屋敷の使用人についての相談
翌朝、俺は王城で待つリーンハルトとパトリックの元へと向かった。昨日、今後のアルターヴァルト王国にあるうちの屋敷をどうするべきか相談がしたい旨二人に手紙を出したところ、その日のうちに返事が返ってきたのだった。その内容は、翌日の午前中に時間を作ったから王城に来るように、というものだった。
まさか、手紙を出した当日に返事があるということも、翌日の午前に時間を作ったという連絡をもらうことになるということも想定外だったので非常に驚いた。とはいえ、こちらとしては早めに時間を作ってもらえるのはありがたいことなので何の文句もない。
ということで、朝食を終えた俺は早速王城に向かうことにした。今日はアメリアとカミラの二人が同行してくれることになった。
最早慣れたもので、王城に着くと迎えに来てくれた騎士についてリーンハルトの部屋まで通されることになる。どうやら俺はリーンハルトとパトリック共通の友人という扱いらしい。まぁ、確かにそうかもしれないが、一応正式には二人の御用錬金術師という立場があるのだが、どういうわけか王城でそのように扱われたことがほとんどない。別に構わないが。
「ハルトよ、朝早くから済まぬな!」
「こちらから呼びつけるような形になってしまい申し訳ありません」
リーンハルトの部屋にはリーンハルトとパトリックの二人が待ち構えていた。そして、二人の教育係であるユリアンとランベルトの二人もだ。二人の護衛であるゴッドハルトとティアナも居た。
そうか、リーンハルトとパトリックの二人に予定が入ると、当然ながらユリアンとランベルト、それにゴッドハルトとティアナの予定も決まってしまうんだな。まぁ、王子二人の予定を押さえるとなると、二人に関係する人物の予定も押さえなくてはならなくなるのは当然といえば当然か。
「いえ、こちらこそお忙しいところお時間を取って頂きありがとうございます。それにしても、こんなに早く面談が叶うとは思っておりませんでした」
「うむ。王都の屋敷の使用人のことはどうするつもりなのか、私も気になっていたのだ」
「使用人全員がハルト殿の新しい屋敷に移動するとなると、現在の屋敷をどうするつもりなのか、私たちも気になりまして」
「そうなのだ。あの土地は我らがハルトへの初めての褒賞として与えた土地だからな。そう簡単に手放されても困るのだ」
「もちろん、手放すつもりなどございません。ですが、実際に使用人が足りなくなるのは現実問題としてありまして……。私のほうで使用人を募集するにしてもあまり日数もございませんし、使用人の良し悪しをどのように判断すればよいかもわかりません。それで、どうしたものかとご相談に上がったわけなのです。今の屋敷の使用人もリーンハルト様とパトリック様から褒美として賜ったもの。誰かに相談するに当たり、まずはお二人にご相談すべきと思い参ったわけです」
「確か、ラルフたちは其方が新たに創った魔導具、魔導カード『神の試練』の褒美であったな」
「その褒美である使用人の相談というのでしたら、私たちに真っ先にご相談頂いたのは正解ですよ。ランベルト、爺にこちらに来るよう伝えてきてもらえますか?」
「は、承知致しました!」
パトリックの言葉に短く答えると、ランベルトは部屋から出ていった。爺、つまり王家の執事であるゲオルク・ビアホフを呼びに行ったのだろう。
「ところで、ハルトよ。其方は先ほど屋敷を手放すつもりはないと言っておったが、グリュック島に屋敷を移したあと、王都に残すことになる屋敷はどうするつもりなのだ?」
「はい。今のところは別荘のような使い方ができないかと考えております。あとは、アルターヴァルト王国に来た時に食事と寝泊まりができればと」
「ふむ。領地持ちの貴族と似たようなものだな」
「そうですね。ただ、ハルト殿の場合は魔導船もありますし、他の領地持ちの貴族たちよりも屋敷を利用する頻度が高いかもしれませんよ?」
「確かに、その点は考慮しておいたほうが良いな。突然王都にやってくる、なんてことは想像に難くない」
「そうなると、最低限の人数は押さえておいたほうが良いですね」
「うむ。少なくとも、今ハルトの屋敷にいる使用人くらいは必要だな。確か五人だったか」
「あと、料理人と護衛の者も必要ですよ、兄上。少なくともあと二、三人は必要です」
「それでも他の領地持ちの貴族たちよりも少ないな」
「ハルト殿に褒美として与えた土地は彼らの屋敷ほど広くありませんでしたから。それに、あのときはハルト殿が貴族になられるとは考えてもおりませんでしたので……」
「まぁ、確かにその通りだな」
リーンハルトとパトリックの二人が談笑するようにそんなことをいう。確かに、あの頃は自分が貴族になるなんて思いもしなかったけど……。いや、そういう話じゃなくて。
「あの、お二人のお話を伺っていると、使用人と護衛役をリーンハルト様とパトリック様がご用意して下さるように聞こえたのですが」
「うむ、その通りだ!」
「その相談をするために私たちに連絡を取ってくださったのですよね?」
「確かにパトリック様の仰る通りなんですけど……。本当によろしいのですか? 今回は、特に褒美を頂くようなことは成し遂げていないんですけど……」
「なんだ、そんなことか。……其方は我らの大切な友人だ。その大切な友人が困っており、助けを求めてきたのだ。それに応えるというのが友人というものであろう?」
「兄上の仰る通りですよ。大切な友人であるハルト殿が困っておられる。そして、我らに助けを求めてこられた。であれば、それに応えるのが友人というものですよ!」
「……! あ、ありがとうございます! リーンハルト様、パトリック様……!」
「「ハルト(殿)からのお礼に期待している(います)!!」」
「お、お礼ですか!?」
お礼かぁ。と言われてもなぁ……。ここまで良くしてもらって、菓子折り一つでどうにかなるものでもないよなぁ? そう考えると、何がお礼として最適なのか分からなくなってきたぞ。うーん。何か、二人の役に立つようなことがいいよな。二人の役に立つこと……。
そうだ!
「それでは、お二人からのお願いを何でも一日、一度だけ聞くというのはどうでしょうか……?」
「「……それだ(です)!!」」
「お二人が納得して頂けるのであれば、それでお願いします……」
「「うむ(はい)!!」」
こうして、俺は屋敷の使用人を得る代わりに、俺が一日一度だけ二人からのお願いを何でも聞くということを、二人へのお礼とすることになった。一体何をお願いされるのか、とんでもなく寒気がするのだが、俺の屋敷の使用人のためだ。それくらい我慢しようと思う。それに、お礼はするが、いつするかなど指定はしていない。そのことを二人にも覚えておいて頂きたい。つまり、私がその気になれば、お礼の受け渡しは十年、二十年後ということも可能だということも……!
まぁ、流石にそこまで引き伸ばすつもりはないが、それはともかく何か嫌な寒気がしたのだ。背筋に冷たいものを感じるというか。
はぁ。仕方がないとはいえ、それにしても変な約束をしてしまったものだ。だが、うちの屋敷の今後を任せる使用人や護衛役を用意してもらえるというのであれば、多少の無理は厭わない。
そんなやり取りをリーンハルトとパトリックの二人としていると、部屋のドアがノックされた。ランベルトの声でゲオルク・ビアホフを連れてきたとのことだった。ゲオルクと会うのは久々だ。さて、どんな使用人や護衛役を用意してくれるのだろうか。
ちょっと楽しみにしながら、ゲオルクが部屋に入ってくるのを待った。
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