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ブリュンヒルデ

 部屋の中をゲルヒルデと一緒に仲良く浮かんでいる火の精霊をパトリックが目を爛々とさせて見つめていた。


「ハルト殿、こちらが火の精霊様ですか?」


「はい、パトリック様。そして、これから火の精霊さんに名前を与えようと思います」


「兄上のゲルヒルデのように、ですね!」


「その通りです。パトリック様の魔動人形にはブリュンヒルデという素敵な名前がありますので、そちらを火の精霊さんの名前として与えようと思いますが、よろしいでしょうか?」


「はい、お願いします!」


「パトリック様、ありがとうございます。それでは火の精霊さん、今からあなたに名前を与えようと思います。心の準備はよろしいですか?」


 火の精霊に向かってそう話し掛けると、それまで楽しそうに浮かんでいた火の精霊が、やや緊張した様子で目の前まで飛んできた。


「ア、アタイはいつでも大丈夫さ! さぁ、ハルトやってくれ!」


「では、火の精霊さんはたった今から『ブリュンヒルデ』です! この魔動人形と同じ素晴らしい名前だと思うのですが、いかがでしょうか?」


 そう火の精霊に伝えると、火の精霊の身体が眩く光り輝いて、同時に熱を放ち始めたので、先ほどと同じく光魔法『炎熱障壁』を火の精霊の周囲に展開する。


 ゲルヒルデの時は魔動人形の中に収まっていたから気づかなかったけど、やはり上位精霊に霊格が上がる時にも光や熱が放出されるようだ。


「ブリュンヒルデ、いい名前だなっ! これからは、アタイのことは火の精霊『ブリュンヒルデ』と呼んでくれ! ハルト、これからよろしくな!」


 次第にブリュンヒルデから放たれていた熱と光が収まると、ゲルヒルデと同様に身長が三倍近くになり、中学生から高校生くらいの容姿に成長して現れた。


 念の為、改めて鑑定しておく。


『名前:ブリュンヒルデ

 種族:上位精霊(火) 年齢:不明 職業:神の眷族の契約者

 所属:朝比奈晴人

 称号:朝比奈晴人に召喚されし者、朝比奈晴人に名付けられし者

 能力:S(筋力:S、敏捷:S、知力:B、胆力:S、幸運:A)

 体力:4,700/4,700

 魔力:7,620/7,620

 特技:火魔法:Lv9

 状態:健康

 備考:朝比奈晴人が召喚した精霊。

    朝比奈晴人により精霊力を与えられ、霊格が上がった。

    元々は下位精霊だったが、現在は上位精霊。

    契約期間は一年(残り365日)

    身長:46.2cm、体重:測定不能』


 ゲルヒルデは魔法使い寄りの能力だったのに対して、ブリュンヒルデは戦士寄りの能力のようだ。


「無事に上位精霊まで霊格が上がったようで良かったです。ブリュンヒルデさん、これからよろしくお願いしますね」


「よろしくな、ハルト!」


 テーブルの上に降り立ったブリュンヒルデに、早速お願いについて話すことにした。


「早速で申し訳ないのですが、こちらがお話ししていた精霊晶と魔動人形『ブリュンヒルデ』です。この精霊晶に宿って頂き、魔動人形を動かして欲しいのです」


「聞いていた通りだな。ちょっと試して見るから、待ってくれ」


 ブリュンヒルデは精霊晶の中にするりと入ると、精霊晶を明滅させて話し掛けてきた。


「思ったよりも中は広いんだな! なかなか快適だぞ、ハルト」


「特に問題ないようでしたら、このまま魔動人形に組み込みますね」


 魔動人形の胸部を開き凹みにブリュンヒルデが宿った精霊晶を組み込み、再び胸部を閉じて具合を確かめてもらう。

 

「ブリュンヒルデさん、魔動人形への組み込みも終わりました。問題無く動かせるか、試してもらえますか?」


「分かった! ……ハッ!」


 すると、テーブルの上に仰向けに寝かせていた魔動人形が突然大きく飛び上がり、宙でくるくると宙返りしながらスタッとテーブルの上に降り立ちポーズを決めた。


「特に違和感はないかな?」


 そういえば、ゲルヒルデも飛び上がって宙がえりをやってたけど精霊の間で流行ってるのかな。それはともかく……。


「もう少しゆっくり動かして頂きたいんですけど。まぁ、いいか……」


 思わず心の声が漏れ出てしまったが、まぁいい。


 ブリュンヒルデはシャドーボクシングでもしているかのように、虚空に向かってパンチとキックを繰り出していたが、どうやらこれで魔動人形の調子を見ているらしい。


 ブリュンヒルデはゲルヒルデとは違って活発というかやんちゃというか。精霊もそれぞれ個性があって面白い。


 さて、ブリュンヒルデに確認したが、魔動人形も問題ないようなので、契約内容について再度確認しておく。


「それでは、念の為改めてブリュンヒルデさんとの契約の確認です。これより一年間、魔動人形の所有者であり、依頼主であるパトリック様からの要請があれば、一日に一度だけ魔動人形を動かしてほしい日時と時間を予約する機会を与えて頂き、予約した日時に動かしていただければと思います。それ以外の時間は自由に過ごしていただければと思いますが、何かありましたら都度交渉とさせてください。報酬は、既に受け取って頂きましたが、霊格の上昇となります」


「分かってるって! それに、契約期間が終わったらゲルヒルデ姉様と一緒にアタイもハルトのところに行くわけだしな、何の問題ないよ」


 悩む様子もなく、ブリュンヒルデは即答した。


 それにしても、ゲルヒルデと同じ契約内容なのは俺としても都合がいい、というか契約期間が同じなので覚えやすくて助かった。


 それにしても、ゲルヒルデ姉様か。戦乙女的にはブリュンヒルデのほうがお姉さんだったはずなんだけど……。まぁ、いいか。


 とにかく、これで魔動人形としてブリュンヒルデをパトリックに引き渡すことができる。


「パトリック様、ランベルト様。こちらが火の精霊ブリュンヒルデさんが宿る魔動人形です。リーンハルト様のゲルヒルデと同じく一年間の契約となりますが、その間はブリュンヒルデさんがパトリック様のお願いに応えてくれるでしょう」


「これからよろしくな、パトリック!」


「えぇ、よろしくお願いします! ところで、ブリュンヒルデはハルト殿の精霊力の他に供物はいらないのでしょうか? ゲルヒルデは兄上にヘルホーネットの蜜を所望されたと聞きましたが、ブリュンヒルデは何か無いのですか?」


「うーん、そうだなぁ。 あ、アタイもゲルヒルデ姉様と一緒で精霊力が宿ったものが好きかな、うん」


 そんなブリュンヒルデを他所にゲルヒルデがパトリックに近づいて、そっと耳元で囁いた。と言っても、周りに聞こえるほどではあったが。さっきまで精霊力はいらないって言ってたのにな。


「ねぇパトリック、ブリュンヒルデは可愛い物に興味があるって、さっき言ってたわよ?」


「げ、ゲルヒルデ姉様!?」


「あら、ちゃんと供物は欲しいものを伝えないといけないわ。そうでなければ、どちらか一方に有利な契約になってしまうもの」


「あぅぅ……分かりました」


 基本的には俺の精霊力で契約を済ませているが、それ以上に何かを求める際には供物が必要なのだ。


 それにしてもいつの間にそんな話までしていたのか……。ブリュンヒルデの性格からすると、可愛い物に興味があるっていうのは意外な感じもするけど、これがギャップ萌えなのか?


「ブリュンヒルデ、任せてください! 私が責任持ってたくさん可愛い小物を贈りますからね!」


 パトリックはゲルヒルデの助言を聞き入れてか、早速色々小物を集めようとランベルトと相談しているようだ。


 思っていた以上にパトリックがブリュンヒルデのことを気にしてくれているようで嬉しい。


「さて、ゲルヒルデとブリュンヒルデよ。仲の良い二人には申し訳ないのだが、ここでどちらが強いか勝負をお願いできないだろうか」


「ブリュンヒルデさん、この結果如何でハルト殿が私の御用錬金術師になって頂けるかどうか決まるのです。

 お願いできないでしょうか……?」


 そうだ、すっかり忘れていたけど、ブリュンヒルデを創ったのは元々リーンハルトが言い出した魔動人形同士の勝負の為だ。


「ワタシはいいわよ。リーンハルトとパトリックのやり取りも見ていたしね」


「詳しい事情はよく分からないけど、アタイもイイぜ! ゲルヒルデ姉様には悪いけど、この勝負勝たせてもらうぜ!」


「あら、ワタシだって負けるつもりはないわよ?」


 ゲルヒルデとブリュンヒルデは既に勝負する気満々だ。


 勝負の行方は気になるけど、それよりもSランクの強さを誇る上位精霊同士の対決をリーンハルトの部屋でやって大丈夫なのか心配だ。


 二人の能力を知ってるのは俺だけだし、ここはリーンハルトあたりに伝えておくべきだろう。


「リーンハルト様、ゲルヒルデとブリュンヒルデの二人は魔動人形ですが、その前に上位精霊でもあります……。その二人が戦うとなると、この部屋の中では少々不味いかと。どこか広く開けた場所はございませんか?」


「ふむ、確かにな。ならば、そこの中庭はどうだ?」


 そう言ってリーンハルトは窓の外を指さした。


 窓の外には中庭、というよりは庭園といった感じで、周りには色とりどりの花と緑に溢ており、その中を石畳の通路が奥にある噴水にまで続いている。


 その噴水の周りはちょっとした広場になっており、確かにそこなら十分な広さがあるし問題ないと思う、たぶん。


 だけど、本当にそんなところで戦わせてもよいのだろうか……? などという疑問が湧いてきたが、そんなことを気にもとめず、リーンハルトとパトリック、それに周りの者たちも既に中庭に出る用意を進めていた。


 まぁ、リーンハルトとパトリックの二人が問題ないならそれでいいか。


 そうこうしている間に、俺たちは中庭に向かうことになった。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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