関税についての相談
結局、昨晩はオラーケルの里に泊まることになった。ミリヤムとの話し合いが長くなったこともあるが、その後に催された宴に参加したことが原因だ。前回同様に俺は果実水をノーラに御酌され、そして俺は里の者たちに御酌して回ることになったのだ。
ミリヤムも含め里の皆は、口では「これからお世話になるアサヒナ伯爵様にそのようなことを……」などと言っていたのだが、いざ宴が始まると御酌をして欲しそうな目でこちらを見てきた。結果、俺が折れることになり、皆の望むがままに御酌することになったのだ。流石に皆の席を回るようなことはなく、前回同様皆が俺の席の前に列をなすという形になったが。
そして翌朝、予想した通りになったので皆に解毒薬を配ったあと、俺とノーラは一度アルトヒューゲルの屋敷に戻ることになった。
アメリアたちには、こちらも予想通り連絡なく外泊したことを叱られたが、ノーラが「仕方がない状況だったんです……!」と庇ってくれたこともあって、結局お咎めはなかった。正直、八才児に庇われる中身がアラフォーの十才児というのも情けない話なので、今後はこのようなことはないように気をつけたいところだ……。
屋敷に戻ってきた俺は、今度は久しぶりにアルターヴァルト王国の御用商人であるハーゲンの屋敷へとやってきた。一緒に帝都ヴァイスフォートからツヴァイトハーフェンまで戻ってきたあと彼とは別れたのだが、どうやら無事に王都アルトヒューゲルへと戻ってきていたらしく、俺からの突然のアポを快く受け入れてくれた。
「先日ぶりですね。その節は大変お世話になりました」
「おう、ハルトも元気そうだな。それで、今日はどうしたんだ?」
「はい。実は折り入ってお願いがありまして。まぁ、商売の話なんですが……」
「ふむ。ハルトがお願いだなんて珍しいな。それに、商売ということだ。詳しい話を聞かせてもらおうか」
「実はですね……」
俺はハーゲンに、アルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国の両国から対魔王勇者派遣機構として預かったグリュック島に、一応領民という扱いで妖精族と魔人族の者たちを受け入れるつもりだということを伝えた。そして、彼らの生活を守るためには商人の大きな力が必要だと。つまり、グリュック島に商売に来てくれる商人になってもらえないかとハーゲンに相談に、いや、お願いに来たのだ。
「なるほどな。ハルトの言いたいことは分かった。俺もハルトを助けてやりたいという気持ちはある。だが、儲けが出ないことには事業を継続することは難しいぞ?」
「そこは私も考えていたのですが、グリュック島はアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国のちょうど中間に位置する島です。これまで両国の間で交易をしようと思うと少なくとも船旅で三日も掛かるわけです。日数としてはあまり長くはないですが、危険な船旅の中継地点としてグリュック島は多くの方に活用して頂けるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?」
「ふむ。なるほど、アルターヴァルト王国からわざわざヴェスティア獣王国の王都ブリッツェンホルンまで出向かなくとも、グリュック島で取引ができる可能性があるわけか。しかも、グリュック島はアルターヴァルト王国の領土でもあり、ヴェスティア獣王国の領土でもある。おい、ハルト! 関税についてはどういう取り決めになっている!?」
「関税ですか? そういえば、その辺りについては詳しい取り決めをしていなかったような……」
「なんだと!? だったら、すぐに国王陛下とそのことについて相談してくるのだ! 今すぐに!」
「は、はい!」
ハーゲンに追い立てられるように屋敷を後にした俺は、ゴットフリートとウォーレンの二人に面会のアポを取ることにした。幸い、二人とも予定がなかったのか、翌日には面会の機会を得ることができた。
「この度は急なお時間を頂き、誠にありがとうございます」
「うむ。それで、此度はどのような厄介ごと、ゴホンッ。いや相談を持ってきたのだ?」
ゴットフリートから何か厄介ごととか言われた気がするが、多分気のせいだろう。
「はい。実は……」
俺はゴットフリートとウォーレンに、ハーゲンに説明したのと同様にグリュック島に領民として妖精族と魔人族を受け入れるつもりであることを伝えた。その上で、彼らの生活が困らないように生活物資を御用商人であるハーゲンから得ようとしたのだが、商売的に儲けが出ない事業には投資ができないと言われて困っている旨を伝えたのだ。そして、グリュック島はアルターヴァルト王国の領土であり、ヴェスティア獣王国の領土でもあるということも合わせて。
「それは、遠回しに関税について何かしらの優遇措置を取れと、そう言っておるのだな?」
「いえ、決してそのようなつもりはなく……! ですが、確かにアルターヴァルト王国とヴェスティア獣王国との交易がグリュック島で行われることになった場合、関税について取り決めておきませんと、後々問題になるかと思い、この度お時間を頂いたわけでして……」
「ふむ。それならば、これまで通りで良かろう」
「確かにその通りですな。両国とも、グリュック島でもこれまで通りの交易を行う。それが一番良いかと。それに下手にヴェスティア獣王国を刺激するようなことをする必要はございません」
「なるほど……」
ゴットフリートとウォーレンの言葉に静かに頷く。ハーゲンに急かされてどうするべきか悩んだが、確かにこれまで通りの交易を続けるのが一番だろう。ただ、それだとグリュック島に立ち寄ってくれる商人たちが少なくなりそうという課題は解決していないのだが。
「ふむ。そういうことでしたら、あえて商人を絞るようなことはせずに、他の商人にも話を聞いてもらえばよいのではないでしょうか? まだハーゲン殿にしか話をしておられないのでしょう?」
「はぁ、確かにそうですが。他の商人ですか……?」
正直に言って、他の商人と言われてもハーゲン以上に懇意にしている商人はいない。しかも、今回探しているのはミリヤムたちが生活するために必要な物資をグリュック島まで定期的に届けてくれるような商人だ。心当たりは正直……。いや、一人だけ心当たりがあった。
「……なるほど、分かりました。他の商人にも話をしてみようと思います!」
「うむ。そうしてくれ。……ところで、ハーゲンと言えば。其方、先の航海でとんでもないものを仕留めたらしいの?」
「とんでもないもの?」
「そう、ハーゲンが言うには『大海竜』とかなんとか言っておったが……」
「あっ……!」
「やはり、思い当たるものがあったようじゃの……。それで、其方が仕留めたという、その大海竜とやらはいつお披露目するつもりなのだ? ハーゲンもまだ見ていないと言っておったぞ?」
「あ、あー、えーっと、そうですね……。そ、そう! グスタフ殿の試合の日あたりにお披露目致します……!」
「ふむ。グスタフ殿の試合の当日か。そういえば、試合は確か一月ほど後であったの。楽しみにしておるぞ」
「ははっ! お任せください!」
そういえば、ハーゲンには王都へ戻ったときに大海竜を見せるという話を船の上でしていたのを思い出した。まさか、ハーゲンがゴットフリートにそのことを伝えていたとは思わなかったが。ゴットフリートに聞かれなければアイテムボックスの中で死蔵してしまうところだったな。
まぁ、そのことは今はどうでもいい。
王城から帰った俺は早速、二人目の商人のもとに向かうため魔導船に乗り込んだ。が、行き先がヴェスティア獣王国だとわかるや否や、アポロニアとニーナの二人がお目付け役として付いてくることになった。本当は一人で行きたいんだけれど、前日無断外泊した俺が何かを言える立場にはなかったのだった。
「それでは、気を取り直して……。早速、ヴェスティア獣王国に出発だ!」
「「出発!」」
「アイアイサー! でありますっ!」
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