騎士候補たちの到着
リーンハルトとパトリックの二人にうちの騎士団長を決める試合の日程について説明をしたところ、王妃であるヴィクトーリアと王女のフリーダの二人も試合の観覧に前向きであるとのことだった。
パトリックが二人に予定を聞いたところ、どちらも予定が空いているとのことだったが、二人とも試合というよりグリュック島の視察が主な目的らしい。一体何を見たいというのか。正直分からない。
そして、その影響で当初出席予定だったウォーレンは留守番を務めることになるようだ。王族に振り回されるのは宰相という地位にある大貴族でも変わりはないらしい。
ともかく。これでうちの騎士団長を決める『アサヒナ伯爵家騎士団長選抜試合』の準備がほぼ整ったと言える。あとはクラウスが手配してくれた使用人たちをグリュック島に迎え入れるだけだ。
屋敷に戻ると、休ませていたはずのベンノが一通の手紙を持って待っていた。
「アサヒナ様! お戻りになられるのをお待ちしておりました!」
「今日はもう休んで良いと伝えていたはずですが?」
「はい! 仮眠を取らせて頂いたので十分休めました。そんなことよりも、こちらの手紙をご確認ください! たった今ラルフ様から届いた至急のご連絡です!」
「ラルフさんから至急の連絡ですか?」
そう言いながら、手紙を受け取るとペーパーナイフで封を切りながら中身を予想する。至急ということだから、恐らく予定にないことが起こったのだろう。そろそろグリュック島にクラウスが手配してくれた使用人たちが到着するが、それは予定通りと言える。
ならば一体何が起きたのだろう。そう思って手紙を開けて読むと、そこには騎士鎧姿の一団がグリュック島に現れたので対応について相談したい旨書かれていた。この時期にやって来る騎士鎧姿の一団なんて、騎士候補たち以外にありえない。
だが、まさか、使用人たちよりも先に騎士候補たちが到着するとは思っていなかった。だって、クラウスに騎士候補たちの野営について相談したのは昨日だよ? 流石に到着が早すぎる。ラルフにも相談する前だったから、そりゃあ驚いて至急の手紙を出すというものだ。
確か、アルトヒューゲルから馬車でツヴァイトハーフェンまで七日、そこから船で三日、そしてメーヴェからブリッツェンホルンまで五日ほど掛かるという話だったはず。実際、俺がゴルドネスメーア魔帝国からヴェスティア獣王国まで戻る際にもツヴァイトハーフェンからメーヴェまでは船で三日ほど掛かった。
だが、ヘルミーナが以前言っていた通り、メーヴェからグリュック島までが一日で到着できる距離なのであれば、彼ら騎士候補たちはクラウスからの指示を聞いているかもしれない。
馬車で五日掛かるというその道程も、獣化解放の能力を持つ獣人族の彼らならばなんとかしてしまうかもしれない。ニーナのことを思い浮かべたが、流石に騎士候補たち全員を高速で移動させられるような変化は想像できない。
どちらかというと、先行していた騎士候補たちに追いついてクラウスからの指示を伝えたと考えたほうが正解に近いかもしれない。一人なら一日も掛からずに王都からメーヴェに移動することもできるのかも……。
そんなことを考えるよりも、先にラルフに返事を返しておかないと。
ということで、早速ラルフには「すぐにそちらに戻ります」と一言だけ添えた手紙を転移台で送ると、俺はグリュック島の屋敷へと戻ることにしたのだった。
そうしてグリュック島の屋敷まで魔導船で帰ると、すぐにアメリアたちに捕まった。
「やぁ、おかえり。随分と遅かったじゃないか」
「また無断外泊。これはお説教が必要」
「ハルトも懲りないわね」
「主様、言いたいことは分かっていますね?」
「ハルト様、毎度このようなことでは困ります!」
「旦那様とはじっくりと話し合ったほうが良さそうですね~」
「心配しました……!」
アメリアにハグという名の拘束をされると、カミラからお説教が必要だと言われ、ヘルミーナからは懲りない奴だと言われ、セラフィからは手紙の内容を思い出すように言われ、アポロニアからは困らせるなと注意され、ニーナからはじっくりと話し合う必要があると言われた。
そして、とどめのようにノーラから心配したと言われてしまった。流石に年下のノーラにまで心配したと言われると心に来るものがある。
アメリアたちには手紙で伝えた通り、今回のことは深く深く、そして十分に反省しており、今後は少なくともセラフィを同行者として連れて行くつもりだと伝えてなんとか解放してもらった。ふぅ。
さて、アメリアたちと話したあとはラルフと話す必要がある。そう思って屋敷の中を探したのだが見つからない。途中で見かけたアルマに聞いたところ、騎士鎧の一団の用向きを確認するため、たった今港へと向かったとのこと。ほんの少し遅かったようだ。
早速ラルフを追うべく、俺は屋敷を出て港へと向かうことにした。もちろん、セラフィと一緒に。流石に約束したばかりだからな。ヴィルマに御者を頼み、俺は馬車で港へと向かった。ラルフももちろん馬車で移動している。流石に追いつくことはできないかと思ったが、ラルフはそれほど急いでいる様子もないようで、すぐに追いついた。
ラルフの馬車と並走させるような格好でヴィルマに馬車を走らせながら、御者台へと移動しラルフに声を掛ける。
「遅くなりました!」
「いえ、ちょうど屋敷を出た頃に旦那様の魔導船が屋敷に戻るのが見えましたので、すぐに追い付いてこられると思っておりました」
「今回の騎士鎧の一団ですが……」
「恐らく、ヴェスティア獣王国から到着した騎士候補たちと思われます。彼らを受け入れるには準備が足りません。旦那様、どのように対応なさるおつもりですか?」
「はい。そのことについては昨日クラウス様にご相談したばかりなのです。問題なければ、彼らはクラウス様からの指示をちゃんと聞いているはずですし、自分たちのことはちゃんと自分たちで用意をしてきているはずですよ」
「昨日、ですか? 流石にそれは……。いや、しかし……。はぁ。まぁ、騎士たちに確認すれば問題ないか……。分かりました。それでは、一緒に港へと向かうことにしましょう」
ラルフも信じられないようだ。昨日クラウスに相談した内容が今日グリュック島に到着した騎士候補たちに伝わっているとは俺だって半信半疑だ。だが、何となくだが、クラウスならばそれを成し遂げている気がする。
いまいち信じきれない様子のラルフとともに港についたのは夕方に近い時間だった。このグリュック島には教会がまだないので時を知らせる鐘の音が鳴らないが、既に午後四時を回っており、九時課の鐘が鳴って一時間ほど経っている頃だろう。
久々に来た港は建物が少なく、街というよりも村、村というよりも集落といった様子ではあったが、皆忙しそうに労働に勤しんでいた。
「そういえば、この港の名前はなんというのですか?」
ラルフが聞いてきた。ヴィルマも知りたいらしく、俺のほうを見てくる。
港の名前……。何も考えてなかったな。
グリュック島の港なんだからグリュック港でいいのではないか? などと思ったが、他に港ができたら困りそうだ。それに、お姉様方にも安直だなんだと不評を買いそうだ。
そうだなぁ。グリュック島の出入り口になる港なんだから……。
「フルーア港という名前にしましょう。グリュック島の玄関口という意味です」
「フルーア港ですか。フルーア港、良いのではないでしょうか?」
「これからこの港はフルーア港、ここが栄えて港町になったら港町フルーアになるわけですね!」
まぁまぁいい感じの名前じゃないかな。フルーア港。うん、悪くないと思う。これなら、お姉様方にも満足してもらえるだろう。
そんなやり取りをラルフたちとしていると、目の前に騎士鎧の一団が現れたのだった。
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