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転生に向けて

 なんだか、一つ目から三つ目の特典に掛けて徐々にテンション下がってきてるんだが……。


 特典その一はともかく、特典その二まではまだ分かる。転生時の年齢は重要だからな。


 だが、特典その三についてはどんなメリットがあるのか、いまいちよく分からない。確かに、世界神と話せるというのは凄いことなのかもしれないが、これからの異世界生活に必須かどうかというと否としか思えない。


「では、ここからは私が説明しよう」


 それまで黙って話を聞いていた輪廻神が口を開いた。輪廻神に話を聞いたところ、彼は世界神の指導係で、今はメンター的な役割を担っているらしい。


「実はな。世界神になると、当然ひとつの世界を任されるわけなんだが、その管理能力に問題がないかを確認するため、千年に一度、『試練』が与えられるのだ」


「試練……。それって試験みたいなものですかね? 一体誰から? それに、どんな試練を……?」


「うむ。神々の頂点におわす創造神から遣わされた試練神が数多の世界を見守る世界神たちに対して試練という名の試験を与えるのだ。それを乗り越えた世界神は次のステージに進み、神格、即ち神としての格が上がる。数々の試練を乗り越えることで、下級神から中級神となり、やがて上級神へとなれるわけだ」


 なるほど。試練とは世界神としての管理能力を測るための試験で、昇進試験、いや昇神試験も兼ねているらしい。


「試練の内容は色々あるのですが、傾向としてよくあるのは、管理しているその世界に対して害を齎す存在が試練神により遣わされ、それらの存在が引き起こす数々の災害から人々を導き、守り抜く、というものが多いですね」


 機会神が答えてくれた。ふむ、某都市シミュレーションゲームみたいだな……。それにしても、災害からから人々を導き守る、か。口にするだけなら簡単そうだが、難易度としてはかなり高くないか? それに、その世界に住む人間としてはたまったもんではないだろう。しかも、その実態が世界神の試験とか、現地の人には聞かせられない話だな。


「……なるほど、試練については分かりました。それで、その試練ですが、世界神様からの特典と、いえ、私とどのような関係があるのでしょうか?」


 先ほどから気になっていたので聞いてみた。


 そんな話を聞かされて俺と関係がないはずがないだろうし、何となくだが、俺に対してメリットが感じられない特典その三が関係するのではないかと感じたのだ。


「その通り、朝比奈君にも関係している。実は、近々この世界神が管理する世界に試練神から試練が与えられることになっているのだ!」


 やっぱりそういうことか……。何となくそんな気はしていたけど、改めて輪廻神から聞かされると心の中ででっかいため息が漏れ出た気がした。それで、俺にどうしろというのか。


「ですから、世界神たちは試練を乗り越えるために、その世界に住まう人々に対して『神託』という形で世界神の意志を伝えるわけなんですが。……そもそも人間たちにとって、神の意志である神託というものを理解することが非常に難しいんですよ。そうですね、少しニュアンスは違うかもしれませんが、朝比奈さんが辞書も翻訳ツールもない状態で、草書体で書かれた昔の日本語の文章を理解するのと同じくらいの難度でしょうか」


「な、なるほど……?」


 機会神からよく妙に具体的な例が出てきたことに驚き戸惑う。


 確かに、草書体で書かれた日本語の文章なんて、一般人の俺が古文書を解読をするようなレベルの難易度だろうが、そんなことよりも、どう俺に関係するのかをもう少し詳しく説明してほしい。


「うむ。だからこそ、世界神と直接会話ができる能力を持つ者が現地にいるということが重要になってくるのだ」


 それってつまり、そういうことなのか?


「輪廻神様、二点確認させてください。まず一点目ですが、『私に世界神様が試練に合格するのを手伝ってほしい』ということでしょうか? そして二点目ですが、結局のところ、『私が世界神様と話ができたとして、私自身にメリットを全く感じない』のですが、そこのところはどうなのでしょうか?」


 気になっていたことを確認しただけのつもりだが、世界神が涙目になっている。


 ちょっとストレートに言い過ぎただろうか? とはいえ、この二点は確認しておく必要はあることだし……。


「そうだな、朝比奈君も疑問ももっともだ。まず一点目の答えだが、『その通り』だ。我々としては朝比奈君には世界神が試練に合格できるよう、そのサポートをしてもらいたいと考えている」


 やっぱりそうなのか……。


 輪廻神の隣で世界神と機会神が頷いている。正直、サポートと言われても具体的にどんなことをすればいいのかはよく分からない。世界神と連絡を取り合って、世界神の意志を現地の人に伝えればいいんだろうか。


 とはいえ、世界に害を与える存在による災害から人々を導くとか難度が高すぎる気がする。


 というか、そもそも危険じゃないのか? 世界神の話では危険な魔物がいるって話だったよな……!?


 うーむ、と考えを巡らせていたところに、機会神が二点目について答えてくれた。


「ご質問頂いた二点目、朝比奈さんへのメリットについてですが、もちろん先ほど世界神が話したような、世界神とお話できるだけのものではありません。いえ、この説明では少々語弊がありますね。世界神とお話ができるのは、あくまで副次的な効果なのです」


「つまり、主要な効果は別にあると?」


「その通りです。では、順を追って説明しますね。先ほどもお話しした通り、世界神の意志である神託というものは普段世界神と関わることがない人間たちにとっては理解が難しいものなのです。逆に言えば、世界神とより深く関わりのある者ほど理解しやすいのです。例えば、朝比奈さんのような転生者とか」


 転生するということで、基本的に転生者は俺も含めて世界神と直接顔を合わせていることから、多かれ少なかれ世界神と関わったという扱いになるそうで、現地に生きる人々よりも神託を理解できる、ということらしい。


「とはいえ、単なる転生者では神託のすべてを理解できるまでには至りません。文章の中に含まれている単語を多少理解できる程度、というところでしょうか」


「転生者は世界神様と関わり合いがあるとのことでしたが、転生者でも神託の全てを理解できないということは、それだけではまだ世界神様との関わりが少ないということですか?」


「その通りです。世界神との関係をより強固なものにする必要があるのです。ですから、朝比奈さん」


 改まった声で名を呼ぶ機会神に向き合う。


「はい」


「貴方には世界神の眷族となって頂きたいのです」


「はぁ……。あの、眷族って何ですか?」


 突然『世界神の眷族になってほしい』と言われて『はい、わかりました』とはならない。そもそも眷族って一体何なのかも分かっていないのだ。そのままの意味だと親族とか血族って意味だったと思うが、まさかそんなことはないよな?


「朝比奈さんにわかりやすくお伝えすると、同じ職場で働く上司と部下の関係でしょうか」


「な、なるほど……?」


 わかりやすいような、そうでないような……? うん、よくわからない。


「もう少し具体的な例でいうと、そうですね、コンビニエンスストアの店長とその店員みたいな関係でしょうか。コンビニエンスストアのひとつひとつが世界神たちが管理するそれぞれの世界であり、そこの一つを管理している店長の世界神、その店舗の店員として採用されたのが朝比奈さん、そんな感じですね」


 なるほど、店長の権限で雇われたアルバイトみたいなものか。正社員登用制度はあるんですか? などと冗談のつもりで聞いたのだが、なんとアルバイトではなく正社員での採用らしい。マジか……。


 正社員ということはアルバイトよりも好待遇なんだろうか、なんてことも聞いてみたところ、正社員ならではの義務というか世界神のサポートなる業務が課されるが、そこはやはり、単なる転生者よりも待遇は良いらしい。そのあたりをこれから説明してくれるようだ。


「正式に世界神の眷族となった暁には、世界神による加護を得ることになる。即ち、単なる転生者と比べて遥かに高い身体能力を得ることができるということだ。それだけに留まらず、世界神の眷族でなければ得ることのできないような特技スキルをも扱うことができるようになるだろう」


「実はですね、残念ながら転生者が転生先で亡くなられる原因の約六割が病気や怪我によるものなのです。つまりですね、もし朝比奈さんが世界神の眷族になって頂けるのであれば。そう、世界神の加護によって病気や怪我の心配のない丈夫な身体を手に入れることができる、ということなのです。どうです、朝比奈さんにとっては大変メリットのあることではないかと思いますが?」


 転生先の世界は生前の世界と比べると危険だろうし、衛生面での心配も多い世界だとは容易に想像できた。それに、何といっても剣と魔法のファンタジーな世界。となれば、好奇心に駆られる転生者も多かったのではないだろうか。そして、その結果が先ほど機会神が話した転生者の死因に繋がっているのだとしたら。


 そう考えると、世界神の眷族になるというのは、サポート業務という義務はあるものの、意外と悪くはない。いや、十分にメリットであることは分かった。よし、世界神の眷族になることは決まりだな。


 輪廻神の話していた『世界神の眷族でなければ得ることができないような特技スキル』についても詳しく確認したいところだったが、機会神の答えはこうだった。


「……それについては、朝比奈さんが転生する際に希望される種族によっても変わりますし、今の時点で明確なことは説明しづらいですね」


 なるほど、それもそうか。


 ともかく、世界神の眷族になることで得られるという特技スキルは転生する種族によって違うということは分かった。具体的な特技スキルについては転生後の種族を選んだ際に確認できれば良いか。


 そんなこんなで、特典その三については世界神のサポートという義務は生じるものの、それ以上に得られるメリットが大きいと分かったので良しということにしたい。


 だが、一つだけ気になることがある。


 それは、世界神自身の意思だ。ここまで、輪廻神と機会神の言葉で説明されてきたが、世界神自身はどう思っているのか、それだけが心配だ。俺が眷族となることを嫌がっている可能性だってあり得る。もし、そうなら今回の話は不幸の始まりになりかねない。


 もしも、世界神がそれを望まないのなら、あるかどうかも分からない、何年何十年と待つかも分からない次の転生先を待つほうがお互いにとってよい選択肢のように思えるし、そもそも輪廻神と機会神からは俺が世界神の眷族になるように誘導している気がする。


 そんな気がしたので、俺は直接確認することにした。


「つまり、世界神様は私を眷族に迎えようと、そう仰られているのですよね? しかし、その、本当によろしいのですか? ここまでのお話をお伺いしている限り、世界神様の眷族という存在は特別な存在のようですし、どこの馬の骨とも分からないような私なんかを眷族にするなんて、本当によろしいのですか?」


「問題ありません! 出自や素性などは全てこちらの資料にまとまっておりますし、その全てに目を通しました。そもそも我々はそういったことは気にしておりませんから!」


 間髪入れずに世界神はそう言い放った。マジか。


 世界神が机の上に束ねられていた資料をおもむろに手に取る。俺が昔転職用に用意した履歴書や職務経歴書とは比べ物にならないほどに分厚く束ねられたそれに目を落として、再び俺を見る。


 だが、その目は少し笑みを含んでいた。それは世界神だけでなく、輪廻神と機会神も同様だ。


 はぁ……。一体その資料に何が書かれているのか気になって仕方がない。そんな俺に向かって再び世界神が口を開いた。


「わ、私は貴方との出会いに運命を感じました! どうか、私の眷族になってくださいっ!」


 ガッターン! と、世界神が座っていたオフィスチェアーが後ろの壁に勢いよくぶつかると同時に、目を瞑りながら勢いよく差し出された世界神の右手を見て、何だかデジャヴのようなものを感じた。


 あぁ、あれだ。ねる○んだわ。子どもの頃に見た深夜番組の告白シーンが思い浮かぶ。となると、ここでの答えは、『よろしくお願いします』か、『ごめんなさい』の二択しかない。


 だが、俺がそれに答えを出すには、まだ情報が不足している。


 世界神の眷族となることで得られるメリットについては大体理解できた。だが、それは俺が世界神の眷族になることを受けるように予め用意されていた条件のように思えてならない。


 つまり、それらの条件は得られる前提で、改めて俺のメリットについて相談したいのだ。例えば、現地で世界神をサポートするために必要になるであろう資金、それに人材や物資はどうすればいいのか、とか。まさか、自分で稼いで賄えだなんて言わないだろうな……?


 そこのところの条件が分からない状況で、ね○とんのように『よろしくお願いします』とは答えられないのだ。


「えっと、申し訳ありませんが、もう少し条件を……」


「ゔ、ゔぇぇぇんっ!」


 そう伝えたら、世界神が号泣した……。


 別に、俺は世界神を泣かせたいわけではない。『もう少し条件について詳細を詰めたい』と、そう言い掛けたところで世界神が号泣し始めたのだ。世界神は涙と鼻水が滝のように流れ落ちているのを必死にその両手で拭う。


 そんな世界神を機会神が甲斐甲斐しく泣き止むように説得している。逆隣に座る輪廻神はギロリと俺に視線を向けてきたが、これってやっぱり俺が悪いのか……?


「……先ほど、朝比奈君は『もう少し条件を』と言ったな。他にも、世界神の眷族になる為に必要な条件があるということかな?」


「あ、はい。別に世界神様の眷族になることに異論はありません。むしろ、先ほどご説明頂いた内容で私にメリットがあることは十分に分かりました。ですが、私が世界神様の部下としてサポートするためには他にも決めておきたいことがありましたので、その点を確認するまでは正式な回答は控えたほうが良いかと思いまして……」


 なので、改めて輪廻神と機会神、そして世界神にも説明するように話す。すると世界神もようやく泣き止んでくれたのだが、未だにうるうるとした瞳であり、『本当に?』と訴えているような眼差しだ。


「もちろん本当です。ですから、そんな目で見つめてこないでください、世界神様。私としては実務に関して課題になるだろう点について幾つかご相談したいことがあるだけですから」


 俺としてはこの相談こそが重要だと思っていたのだが、先ほどの一言ですっかり機嫌を直した世界神が目の前で俺からの相談を待っている。単純か。色々と思うことはあるが、気にしたら負けのような気もするので、さっさと相談を始めることにする。


「えっとですね、試練を乗り越えられるようにサポートするにしても、私一人だけではできることは少ないと思います。ですから、現地で私の補佐をしてくれる人材の確保をしたく思いますので、ぜひ現地での採用に関する人事権を頂ければと思います。また、人材を採用するにしても何にしても、必要になるのが資金です。こちらも必要経費として都度必要になる金額を頂けると助かるのですが、いかがでしょうか?」


 こう伝えると、三人の神様たちはそれぞれ顔を見合わせて頷いた。


 人事権については許可して欲しいところだが、資金については正直期待していない。過去の経験からそんな都合の良い条件を認めてもらえるとは思えなかった。


 だが……。


「そっ、その程度のことなら全く問題ないですっ! 人事の権限と活動の資金……。はい、予めご連絡頂ければ必要な人材の候補もピックアップしますし、必要となる資金も幾らでも出します! 全く問題ないですっ!」


「そうだな、その程度なら問題ないだろう」


「ですね。たまに無茶な要求をしてくる方もおられるので、内心ドキドキしていましたが、その程度でしたら問題ありませんね」


「とはいえ、人事の権限はともかく、必要な資金については自分で稼いだほうがいい。世界神こいつに任せてしまうと本当に際限なく渡してしまいそうだし、それでは世界に与える影響が気になる。まとまった資金が必要になった際には私から世界に影響のない範囲で与えるので相談して欲しい」


「それから人事の権限についてですが、朝比奈さんが雇用する人材に対して私たちから直接口出しをするつもりはありません。朝比奈さんの裁量で自由に雇用して頂いて問題ありません。我々ができることは、朝比奈さんの不利益になりそうな者を近づけないようにするくらいです」


「はぁ、ありがとうございます」


 あれっ? こちらの希望が全て通ってしまったぞ……?


 もっと交渉が難航すると思ったのだが、思いの外すんなりだ。いや、ありがたいことだけど、身構えていただけに拍子抜けというか。こんなことならもっと違うことを希望すればよかったかも、なんて思ったりして。


 人事の権限は俺に任せてもらえるとのことだし、活動資金についても必要に応じて輪廻神が用意してくれるという。しかも、俺に不利益になるような者を近づけないというサポートまで受けられるらしい。うん、十分過ぎるだろう。


 さて、先ほど神々から引き出した条件を踏まえて、改めて転生後のことを考えてみよう。


 人間が生活するにあたり必要となる最低限のものが衣食住だ。着るもの、食べるもの、住む場所。ぶっちゃけ、それらは全てお金さえあれば用意することができる。そして、そのお金は活動資金として輪廻神から貰えることになった。だが、それはあくまで本当に必要ならば、という条件付きだ。念の為、何かお金を稼ぐ方法を考えないとな。


 人事については正直今の時点では何ともいえない。そもそも、転生先の現地で世界神のサポート業務を手伝ってくれる人が本当に必要なのか、必要ならば何人必要なのかとか、実際にやってみないと分からないからな。ひとまず、一人で何をどこまでできるのかを知るところからスタートすることになるだろう。


 となれば、世界神の眷族として転生するにあたり、ポイントとなるのは世界神から与えられる特典その一とその二についてくらいか。


 転生先は剣と魔法の世界だという。つまり、前世では漫画やアニメ、ラノベでしか見たこともないような不思議な能力が必要になる可能性が高い。ということは、今回世界神から提示された特典その一では、剣や魔法に長けた種族に転生したほうが良いのだろう。


 剣の扱いという面だと、どの種族でも得手不得手ありそうだが、世界神に聞いたところ人間族のほうが剣術に関するスキルの獲得が容易なのだそうだ。力の面では獣人族のほうが人間族を上回るが、どちらかというと接近戦というか肉弾戦が得意らしい。魔人族や妖精族にも剣が得意な種族もいるそうだが、彼等の多くは魔法が長所なのだ。そう考えると、魔人族や妖精族になってわざわざ剣を扱うというメリットは少ないと思われる。


 魔法についてはというと、前述の通り魔人族や妖精族が得意なのだそうだ。魔人族は魔法に特化した種族であり、あらゆる魔法に精通しているらしい。その代わり、あまり肉弾戦は得意ではないのだとか。また、妖精族は魔法もできるが、どちらかというと人や物に魔法を付与することが得意で、魔法や魔力が込められた道具、即ち魔導具の製作が得意なのだとか。


 ここで改めて自己分析してみることにした。


 ぶっちゃけて言うと、俺の性格的に争いごとは苦手なほうだし、実際腕っぷしも自信がない。異なる種族に転生したとしても、俺の性格までは変わらないだろう。そういう意味では、剣や拳を使って真正面から斬り合い、殴り合うような戦闘スタイルは向かない可能性が高い。


 となると、人間族や獣人族よりも他の種族を選んだほうがメリットを享受しやすいというか、俺の性格的に相性が良さそうに思える。つまり、魔人族と妖精族の二択になるわけだが……。


 どちらの種族も魔法が得意な種族だ。


 魔法、か。


 生前の世界では漫画やアニメの世界にしか存在しなかった特別な能力。うん、正直興味がある。それに、魔法であれば遠距離からでも戦えるだろうし、バフやデバフ、ヒールといったサポート的な役割も担うことができる。そう考えると、魔人族と妖精族から種族を選ぶのが良さそうだ。


 また、今後世界神を支える眷族として働くにあたり、長く働けることが求められている気がする。そこで世界神に聞いてみたところ、四つの種族の寿命は妖精族、魔人族、獣人族、人間族の順で長いらしい。


 特に妖精族は世界の原初に存在した精霊に近い存在だとかで、長寿な者だと数百から千年という年齢の者がいるなど、長生きする者はものすごく長生きだそうだ。だが、実際にはそうでない者のほうが多いとのこと。その理由を聞いてみたところ、条件さえ整えば長く生きられるが、そうでなければ早く死ぬ、ということらしい。


 そういう理由もあって、妖精族や魔人族はあまり変化を好まない。それ故に他の種族との交流も盛んではないのだとか。とはいえ、好奇心が勝る者もやはりいるそうで、そういった者は早死する宿命なのだそう。好奇心は猫をも殺す、というのを地で行った結果なら仕方がないか。


 何故そのようなことが起こるのかも聞いたのだが、単純に怪我や病気に対する耐性の差が原因らしい。つまり、条件さえ整えば寿命は長いが、基本的に各種耐性がない妖精族。妖精族よりも少しマシな耐性を持つ魔人族。それに次いで耐性を持つ獣人族。最後に耐性は十分にあるが寿命が短い人間族という構図になる。後に生み出した人族ほど怪我や病気の耐性がある分、寿命は短いということらしい。


 何というか、どうしてそんなことになったのかも気になったので確認したのだが、そこで新たな事実が発覚する。何と、転生先の世界を創ったのは目の前にいる世界神ではないらしい。つまり、前任の世界神が創り出した世界を現任の世界神が管理している状態なのだとか。


「……ですので、このように種族ごとの違いが出ることになった意図までは分かりません。何となくは想像はできるのですが……」


 そう世界神は言葉をにごす。


 俺にも世界神の想像していることくらい予想はつく。恐らくはこうだ。寿命の長い人族による世界を創ろうとしたのだろう。長く世界を任されることになるのなら、試練神による試練を経験した者がいるほうが都合がいい。過去に起こった試練の内容や、それをどのように乗り越えたのかなど、重要な情報を子孫に共有させることができるからだ。


 しかし、そう世界は、いや試練神は甘くはなかったようだ。そう、最初に生み出した妖精族は寿命にステータスを全振りしたせいか、病気や怪我による耐性が極端に弱い種族となってしまったようだ。


 だが、当時の世界神は何故か種族の寿命に拘り続けたらしい。その痕跡こそが、種族による寿命の長さと病気や怪我への耐性の有無なのだろう。そうして、最終的にでき上がったのが人間族と思われる。


 そして、最後に誕生した人間族は本来各種の能力や寿命に割り振るべきステータスを病気や怪我に対する耐性に割り振ったのだろう。その結果、四種族の中では寿命的に一番短いにも関わらず、人間族が最も繁栄する結果となったというのは当然の結果なのかもしれない。


 因みに、世界に占める人間族の割合は三割を超えて四割近いという。それに次いで獣人族も三割程度で、人間族と獣人族だけで合計七割近くを占める。それに対して長命種である魔人族は二割程度、残りの一割が妖精族なのだとか。


 ということは、もしかして、妖精族は珍しい種族なのか……?


 転生する際の種族に妖精族を選ぶと変な奴らに狙われる可能性があったりするのか? そこのところを世界神に聞いてみたが、やはり、そういった可能性もないことはないらしい。


「種族としての珍しさもそうですが、やはり種族による特性として得られる特技を狙って誘拐や隷属させるなどの事象はありますね」


「なるほど、特技ですか」


 思ったよりも危険が多そう、かも。うーん、世界神の加護を得られるのなら長命で物理攻撃よりも魔法攻撃に長けた種族の妖精族を、と考えていたが……。魔人族だけでなく獣人族まで転生の候補に上げたほうがいいのかも?


「とはいえ、世界神の加護を得た朝比奈さんであれば、その辺りの問題もクリアできると思いますよ」


「そうだな。世界神の加護を得た者ならば、その程度のことを気にすることはない」


「当然です! 私が加護を授けるのですから、そのような些末なことを気にする必要などありません!」


 機会神と輪廻神、それに世界神がそんなことを言いながらカラカラと笑い合う。


 俺には何らかのフラグが立ったような気がしてならないが、世界神の加護さえあれば、多少の危険は回避できるくらいには強力な身体能力を得られるそうで問題ないらしい。それが本当なら、何も問題ないのだが……。


 だが、世界神の加護の効果が本当なら、例えば俺が妖精族に転生したとしても、命の危険はないとも考えられる。いや、そう願いたい。うん、ここは世界神たちを信じてみよう。


 こうして、俺は転生する際の種族として妖精族を第一候補として考えることにした。それに、妖精族は魔導具なる魔力で動く道具の製作も得意らしい。それが他種族から狙われる原因なのかもしれないが、世界神の加護によってその心配がなくなるのであれば、何か面白い魔導具を製作できたりするかもしれないな、と。


 では、妖精族に転生するとして、具体的にどんな種族、というか姿になりたいか、という話だが……。ぶっちゃけ、妖精族と言って思い浮かぶのは世界神が言ったドワーフとかエルフくらいだったので、一応、妖精族に属する詳細な種族の一覧が載っている資料を見せてもらった。だが……。


 ぶっちゃけ、エルフとドワーフ以外には候補に上がらなかった。


 理由としては、俺が前世の知識として漫画やアニメ、ゲームの知識があるから、というわけではない。あまりに人間というか人間族とかけ離れていた姿だったからだ。


 最初は妖精族ということで、そのまま妖精とかはどうかと思ったのだが、確かに人の姿をしていたが、大きさが親指サイズだったので断念した。また、人間に近いというハーフリングなども明らかに人間族や獣人族に比べて身長が低かった。他にも候補はいたが、見た目的に受け入れられなかったり、そのサイズ感に問題があるものばかりだったのだ。


 これがゲームなら色々と選んで試してみたいところなんだが……。


 ともかく、この世界で大半を占める人間族や獣人族から掛け離れすぎた姿ではトラブルに繋がりかねない。例え、トラブルを問題にしない身体を手に入れたとしても、トラブルに煩わされるというのは避けたいところだ。


 だいたい想像してみて欲しい。自分と見た目がかけ離れたような人物から『人族で手を取り合って(試練神による)試練を乗り越えよう』などと話し掛けられたとして、それを受け入れられるだろうか。うん、少なくとも生前の俺には受け入れられないな。


 それ故に、比較的見た目が人間に近いドワーフかエルフしか選べなかったのだ。


 ところで、ドワーフっていうとあれだろ?


 こう、髭がもじゃもじゃわっさーとしていて、身体は人間族と比べて少し小さいけれど、筋骨隆々で酒さえ絡まなければ真面目というか頑固一徹というか。年中熱い工房の中で汗だくになりながら様々な金属を打って武器や防具を作ってるという、そんなイメージしか湧いてこない。というか、先ほど世界神から受け取った資料にも同じようなことが書いてあった。


 それに比べて、エルフは見目麗しいが、どちらかというと自由奔放な性格の人が多いらしい。そんな性格もあってか、あまり群れては暮らさないとのことだ。また、どういう理由かは分からないが、体質的にスレンダーな人が多いそうな。これもイメージ通りだが、これも世界神から受け取った資料に書いてあったことである。


 ともかく、だ。


 生前はパッとしない見た目の、中肉中背で何処にでもいるような平均的な日本人だったと自負する俺だ。エルフとドワーフのどちらになりたいかと問われると、当然決まっている。どうせ生まれ変われるのなら、是非とも見目麗しいとされるエルフを選びたい。


 そう。結局のところ、答えは一つしかなかったのだ。つまりはエルフへの転生だ。一応世界神から受け取った資料にも、生前の漫画やアニメと同じく見目麗しく、その容姿を長く保つことができるという点についてイラスト付きで記載があった。


 そうとなればエルフを選ばない理由はないよな?


 であれば、早々に世界神に俺の希望を伝えようではないか。


「……こちらからの要望についてもご検討下さり、誠にありがとうございます。人事の権利と資金についてもご検討頂けるとのことで、これからの不安といいますか、世界神様のサポートを務めるにあたり、肩の荷が少し下りた気がします」


 改めて姿勢を正し、世界神、そして輪廻神と機会神に向き合う。


「この度の、世界神様の眷族として転生するお話ですが、正式にお受けしたいと思います」


「「「おおっ!」」」


「色々と条件を付けてしまったが、引き受けて貰えて何よりだ。こちらこそ、よろしく頼む!」


「よかった! 世界神の眷族になってくれるということは、これはもう私たちの同僚になってくれると言うことと同じですよね! 私は朝比奈さんを歓迎しますよ!」


「あ、ありがどうございまずぅ。本当に、ずごぐ……。ずごぐ、うれじぃでずぅ……。うぅ……。よろじぐ、おねがいじまずぅ!」


 世界神様はまたも号泣しつつ、拭った涙と鼻水にまみれた両手で俺の手を取るとぶんぶんと振り回した。俺が眷族になることを引き受けたことがよほど嬉しかったらしい。機会神と輪廻神は顔を合わせてやれやれといった感じで世界神の肩をポンポンと叩いたり、背中を擦ったりしていた。


「さて、朝比奈君。これでお互いの条件も出揃ったわけだ。そろそろ転生にあたって、君の希望を確認したいのだが?」


「はい、それでは私の希望をお伝え致します。ですが、その前に一点確認させてください。転生先の年齢について確認なのですが、成人年齢って幾つなんでしょうか?」


 転生したい種族はエルフに決まっている。なら、あとは何歳で転生するかということだ。


 そう、成人年齢を確認しておく必要がある。


 そういえば、昔の日本では元服といって、早ければ十歳そこそこで成人として扱われたというし、世界的にも十代で成人として扱われることが多かったと聞く。転生先が中世ぐらいということなので、念のため確認しておきたい。


「そうですね、種族にもよりますが、一般的に成人とされるのは十五歳からが多いですよ!」


 世界神が答えてくれた。なるほど、やはり若いな。だが問題ない、想定内だ。


 それにしても、中高生の年齢で成年として扱われるのってどんな感覚なんだろう、などと考えてしまう。


 当時の俺なら喜んで受け入れたかもしれないが、今の俺は子供がいてもおかしくない年齢だからか、それとも職場に子供がいる人が多かったせいか、親にとってはまだまだ心配する年齢だろうなぁ、などと考えてしまう。


 少し話が逸れた。ともかく、俺が転生する年齢については成人とされる年齢よりも少しだけ若い年齢にしようと思う。


 その理由としては、まずもって、転生先の世界の常識を知らないからだ。


 いや、知らないことがあればその都度、誰か人に尋ねれば良いのかもしれないが、転生先の世界では一般常識のように知られている知識を成人した男性が質問したとして果たして不審に思われやしないだろうか。いや、思われないはずがないだろう……。


 それ故に、成人した年齢よりは多少若いほうが良いと思ったのだ。子供として扱ってもらえるのなら、成人が質問するとおかしいと思われることも自然と周りの大人たちから答えてくれるように思う。何より、そんなことで不審者扱いされるのは御免被りたい。


 とはいえ、子供といっても限度があるだろう。流石に幼過ぎては一人で行動していると不審に思われかねない。何せ、転生先の世界には保護者がいないのだ。例えば、頭脳は大人の小学生名探偵であるコ◯ン君でも周りに取り繕うのは大変だったのと同じ理屈だ。


 ようするに、幼過ぎても問題がある。できれば一人で行動していても違和感を覚えられず、そして転生先の世界の常識について質問しても不思議に思われないような年齢がベストだろう。


 となると、成人年齢ちょうどぐらいが良さそうだが、転生先の世界の常識を覚え、慣れる期間も必要だろう。であれば、成人するまである程度猶予がある年齢のほうが良さそうだ。ということで……。


「でしたら、本格的な活動前に世界にも慣れたいし、十歳でお願いします!」


「分かりました。では、続いて転生される種族を教えてください」


「はい。転生する種族については妖精族、その中でもエルフに転生させて頂ければと思います。また、性別は生前と同じく男性でお願い致します!」


「分かりました! それではすぐに準備致しますので、少々お待ちくださいね」


 世界神はそう言うと何やら準備を始めた。どうやら、俺がこれから転生する身体を創ろうというのだろう。


「では、世界神の準備ができ次第、転生先となる世界に送ることにしよう」


「はい。輪廻神様、よろしくお願い致します!」


「転生先の世界での朝比奈さんのご活躍を期待しています。世界神のサポートについてはいろいろとお手数をお掛けすることも多いかと思いますが、よろしくお願いしますね」


「お任せください、機会神様。世界神様のお役に立てるよう頑張ります!」


「あはは、そこまで気負わなくても大丈夫ですよ。普通に転生先の世界を楽しんでください。その中で、たまに世界神のサポートをして頂ければそれで十分です」


「はぁ、それで良いのであればそうさせてもらいますが……」


 思わぬ肩透かしを食らった俺は気のない返事を返してしまう。だが、油断は禁物という言葉もあるし、すぐに動けるよう準備をしておいたほうがいいだろうな。


 そんなやり取りをしている間に、世界神から「準備ができました!」という声が聞こえてきた。


 どうやら、そろそろ転生する時間のようだ。


「うぅ、それではよろしくお願いします……! 無事向こうに転生できましたら、改めて私から連絡を入れますね! それでは輪廻神様、よろしくお願いします!」


「うむ、それでは転生の儀式を始めよう」


 輪廻神がそう話すと、いつの間にか身体の周りに眩いばかりの光が集まり視界が真っ白に輝いていく。次第に身体から重さが消えるような感覚に襲われるが、それは決して不快なものではなく、むしろ心地よい気がする。そんなことを考えていると、まるで眠るように意識が遠のいていくのを感じた。


「(機会神様、輪廻神様、そして世界神様。本当にありがとうございました。これから転生した先でも、引き続き、よろしくお願い致します!)」


 既に言葉にはできなかったが、出会った三柱の神々に感謝の思いを捧げる。次に気が付いたときには転生先の世界にいるのだろう。今の俺には不安よりも期待のほうが勝っているように思うが、そんな思いすらいつしか白い光と共に消え去った。




 こうして俺は、他人の自殺という不慮の事故に巻き込まれた結果、世界神様のサポート役として異世界に転生することとなったのだ。


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ……え? 世界神のサポート業務が失敗した場合の後果と他の眷属の死亡率とかは聞かないのか?
[一言] 何するにも知識、鑑定、収納、武器は必須。
2019/11/21 01:39 退会済み
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