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火の精霊と契約の行方

「魔動人形が動かなくなった原因も分かりましたので、そろそろ作業に入らせて頂こうかと思います」


 そう言って、素早く精霊晶を創造した。


 精霊核でも精霊玉でもなく精霊晶としたのは、先ほどの経験からだ。


 どうせ精霊を召喚した後でまた精霊力を与えて名前を付けることになるんだし、最初から精霊晶を準備したほうが手間が省けるからな。それに、同じ失敗を何度もしたくないしね。


「それでは、これから新たに精霊を召喚します。召喚した精霊とはゲルヒルデと同様に、今回は私が供物を用意して契約しますので、パトリック様にご準備頂くものはございません」


「わかりました。ハルト殿、よろしくお願いします!」


「では、光魔法『精霊召喚』!」


 光魔法『精霊召喚』により目の前に光の渦が現れた。


 だが、その色はゲルヒルデの時とは違い、燃えるように赤く、若干熱を帯びたようなものを感じる。


 精霊力が満ちたと思うと光の渦が火柱となって弾け散った。そして、その跡には燃えるように赤く輝く、光の塊が姿を現した。


「これが精霊ですか……?」


「ゲルヒルデとは色が違うようだな」


 パトリックが不思議そうに精霊を見ていると、いつの間にかパトリックの側に来ていたリーンハルトも興味深そうに見つめていた。


『アタイを呼び出したのはオマエかい? 良い度胸してやがるな! さっさと加護でも何でも願いを言いな!』


「うぇっ!?」


「どうしたのだ?」


「いえ、少々荒っぽい精霊のようなので驚いただけです」


『はじめまして。私はハルト・アサヒナと言います。ハルトと呼んでください。ひょっとして、あなたは火の精霊さんですか?』


『そうさ、アタイは火の精霊さ。それで、アタイを呼び出したってことは何か願いがあるんだろ? 人間が精霊を呼び出すなんて、大体つまらないことばっかだしな。さっさと終わらせて帰りたいんだ』


 随分とスレた精霊のようだ。


『まぁ、お願いがあるのは確かですが、内容がつまらないかどうかは、お話を聞いてからご判断頂ければと』


『ふん、それで?』


『簡単に説明しますと、上位精霊でも宿って頂ける依代を用意しましたので、こちらに宿って頂き、この魔動人形を動かして頂きたいというのが今回の依頼となります。依頼主であるパトリック様からの要請があれば、一日に一度だけ魔動人形を動かしてほしい日時と時間を予約する機会を与えて頂き、予約した日時に動かしていただければと思います。それ以外の時間は自由に過ごしていただければと思います』


『へぇ、依代ねぇ。中々珍しい願いだな。だけどアタイは忙し……『それと、もう一つ』』


 火の精霊から断られそうな雰囲気を察して喰い気味に話し掛ける。


 ここは報酬というか特典を伝えて興味を持ってもらう作戦でいくしかあるまい。


『実はですね、今回のお願いを聞いて頂ければ、供物以外に二つの特典をご用意しています』


『二つの特典?』


 よし、乗ってきたかな?


『はい。一つ目はですね、私の精霊力を提供致しましょう』


『精霊力ねぇ。別にアタイは精霊力に困ってないんだけど?』


『なるほど、確かに火の精霊さんには不要なものかも知れません。しかし、他の精霊さんが仰るには、私の精霊力は特別なものらしいのです』


『一体何が特別なのさ?』


 少しイライラした様子で赤い光を瞬かせて火の精霊が応えるが、それに怯まず俺は報酬について説明する。


『実はですね、私の精霊力には精霊の霊格を上げる効果があるそうなのです』


『なっ、何だって!? それは本当なのか!?』


 おっしゃ、喰い付いてきた!


 今までにない真剣な表情で俺の話を聞いてくれているようだ。まぁ、明滅してるだけなので何となくそう思っただけだが。


『えぇ、もちろん本当です。先ほどお話しした精霊さんは、元は火の精霊さんと同じ下位精霊だったのですが、私の精霊力を提供したところ霊格が上がり、中位精霊になられたのです』


『精霊力を受け取るだけで下位精霊から中位精霊になっただって!?』


『これって凄いことなんですよね?』


『当たり前だろっ! 霊格というものは、永き年月を経た精霊の中でも数えるほどの者しか上がったことなどない! 本当にそんなことが有り得るとは、信じられないね!』


 うーむ。


 実績を伝えて信頼してもらおうと思ったが、逆に不信感を与えてしまったようだ……。これは、実際に体験した人に話してもらったほうがいいかな。


「ゲルヒルデさん、お話聞いてましたよね? こちらの火の精霊さんに説明して頂けないでしょうか?」


 ゲルヒルデにそう話すと、するりと魔動人形から抜け出て、精霊の姿で火の精霊の前に姿を現した。


『オ、オマエ……いえ、アナタは!?』


『まぁ、確かに信じられないわよね。ワタシは光の精霊、ゲルヒルデよ。そこにいるハルトから聞いてると思うけど、ハルトからもらった精霊力のおかげで下位精霊から中位精霊になれたのよ。因みに、今は上位精霊としてハルトに仕えているわ。よろしくね、火の精霊さん』


『は、はい!』


 俺に代わってゲルヒルデが説明してくれたのだが、突然現れたゲルヒルデに動揺しているのか火の精霊は明滅を繰り返していた。


『ゲルヒルデさんは、この通り先ほど火の精霊さんにお願いしたことを受けて下さったので、その供物として私の精霊力をお分けしたのですが、その結果霊格を上げられたのです。どうです、信じて頂けましたか?』


『あ、あぁ。信じていないわけではないけどさ、一つ聞かせてくれ。下位精霊から中位精霊に霊格を上げたと聞いたが、ゲルヒルデ姉様は上位精霊だと仰られた……。一体どういうことなんだ?』


 ゲルヒルデ姉様? 呼び方はともかく、火の妖精の質問にはゲルヒルデが答えてくれた。


『それはね、ハルトに名前をつけてもらったからよ』


『名前を!? 名前など、ただの呼び名ではないのですか?』


『あまり知られていないけど、ハルトほど強力な精霊力の持ち主から名前をつけられると、霊格が上がっても不思議じゃないのよ?』


『そうだったのですね! ゲルヒルデ姉様、流石です!』


 ゲルヒルデの説明を聞いて火の精霊も納得したようだ。


 というか、ゲルヒルデのことを『姉様』などと呼んでいるし、慕っているようだった。


 いつの間にか明滅も穏やかになり、ふわりとゲルヒルデの前に浮いている火の精霊に話しかけた。


『ご納得頂けましたか?』


『あぁ、上位精霊にまで霊格が上がるなんて驚いたが、納得はしたよ』


『でしたら、改めてお願いです。火の精霊さん、こちらの魔動人形に宿って頂けませんか? 期間は一年、報酬は私の精霊力、というか霊格の上昇です。いかがでしょう?』


『一年で良いんだな?』


『えぇ、一年経った際に契約の継続については改めて相談させて頂ければと思いますが、基本的にはその後自由にして頂いて結構ですよ』


 そう伝えると、ゲルヒルデが口を挟んできた。


『でも、名前をつけられるとハルトとの繋がりが強くなるから、結局ハルトのところに来ることになると思うけどね』


『では、ゲルヒルデ姉様も?』


『えぇ、ワタシは一年経ったらハルトのところでお世話になるつもりよ』


『よし、決めた! ハルト、アタイも契約するよ! それから、一年経ったらアタイもゲルヒルデ姉様と一緒にハルトのところに世話になるからな!』


 俺の周りを明滅しながらくるくると駆け回る火の精霊を見ながら、何とか契約が成立したことにホッとした。ゲルヒルデのおかげで上手くまとまったようなもんだけど。


 それにしても、この火の妖精もゲルヒルデと同じく、今回の契約が終わると俺のところにくるらしい。まぁ、俺のところというよりはゲルヒルデと一緒にいたいだけみたいだけど。


 ともかく、火の精霊との契約もまとまったのでパトリックに報告する。


「お待たせ致しました。パトリック様、精霊との契約が成立致しました」


「本当ですか、ハルト殿!」


「はい、これから詳細をご説明しますね」


 パトリックに今回の火の精霊との契約内容について説明した。


 基本的にリーンハルトのゲルヒルデと同じ条件ということでパトリックからは特に異論は無いようだった。


「ハルトよ、ゲルヒルデと同じ条件ということは、その火の精霊も上位精霊に霊格が上がる、ということか?」


 隣からリーンハルトが聞いてきたたので、もちろんと答えておく。


「まさか、一日に二度も精霊が霊格を上げるところを見ることになるとはな……」


 そんなことを言いながら、くつくつと笑う。


 俺だってこんなことになるなんて思ってもいなかったんだけどねぇ……。


 少しだけ愚痴っぽくなってしまったが、それはそれとして。


「パトリック様、ランベルト様。これより私が火の精霊さんに精霊力を与えます。その結果、先ほどリーンハルト様からお話にありました通り精霊の霊格が上がるのですが、その際に驚かれるようなことが起こるかもしれませんので、予めご注意頂ければと」


「何なのです、その驚くようなこととは?」


 ランベルトが聞いてきたが、それは俺にも分からないので答えようがなかった。


 ゲルヒルデの時は部屋の中が一面真っ白な光に包まれたが、今回もそうとは思えないからだ。


「分かりません。ただ、心づもりだけはして頂ければと思います。そろそろ、始めますね」


『これから精霊力を提供しますので、受け取ってください。準備はいいですか?』


『あ、あぁ。ハルト、やってくれ!』


 火の精霊の言葉を聞いて、俺は精霊力を身体から外に押し出すイメージで指先から精霊力を火の精霊に向かって浴びせる。


『うわっ!? 何だこれは!? ハルト、身体の奥底から力が溢れ出てくる! ヤバい……。これは、何だかヤバい気がしてきたぞ!?』


 火の精霊は俺の精霊力を浴びて驚いているようだったが、次第に自分から精霊力を受け取るように、俺の指先まで近付いた。


 すると、火の精霊の姿が少しずつ大きくなるにつれて、炎のような赤い光と熱が周りに広がり、やがてそれは部屋の中を真っ赤に染め上げた。


 というか、何だこれ。何だかめっちゃ暑くなってきた、というより熱いっ!


「ハルト殿、これは一体何が起きているのです!?」


「このままでは、部屋が、城が燃えてしまう!」


 パトリックとランベルトが心配のあまり声を上げた。


 それもそのはずで、火の精霊から放たれる熱量が更に高まり、このままでは周囲のものを焼き尽くすのではと不安になるほどの勢いで熱を発していたからだ。


 流石にこのままでは不味いので、火炎から身を守る光魔法『炎熱障壁』を使い、火の精霊を囲うように展開する。


「光魔法『炎熱障壁』で火の精霊さんを囲みました! これで火事の心配はありません!」


 王族の、それも第一王子の部屋が火事で焼失なんて事態は何としても避けなければならない。


 そんな俺の心配を他所に、火の精霊からより一層の高熱と眩い光りが放たれ、思わず手の甲で目を遮った。


「ハルト、オマエの精霊力は凄えな! アタイが中位精霊になれるなんて、まだ信じられないぜ!」


 熱と光の中から火の精霊の声が聞こえてくる。声の様子から恐らく無事に下位精霊から中位精霊に霊格を上げることができたのだろう。


 次第に光が収まったのを感じて声のするほうに向いて目を開けると、そこには燃えるような赤い髪が特徴的な、手のひらサイズの少女が宙に浮いていた。


『名前:未設定

 種族:中位精霊(火) 年齢:不明 職業:神の眷族の契約者

 所属:未設定

 称号:朝比奈晴人に召喚されし者

 能力:A(筋力:A、敏捷:B、知力:B、胆力:A、幸運:A)

 体力:2,200/2,200

 魔力:5,420/5,420

 特技:火魔法:Lv9

 状態:健康

 備考:朝比奈晴人が召喚した精霊。

    朝比奈晴人により精霊力を与えられ、霊格が上がった。

    元々は下位精霊だったが、現在は中位精霊。

    契約期間は一年(残り365日)

    身長:15.4cm、体重:測定不能』


 鑑定してみたけど、特に問題無さそうだな。


「お疲れ様です、火の精霊さん。無事、中位精霊になれたようで良かったです」


「ハルト、オマエには本当に感謝するぜ! アタイが中位精霊になれるなんて、夢みたいだよ」


 火の精霊はよほど嬉しいのか、俺の周りをくるくると踊るように宙を舞いながら話し掛けてきた。


 そんなに喜んでもらえるなら、次は名前をつけて上位精霊になってもらおうかな。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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