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新たな依頼

「わ、私もハルト殿を御用錬金術師にしたいです! 兄上、よろしいでしょうか!?」


 パトリックの突然の言葉に俺は驚いた。


 リーンハルトにしてもそうだが、出会って間もない人間をどうしてそんなに信用できるのか……。先ほどリーンハルトやユリアンから聞いた通り、王族の御用達になるにはお互いの信頼関係が無ければ成り立たないのだ。


「ふむ。パトリック、其方はまだハルトと話もしたことがないだろう。何故、其方はハルトを御用錬金術師にしようと思ったのだ?」


「それは……。兄上が御用錬金術師としてお認めになられた方ですし、こちらの素晴らしい魔動人形を創ることが出来るのですから当然です!」


「なるほどな……。ハルトはどうだ? パトリックの御用錬金術師になりたいか?」


 突然リーンハルトが俺に話を振ってきたので少し戸惑った。


 彼の問い掛けが、俺に判断を委ねている、とは考えられない。つまり、それは何らかの意図があって俺に話を振っているのだ。そして、何となくだがその意図も分かる。


「いえ、申し訳ございませんが、パトリック様の御用錬金術師にはなれません」


「「何故です!?」」


 パトリックの声に被さるようにランベルトの声が聞こえた。


 パトリックはただ単純に断られた理由が分からないといった感じだが、ランベルトは、なぜ王族の、それも第二王子の御用錬金術師への誘いを断ったのか、ということに対しての疑問からのようだった。


「ふむ。パトリック、それにランベルト。ハルトが断った理由、本当に分からぬか?」


 リーンハルトからまるで叱られているかのように、パトリックは俯きながら口を開く。


「分かりません……」


 続けてランベルトもリーンハルトからの問い掛けに応えた。


「私も、ハルト殿の考えが理解できません。王族の、しかも第二王子であるパトリック様の御用錬金術師を断るなど……。錬金術師が望むことではあっても、断ることなどありえません!」


 ふむ、と呟いて二人を見た後、パトリックのほうに顔を向けた。


「パトリックよ。其方も知っておるだろうが、王族による御用達の指定は基本的に一生に一度なのだ。つまり、其方が信頼できる相手でなければ、其方が生涯に亘って御用達を任せることなどできないだろう。また同様に、ハルトにとっても其方を信頼できなければ生涯に亘って其方の御用達を務めることはできない。ハルトは其方と信頼関係がまだ結べていないから、御用達の指定を断ったのだ。そうであろう、ハルト?」


「はい、その通りです。私はパトリック様のことをまだよく知りませんので……」


 リーンハルトから話を振られたので素直に応えておいた。


「確かに、兄上の仰る通りでした……。ハルト殿に断られても仕方がありません」


 パトリックはリーンハルトの言葉でようやく御用達を指定することの重大さに気付いたようで、しょんぼりと項垂れた。


「それから、ランベルト。先ほどまでハルトのことを『御用錬金術師として期待に応えられるのか判断できない』、『御用錬金術師として相応しいのか暫く様子を見る』と、そう言ったのは其方だぞ。そのような話をされた錬金術師が、自分から進んで二人目の王族の御用達に名乗りを上げるようなことなどあるわけなかろう」


「そっ、それはっ……!? 確かに、仰る通りですね……」


 ランベルトもリーンハルトの指摘から自分の発言の矛盾点に気付いて項垂れるように肩を落とした。

 

 リーンハルトの言う通り、あんなことを言われるとパトリックの御用錬金術師まで受けようなんて思えない。


 それにしても、リーンハルトは本当にまだ成人してないのか? いくら第一王子として育てられてきたとはいえ、パトリックを諭したり、大人のランベルトを言い負かすとは……。


 この世界には凄い子供がいるもんだ。


 パトリックとランベルトの様子を見ながらそんなことを考えていると、二人並んでしょんぼりとしている様子を見兼ねたのか、ユリアンが声を掛けた。


「リーンハルト様。アサヒナ殿が創り上げたゲルヒルデを見れば、パトリック様がアサヒナ殿を御用錬金術師にと考えられるのも無理は無いかと思います。それに、パトリック様がリーンハルト様と同じ錬金術師を御用達に指定されようとしたのは、リーンハルト様のことを慕われておられるからこそ。ランベルト殿の言葉もリーンハルト様のことを思えばこそ出たものと思います、恐らくは。ですので、パトリック様がハルト殿を御用錬金術師に指定できるよう、リーンハルト様から取り計らっては頂けないでしょうか」


 まさか、ユリアンからパトリックとランベルトをフォローするような発言が出るとは思わなかった。


 それはパトリックやランベルトも同じようで、ユリアンからリーンハルトへの申し出に驚いて目を白黒させていた。


 だが、リーンハルトはユリアンからの申し出に対してくつくつと笑うと頷いて、ゲルヒルデと俺を交互に見ながら閃いたとばかりに手を打った。


「良い考えがある。パトリックよ、これより其方が望む魔動人形をハルトに依頼すると良い。そして、でき上がった魔動人形とゲルヒルデが手合わせし、見事に勝ったなら、ハルトを御用錬金術師に指定しても良いぞ!」


「本当ですか!? 兄上、ありがとうございます!」


 リーンハルトの提案を聞いたパトリックは目を輝かせながら礼を言うと、すぐに俺のもとに駆け寄った。


「ハルト殿、私にも兄上のゲルヒルデのような魔動人形を創って頂けないでしょうか……?」


 駄目ですかと、パトリックが上目遣い(実際の身長的には俺とパトリックでさほど変わらないのだが)で訴えかけてきた。


 まぁ、リーンハルトの提案は俺が手伝うことが前提のようなものだから、どちらにせよパトリックの依頼を受けるしかないんだけど。


 しかし、ゲルヒルデのような、か。


 確か、パトリックは既に魔動人形のブリュンヒルデを持っていたはずだ。


「わかりました。パトリック様のご依頼を受けましょう」


「ありがとう、ハルト殿!」


「パトリック様はリーンハルト様から魔動人形を譲り受けられたと聞きましたが、今その魔動人形はどちらにあるのですか? 一から創るのではなく、そちらを元に創ろうかと思うのですが、よろしければ一度魔動人形を見せて頂けないでしょうか?」


「わかりました! ランベルト、魔動人形を持ってきて!」


「はい、直ちに!」


 パトリックの指示を受けて、ランベルトはすぐにリーンハルトの部屋から出て行った。


 ランベルトが戻ってくるまでの間に、俺はパトリックにいくつか確認することにした。


「パトリック様がお持ちの魔動人形はゲルヒルデのようには動いてくれないのですか?」


「はい、兄上がお持ちのときはひとりでに動いたと聞いたのですが、兄上からお譲り頂いてからは全く動かないのです。ランベルトの知り合いという錬金術師に見て頂いたのですが、普通の魔動人形とは仕組みが随分違うと聞きました」


 なるほど、普通の魔動人形とは仕組みが違う、ね。


「リーンハルト様がお持ちだった頃は如何でしたか?」


「うむ。今のゲルヒルデのように自らの意思で動いていたな。よく話し相手になってもらったものだ」


「リーンハルト様は何か供物を用意されたのですか?」


「うむ。『ヘルホーネットの蜜』を欲しがっていたので与えたことがある。私には精霊に願いを聞いてもらえるだけの精霊力がないと言われたのでな。魔動人形をパトリックに譲り渡すことになった際に、所有者が変わることを伝えたのだが、どうやらそのタイミングで精霊との契約が切れてしまったらしい」


 リーンハルトがパトリックに「すまなかったな」と謝ると、パトリックも「申し訳ありません、兄上」とリーンハルトに謝っていた。二人とも本当に仲が良いようだ。


 しかし、これでようやく諸々の状況が理解できた。


 やはりアレクシス氏から国王陛下に献上された魔導人形には精霊が宿っていた。そして、その人形を下賜されたリーンハルトは、ヘルホーネットの蜜を供物として与える代わりに、魔動人形に宿っていた精霊と新たに契約を交わしていたのだ。


 しかし、パトリックが魔動人形を欲しがった結果、リーンハルトは魔動人形をパトリックに譲り渡すことにした。


 その結果、リーンハルトと精霊との間で結ばれていた契約が切れてしまい、魔動人形がパトリックの手元に渡ったころには、すでに魔動人形はただの人形になり果てていた、というわけだ。


 現状で判明していないのは、アレクシス氏がどうやって精霊核に精霊を宿すことに成功したのかぐらいだが、今となっては気にしても仕方がない。


 そんな考察をしていると、ランベルトが魔動人形を抱えて部屋に戻ってきたので、俺は魔動人形をテーブルの上に寝かせるように置いてもらうよう伝えた。


 見たところ、パトリックの魔動人形はゲルヒルデと姿形がよく似ている。鑑定してみたところアレクシス氏の作で間違いなく、また名前も予想していた通りブリュンヒルデとなっていた。


「早速ですが、パトリック様。こちらの魔動人形ですが、少し確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です!」


 パトリックの確認を経て俺は魔動人形を手に取ると、胸部を開いてみた。すると、五百円玉サイズの凹みには、主の居なくなった精霊核が残っていた。


「思った通り、この精霊核には精霊が宿っていません。リーンハルト様が仰られた通り、精霊との契約が切れたことが、この魔動人形が動かなくなった原因と考えて間違いないでしょう」


「精霊? 一体何の話ですか!?」


 魔動人形を取りに行っている間に話していたことをパトリックがランベルトに伝える。それを補足するように俺のほうからも簡単に状況を説明した。


「……つまり、アレクシス氏が創られた魔動人形には精霊が宿るように作られているのです。そして、このコアとなる精霊核に精霊を宿すことで、精霊の意志によって魔動人形を動かすことができるのです。もちろん、精霊を宿すためには精霊との契約が必要になります。また、精霊との契約には相応の供物が必要となるのです。それらをすべてクリアすることができれば、この魔動人形も再び動くようになるでしょう。リーンハルト様のゲルヒルデのように」


 そういって、改めてゲルヒルデを紹介する。


「つ、つまり、その魔動人形ゲルヒルデには精霊が宿っている、ということか?」


「その通りです」


 俄かには信じられないのだろう。ランベルトが訝しげな眼でゲルヒルデを見つめている。当のゲルヒルデはそんなことを全く気にすることもなく、テーブルの上に置かれた姉妹となる魔動人形を見つめている。


 さて、パトリックの魔動人形が動かなくなった原因も分かったので、そろそろ本題に入ることにしよう。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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