願してやって来たからだった。


 うちの屋敷の使用人が異動してくるのなら、一言くらい屋敷の主人たる俺に相談があってもいいのではないかと思う。


 もちろん、ラルフにも相談がなかったわけなので、これはテオたちから舐められているのでは、などと勘繰ったりしたのだが、当日のうちにテオからフロレンツィアがこちらに移動を希望したので、それを了承した旨の報告が転移台にて送られてきたのだった。


 ちょっと報告が遅いというか、もう少し早く報告できなかったのだろうか。でも、報告が遅くなった旨を詫びる内容も書いてあったので、今回は不問とすることにしよう。


 こうして屋敷に使用人五十一名が新たに加わった。今はラルフとアルマ、それにヴィルマとリーザとリーゼの三人と、料理人のザシャも加わって、広い屋敷の何処に何があるのかであったり、うちの屋敷での仕事の内容や料理について教わっている。ついでに、部屋に備わっている魔導具の使い方についても。もっとも、その辺りはフロレンツィアが対応してくれるらしく、ラルフたちの出番はない。


 『アサヒナ伯爵家騎士団長選抜試合』まで、あと一週間と少しだが、その間にできるだけ仕事を覚えてもらうしかない。


 というわけで、使用人たちのことはラルフたちに任せることにした。俺はというと、直近のタスクを大体消化できたので、暫くはゆっくりとさせてもらおうと思う。


「はぁ。これで暫くは休めるはず……」


 そう呟いて自室のベッドにダイブしてうたた寝を始めたところで、ドアをノックする音に起こされた。


「……どうしましたか?」


 自分でも少しばかり機嫌の悪い口調で答えるのは、眠りかけたところを起こされたからに他ならない。だが、ラルフの声が聞こえてきたので、すぐに何かあったのではないかと思い、身体を起こした。


 ラルフが「失礼致します」と言って、ドアを開けて部屋の中に入ってきた。それに合わせて俺も眠い目を擦りながらベッドから離れる。


「旦那様、お休み中のところ申し訳ございません。アルトヒューゲルの屋敷より、ベンノが連絡を届けてくれました。王城にて選考していたアルトヒューゲルの屋敷の使用人候補が決まったようです」


「えっ、もう決まったんですか?」


「はい、そのようです。その為、旦那様には王城にて国王陛下との謁見するように求める、と手紙には記載がありました」


「えっ!? ゴットフリート陛下との謁見ですか? リーンハルト王子やパトリック王子とではなく? はぁ……。まぁ、それは構いませんが、何時なんです?」


「それが、その、明日の午前中とのことです……」


「明日の午前中ですか!? 流石に急すぎませんか?」


「ですが、ベンノからの手紙にこの通り記載されておりますので……」


「ふむ……」


 ラルフから見せられた手紙を見ると、確かに明日の午前中に登城するようにと書かれていた。手紙にそう書いてあるということは、その通りなんだろう。


 今の俺には屋敷が三つある。アルトヒューゲルの屋敷、ブリッツェンホルンの屋敷、そしてグリュック島にあるリヒトの屋敷だ。そして、その屋敷を自分の都合により自由に移動している。


 そんな俺に対して手紙を出した翌日に王城に登城するよう伝えるなんて、転移台と魔導船の存在がなければあり得ないことだと思う。ゴットフリートたちも魔導具の便利さに気が付いたのではないだろうか。それは何よりだが、急に呼び出される側としては大変だ。何となく、携帯電話を初めて持った頃のような感覚を思い出すな。


 ベンノからの手紙を受け取った翌日。俺はアメリアとカミラ、それにヘルミーナの三人と一緒にアルトヒューゲルの屋敷にやってきた。もちろん、アイテムボックスの中にはセラフィもいる。


 使用人もおらず、ベンノたちが時折顔を出すだけの屋敷は何だかがらんとしているように見える。だが、それも今だけだ。今日、王城で新たな使用人たちを迎え入れることになるのだから。


 そんなわけで、早速王城に向かうことにした。御者はアメリアたちが務めてくれることになった。いつまでもベンノたちに頼るわけには行かない。自分たちでできることはできる限り自分たちで行いたい。


 王城へ向かうと、いつもの会議室に通された。だが、いつもよりも少しばかり空気が重いような気がするのは俺だけだろうか。


 部屋に入ると、まずはゴットフリートに挨拶する。


「ハルト・フォン・アサヒナ、ゴットフリート陛下からの命により、ただいま参上致しました!」


 そう言って俺が跪くと、後ろに控えていたアメリアとカミラ、それにヘルミーナの三人も揃って跪いた。


「うむ。急な呼び出しで済まぬな。そちらの席に着いてくれ」


「はっ!」


 そう言ってゴットフリートの正面の席に座る。すると、アメリアとカミラ、ヘルミーナの三人が俺の後ろに控えた。


 通された席の向かい側には、正面にゴットフリートが座っている。その両隣にはリーンハルトとパトリックの二人が座り、リーンハルトの隣にウォーレンが座っていた。


 リーンハルトとパトリックの後ろには、いつも通り教育係であるユリアンとランベルトの二人が控えている。


 そして、ゴットフリートの後ろには、筋骨隆々で着ている執事服がはち切れんばかりの立派な体格をした白髪の男、ゲオルクが控えていた。


「この度のことはリーンハルトとパトリックの二人から聞いておる。其方の王都にある屋敷に置く使用人について、ゲオルクに頼んだらしいの?」


 ゴットフリートから問われたので、素直に答える。


「はい、その通りです。そして、この度王都にある私の屋敷に仕える使用人たちが決まったと伺い、参りました次第です」


「うむ。その通りだ。ゲオルク! 早速だが、この度決まったハルトの屋敷の使用人たちをハルト本人に紹介してやってくれ!」


「はっ。承知致しました!」


 そうゴットフリートに返事をしたビアホフは謁見の間から出て行くと、暫らくして再び謁見の間に戻って来た。十名の使用人候補を引き連れて。


「アサヒナ様、お待たせ致しました。こちらの十名が、私が選抜し、王国が審査した使用人候補となります。アサヒナ伯爵様の屋敷の使用人として、十分な実力を兼ね備えているツワモノ揃いです。さぁ、お前たち、アサヒナ様に自己紹介するように!」


 ゲオルクの言葉が少々気になるが、使用人候補たちを紹介してくれることになった。それにしても、皆ガタイがいい用に見えるが……。


「自分はセバスチャン・アーレンスであります! この度、執事を務めさせて頂きます!」


「私はエミーリア・バウアーであります! この度、侍女長を務めさせて頂きます!」


「わ、私はヘレナ・ブライトナーであります! 使用人を務めさせて頂きます!」


「イザベラ・クラナッハであります! お、同じく、使用人を務めさせて頂きます!」


「私はリンダ・ドナートであります! 同じく、使用人を務めさせて頂きます!」


「マリーア・エッケルトであります! 同じく、使用人を務めさせて頂きます!」


「自分はカール・フェッセルであります! 料理人を務めさせて頂きます!」


「ラ、ラファエル・フリッツであります! 屋敷での護衛役を務めさせて頂きます!」


「ヘルムート・ハーラーであります! 同じく、屋敷での護衛役を務めさせて頂きます!」


「私はナターリエ・クルーガーであります! 同じく、屋敷での護衛役を務めさせて頂きます!」


 そう言って、セバスチャン以下十名が自己紹介とともに敬礼をして挨拶してくれた。自己紹介の仕方といい、皆のガタイの良さといい、これはもう鑑定するまでもないな……。


「えっと、あの……。皆さん、騎士団出身の方々ですよね?」


 そう問うと、ゲオルクが答えてくれた。


「その通りです。アサヒナ様の御屋敷は、アサヒナ様が創られた転移台により、ヴェスティア獣王国との重要な連絡経路となりました。状況によっては、国家機密を扱うことになります。それ故、この度の使用人候補についてはすべて近衛騎士の中でも特に信用のおける者たちを見繕った次第です」


「近衛騎士!? それも、十名もだなんて……。その、本当によろしいのですか?」


 そう言って、ゴットフリートとウォーレンの二人をちらりと見る。


「うむ。これまでは元近衛騎士のラルフやヴィルマ、それに何かと頼りになるアルマがいたからな。しかし、今後其方らはグリュック島の屋敷に移るのであろう?」


「はい。グリュック島の屋敷に移るつもりです。というか、既に我々を含め、使用人も護衛役も移動を終えておりますが……」


「ならば、余計に王都の屋敷を守る使用人や護衛役は信頼の置ける者でなければならない。それに、相応の手練でなければな。先ほどゲオルクが答えてくれたように、其方の屋敷は今や我が国の重要な拠点となっているのだ」


「なるほど……。承知致しました。この度は格別のご配慮を賜りましたこと、厚くお礼申し上げます」


 俺はゴットフリートに頭を下げた。アメリアたちも同時に頭を下げる。


「気にすることはない。ただ、礼を言うのなら私にではなくリーンハルトとパトリックの二人に言ってやってくれ。二人がゲオルクに相談したことで実現したのだからな」


 そう言ってゴットフリートがリーンハルトとパトリックの二人の頭を撫でた。


 俺は改めてリーンハルトとパトリックに向き合い、礼を言った。


「リーンハルト様、パトリック様。この度はご相談に乗って頂き、誠にありがとうございます。おかげさまで、王都の屋敷にも使用人を置くことができます」


 リーンハルトとパトリックの二人に改めて頭を下げる。


「礼には及ばぬ。全ては父上とウォーレン、それにゲオルクの采配によるものだ」


「その通りです。私たちがしたことは唯一つ。ゲオルクに相談しただけなのです」


「それでも、そのおかげでこうして安心して屋敷を任せられる使用人を雇えるのですから、それはやはりリーンハルト様とパトリック様のおかげですよ。本当にありがとうございます」


 リーンハルトとパトリックの二人に改めて礼を言い、今度はうちの使用人となることになったセバスチャンたちにも礼を言った。セバスチャンたちは何やら俺に恐縮しているようだったが、何も気にすることはない。


 こうして、ゲオルクに紹介された近衛騎士十名が、王都アルトヒューゲルの屋敷の使用人と護衛役としてその任に就いてくれることになった。


 最初はどうしてリーンハルトとパトリックの二人に相談したことなのに、ゴットフリートから呼び出しがあったのか分からなかったが、ゴットフリートの言葉でようやく納得がいった。それに、部屋に入ってきたときに空気がいつもよりも重かった理由も。


 ゲオルクの言う通り、うちの屋敷は転移台の存在によってヴェスティア獣王国との連絡を行う際の重要な拠点になった。その重要な拠点を守るためには、信用できる者を置きたい。それこそが近衛騎士だったというわけだ。


 さて。まだ顔合わせをしたばかりなので、お互いぎこちないところもあるが、新たに加わった使用人たちは近衛騎士ということもあり、戦闘に関する実力については何も心配はしていない。ただ、執事や使用人、料理人としての実力は果たしてどのようなものなのか、気になるところではある。


 ともかく、ひとまずは王都の屋敷の使用人と護衛役を迎え入れることができた。あとは、ラルフたちと彼らを面会させる必要がある。そのことを考えながら、今宵は金色の小麦亭で食事をとるのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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